まずいスープ (新潮文庫 い 110-1)

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  • Amazon.co.jp ・本 (241ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101384818

作品紹介・あらすじ

父が消えた。アメ横で買った魚で作ったまずいスープを残し、サウナに行くと言ったきり忽然と。以来、母は酒浸りになり、おれの日常もざわつき始め、なんとか保っていた家族は崩壊寸前。悲劇のような状況は、やがて喜劇のように展開し-(「まずいスープ」)。表題作をはじめ、人生に潜む哀しさと愛おしさを、シュールな笑いとリアリズムで描いた三編を収録。気鋭が贈る人間讃歌。

感想・レビュー・書評

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  • 戌井昭人の小説は「どろにやいと」を読んだことあり。
    トヨザキ社長が芥川賞メッタ斬りで「すっぽん心中」を紹介しているのを聞いて面白そうと思っていた。
    全体を通じてチャーミング。
    つまらない言い方だけど、淡々、飄々、自然体。
    表紙がなかなか味があるなと思っていたら束芋さんだ。
    ■まずいスープ……時々挟まれる死についての記述、黒人を吊るしたツトレンジ・フルーツ、おもちゃの蝉が死んだ、にどきり。みな破天荒だがバランスのよい家族。
    ◼️どんぶり……ディラン作ジミヘン演奏「見張り塔からずっと」の「人生冗談みてえなもんだ」を体現する語り手が、あぶく銭を手に入れて散財して帰宅、なんとハエがの語りが入ってくる。このひとりと一匹は同じということか。
    ◼️鮒のためいき……一般に病気のときは死んでいるように生きているものだが、この語り手は意識はきれぎれながらもしっかり生きている。それというのもきちんと過去からの連続で造形されているからだ。おじさんが書くかわい子ぶっていない可愛い女、という感じもするが、ついしてやられてしまった。だって「裸の……なんたら」、リモコンをテレビの上に乗せておくルール、レシートを画鋲十個で刺している、煎餅カスの首からヘソまでの小さな旅行でした、なーんて。

  • 通常の小説は、主人公の目線であったり思考をベースに話しが進んでいくがこの人の場合は数人の思考や行動が同時進行していく。舞台を観ている時は、観客は主人公を観ているときもあるし実は舞台装置を観察している人もいる。と思えば脇役の名演技に関心していたり舞台全体を作品として観ている人もいる。そういう楽しみかたが出来る小説である。

  • うーん。
    シュール。
    何となく雰囲気がトイカメラの写真の感じ

  • これはユーストリームの「レポTV」という番組で
    視聴者プレゼントに応募して入手した。
    文庫解説を書かれたえのきどいちろうさんからのプレゼント。


    読み始めるとすぐ、いい感じでアクセルを踏み込み、
    快調にギアチェンジしていくかの如く走り出す文章。

    3ページ目にして爺さんのことを述べる1段落が、
    数えてみれば40行もの長きにわたっているというのに、
    適度に息継ぎはできていて、読んでいて息苦しさは感じさせない。

    かと思えば舞台のシナリオみたいに、
    会話の応酬が絶妙なト書きを交えながら何ページも続いたり。

    ぐんぐん読まされてしまうのはテンポの良さか。
    志ん生の出囃が出てきてあっと気付く。そうか落語か。

    決して独白体ではないんだけど、はっつぁんくまさん御隠居さんを
    全部ひとりで語ってるようなところが、たしかにある。


    2度読み3度読みしてしまったのは2編目「どんぶり」の
    競輪の実況。
    いや、競輪が大好きとか、アグレッシブな文章に魅せられてとか
    そういうことではなく、
    数字がいっぱい出てくるとどうも苦手で、1度目は目が素通り。

    しかし、ここを素通りするとレース展開が全く見えず、
    少し読み進めたものの、その後の展開に乗りきれない。

    そこで、2度目は頭の中で自転車を並べ、
    順位の変遷把握に努めた。
    そして3度目に、文章から受けるスピード感のままに
    脳内レースを再現し、
    いやぁ盛り上がった大穴だったと、
    競輪場なんて生まれてこのかた一度も行ったことないくせに
    まるで見てきたかのように満足した。

    3編目「鮒のためいき」いちばん、読みやすかった。
    女性視点だし。
    だが共感できるかというとそうでもない。
    なぜならここに出てくる人たちは、やたらとしゃべるから。

    初対面でも怖じずにしゃべる。
    はっきりいって無駄なくらい会話してる。
    でもそれは、人懐っこさとか、ずうずうしさとはまた違って、
    ときにはコミュニケーションとして成り立ってなかったりもする。

    たとえ無意味でも、
    こんだけラリーが続いたら退屈しないだろうなぁ。
    会話下手な自分にとっては、ちょっとうらやましくさえあるようなそんな楽しさだった。

    戌井昭人。台本など書いていてこれが小説デビュー作。
    ああ、このひとは台詞の世界で生きている。

  • 訳のわからない事態を、妙に落ち着いて通過する人たちを描いた三作。おもしろいです。

  • なにが・・どうってことないのですが おもしろい!

    まずいスープに意味を求めるわけでもないし
    お父さんやお母さんおばさん(マーのお母さん)を責めるわけでもないし
    友だちが いい加減な事しながらも 家柄や親の地位でいいところに就職が決まっても、うらやましがるわけでもなく ただたんたんと 自分のできることをできるだけやって(がんばるわけではない)生きている。
    そんな男の子の話なんですが とってもおもしろかったです。

    ほかに「どんぶり」「鮒のためいき」が入ってますが 同じように おもしろいです。

    電車の中や人の多いところで読むのは おおすすめできません!
    笑いをこらえられるレベルを超える文章が ときどき練りこまれていますので。。。。うふふ♪

  • ふむ

  • 全体的によく分からない話だった。3篇のなかでは一番初めの話はまぁよかったかな、という感じ。それでも自宅で大麻栽培してる父親が息子と一緒に吸引したり、狂ってる人たちの話。あとの2つはどこまでが現実なのか、よく分からないし、楽しめなかった。

  • スープが好きです。
    だから、このタイトルに驚いて手にとってしまいました。

    入れる具材、ベースの味付け、その日その時の判断で二度と同じ味にはならないのだから、
    思うようにいかない、泥の様にまずいスープが出来上がる日だってあるのかもしれない。

    誰かの、その日起こったことをたんたんと記した日記のようなお話。
    主題とは関係ないものをつい凝視してしまう視点のずらし方や、思考のとび具合が「私も良くやってるなぁ」とリアリティを感じて、面白い描写だと思いました。

    --ー冗談のようだが、冗談みたいだな、人生は

  • 「事実は小説よりも奇なり」とはよく耳にする言葉だけれど、これはまさしくそんな小説だった。いや小説なんだけれども。でもこの小説には私たちがつまらない日常を忘れるために縋り付くような背伸びしたフィクションの感じが全くしなくて、東京の下町を歩いている時に雑踏に紛れて聞こえてきたような妙なリアルさがある。それでいて陳腐なフィクションの何倍も面白いのだから驚かされざるを得ない。淡々としていて、奇妙に暖かい。この独特の雰囲気は小説を本業としていないからこそ出せるものなのだろうか。

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著者プロフィール

1971年東京都生まれ。劇作家・小説家。97年「鉄割アルバトロスケット」を旗揚げ。2009年小説『まずいスープ』で第141回芥川龍之介賞候補、14年『すっぽん心中』で第40回川端康成文学賞受賞、16年『のろい男 俳優・亀岡拓次』で第38回野間文芸新人賞受賞。

「2022年 『沓が行く。』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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