へんろ宿 (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (310ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101391656

作品紹介・あらすじ

江戸回向院前の「へんろ宿」には訳ありの旅人がやってくる。剣の達人で旗本の嫡男だった市兵衛と一弦琴の名手の佐和夫婦が安い宿賃ながら心を込めてもてなす――。死期迫る浪人が江戸で最後の願いを遂げるべく投宿するが(表題作)。江戸藩邸内で消息を絶った父親を救いに関所を躱してやってきた娘(「名残の雪」)。実直そうな紙商人が宿に戻ってこない(「通り雨」)。心打つ傑作四編、新シリーズ開幕。

感想・レビュー・書評

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  • 江戸回向院前にある「へんろ宿」は、手持ちの金が心細くて、旅籠に泊まれない人や、御府内近郊の神社仏閣に参詣するためにやって来た人など、普通の宿には泊まれない、泊まりたくない人達のために三年前に、
    始めた宿。

    主人は、一兵衛といって、元は旗本三百五十石笹岡家の嫡男で、お家断絶後、両親を相次いで亡くし、諸国を回り、剣の修行をし、後、武士を捨てて、宿屋の主人となった。

    妻は、佐和といい、一弦琴の名手で、五日に一度、町の裕福な商家の娘達に教えている。謝礼金は、へんろ宿の上がりより、ずっと多く、一兵衛、佐和夫婦と、女中のおとらの三人の暮らしを支えている。

    《へんろ宿》
    自分の妻になる筈だった女の不幸を知り、自分を裏切った女の無念を晴らすため、敵を討とうとする男。

    《名残りの雪》
    父親が、藩邸の牢に繋がれていると聞き、手形を持たず、国を出た、武家娘・弥生。
    共の者も山賊に襲われて、崖から落下したらしい。

    《蝉の時雨》
    25歳のおたまは、毎日、どこかに出かけて、落胆して宿に戻ってくる。
    二世を契った男と、約束したにも関わらず、会えないという。

    《通り雨》
    紙商人の泊まり客は、三十過ぎの働き盛り。
    醜男ではあるが、桜の絵が上手。

    一兵衛・佐和夫婦は、泊まり客には、詮索はしないと言いながらも、何かと、手助けをして、泊まり客を送り出す。

  • へんろ宿
    2020.11発行。字の大きさは…中。
    へんろ宿、名残の雪、蝉の時雨、通り雨の4話。

    元旗本350石笹岡市兵衛は、四国八十八カ所を巡り、江戸へ帰って武士を捨てへんろ宿を開き、泊り客の相談にのる物語です。

    【へんろ宿】
    もの悲しいです。脱藩して20年想い人・おれんを追う中根孫十郎は、江戸の岡場所におれんが居るのを知りますが、おれんは、8年前に首を吊って亡くなっていました。おれんと駆け落ちして、仕官のためにおれんを岡場所に売った三枝啓介と果し合いをして勝ちますが、孫十郎は死んでしまいます。
    「読後」孫十郎が泊った宿・へんろ宿の女将・佐和が弾く一弦琴がもの悲しいです。そして、孫十郎の人生を考えると、虚しくなってきます。

    【名残の雪】
    三河国松島藩の勘定方名村作左衛門は、藩の公金を使い妾を囲う国家老の娘婿の用人杉田弘恵に忠告すると、斬ってきたので小太刀で杉田の腕を斬ると、牢屋に閉じ込められて切腹の命が下る。作左衛門の息女弥生がへんろ宿に泊まり、市兵衛が目付の友人に藩公金を使って私腹を肥やしている者の話をすると、作左衛門は、解き放ちとなります。
    「読後」佐和が一弦琴を弾き平家物語を歌うと、物悲しくなってきます。
     祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり
     沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらはす
     おごれる人も久しからず、ただ春の夜の夢のごとし
     たけき者も遂にはほろびぬ、ひとへに風の前の塵に同じ

    【蝉の時雨】
    甲州石和から出て来てへんろ宿に泊まったおたまは、もう10日も毎日両国稲荷にて、1年前に会うことを約束した長次郎を待ち続けています。長次郎は、盗人イタチの助五郎から付け狙われ、隠れている所を市兵衛に助けられます。
    「読後」へんろ宿に一緒に泊っていた仲の良い老夫婦に、佐和が奏でる一弦琴が心静かに松の寿を「千歳ふる 松の寿 緑なる 苔は蒸すとも 色変えぬ……」と歌うと、心が華やいできます。

    【通り雨】
    へんろ宿に泊まっていた、丹波国園山の紙を売っていた宗二郎が殺されます。宗二郎が、1年前に火事があった日に老夫婦が壺に隠していた300両を、仲間の多岐蔵と一緒に盗んだ可能性が出て来ます。市兵衛が、多岐蔵を見つけると金を独り占めするために殺したことが分かります。
    「読後」もの悲しい話ですが、家出をしてきた福富の女房おりきに、御主人が迎えに来て円満に帰って行ったのは救いです。

    【読後】
    佐和が弾く一弦琴が、もの悲しい雰囲気をより深くしています。
    2020.12.24読了

  • 小説新潮2018年7月号へんろ宿、2019年1月号名残の雪、7月号蟬の時雨、書き下ろし通り雨の4つの連作短編を2020年1月新潮文庫刊。シリーズ1作目。元武士の市兵衛と佐和夫婦が営む江戸のへんろ宿を訪れる人々の事情が語られます。あっさりめのお話で、少し物足りないのですが、通り雨がいちばん良かったです。次作が楽しみです。

  • 藤原さんの新シリーズ。取りあえずは人物紹介って巻だね。今後、どこまでオリジナリティーを出せるかだね

  • 202211/話によっては、理解も共感もできなかったり、これがいい話なの…?的な。読みやすくてつまらなくはないんだけど。

  • 市兵衛とその妻の佐和とおとらの3人で営むへんろ宿に逗留してるお客さんとの話
    客の詮索はしないと決めてると何回もでてくるけど結構してた
    でもそのおかげで宿泊した人みんな幸せになって帰ってく

    短編集だけど舞台はずっとへんろ宿
    最初の話の浪人の客きもかった
    ちょっといいなと思ってた女の子との結婚の話を洗濯女に持ちかけられその気になったけど、その女の子と話してみるとそのこは既婚者の恋人がいるから一緒になる気ないってきっぱり言ってたし、手すら握ったこともないのに勝手に失恋したみたいな感じで落ち込んで恨んでおじさんになるまで執着してて怖かった
    その女の子は結局その時の恋人と駆け落ちして、裏切られて岡場所に売られて自殺したけど元恋人でもなんでもないから関係ないのに駆け落ちした男に果し状とか渡して最後切りあって死んだ

    一話目でこんな感じだったから読み進めるの気が進まなかったけど最後まできもい登場人物第一位はこの男のままだったから良かった

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著者プロフィール

藤原緋沙子(ふじわらひさこ)
高知県生まれ。立命館大学文学部史学科卒。シナリオライターとして活躍する傍ら、小松左京主催の「創翔塾」で小説を志す。2013年に「隅田川御用帳」シリーズで第2回歴史時代作家クラブ賞シリーズ賞を受賞。本書は土佐の絵師として人々の幸せを願い描き続けた金蔵の生涯を温かい眼差しで活写した渾身の時代小説。著者の作家生活20周年記念作品である。著書に「橋廻り同心・平七郎控」シリーズ(祥伝社文庫)他多数。

「2023年 『絵師金蔵 赤色浄土』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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