- Amazon.co.jp ・本 (321ページ)
- / ISBN・EAN: 9784101434056
感想・レビュー・書評
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雑誌『25ans』に連載されたショート・ストーリーをまとめた短編集です。
いずれも、すでにいくつかの恋を経験して、いまはそれぞれの記憶を胸に秘めつつ、落ち着いた暮らしをしている女性の姿をえがいています。といっても、なにも不自由はなく、それでいてどこか心に満たされなさを抱えている……というありがちなストーリーではなく、むしろどこまでもアッパーミドルの多少スノビッシュな暮らしを肯定的にえがこうとする意図がはっきりと本作をつらぬいていることが見て取れます。
本書を読んでいて感じたのは、現代の多くの人びとの思い描く、いわゆる「セレブ」な生活が、本書の示す枠組みを超え出ることがないということです。たとえばわたくしは、白洲正子や吉田健一のエッセイを読んで、その審美眼の鋭さに感嘆することはできますが、そのような美意識にもとづいて構成されている暮らしのトータルなありようを思い描くことはほとんど不可能だと感じてしまいます。その意味で著者の文章は、現代のわれわれの暮らしのなかで機能している美的想像力の限界を示しており、しかもそのことを、とくに力むこともなくあっさりと肯定してしまっているということができるように思います。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
20数年前、雑誌25ansの連載で知り康夫ファンになった作品。あの時代を描いた作品としては私的には最高峰。何度も読み返し、そのたびに鼻の奥にツンと痛みを感じるある意味パンドラの箱的な作品でもあります。ユーミンはあの時代を見事に歌にしていたけど、その小説版ともいえると思う。わかる人にだけわかる世界だと思うけど。しみじみと良いのです、とても。