額装師の祈り 奥野夏樹のデザインノート (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (336ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784101802077

作品紹介・あらすじ

彼女の作る額は、秘密も悲しみも包み込む。事故で婚約者を喪った額装師・奥野夏樹。彼女の元には風変わりな依頼ばかりやってくる。宿り木の枝、小鳥の声、毛糸玉にカレーポット、そして──。夏樹は額装の依頼品を通じて依頼人の心に寄り添い、時にその秘密を暴いていく。表具額縁店くおん堂の次男坊・久遠純は、そんな夏樹の作品の持つ雰囲気に惹かれ、やがて彼女自身にも興味を持つが。五編の連作集。『額を紡ぐひと』改題。

感想・レビュー・書評

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  • 文学YouTuberベルの動画で知った作品。
    谷さんの作品としては少々珍しいビター風味のある作品。(直接的な表現が少ないのでそこまでビターでもないかも)
    ちょうどポーラ美術館と大塚国際美術館に続けて行き、モネの睡蓮が、額縁と照明で印象が全然違うことに驚いたので、額の話に興味を持つ。

    谷さんの作品は繊細な感性をもった主人公が多いと思う。
    純粋で、善良で、真面目で、傷つきやすい感じ。

    短編連作だが、一つ一つが夏樹の婚約者が亡くなった事故前後の話につながり、純のトラウマの理由にも繋がっている。

    祭壇に似ていると評された夏樹の額縁だけど、夏樹の祈りは「昇華」なのかな。
    作品に向き合う際にその人のことを知り、その人の感情や思い出を形にして、その人の持つ罪悪感を美しく変えて飾る。
    そうやって人と直接関わる代わりに作品を通して人の機微を学び、自分の感情の折り合いを付けていったように感じた。

    そして、美術館で絵しか見てなかったけど、額装にも今後は目を向けてみようと思う。

  • 額を作るってとてもシンプルなことだと思っていたが、額は単に写真や絵を収めるためのものではないということに吃驚した。
    このお話は、夏樹の依頼人の心の秘密を明らかにしていく…と言う点で、ほんの少しだが少しミステリー要素があると思った。もちろん、その依頼人の秘密に迫るところもこの本の読みどころではあるが、個人的に、依頼人の複雑な想いに添って夏樹がどんな額を手がけるのかが気になった。

  • 婚約者の死に関わりのある男に対する昏い思いを抱きつつ、持ち込まれる依頼に応えて額縁制作に没頭する。そんな緊張感をはらみつつ優しさにも満ちた物語です。
    額装という仕事も興味深い。決して主役にはなってはいけないけど、存在感がなさすぎてもいけない。塩梅の難しそうなお仕事です。

  • 文章が良みやすい。額装することで個の経験が一般性を持つものなら、私の人生にも額装して欲しいものがある。着想の妙といったところか。

  • 2018年2月新潮社刊の額を紡ぐひとを改題し、2020年12月新潮文庫nex化。宿り木、小鳥鳴く、毛糸の繭、水底の風景、流星を銀器に入れて、の5つの連作短篇。不思議な依頼と額装師という仕事に、ファンタジー?と思うようなところもありましたが、現実世界のストーリーでした。もつれたような連作で謎が続く長編的展開は、意図したところもあるのでしょうが、わかりにくさが残ります。整理がつくとわりと単純なお話でした。

  • 連作集。
    細やかで繊細な人の心の揺れ動きを各話で描きつつ、全編で主人公が抱えていた想いを昇華させてゆく過程が描かれています。

    終盤に急に出てきた登場人物が、主人公とその婚約者を取り巻いていた状況をがらりと変えてしまったので驚きました。かなり重要な人物のように思えたのですが、あまり深く触れられなかったのは主人公がそこから抜け出しかけていたからなのかな…。

    それぞれの依頼人の変わった注文が、その人が抱えている問題へ帰結していくストーリーは読んでいて心地好かったです。

  • はられた伏線をゆっくりと回収しながら、
    ひとつひとつのもやもやした気持ちを
    晴らしていく感じ。

    ただ、暖かい気持ちで終わりを迎えようとしてきた時に出てきた人物の存在が大きいにも関わらずその人物の描写が少なかった気がする。

  • 「額を紡ぐひと」を文庫化した作品。

    額装師という言葉はほぼ初めて聞いたのですが、ただ絵の枠組を作るのではなく、その絵を引き立たせる「脇役」のような存在ということで、今度からは絵だけでなく、額にも注目しようと思いました。

    主人公は額装師の奥野夏樹。男性のような名前ですが、女性です。バスの転落事故により、婚約者を喪くし、意志を継いで、額装師になりました。小さな工房には、様々な依頼者が。ただ、額を作るのではなく、依頼者の背景となる過去や家、どんな絵に収めるのか色々なことを聞いたりします。
    全5編の連作短編集です。

    ただ、額装師という職業の魅力を伝えるよりも三人の過去に重点を置いている印象で、もう少し魅力が伝わって欲しかったなと思いました。
    三人の過去が、まぁ重い事情を抱えているのですが、言葉の選び方が優しいためか、あまり重い気持ちにはなリませんでした。オブラートのような優しく包み込むような雰囲気にさせてくれるので、温かみがありました。

    また、依頼者は奇妙な依頼が多いのですが、主人公の推理がちょっと無理矢理感があるかなと思いましたし、果たしてその推理があっているのか?〇〇なのでは?といったモヤっと感で終わるので、消化不良かなと思いました。

    次作があるならば、今度は額装師としての魅力を前面に引き出していただきたいなと思いました。

  • 装丁に惹かれて「額装師」という言葉を知らないまま読み始めました。
    額装=絵画というイメージしかなかったので、絵画以外のものでも何でも額装出来てしまう夏樹の魅力にいつの間にか惹き込まれていました。

  • 本屋でぶらぶらしてるときに額装師という単語が目について、買った本。
    宿り木と小鳥の話が好きだな。
    額は何かを封じ込める、時を止めるもののような表現をされていてなんだかかっこいいなと思った。
    額を作る奥野の取り組み方がいいなとおもった。人の内面に踏み込むなんて、踏み込む物も踏み込まれる方も怖い感じがする、でも安心することもあるんだろうな。

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著者プロフィール

三重県出身。『パラダイスルネッサンス楽園再生』で一九九七年度ロマン大賞佳作に入選しデビュー。「伯爵と妖精」シリーズ、ベストセラーとなった「思い出のとき修理します」シリーズ、「異人館画廊」シリーズ、『がらくた屋と月の夜話』『まよなかの青空』『あかずの扉の鍵貸します』『ふれあいサンドイッチ』など著書多数。

「2023年 『神さまのいうとおり』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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