- Amazon.co.jp ・本 (260ページ)
- / ISBN・EAN: 9784102010068
作品紹介・あらすじ
世間から侮蔑の目で見られている小心で善良な小役人マカール・ジェーヴシキンと薄幸の乙女ワーレンカの不幸な恋の物語。往復書簡という体裁をとったこの小説は、ドストエフスキーの処女作であり、都会の吹きだまりに住む人々の孤独と屈辱を訴え、彼らの人間的自負と社会的卑屈さの心理的葛藤を描いて、「写実的ヒューマニズム」の傑作と絶賛され、文豪の名を一時に高めた作品である。
感想・レビュー・書評
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処女作でこのクオリティっていうのが戦慄もの…。カラマゾフとも地下室の手記とも違う方向性だけど、完成度が高くてさすがだな…。
彼が描き出す人物像ってどうしてこうも鮮明で心に響くんだろう。純粋で繊細な人間が、お互いを思って嘘をつき、我が身を犠牲にし、慰め合い、励まし合う。でも、お金や社会的立場の面で制約が多すぎて、互いを助けるには限界があって、歯がゆい思いをしながら見ていることしかできない。
権力、家柄、病気、繊細さ、出会った人、いろんな要素が降り積もってどうにもできない不幸の中にいる2人。絶望の最中でも、神がいつか自分を救済してくれることをひたすら信じて耐えているのが切なかった。自分の日常生活ではこのような逃れられない不幸とは縁遠いようにも感じられるけど、程度の差こそあれ格差は常にあるものだし、努力ではどうすることもできない、逃れられない運命ってあるよな、と思う。
貧困に限って考えれば、ただ怠けているわけじゃない人はきちんと救済される必要があるけど、公的に狡賢く生活している人間との線引きをするっているのは難しいから、必要なところに必要な分供給するって難しいよな。返ってくる見込みのないお金を、貸したりあげたりするっていう行為に抵抗を覚えていたけど、ジェーヴシキンのように救われる人間もいるんだっていうのが鮮烈な印象として残った。ジェーヴシキンのような人がいたら厭わずに手を差し伸べることのできる人間でありたい。
貧困は人間の尊厳を危うくしてしまう。貧困に陥っていると、どんなに美しい心を持っている人でも、お金に固執しなければならないし、精神の安定を失うり、他人からの侮辱が正当なことであるかのように感じられてしまう。周囲の人間も、知らずして人を見下している。
生きていくために、互いを救うために、結局最後は離れることを選ぶのだけど、それはきっとお金よりも2人の心を引き裂くことで、悲しくて仕方ない結末だった。愛情と心の充足との引き換えに生活を得る。それしか道が残されていない。最後の手紙、渡せなかったのかな…。
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他レビューにもあったが、この作品がペリー来航よりも前というのがびっくりする。
ロシアの貧困。どんよりとした救いようのない作品。
母が大学時代に線引きしている箇所が興味深い(家の本棚からこっそり持ち出したので)一番最後に、1983.3.3とメモがあった。 -
大学入学して間もなくのときにロシア文学にふれて、とても驚いたことは登場人物の名前が場合によって変化することで、本書を読了するのにかなり時間を要した。また、往復書簡という体裁の小説もあまり読んでこなかったので、それが織り成す物語はとても新鮮に感じた。本書における主人公と呼ぶべき「マカール・ジェーヴシキンさま」と、「ワルワーラさん」の心理を描いたようなドラマが往復書簡という体裁で描かれており、加えてそれが前述のように、彼らが置かれている社会や生活を生々しく再現している。とても考えさせられる一冊だった。
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貧乏なおっさんと貧乏な若い女の子がお手紙を出し合うお話。
現代の日本の価値観を通して読むと、どうしてもおっさんが気持ち悪かった。汚くてメンヘラで卑屈なおっさんって、、、
憎めなくていい人ってのは伝わってくるけど。
個人的には貧乏で冴えないけど、若くて賢い男の子のが感情移入出来た。ラノベの読みすぎかな。
アンナ・フョードロヴナに対しても特にスカッとするオチはなく、おっさんが悲しんで終わり。これで終わり?って最後だった。
いわゆる名作古典作品って感じの終わり方。
自分の教養の無さ故だとは思うけど、期待した程じゃなかった。
ポクロスキー父の子を思う描写は、なんか妙に生々しく好きだった
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中年の役人と病気がちな少女が文通するという、今日日ではなかなかエキセントリックな話。それほど貧しくないというところがポイント。
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処女作にしてこの内容は、さすが世界の大文豪だと思った。
マカール・ジェーブシキンとワルワーラの貧しい暮らしぶりが痛いほどに伝わってくる。
「たとえどんな寒い日でも、わたしなら外套も着ず、靴もはかないで歩いても、平気です。わたしはなんでも我慢し、辛抱します。わたしは平ちゃらです。どうせわたしは平凡でつまらない人間ですから。でも、世間の人はなんというでしょう?…靴というものは、わたしの名誉と体面を保つために必要なものであって、穴だらけの靴をはいていれば、そのどちらも失ってしまうわけです」
毎日パンを買うだけのほんの少しのお金があればこの2人なら必ず幸せになれるのに…と思うと、彼らの境遇にいたたまれない思いがする。
互いを思いやる気持ちがとても美しい。
他のドストエフスキー作品に比べてかなり読みやすいと思う。