- Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
- / ISBN・EAN: 9784103050056
作品紹介・あらすじ
甘美で魅惑的な11の物語。作家デビュー50年記念作品となる著者最高傑作。「小説家の「幸福」」をめぐる考察、デイジーの刺繡をしたブラウス、岡上淑子によるフォト・コラージュ作品、謎めいた宿命の女、胡同に咲き乱れるジャスミンの香り、金粉ショーのダンサーとの狂乱の恋、そして「塊」と「魂」。無数の映像や小説、夢や記憶の断片が繊細に絡み合い紡がれ、ここに前代未聞の物語が誕生した!
感想・レビュー・書評
-
エッセイと小説が混然一体となった短編集。とにかく装幀が美しい。この真っ赤、手にするだけでテンションあがる!そしてまたしても岡上淑子だった。意図したわけではなく偶然なのだけど、ここ最近で、田中兆子『私のことならほっといて』、千早茜『人形たちの白昼夢』に続き3冊目。こちら表紙でこそないが、「そのうちの六篇は、岡上淑子の(中略)フォト・コラージュ作品から揺曳された映像が、私の記憶の中の映像や言葉の断片と結びついて書かれたもの」とのこと。もちろん画像も挿入されています。金井美恵子は2012年の『ピース・オブ・ケーキとトゥワイス・トールド・テールズ』の表紙も岡上淑子だったからお好きなんでしょうね。
相変わらず、長い長い1ページ余裕で読点なしで進む饒舌な文体、間に( )や――でどんどん追加されていく注釈、一文読み終わるころには主語がなんだったかも忘れてしまうほどだけど、これが気持ち良いんだよなあ。ずっと読んでいられる。なので金井美恵子に関しては筋書きより圧倒的に文体。突如、前の作品から繋がりがあるようなないような一文がまるごとコラージュされてくるのもびっくりするけど慣れました。作品ごとの境界も、あってないようなものなのだろうな。
唯一、タイトルのインパクトがすごい表題作については、やや筋書き的なものがあり、金粉ダンサー男性の相方女性に惚れた男が妻子を捨てて追いかけてくるのだけど、この男、とにかく漢字を読み間違えて記憶している。「渦中」を「うずちゅう」と読んだり、「節目」を「せつめ」と読んだりする。なのでもちろん「カストロの尻」とは、スタンダールの「カストロの尼」の読み間違い。
「小さな女の子のいっぱいになった膀胱について」は、ある古い文学者のエピソード紹介(電車で偶然一緒になった軍人、彼の連れていた小さな娘にトイレを貸してあげた)が、どこに繋がるのかと思いきや、まさかのその女の子の正体がアノヒトで、なるほどだから笙野頼子(幽界森娘異聞)か、と。あと作中に出てきた映画や文学のタイトルを全部メモしておこうと思ったのだけど挫折しました。唐十郎「ダンサー」だけ覚えておく。
※収録
「この人を見よ」あるいは、ボヴァリー夫人も私だ/破船/昇天/呼び声、もしくはサンザシ/シテール島への、/「胡同の素馨(ジャスミン)」/廃墟の旋律/雷鳴の湾――王女、あるいはMiscellany/雷鳴の湾――Incident/「孤独の讃歌」あるいは、カストロの尻/カストロの尻――Miscellany/小さな女の子のいっぱいになった膀胱について/本を燃やす、(あとがきにかえて 1)/パナマ・ドンパチ・ゲイシャ(あとがきにかえて 2)
岡上淑子「破線」「昇天」「呼び声」「廃墟の旋律」「王女」「孤独の讃歌」詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
金井美恵子さんの、長い長い文のリズムが好きで、それが気持ちよくて、読んでいる気がする。
特に小説は、中身より文体が好きで、それから内容という順序。そんな作家は私には他にいない。
毒舌ぶり、人間観察の鋭さも好き。
それらはエッセイの方がより直接的なのでエッセイも好き。
その2つが組み合わさったこの作品。
もっと楽しめれば良かったのだが、ちょっと私の集中力が弱まっているのか、あるいはちょっとよくわからないところもどんどん飛ばして読んで行くいつもの元気さがなかったのか、何度読んでもわからないところがあり、いつもの心地よさより、難儀さ、自分のバカさを感じた。
-
いつもの通り、私としては例外的にゆっくりゆっくり読む。金井美恵子の文章をちゃっちゃと読めるはずもないわけで。うねるような言葉の流れに、酔っ払ったような気分になるのもいつものこと。こういう読書はほかにない。
最初と最後がエッセイで、その間に短編小説が十篇という変わった構成は、どういう意図(あるいは事情)によるものなのか、また、冒頭のエッセイと次の小説が一つの章としてまとめられているのはなぜなのか(いつの間にか小説になってて、あれ?と思った)、よくわからないけれど、まあ、それはどうでもいいわ。この系統の小説(皮肉な笑いを誘うタイプではないもの)は久しぶりなので、心から堪能しました。
「ピース・オブ・ケーキとトゥワイス・トールド・テールズ」を思わせるような短篇もあるが、「ピース・オブ・ケーキ」の繊細さに対して、こちらはもっと下世話な感じのものが多い。金粉ショーのダンサーとか出てくる。性的な描写も結構直截的。考えてみれば、タイトルからして「カストロの尻」だものねえ。この表題作はおかしかった。
どんどん横滑りしていっては元に戻り、そのたびに読む側の意識も引き戻されて、語られていることがどう流れているのか、常に考えながら読まねばならないという、金井美恵子独特の文体は変わらないのだが、今回は「横滑り」部分が( )でくくられているのが結構あって、ちょっと読みやすいように思った。あくまで「当社比」だけど。 -
新聞の書評がこの作品と村上春樹の『騎士団殺し』をよく取り上げていると聞いて。
前哨本として『小春日和』も読んでみたけど。
この本は自分の読む呼吸と合わなかったと思う。
そんなわけで、他の方に沢山素敵なレビューがあるので、こちらは流していただきたい。
長い長い一文の中で、具体的なモノが色を伴って描写されていく。
想像なのに、密に密にさせていって、途中で息をつくと、何処にいるか分からなくなる(笑)
迷子本でした。
金粉ダンサーズの話が地味にお気に入り。
官能的なんだけど、ホテルで金粉洗い流す手間の話とか、そこ一欠片が残って浮気の証拠になったんじゃないかとか。
なんか、夢があるわー。金粉ダンサー。
あと、序盤の炭鉱のカナリアと芸術家の類似性。
感じやすいが故に、他者より先に犠牲として殺されてしまう儚い弱いもの。
ハッとさせられる。 -
金井美恵子の最新作。
シンプルな赤い紙に箔押しという装丁が美しい(しかしカバーの汚損率が高そうだ……)。
各短編は緩やかに繋がっている。どれも、何処かもの悲しい雰囲気が漂っている。『胡同の素馨』が一番好きだ。 -
・正直この本を自分は理解できていない、と思う。それは読点の無い、余りにも長い一文の中で次々と思考の流れに沿って次々と展開していく流れに全然着いていけてなかった。これ誰の話?となるのも多々だった。
・それでもこの文章を読んでいるのは気持ち良かった。快感だった。
・いわゆる文章のリズムって物なのだろうか?読みにくい文章にまつわる嫌な気持ちが全然なかった
・本自体、物として美しい
・最後の方に使用紙銘柄を表記。最高。 -
うーん、私にはあまり向いていない文体でした。
-
金井美恵子の小説は、まるで世界を刺繍するかのように、言葉でチクリチクリと刺してゆく。