私の息子はサルだった

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (125ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103068426

作品紹介・あらすじ

サルのようにおたけびを上げている息子は、どんな大人になるのだろうか。私は疑いもなく子供を愛しているが、その愛が充分で、適切であるかどうか、うろたえる。誰が見てもいい子ではない。学校で一日五回も立たされる。ただ、大人になった時、愛する者を見守り、心に寄りそってやって欲しいと思う――。『100万回生きたねこ』『シズコさん』の著者が自らの子供を見つめて描く、心暖まる物語。

感想・レビュー・書評

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  • 佐野洋子さんが亡くなられたのは、2010年。本書の発行は2015年であり、佐野さんの死後に発行されたものである。20編弱のエッセイ集と言えると思うが、本書に記載の初出解説によれば、1編を除いて、すべて佐野さんの死後に発見された原稿であるとのこと。要するに、佐野さんは、本書をこのような形で発表するとは考えておられなかったということであり、また、内容から考えると、「私の息子はサルだった」という題名に違和感を感じる。それは、佐野さんであれば、そのような題名はつけられなかったのではないかと思うから。
    息子の「ケン」君の幼少の頃からの様子を描いたエッセイ。特に「よっちゃん」と「ウワヤ君」の親友3人組の交流が詳しく描かれている。佐野さんの息子に対しての愛情を感じる。と同時に、「男の子」というものに対しての物珍しさを感じておられるのだろうな、ということも感じる。
    佐野さんの他の作品にある、毒舌的な部分を全く感じない、素直な読み物だ。

  • 『「あたり。じゃあぼくがボールをすなばにかくしたか」「かくした」「あたり。ねえ、どうしてわかるの。』

    書き付けて置きたくて書いた文章。その前のめりな愛情が放っておいても勝手に押し寄せてくる。佐野洋子の吐くうそもほんともみんな交ざって白黒の世界に素晴らしく綺麗な彩りを添える。それだけで文句はない。もちろん、当事者は別の感想を抱くのだろうけれど。

    佐野洋子の文章を前にすると、言いたいことがたくさん湧いてくるような気持ちにたちまちなるのだけれど、そのくせ書き始めようとすると一向に言葉が出てこない。もどかしい。けれど実はそれをもどかしいと言ってしまうのは少しばかりお門違いでもある。何故ならば言いたいことというのは、きっと、佐野洋子の書いた文章についてではなくて、佐野洋子の文章を読んであれこれと思い出したことなのだから。思い返してみると、いつもそうだったようにも思えてくる。

    サッシではなく硝子の障子があって、その向こうには濡れ縁があって、そのまた向こうには焚き火のできる土の庭と何本もの果樹があって。砂利道の凸凹や、勝手に遊べる空き地や、そして何よりも近所の遊び友達。友達と言ったって、歳も通う学校もばらばらで名前の知らない友達もたくさんいて、多少の悪さもしたけれど何だか色んなことを学んだ気もする。そう言えば、鳩をもらって育てたこともあったっけ。秘密基地を作る場所にも不自由しなかった。

    そんな書いてあることとは関係のない思い出が次々と浮かんで来て、不思議な感慨に耽る。自分のことではない筈なのに、いつの間にか主人公のケンに自分の思い出を重ねて読んでいる。そして本の中で佐野洋子を通してあの時代の親の気持ちに触れたような気にもなる。もちろん、細かいちぐはぐはあるけれど、そんなことは全く気にもならない。無垢な幸せとでも言ったらよいような心持ちを思い出す。もちろん、楽しい思い出ばかりとは限らない。あの時感じた淋しさや悲しさも同時に溢れ出してくる。そして、佐野洋子に昔自分がやった悪さをずばり指摘されてびくりとする。ねえ、佐野さん、どうしてわかるの?

  • まさにおサルさんのような佐野さんの息子と友人たちの行状に笑いながら読んできて、最後にガツンとやられる。

    「何でもやってくれと思う。子供時代を充分子供として過ごしてくれたらそれでいい。悲しいこともうれしいことも人をうらむことも、意地の悪いことも充分やってほしい。  そして大人になった時、愛する者に、君は何を見ているのだと他者の心に寄りそってやってほしいと思う」

    佐野さんにこんな「遺言」があったのだ。ここに収められているのは、息子の「げんちゃん」がもう自分のことは書くなと怒ってから、発表されることなく原稿用紙に書きためられていたものだそうだ。「あとがきのかわり」として、息子さんがこうして本にしてもいいという気持ちになった心の動きを綴っている。これが実にいい。

    十代の終わりの頃「あら、あなたがげんちゃん?」と知らないおばさんに腕をつかまれて、凄い顔でにらんだことがあったそうだ。自分の知らない人が、自分のことを読んで知っている。しかもそれは「少しの大袈裟と嘘を好き勝手にちりばめ」たもの。不愉快で当たり前だ。

    「もしかしたら僕から見た大袈裟と嘘が、彼女の中ではすべて真実なのかもしれない」「全く同時に違う体験をしていたのかも知れない。そうか。そうかもな」という洞察に至るまでには、かなり時間が流れたことだろう。「そろそろいいか。許してやろう。今だったら知らないおばさんとも仲良くできそうな気がするし」という言葉が胸にしみた。一番いいのが最後の一行。さすが佐野洋子の息子だなあと晴れ晴れとした気持ちになる。

    「僕にはもっともっと楽しくて美しい、佐野洋子が知らない僕だけの『ケン』の思い出がある」

  • 主に保育園から中学生の息子との日々の一場面を描いたエッセイ。

    発表されたのは入院中の愛犬(よく出てくる柴犬とダックスフントのミックスの花子)をめぐる息子とのいさかいを書いた「点滴」のみ。これが一番完成度が高いと思った。他は発表されなかったということは、作品としていまいちと考えたのか、息子に「オレのことを書くな」と言われて発表しなかったのか、どっちもなのか定かでないが、男子のバカさと可愛さがイキイキとしていて、それでいて親の切なさも伝わり、なかなかよかった。まあ、まとめて読んだから子どもの成長がわかって余計にそう思うのかも。ひとつひとつバラバラに読んだら、ちょっと物足りないかもしれない。
    それでも、何気ない日常のヒトコマを短くさっぱりした平易な文で、ここまで情感豊かに書ける人はそうそういないと思う。「あ、あっあ」なんて会話だけで書かれているのに、友達が欲しい女の子の気持ちだけでなく、同じくらいの年の息子に語る大人の気持ちまで読み取れて、ぐっとくる。

    佐野洋子の文章のうまさは、天才的。
    もう新しい文章が読めないのは残念だ。

  • ケンの母親目線のエッセイ。ケンは佐野洋子さんの息子、弦さんで、母親は佐野さん本人だ。

    陽気にふざけまくり、親友たちと同じ女の子を好きになって同盟を組む少年期から、かっこつけ始めた中学生くらいまでの面白エッセイ。

    広瀬弦さんは”あとがきのかわり”で、佐野さんの書いたエピソードからは大袈裟と嘘が見え隠れする、と言っている。
    けれど、佐野さん本人にとっては、全て真実だったのかもしれない、と続けている。

    エッセイを面白くしようとして大袈裟と嘘の要素を加えた部分もあるだろうし、弦さんへの愛情から大袈裟と嘘を注入した部分もあるんだろう。

    親から子どもへの愛は後になってから理解するもので、親からの愛を理解した後に感謝を伝えようとするときに親はもういない。切なさみたいな気持ちで、胸がいっぱいになってしまう。

  • 私の息子もサルだった。ほんの数年、短い間だけど。今となっては愛おしい。

  • あとがきに本書の主人公ケン、広瀬弦が「大袈裟と嘘を好き勝手に散りばめた」とコメントしていますが、嘘か本当か誇張されているかはさて置き、幼少期、子供時代の元気な男の子のはち切れた陽気さ、無邪気さが散りばめられた眩しい時代の記録?。
    異性の息子を驚きを持って見つめる母親の頬ずりするばかりの感情が感じられ、それを鬱陶しいと感じる息子のあとがきにも頷けました。

  • 祖母を見てるようだった
    作者の書き付けなのだろうか

  • 『100万回生きたねこ』で知られる佐野洋子さん。図書館の本棚で、本当に何気なく手に取ったのがこの本だった。
    息子さんの幼少期から思春期くらいまでのことを描いたエッセイ?私小説??
    生前書かれていた原稿が、没後発見され、その後出版に至ったのだという。筆者と同じ母親目線で読んだけど、調べてみたら、この息子さんの方が私と同世代だった。なんか不思議な気がした。
    この息子さんによる「あとがき」がちょっとしみた。

  • 2019.09.14

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著者プロフィール

1938年、北京生まれ。絵本作家。ベストセラー『100万回生きたねこ』のほか『おじさんのかさ』、『ねえ とうさん』(日本絵本賞/小学館児童出版文化賞)など多数の絵本をのこした。
主なエッセイ集に、『私はそうは思わない』、『ふつうがえらい』、『シズコさん』、『神も仏もありませぬ』(小林秀雄賞)、『死ぬ気まんまん』などがある。
2010年11月逝去。

「2021年 『佐野洋子とっておき作品集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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