- Amazon.co.jp ・本 (480ページ)
- / ISBN・EAN: 9784103080121
作品紹介・あらすじ
結婚、仕事、親の介護、全部やらなきゃダメですか? 答えのない問いを生きる私たちのための傑作長篇。東京のアパレルで働いていた都は母親の看病のため茨城の実家に戻り、アウトレットのショップで店員として働き始めるが、職場ではセクハラなど問題続出、実家では両親共に体調を崩してしまい……。恋愛、家族の世話、そのうえ仕事もがんばるなんて、そんなこと無理! ぐるぐる思い惑う都の人生の選択から目が離せない、共感度100%小説。
感想・レビュー・書評
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『「私たちは自転しながら公転する地球の上に乗って、生活しているんだな」ー 知り合いが何気なく発した言葉からヒントを得て、この小説が生まれました』と語る山本文緒さん。
私などが改めて説明するまでもなく、この地球は24時間で自転し、365.25日で太陽の周りを公転しています。さらにはヘルクレス座の方向に秒速20kmというスピードで太陽系全体が移動していってもいます。もちろん、私たちは日常生活においてそんなことをいちいち考えたりはしません。朝が来て、昼になって、ああ、もう夜になってしまったか、そんな一日の中での時間の変化を漠然と感じるだけです。私たちの日常は何かと慌ただしく過ぎていきます。『仕事、恋愛、介護、職場の人間関係』と、私たちが立ち向かわなければならないことはあまりに多すぎます。では、そんな忙しい貴方を俯瞰した位置にいる神さま視点でそんな貴方を見たとしたら何が見えるでしょうか?そこには朝起きて夜眠るまでに、生きるために必要な事ごとをテキパキとこなしている貴方の懸命な姿が見えるでしょう。一方でそんな貴方も朝起きて”おはよう!”と家族に声をかけ、電車やバスに乗り、そして会社に着いて、”さあ、今日も頑張るぞ!”と気合いを入れる瞬間があります。自分の人生を懸命に生きながら、コミュニティへと一歩踏み出した瞬間に貴方は社会の一員として、それぞれのコミュニティの中でそれぞれの役割を果たしていきます。そんな貴方を神さまが見たら、貴方自身の世界を生きながら、社会というもっと大きなコミュニティの中でもそれぞれの役割を演じているという複数の動きを見せる貴方の姿が見えてくるはずです。
「自転しながら公転する」というなんとも大きな世界観を思わせる書名のこの作品。それは、地球が自転をしながら太陽の周りを回り続けるのと同じように、自分の人生を回しながら、コミュニティの一員として社会を回していく私たちの人生を通じて、人の幸せとは何かを考えていく物語です。
『今日私は結婚する。書類上ではまだ煩雑な手続きが残っているが、今日これから結婚式を挙げ、今夜から彼の部屋で暮らすことになる』という『私』。『これは本当に現実なのか実感がいまひとつ湧いてこない』中で『三日前に両親と共に日本を発ち』、今、式を前に、ウェディングドレスを着付け中の『私』。そして、メイクルームでひとりになった『私』は、『自分の姿を見つめ』ながら、『ベトナムの恋人と結婚を決めてから、慌ただしく大騒ぎ』したここまでの日々を振り返ります。『日本で働いていた彼と出会って、いつの間にか付き合いだした』という『私』。『彼の帰省に合わせて初めてこの国に遊びにきたとき、私は彼のバイクの後ろに乗って田舎道を走った』というあの日。『大きなスクーターにふたりで乗って、風を切り、焼けるような熱い空気の中を走った』というあの日。『湿気と濃い酸素。生まれて育った関東平野の乾ききった空気と全然違った』というホーチミン郊外。『ものすごく美味しいんだと連れて行かれた店は、バラックと見紛うような小屋』。そして出された『盛り付けも何もないような、ただ皿に入れただけのような青菜の炒め物』。しかし『鼻孔をくすぐるハーブの匂いに暴力的な食欲が込み上げた』という『私』は、『大きな口を開け、がつがつとそれを掻っ込んだ』彼に『つられるように口に入れると、うま味が口の中で弾けた』という展開。『夢中で何皿も注文して食べた』二人。『働いているのは意外にも若い人ばかりだった』という店内。『皆、さっぱりした身なりをして、フランクな接客をしている』という従業員たち。『それを見ながら私は経験したことのなかった感覚に体中がしびれて放心し』たというその瞬間。『ここで暮らせたら、という思いが湧き上がった』その瞬間の『私』。『お洒落なんかしないで、化粧なんかしないで、こういうところで働いて、こういうものを食べて日々暮らしたい』と思った『私』。今までも漠然と『外国で暮らすことについては考えたことはあった』という『私』。しかし『そんな漠然とした思いとはまったく違う熱望と言っていい気持ちが込み上げた』その瞬間。そして『結婚の話が出るまで時間はかからなかった』という展開の先に今日を迎えた『私』。『古いホテルの中の教会は、小さいけれどおごそかだった』と始まった式場の中で『最前列に座っていた母と目があった。母は涙ぐんでいた』という光景を見て、『最近までこの結婚に反対し続けていた』過去を踏まえ『何の涙だろうか』と思う『私』。一方で『反対するだろうと思っていた』父は『おめでとう』と笑っただけだったという報告の日。そして『私は夫になったばかりの恋人の腕につかまり、リストのピアノ曲が流れる中、バージンロードを歩き出した』という礼拝堂の今。『あのドアを開ければ、そこには喧騒の街がひろがっている』というその向こうへと歩き出す二人…という物語の〈プロローグ〉。そんな〈プロローグ〉の瞬間に至るまでの主人公・与野都(よの みやこ)が、『自転しながら公転』する、その苦悩の日々を描く物語が始まりました。
2021年の本屋大賞にノミネートされたこの作品。地方のアウトレット内のアパレルショップで契約社員としてはたらく33歳の与野都が主人公となって物語は展開していきます。そんなこの作品は元々は「小説新潮」に連載されたものを改稿の上、〈プロローグ〉と〈エピローグ〉を追加して刊行されたという経緯を辿ります。上記したベトナムで結婚式を挙げるというとても印象的な場面が綴られる〈プロローグ〉。活き活きと華やいだ雰囲気の中に描かれるベトナムの日常の中へ『私はそこに飛び込むのだ』と前向きな感情に満たされた〈プロローグ〉。しかし、それに続く本編は、『毎朝都は牛久大仏を眺める』という一文から始まり、様々な事ごとにぐるぐると思い悩む主人公・都の鬱屈とした物語です。このなんとも言えないその落差に大きな衝撃を受けるこの作品。そんな〈プロローグ〉には、『私』の他に、父親、母親が登場します。特に母親についてはこの結婚に直前まで反対であったことが明確に語られる一方で、式典の各所へのこだわりを見せる姿も描かれます。そして式中に流した涙に『何の涙だろうか』と思う『私』。そんな『私』は、母親の胸に去来するものについて『喜びだろうか、悲しみだろうか、怒りだろうか。嬉しいのか、嫉妬しているのか、母の胸の内が本当にわからなかった』と語ります。〈プロローグ〉の華やいだ場面の中ではどうしても読み飛ばし気味になるこの母親の描写。そんな描写の数々を必ず読み返したくなる読後が読者を待つこの作品。ブクログのレビューでも賛否分かれるこの〈プロローグ〉について、『単行本にする際に付け加えるべきかどうか悩みました』と語る山本さん。確かにこれらがあるのとないのとでは、読後は全く別物に感じるであろう内容がそこには描かれています。しかし、私はこれらがあってこそのこの物語なんだと思います。それはこの作品が読者に問いかける『幸せ』とは何かという命題への山本さんなりの答えを〈プロローグ〉と〈エピローグ〉を通して垣間見ることができるからです。これから読まれる方には、この〈プロローグ〉を、さらっと流すのではなく、是非じっくりと味わいながら、特に母親の描写には意を払って読んでいただきたいと思います。その先にはきっと、単行本480ページにも及ぶこの長編を”読んでよかった!”という読後が待っていると思います。
そんな〈プロローグ〉に続く12章からなる本編では、二人の人物の視点がランダムに切り替わっていきます。その一人は主人公である都、もう一人は『更年期障害』に苦しむ母親の桃枝です。『病気で別人になってしまった』という重い症状に苦しめられる桃枝。そんな二人がお互いを見やる場面で興味深い対となる表現が登場します。『母のおなかから生まれた自分は母とこの世の中で一番他人ではない間柄だったはずなのに、いつそんなに遠く離れてしまったのだろうと愕然とした』という都の母に対する想い。一方で『かつて自分のおなかの中にいて、生まれてからは涎だって排泄物だって直に触ってきた。しかし逆はどうなのだろう。自分がもっと老いて認知症や寝たきりになったりしたら、娘は母のそれを汚いと思わないで世話してくれるのだろうか』という桃枝の都に対する想い。『おなか』から生まれた側と『おなか』から産んだ側のそれぞれが、『おなか』を通じてそれぞれを強く意識し合いながらも気持ちが次第に離れていく不安感を上手く対比させたその表現。母と娘がそれぞれの人生を、それぞれの境遇を思い悩み、一方で付かず離れずに関わっていくその展開。視点の切り替えによってお互いの気持ちがよく見えてくる中で、読者の年齢、立場によってもどちらに共感できるかが変わってくるこの二人の巧みな描写は、それぞれ公転する中で微細な重力によってお互いの軌道に影響を与え合う惑星のように、この「自転しながら公転する」という作品を読む上での一つのキーになっていると思いました。
そんな「自転しながら公転する」というとても印象的な書名のこの作品。私たちが毎日を生きるということは、それぞれの生活を送るのにプラスして社会の中で何らかの役割を同時に果たすことでもあります。人によってそんな社会との関わりの幅に差はあれど、何かしら社会の動きの中で私たちが生きていることに違いはありません。地球の公転とは違って、私たちが日々を生きる中では、突然、新たな動きの中に組み込まれることもありえます。『家族が病気になるということがどんなことか都はまったく知らなかった』という主人公の都。母の介護という動きに突然に組み込まれ『それは去らない台風の中に突然放り込まれたような出来事』と感じる都は『母が昔の母に戻って、都が自分のことだけを考えていい日々を取り戻せるのはどのくらい先なのだろう』と思い悩みます。それは貫一に『家事をやりつつ、家族の体調も見つつ、仕事も全開で頑張るなんて、そんな器用なこと私にはできそうもない』と自信を失った姿を見せる場面に繋がっていきます。しかし、そんな状況も母親の桃枝視点に切り替わると『家族から離れてひとりになりたい、と桃枝は思った。夫や娘からの心配が、かえって重圧だった』と全く違う世界がそこには見えてきます。この作品では他に都の父親、恋人の貫一、そしてベトナム人のニャンなど男性も登場しますが彼らに視点が切り替わることはありません。しかし、彼らだってそのそれぞれに思い悩みながらも、それぞれの世界の役割の中で生きています。それぞれの視点では決して見えない神さま視点で見た時には、それぞれの悩み、苦しみなんて大したことはないのかもしれません。それは、全体から見ればちっぽけな惑星に過ぎないからです。でも大切なことは、そのちっぽけな惑星それぞれがそれぞれに「自転しながら公転している」ということです。『自転しながら公転』する、そのそれぞれがお互いを尊重すること。重力によってお互いが引かれ合いつつも絶妙な均衡の中に美しく回り続ける世界。そして、それぞれの軌道を尊重し、それぞれが幸せにその軌道を回り続けることを見る神さま視点に立った時、〈エピローグ〉の私が両親に問いかけるシーンに光が当たります。『ママはパパと結婚して幸せだった?』というその問いかけ。それに対して『別にそんなに幸せになろうとしなくていいのよ。幸せにならなきゃって思い詰めると、ちょっとの不幸が許せなくなる。少しくらい不幸でいい。思い通りにはならないものよ』という母親の答え。それは、思い通りにならない自転と公転の中に、それぞれの生き方を、それぞれの幸せを見出していくものなのだと思います。そして、都、桃枝、そして貫一らが描くそれぞれの自転と公転を決して否定することなく、肯定していく、そんな優しい神さま視点に世界を見る物語は、この〈エピローグ〉のあたたかい感情に溢れた描写あってのことだと思いました。
『都と桃枝、ほかにも必死に自転公転している登場人物たちの誰かしらには、感情移入できる点があるのではないでしょうか』と山本さんがおっしゃる通り、この作品には国籍を超え、多種多様な立場の人物が登場しました。そんな中でもアラサーという立場の主人公・都は、会社に、恋愛に、介護にと同時に押し寄せる様々な悩みの中でもがき苦しみながらも前を向いて進んでいきました。そこに描かれるリアルさは決して小説の中だけのものではありません。山本さんがおっしゃる通り感情移入してしまうリアルさをそこに感じる方もいらっしゃると思います。それは、私たち自身も「自転しながら公転する」、そんな毎日を送っているからなのだと思います。私たちは、他の軌道を回る人を見ながら、そこに色んなことを思いながらも、そんな他の人の軌道に移ることはできません。私たちは私たちそれぞれの軌道を「自転しながら公転する」しかないからです。そんな私たちそれぞれの自転と公転の人生に幸あれ!そんな風に感じた読み応え十分の素晴らしい作品でした。 -
山本文緒さんの渾身の一冊タイトルがピンとこなくって訃報を知ってからも厚みのある本でずっしり重いし触手が伸びなかったんですけどようやく機会が巡ってきました。
東京のアパレルブランドで働いていた都は32歳、母親の介護のため仕事を辞め、実家近くのアウトレットモールのアパレルで契約社員をはじめた。近くに牛久大仏があるようでその大きさは手のひらに奈良の大仏が乗ってしまうとゆうから尋常じゃないですね。
プロローグでいきなりホーチミンで結婚式って先入観埋め込まれてしまったので、出会うベトナム人には警戒しつつ読み進めていったのでした。
それにしても都は、まわりに振り回されて隙だらけに見えてしまうし、自分に降りかかる痛みに対して鈍感なところがパワハラやセクハラを呼んでいる感じがしました。同僚で年下の正社員だった子のほうがSNSで愚痴って言いたいこと言って上手に毒を吐いてバランス保ってたようで清々しかったなぁ。まだ20代なら売手市場だし強気でいけるんでしょうね。
一方、都の八方美人ぶりは優柔不断で利用されやすい体質だしブレてるのは年齢からくる焦りや不安なんでしょうね。それがなければ寛一とか袖にしてたと思うんですけど。「金色夜叉」の寛一お宮は熱海の海岸で「来年の今月今夜のこの月を僕の涙で曇らせてみせる」って寛一が有名な捨て台詞吐いて別れるんですよね。毎年1月17日は失恋記念日で涙で月を雲らすとか未練がましく言ってたけど阪神淡路大震災の日じゃないですかぁって、月を曇らすより凄いことおこってるじゃないですかぁ。
さておき、こちらの寛一は自転しながら公転するとか、それでいて同じ場所には戻れずに進んでいくとか太陽系の雄大な神秘を語りだすとかで、ロマンス神をも動かしてしまったようです。
無職で中卒の寛一と家庭を持つとか無理ありそうだし、いけ好かないセクハラ上司もNGだし、年下の金持ちベトナム人とかどうなんだろう無茶遊ばれてる感じなんだけど。
星のくずほどいそうに思える男子もいざ出会うとなると地球に巨大隕石が堕ちるほどの確立に思える偶然さで、それを思うと卓球部時代の幼馴染はいい彼氏捕まえた感じで羨ましかったり・・・
一人で生きていくって選択肢もあるんだから型にはめて考える必要もないと思うんだけど生き抜くい世の中なんですよね。
で、どんな選択をしたかとゆうところは気を揉むのですが・・・。
特に女子は配偶者や家族によって生き方に影響されること大きいと思うんですが、そろそろ見つけ出してほしいんですよね。いろんな重力に捕らえられて脱出できなくなる前に、スイングバイで軌道制御してバイバイって冒険者みたいに未知の世界に到達できる方法なんかを。-
星のくずほどいる男子⟡.·笑
最初から当たりの男子と出会えればいいのになー。それじゃ人生つまんないか?
牛久大仏のデカさは近くで見ると恐怖...星のくずほどいる男子⟡.·笑
最初から当たりの男子と出会えればいいのになー。それじゃ人生つまんないか?
牛久大仏のデカさは近くで見ると恐怖だよ2024/03/08 -
2024/03/08
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初めて山本文緒さんの作品を読みましたが、もう揺さぶる揺さぶる笑
子を持つ親としてもいろいろ考えさせられてしまった。
ネタバレになるのであまり書けないが、話の展開も含め面白かった。
もう新作を読めないとなると、とても残念。
過去作も少しずつ読んでみたいと思った。-
数年前から、山本文緒さんの作品を読み始めたばかりですが、一気にファンになりました。亡くなられたことがとても悲しいです。
以前より、折に触れ...数年前から、山本文緒さんの作品を読み始めたばかりですが、一気にファンになりました。亡くなられたことがとても悲しいです。
以前より、折に触れて私の感想文を読んでくださりありがとうございます。子育てしながら、読書量も多く、読書後に自分の考えを言語化されすごいなあと思います。2023/11/26 -
くにちゃんさん
自分は恥ずかしながら、この作品のみですが、深く心に残る作品になりました。
もう新作読めないのは寂しいですが、過去作はまだ全然...くにちゃんさん
自分は恥ずかしながら、この作品のみですが、深く心に残る作品になりました。
もう新作読めないのは寂しいですが、過去作はまだ全然読めていないので、少しつづ手にとってみようと思ってます。
感想はすぐ忘れてしますので、自分に対しての覚書的にも活用してます。時間をつくりながら、これからも読書して感想を残していきたいと思います。ご丁寧にコメントありがとうございます。2023/11/26
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プロローグからてっきり…
予想を裏切るエピローグに鳥肌が止まりません。
読書としては、納得のいくエンディング、現実的には納得のいかないエンディング。
物語自体があまりにも現実的に進むので、このエンディング、主人公・都の選択には驚きを隠せない。
そして自分の考え方が、都の母親や父親のように、昭和の凝り固まった価値観と正論に支配されているのだなと改めて気づかされた。
幸せってなんでしょう。
不幸ではない、というのが、自分なりに辿り着いた境地ではあるけれど、でもその「不幸ではない」を今度は疑いだす。
今が不幸ではない状態だとして、でもそこからはみ出る欲望は、どこまで手を伸ばすことが許されるんでしょう。そこから少しでも何かを望むことは、やっぱり求めすぎなんでしょうか。
好きな人がいることは幸せであるはずなのに、わたしは苦しくて、早くここから抜け出したい。
それは好きな人が、一般的に言う「まともではない人」だからなんだろう。
だから自分もそこに引っかかり、周りも止めにかかる。
だけど都は、そこに留まったように、わたしには感じられた。
苦しいところに、留まったように。
どうしてわざわざ。
確かに、究極の幸せなんてないと思う。でも、そこまでしなくてもいい苦しみもある。誰かに対する強い感情。こういう感情は、関係が近ければ近い人にほど、持っていると苦しい。その感情の持っていき場所に困るからだ。
P477「別にそんなに幸せになろうとしなくていいのよ。幸せにならなきゃって思い詰めると、ちょっとの不幸が許せなくなる。少しくらい不幸でいい。思い通りにはならないものよ」
割り切るとか、諦めるとか、飲み込むとか。
結婚てたぶんそういうもの(たぶん)。
自分の思い通りにならないこと。それが、ちょっとの不幸なのかもしれない。
でもわたしには、そのちょっとの不幸は、かなりの不幸、一人だったら得られたはずの幸福の犠牲のように感じられる、ことがある。
でもじゃあ、一人だったら得られたはずの幸福ってなんだ。
「はずの」っていうのはつまり思い通りになると思ってるってことだ。
確かに関わる人が少なければそれだけ思い通りにいくのかもしれない。
だけど、じゃあなぜわたしはいつも一人で悶々と、
生きる意味を考えているのか
幸せの意味を考えているのか
幸せを追い続けているのか
誰かのことを思い続けているのか
これはたぶん、結局誰かと生きていきたいからだ。
一人でいたって思い通りになんてなってない。だったらそのしんどさを、誰かと分かち合う方が安らぐのではないだろうか。
結婚に拘らなくていい、パートナーがほしい。
それは「誰かと連帯して生きる」という都の価値観とともにしっくりくる。
でも。帯には「共感度100%小説」の謳い文句があるけれど、わたしには100%も共感できなかった。
けれど、様々な意見が飛び交いそうな作品で、そういう意味で現代の本屋大賞として、多くの人に読んでもらいたい作品として、本当に素晴らしい作品だと思う。
女性作家ならではの視点も多く取り入れられている。
遅れる生理の不安や、生理中の苦痛。
30代女性の独特の心の機微を、とても分かりやすい言葉で伝えてくれる。
初めてのことに対する不安。
自分に向けられる悪意ある言葉や態度。
聞こえなかったふりなんて、見ないふりなんてできない。
“割り切るとか、諦めるとか、飲み込むとか。”
そこに飛び込む勇気が、わたしにはない。
大人ぶったって、結局は怖がりの臆病者。
変わることが、誰かに変えられることが、多少なりとも我慢を強いられることが、怖くて、嫌で仕方ない。
当然もらえると思っている実家を、家族に売られたら。実家のバランスが変わったら。あっという間に実家に帰る選択肢だって生まれるかもしれない。
嫌で嫌で仕方ない正社員に、ならないといけないかもしれない。
「自転しながら公転する」
人生って、自転だけしてるわけじゃない。
どこかで選択を迫られたり、周りの人の変化によって大きく変わる。
思い通りになんていくわけがない。思い通りにいってそうな人に対する羨望も、過去からは想像もできないほど壮絶な人生を送ることになった人への憐憫も。彼らだって、自転だけじゃない。公転だけでもない。
自転しながら、公転してるんだ。-
sinsekaiさん
こんにちは!
こちらへのコメント、ありがとうございます!
わたしももう少し時間おこうと思ってたんですが、...sinsekaiさん
こんにちは!
こちらへのコメント、ありがとうございます!
わたしももう少し時間おこうと思ってたんですが、ほむほむ読んだら一気にいろんな作品読める気分になって手に取りました。
お前じゃなきゃだめなんだ
角田さんですね?さすが純粋恋愛の会会員ですね!
なんだか最後の方はほんとに拍子抜けでした…だって、え?絶対この先も苦しくないですか?
かく言うわたしもいつもダメな男にばかりつかまって苦しい方にばかりいっているので気持ちはわかります。だから、わかりつつもその一歩を踏み出せた都に嫉妬してるのかもしれないです。一方で応援する気持ちもありますが。苦しい方にばかりいく自分と重ねて、否定してほしかったのかもしれません。
もちろんまた遊びに行きますよー^^
ああ…プンプンのことは考えないようにしていたのに(笑)2021/06/06 -
naoさん、この先のプンプンは死屍累々の沼地を超え、魑魅魍魎が跳梁跋扈する森を抜ける覚悟があればお読みください…
特級呪物の類death笑
...naoさん、この先のプンプンは死屍累々の沼地を超え、魑魅魍魎が跳梁跋扈する森を抜ける覚悟があればお読みください…
特級呪物の類death笑
少し脅し過ぎました2021/06/06 -
sinsekaiさん
四字熟語で迫りすぎです(笑)
でもそろそろせっかく読んできたものが飛んでしまいそうなので、本格的に読まないとですね…...sinsekaiさん
四字熟語で迫りすぎです(笑)
でもそろそろせっかく読んできたものが飛んでしまいそうなので、本格的に読まないとですね…
いや~
怖いなー怖なー…2021/06/06
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平凡な女性の結婚適齢期の様子を細かくリアルに描いた作品。
驚きもなければあまり面白さもないですがとにかくリアルすぎます。
少しでも結婚についてのヒントが書いてあれば!
と期待しましたがなんの参考にもならない程現実的でした(笑)
主人公の都はダラダラしているように思えるけれど、
何があっても仕事に行って、少ないお給料でやりくりして、結婚相手に悩んで、女子会で愚痴って。
独身女性ってこんなかんじだろうし、この複雑な世の中で頑張って生き抜いてる方だと思いました。
まさに結婚適齢期と言われる20代半ばの私には
結婚についての都の悩みが痛いほど分かりました。涙
結婚は宇宙旅行レベルで未知と感じている都。共感すぎる。
自分の条件やプランがあっても結局は苦労するかもと思いつつ好きな人と結婚してしまうものなんでしょうか。
結婚はしてみないと分からないってとこが究極の結論で怖いです。。。
昭和の凝り固まった古い考え方、と言われてたけど。
でもそれって古い考え方なんじゃなくて、
子どもという立場では不都合な親の意見なだけで
その子どもも親になったら理解するのではないかなと。
そこに若干の昭和やら平成やらの時代の価値観が含まれていて。
そして20代の私もいつか平成の凝り固まった古い考え方と言われる日がくるのかもしれません。
古い考えという言葉を使えるほど洗練された人間なのかと疑問を抱いてしまう嫌なワードに感じます。
ネタバレになってしまいますが。
親をウザがったり恋愛や仕事に悩んでいた都が
次は親になり娘に客観的に見られている部分に
必ず人間はステップを踏んで老いていくのだと感じました。
結婚や家族の在り方は永遠のテーマかもしれないです。
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SHIORIさん、イイねとフォローをありがとうございます!
私も本作を読んでレビューを残していますが、20代半ばでお年頃のSHIORIさん...SHIORIさん、イイねとフォローをありがとうございます!
私も本作を読んでレビューを残していますが、20代半ばでお年頃のSHIORIさんの感想を興味深く読みました。
今後ともよろしくお願いしますね。
2023/01/15
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■感想
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結末から始まるので、オチを意識しながら話は進んでいきますが、なかなか夢中にさせてくれる作品でした。
この夢中になる感じは「なんだろうな〜」と考えてましたが、「もどかしさ」が常に心に残るからだと気がつきました。
まったく共感できない主人公の都や、まぁ、いるであろうけど少数に分類される人達。そんな人たちに嫌気を感じながらも、思い通りに物事が進まない都の気持ちが伝わってきて、ついつい夢中になってました。
とにかく、「泣きすぎだろっ」とか、「そんなことぐらい知っとけよ」とか、まぁ、何度も頭の中に都を否定する言葉がでてきましたが、なんでこんなに夢中に読んでるのか不思議でした…
ほんと、キャラにここまで惹かれないのに、話にのめり込むことはほとんどないので、新鮮な感じでした。
幸せとは、自分がやりたいことをできていることなんですかね。生き方や、幸せを考えさせられる作品でもありました。
まったく別の感想で、身近な土地が話に出てくると、ちょっとうれしくなりますよね。
柏が出てくるんですが、住んでいる場所の隣の市なので、とてもイメージしやすくて、すごいリアルな感じでした。筑波山も登ったことある山なので、筑波山の登場でも、ちょっとうれしくなってました。
気になる点としては、次の行が別シーンになることがあり、その場所が変わるところとか、時間軸が急に変わるところに、若干の読みにくさを感じました。また、語り手が、そこにいない第三者になることがちょいちょいあって、誰の言葉?と感じることもあり、読みにくさを感じました。
まぁ、それでも、とてもよい作品でした。
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■あらすじ
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茨城県のアウトレットで洋服を扱う店で働く都。
面白い出会い方で貫一と出会い、付き合うようになる。
そんな2人の幸せを追い求める物語。
変なやつばっかりでてきます。
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■主な登場人物
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与野都 みやこ、ミャー、すぐ泣く、胸大きい、洋品店勤務
桃枝 母、鬱
父 昭和の親父、癌
ニャン ミャンマー
杏奈 友達
絵里 友達
長谷部 本社の人、後に退職
そよか 後輩
羽島貫一 かんいち、寿司、中卒
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前々から気になっていた山本文緒さんを初読
茨城が舞台なので★5!
嘘です
ちゃんと面白かったです
手に取った瞬間「厚っ」って思いました
こういうのってだいたい300ページくらいなんじゃないの?って思いました
なんだそのこういうのって、ものすごい偏見
もちろん意味のある厚さでした
それにしてもプロローグが秀逸でした
このプロローグのおかげで物語の間中ずっとチクチクするんですよね
はっきりと騙そうとしてるわけじゃなく微妙な違和感
この違和感が主人公にまとわりつくはっきりと説明できない人生への「不安」とあいまって読者にも「不安」を与え続けるんです
ぐるぐる回るわけです
そして答え合わせのエピローグでなんか晴れるんです
「不安」はきれいサッパリなくなったわけじゃないけど、なんかうまく付き合ってきたんだねって
快晴ってわけじゃなくて、時々曇ったり、視界の端には雨雲が見えたりするような結末だけど
うんまぁそのくらいの幸せのほうがなんだかしっくりくるもんだ -
初山本文緒さん。
山本さんの小説を、なぜか食わず嫌いしていて、本屋大賞ノミネート作品だったから「しゃーねーな」という感じで、図書館予約をした。
図書館から用意できた連絡が来ても、心躍らずあやうく流してしまうところだった。
ところが、読み始めるとすぐ引き込まれた。素晴らしい小説だ。
タイトルが響く。
年齢を重ねれば重ねるほど響く。
幼い頃は、誰かがコントロールしてくれる、ある程度成長すると、自分がコントロールできる、あるいはしなきゃ、と思ってきた人生。
だけど人生も中盤に差しかかると、結局のところ、自分の人生は誰もコントロールしてくれないし、自分でもできないことが身に染みてわかる。
環境に振り回されながら、自分でできることをして生活を維持していくしかない。そして、期せずして、元いた場所からはかけ離れた場所にいることをいつしか自覚する…
流されていく人生。
でも、それを楽しむしかないんだなぁ…と。
「別に幸せになろうとしなくていいのよ。幸せにならなきゃって思い詰めると、ちょっとの不幸が許せなくなる。少しくらい不幸でいい。思い通りにはならないものよ」(P477)
もっとも響いた言葉。「少しくらい」がポイントだと思う。絶望しない程度の不幸。自分が不幸な分、誰かが幸せなのかも知れないし、それを認めてやればいいよな、と。
この小説は、主にパートナー探しについて描かれている。
人生の「自転公転」に気づかせるような重い恋愛の話。でも、478ページを一気に読ませる。さすがだ。
プロローグがけっこうスパイスになっている。
うまいなぁ、と思った。
(2021年10月18日追記)
山本文緒さんが10月13日、膵臓がんにより逝去されたとのこと。とても残念だ。
ご冥福をお祈りします。-
たけさん
やはりあのセリフがこの作品の全てを物語っていますよね!
うーん、わたしはたけさんのレビューが筋違いだなんて思わなかったです。
...たけさん
やはりあのセリフがこの作品の全てを物語っていますよね!
うーん、わたしはたけさんのレビューが筋違いだなんて思わなかったです。
自転公転してたら幸せの答えなんて自ずと変わる。本当にそうですよね。自転公転しているのに、いつまでも定点で理想としていた幸せにこだわっていたら、今の幸せ、目の前にある幸せに気がつくことができません。
素敵な作品でした!2021/08/13 -
naonaonao16gさん。
素敵な作品でした。
僕の感想文の中では触れそびれましたが、naonaonao16gさんのレビューでも言及...naonaonao16gさん。
素敵な作品でした。
僕の感想文の中では触れそびれましたが、naonaonao16gさんのレビューでも言及している「誰かと連帯して生きる」という価値観。これも目を見開かされました。
信頼できる人と連帯できること。
これこそ「幸せ」の本質なのかな、と思いました。2021/08/14 -
たけさん
「連帯」という言葉が印象的でした、とても。
結構ジェンダーとかで熱くなっちゃうタイプだからかもしれませんが、その言葉に平等とか対...たけさん
「連帯」という言葉が印象的でした、とても。
結構ジェンダーとかで熱くなっちゃうタイプだからかもしれませんが、その言葉に平等とか対等性を感じたというか。
「幸せ」の本質。まだまだ見つめて追及したいです。2021/08/14
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こんにちは!
またまた素敵なレビューありがとうございます!!
この作品、わたしも気になっており、次に読もうと先日購入。しかし...
こんにちは!
またまた素敵なレビューありがとうございます!!
この作品、わたしも気になっており、次に読もうと先日購入。しかし次に読むのは「薄闇シルエット」になりそうです(笑)
本屋大賞ノミネートがきっかけで気になったのですが、かなりの分厚さでびっくりしました!
レビュー拝見しさらにまた読みたくなりましたー!ありがとうございます!
とても心に響いた作品でした。
とても心に響いた作品でした。