- Amazon.co.jp ・本 (558ページ)
- / ISBN・EAN: 9784103318286
作品紹介・あらすじ
エノケンから志村けんまで――。圧倒的影響力を持つ伝説の名著、愈々完結! 芸のみならず、喜劇人の人間性にまで肉薄し、〈笑い〉を批評の対象に高めた初版刊行から半世紀。加筆・改稿の上、BIG3・志村けん・大泉洋までに言及した新稿と著者インタビューを収録。戦前のロッパ、エノケンから森繁、渥美、植木、伊東四朗らを経て現在に至る系譜を明らかにする。喜劇を見続けて80余年、国宝級集大成がここに!
感想・レビュー・書評
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エノケン、ロッパから森繁久彌、植木等、藤山寛美、渥美清、コント55号、伊東四朗まで、同時代を生きた喜劇人たちの生きざまを描いたルポルタージュ。作者は小説家だが、結局この作品が残るのではないか。喜劇人たちに寄り添いながら、あたたかく時に冷静に見つめるまなざしに説得力がある。足を切り落としながらこれで笑わせてやると意気込むエノケン、最後まで座長として孤軍奮闘した藤山寛美など、喜劇人たちのすさまじいまでの業に圧倒された。
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文庫の「世界の喜劇人」「日本の喜劇人」は若い頃に読んだ。10年前に函入りの本書も読んでいる。
本書を読むと、大幅に書き直しているのが判る。小林信彦、やっぱり凄いと思うが、後半に前半と同じ話が出てくるので、アレッと思う処はある。後半の「日本の喜劇人2」は喜劇人3人にスポットを当てた話なので仕方がないけれど。
反面、渥美清のアパートで夜を徹してギャグについて語り明かしたことも書いてない。ハナ肇に問い詰められて、映画のことを誉めたら、あとで渥美から「どういうことだ」と怒られたエピソードもない。
今回読んでみて、由利徹についての言及が多いのが意外だった。映画の主役も劇団の座長も望まず、むしろ下降を志向としていく在り方。
(引用)「ハレム・ノクターン」に合わせて身をくねらせるのも。由利徹が一番うまい。
てなもんやで藤田まこと「お前、由利徹だな」由利徹「いえ、違います。わたし、あんなものじゃありません」
藤山寛美が舞台で弟子の芝居に対し「お前、由利徹と違うか。」
前半の最後に書き漏らしの部分を記している。正直、要らないような気もする。
ドリフターズについて書いてないのは、小林さんが日テレの仕事をしていたからと語る。つまり、つい誤解してしまうけど、この本はかなりな個人史なんだ。
ビックスリーについての言及は特に不要な部分。小林さんの批評がない。以前の本にはタモリはトニー谷同様、首から下の動きがダメと記していたのに。
植木等の話は、ナベプロ盛衰記としても読めた。そして藤山寛美のマクベスな人生。
伊東四朗について、最後の喜劇人としている。つまり、ちょっとした身振りだけで面白い人が喜劇人なんだろう。
幼稚園のころ、日曜のテレビはシャボン玉ホリデー、てなもんや三度笠を見ていた。てんぷくトリオがてなもんやに出ていたのも覚えている。
父母は昭和ヒトケタであるが、森繫の登場は画期的だったよと語る。僕はテレビで社長漫遊記シリーズを見たぐらい。
父はこんなことも言っていた。「貴方だけを~」と始まったとき、ああ、植木も終わったなと思ったら、「テナコト言われて、ソノ気になって」と歌が変わったときはひっくり返りそうになったと。
個人的には懐かしいような、もう二度と会えない記憶が書き残された本かもしれない。しかし、一人一人に自分の喜劇人との個人史があるようにも思う。 -
新潮文庫版『日本の喜劇人』を愛読した。タイトルが似通っているので姉妹本と思われがちな『世界の喜劇人』とはかけ離れた内容である。著者はここに描かれた多くの喜劇人の舞台を観劇し、ご当人の謦咳に接している。詳細な日記とメモと切り抜きをもとにした貴重な証言と言えよう。
著者一流のドライな視点で、喜劇人の生態が剔抉される。初版が出た頃には評価が定まっていない喜劇人もいた中で、その指摘や評言がどれほど正しかったかは、今でこそ判る。
決定版と銘打った本書は、これまで扱いが軽かったドリフターズ、なかんずく志村けんについて補筆され、大泉洋にも言及している。
著者が喜劇人に向ける眼差しは、ドライながらも温かい。そこが本書の読後感を爽やかにしてくれる。
なお、「日本の喜劇人2」第3部で採り上げられた伊東四朗が、ラジオの冠番組「親父・熱愛」で、その感謝感激ぶりを語っていた。 -
著者の記憶と記録に頼って書かれているので、完全な資料とは言えない。しかし、エノケンをはじめ、歴史上の人物といってもよいそうそうたる喜劇人に実際に接した著者の評価に基づく喜劇人の系譜がよくわかる。その人物評はなかなか興味深い。一方、才能とか天才とかといった分析がなされており、各喜劇人の芸のための努力や苦労といった面はほとんど論じられていない。これは、著者のドライ好みの表れなのだろうが、この点はもう少し知りたかった。
著者は、現代の「芸人」とか「タレント」に対する批判的評価は一切していない(むしろ好意的でさえある)。しかし、やはり本書の対象たる「喜劇人」と今の「芸人」・「タレント」とは根本的に全く異なることがよく伝わってくる。われわれは、テレビを経て今やSNSで芸人・タレントを多く観て楽しんでいるが、これが実はなんと不幸なことか!そのことがよくわかる一冊。 -
演芸界の戦前から戦後、今に至る流れが、小林信彦氏の緻密なメモにより再現されている。豊かな人脈から、森繁久彌の影響や植木均渥美清萩本欽一らの人間性をあぶりだしている。リアルタイムで見ていない森繁や植木、渥美らの初期の映画DVDを探してみようと思う。
最近の志村けん大泉洋まで拾っている。作者は高齢なので、これで決定版と終止符を打っている。まだまだ追い続けてほしいものだ。