21世紀の世界文学30冊を読む

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (244ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103323211

作品紹介・あらすじ

ポール・オースター、トマス・ピンチョンからミランダ・ジュライ、ジュノ・ディアス、そしてアフリカ、中国、ラテンアメリカ、旧ユーゴスラビアの作家まで。未訳の同時代小説をいち早く読み、紹介してきた著者による、明快にして刺激的な世界文学ガイド決定版。ジュノ・ディアスの未邦訳短篇「プラの信条」を特別収録。

感想・レビュー・書評

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  • 「世界文学」という言葉を最初に言ったのはゲーテだそうで。
    都甲さんの言われる世界文学とは、どんな作品?
    本書は「新潮」の「生き延びるためのアメリカ文学」という連載コラムをまとめたもの。
    自身がアメリカ文学の翻訳者のため、紹介されるのもそちらの作品。
    決して「世界中の文学」という意味合いではない。
    非常に刺激的で情熱にあふれた海外文学の案内書だ。

    執筆時には日本語訳のない本を選んだとされる。
    まだ解釈や評価も定まっていない中、自分なりの読みを追求したものだ。
    引用の仕方がとてもうまく、解説も明快でエキサイティング。
    「世界文学」と呼ばれるわけを、読みながらどんどん学ぶことになる。
    自国という枠を超え言語の枠も超えて、逢ったこともないひとを想像してみる。
    外国を仰ぎ見ず、見下さず、地球の裏側にも自分と似たひとがいると思うこと。
    目の前の現実だけが唯一ではない。
    逢ったことのないひとたちもみんな、何かと闘っている。

    筆者のコラムもあり、アメリカの文芸界エピソードが語られて面白い。
    作家は大抵大学の教授で、作家志望の学生たちに創作科のクラスで小説の書き方を教えるそうだ。天才助成金の話も興味深い。色々とスケール感の違いを認識する。

    2012年刊行のため、その後出版された本もある。
    時折タイムラインに上がる作品名も。
    しかし翻訳されていない作品も多い。
    作家さんも未知の方が多く、目次を見ると挫けそうになる。

    実を言うと、一度挫けた。
    この本を購入したのは5,6年前だったか。
    将来は海外文学を読んで過ごすという目標のため、先を見越したつもりで手に入れたのだ。
    ひと通り眺めてこれはダメだと思った。でも手元に置いておくことにした。
    愉しく読める日がきっと来ると、妙な確信があった。
    そして、その通りになった。
    もうどれほど喜んでいるか、誰かに言いたくてたまらない。
    ここ数年で読んできた本が、私の中でベースを築いてくれたのだ。

    「印象に残らない」「つまらない」「興味がもてない」
    そんなことがあったとしても、後々どんな効力を発揮するかは分からないものだ。
    何がどこで、どんな具合に、何に効くのか効かないのか本当に分かりはしない。
    大切なのは、今の自分から出来るだけ遠くへ手を伸ばすこと。
    いつかは近くしか届かなくなるのだから、届くうちはうんと手を伸ばそう。
    それが、今回学んだこと。

    なぜ海外文学かと聞かれるかもしれない。
    たぶん私は自分を鼓舞し続けたいからだろう。
    何かに新鮮に驚きたい。未知のことがらに、眼を瞠りたい。
    「本泥棒」や「掃除婦のための手引書」のような傑作に出会っていきたい。
    ということで、本書で興味をもった本を少々載せてみる。

    「オスカー・ワオの短く凄まじい人生」ジュノ・ディアス
    「黄金の少年・エメラルドの少女」イーリン・ユー
    「LAヴァイス」トマス・ピンチョン
    「すばらしい墜落」ハ・ジン
    「サークルKサイクルズ」カレン・テイ・ヤマシタ
    「安酒の小瓶 ロサンゼルスを走るタクシードライバーの話」ダン・ファンテ

    現代小説の前に古典も読まないとね。ああ、早くお婆ちゃんになりたい。。

  • 出版予告ですかさず「面白くないわけがない!」と思い、発売当日に書店に買いに行った1冊。シックで、なかなかディテールに凝った装丁。

    最近の既訳と、未訳(近刊含む)の現代アメリカ文学を紹介したブックガイド。「21世紀になって10年ちょっとなのに、それでは世界文学を選ぶレンジとして、狭くない?」と思ったのですが、それは単なる私の不勉強。目次を見て、選ばれている作品と作家の、エッジの立ちぶりに感動した。おそらく、20世紀の100年よりは猛烈に速いスピードと高いレベルで、面白さと視点が広がっているような気がするラインナップ。

    それに、「はじめに」でノックアウトされた。なぜ海外文学好きが海外文学に惹かれるのか、そこがクリアに説明されている。ラインナップに興味がない場合には、極端な話、ここだけ読んで人に譲ってもいいと思う。外文好きが「そうそう、そうなのよ!」と思わず握手を求めたくなるポイント満載だし、「国内で小説がこんなにたくさん出てるのに、なんで海外小説が好きなの?」と、外文好きを不思議な生命体だと思っている本好きさんにも、ちょっとはわかっていただけると思う。

    都甲さんのご専門がアメリカ文学なので、やはりそこが中心になりつつ、ドメスティックなアメリカ文学というよりは、ルーツを複数持った人間が、母語ではない英語を選んであえて書いた小説が多いという印象を受けた。だから、ひとりが書いていても、視点や感性がひとつではないし、必然的に、使われる英語もアメリカ英語のスタイルとは若干ずれてくる。単一でない視点と感性・言葉が鋭く世界を照らし出し、日本では「なかったこと」としてスルーされていくものが、小説の形を借りて鋭く描かれている。こんな小説のかずかずを知ってしまうと、なんだか、日本のブンガクがちっちゃいように思えてしまう(もちろん、日本にも素晴らしい小説があまたあるのは承知しています、念のため)。

    「死後○年以上経った作家の本しか読まない」というクリーシェ(出典はたしか村上春樹)を信条に読書をしていらっしゃるかたをときどき見かけるが、それはとてももったいないことじゃないんだろうかと、この本を読んで、あらためて思う。新しい書き手は今までにない新しい作風を生み出そうとし、ベテランは今までの評価に甘んじず、それを軽々と振り切ろうとする。そういった流れを無視し、いたずらに流れる時間の淘汰を当てにするだけでは、本好き人生をいくらか損しているような気がいたしまする。

    紹介される本の、エキサイティングで明晰な解説にぞくぞくしながら読了しました。おまけもあとがきも素敵だし、現代外文、面白くてたまらん!の1冊です。ただ、この本を読むと、ペーパーバックを買っては途中で挫折する、自分の残念な歴史がちょいちょい発掘されるのでイタい。フィリップ・ロスの『アメリカン・パストラル』、ピュリッツァー賞を取ったときに即買いしたのに…1章を割いて紹介されてる某作品、2ページで挫折して手元にある…などなど…は内緒。

    • 花鳥風月さん
      Pipo_DingDongさん こんにちは
      素敵な文章、いつも楽しみに拝見しております。思い切ってコメントを…

      この本の序文、読んでみたく...
      Pipo_DingDongさん こんにちは
      素敵な文章、いつも楽しみに拝見しております。思い切ってコメントを…

      この本の序文、読んでみたくなりました。実は書店にて取り上げられている本のラインナップはチラ見したのですが、アウェー感が半端なく(笑)あえなく撤退しました。

      私は現代に近いほうの海外文学は「やさしくわかる文学史」みたいなガイドがないと迷子になりそうでこわいヘタレなのですが、これは案内人としては素晴らしそうですね。でも書評自体はいろいろ鍛えてから読んだ方がもっと楽しめる?んでしょうかね。すぐのチャレンジは迷うところですが、いつか読みたいです。

      『海の向こうに本を届ける』などもPipo_DingDongさんのレビューで気になって手に取った一冊でした。今後も素敵なレビューを期待しています。
      2012/06/08
    • Pipo@ひねもす縁側さん
      花鳥風月さん:

      こんにちは。お運びありがとうございます。私も明晰な感想、いつも拝見しております。

      この本で取り上げられている作家...
      花鳥風月さん:

      こんにちは。お運びありがとうございます。私も明晰な感想、いつも拝見しております。

      この本で取り上げられている作家さんたちは、私にとっても新刊情報で知っていながらアウェー感満載なもので、そこは少々不安でしたが、都甲さんも読者のアウェー感を十分承知された上でブックガイドに仕立てられているので、思いのほか読みやすいです。お時間があれば、ぜひ。

      『海の―』は、ガッツと軽やかさにあふれた、素敵な本でしたね。私もときどき読み返します。

      ヘンなものばかり手に取り、むちゃくちゃに感想を書き散らしていますが、よろしければまたのぞいてくださいませ。
      2012/06/08
  • 「未訳の同時代小説をいち早く読み、紹介してきた著者による、明快にして刺激的な世界文学ガイド決定版」
    素晴しいPRですね。
    30人?30作品どちらにせよ、翻訳されていない作品だと、待ち続けなきゃならないのが難点。。。

    国書刊行会から出ていた「世界×現在×文学―作家ファイル」が、そうでした。

  • 「新潮」連載当時に未訳だった21世紀の世界文学のガイドブック。現在、(きちんと数えてないけど)3分の1くらいは邦訳されている。文芸誌には縁遠いが、こんな刺激的な連載があるのだなといまになって感心。
    最初に紹介されるジュノ・ディアス『オスカー・ワオの短く凄まじい人生』については、いきなり、「断言しよう。本書は、読まずに死んだら人生で確実に損すると言えるほどの傑作である」と斬りかかってくる。これを無視するのはかなりの勇気が必要だ。(実際、積読中なので余計にそう思う)
    ルーツが英語圏以外の作家が多く、現在の文学地図を少なからず反映しているように見える。インタビューのネタ元がきちんと明記されているのも有り難い。続編も買っちゃいそう。

  • なかなか斬新な趣旨で、未訳の英語文学に関する書評集。本作出版後、日本語で読めるようになった作品も少なからず存在するという事実は、いかに的確な選択がなされているかということの証左か。実際、読み進めている間も、翻訳がないことが凄く残念に思われた作品も散見された。また読みたい作品がわんさか出てきて、嬉しい限り。最後に収録されたディアスの短編小説も秀逸な一品でした。

  • 文学
    翻訳

  • 読書ネタ広がるの嬉しい・・・!都甲さんが楽しそうに本を紹介している感じが伝わってくるし、最後にジュノ・ディアスの短編まで載っていて本の構成が変わるのも楽しかった。でも文学の世界も色々な新しい人出てきてるんだなぁ・・・。

  • 名作オスカー・ワオの翻訳者による文学ガイド。外国文学を(少しでも、たくさんでも)読む人なら、ぜひとも手元においておきたい。いま何が面白いのか知り、これから読むべき本が沢山あると知り、幸せになること請け合い。コラムも面白い!

  • 世界の裏側にも、自分たちと同じ悩みを持った人がいっぱいいる。

  • おもしろかった。1冊につき5ページくらいで紹介されてて、読みたい本がかなり増えた。しばらくは本を探すのに苦労しなくて済みそうだ。アメリカの文化に興味あるし、全部読めた時には結構詳しくなってそうで楽しみ。

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著者プロフィール

翻訳家、批評家、アメリカ文学者。早稲田大学文学学術院教授。 一九六九年、福岡県に生まれる。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。
著書に、『偽アメリカ文学の誕生』(水声社)、『 世紀の世界文学 を 読む』(新潮社)、訳書に、C・ブコウスキー『勝手に生きろ!』(河出文 庫)、ジュノ・ディアス『オスカー・ワオの短く凄まじい人生』、同『こうし てお前は彼女にフラれる』、ドン・デリーロ『天使エスメラルダ』(共訳、い ずれも新潮社)など多数がある。

「2014年 『狂喜の読み屋』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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