森をひらいて

著者 :
  • 新潮社
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本棚登録 : 68
感想 : 10
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  • Amazon.co.jp ・本 (181ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103342137

作品紹介・あらすじ

友よ、今こそ連帯しよう。襲い来る戦火に、私たちを害う全てに抗うために。手を繫ごう。この戦争を逃れて、私たちは生きる。生き延びる――。外界と隔絶された学園で寮生活を送る少女たちの間で流行する、「森を作る」という遊び。誰もが森を持つ中、揺は一人だけ森を作ることができない。思い悩む揺だったが、激化する戦争の影が学園にも忍び寄る。自らの生きる道を求めて、揺はある賭けに出る……。

感想・レビュー・書評

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  • 女であること
    少女であること
    女性であること
    無垢と成熟を併せ持つそれを官能と呼べばいいのか美と呼べばいいのか

    蝶のように軽やかにそれは羽ばたきながら
    重く青々と茂るそれは森

    何かの対象として見られることを拒み
    価値と品定めをされることを嫌悪する

    それらを自らの手で掲げることはできないのか
    それらを自らの存在だけで証明することはできないのか

    誰かの 何かの対象とならないままに

    道具でもなく 商品でもなく

    人として そこにあることが どうして許されないのだろう

    その怒りを湛えた湖は
    もうずっと前から 最初から 息づいていたのだろう

    少女が少女と手を取る意味
    男性がいながら不在の意味

    それらが意味することは きっとその抗いだったのだ

    官能と欲望 迷宮と美貌の奥深くを分け入るように
    嗚呼、それは、積み上げてきた言葉の頂に聳えた 森だったのだ

  • 自分の好みにピタっときたおはなしでした!

    森の解釈が自分の中で読み進めるごとに揺れていったのですが、揺の怒りが表面化したシーンで、自分の中でストンと落ちました。自分は怒っていいのだろうかっていう気持ちはすごく共感したし、怒りだけじゃなく感情ってすぐには身体に馴染まないというか、一種の防衛で自分を入れ物にして自分を眺めてるかんじ。でも自分の気持ちは自分で決めていいんだよね。わたしを私の中に落とし込んで、感情ジェットコースターになったりしつつ、森をつくりながら私は私の中にいたのね、って気づく。読みながらきっと私が森をつくるとしたら、ごちゃごちゃしてるだろうなあと思いました。ハウルの部屋みたいなかんじになりそう…

  • 久々に文学を味わった気分。

    臨時校舎──少女たちは戦火を逃れるため、疎開のようなかたちでそこに集められている。生活に不自由はないが、外の世界からは隔絶され、恋人とも会えない。
    「あなたたちは幸せで、恵まれているのだと、まずは自覚してください。」
    「この状況下にもかかわらず、静かな安全地帯で、何不自由なく学びに打ち込むことができるなんて、通常なら考えられないことです。」
    やがて、生徒たちのあいだに「森をひらく」という遊びが流行り始める。むせ返るような、青々とした森。文字通りの森。自分だけの空間に、彼女たちは思い思いの森をひらく。森は大人たちには認識できない。

    現実の私たちは、戦禍に見舞われてはいない。でも、国家や会社、学校や大小のグループといった、制度や支配の中を生きている。私たちは安全や安心の代償として、みずからの自由を差し出す。不自由を呪いながらも、そこそこに快適な日常を維持するために、支配に甘んじて日々を送っている。
    支配といっても、自由がないわけではない。デスクトップを飾る推しの写真。仕事帰りの電車でプレイするスマホゲーム。週末限定のネイル。学校を出てから短くするスカート。ままならない現実の中で、そこだけは自由に遊ぶことのできる庭。それを作者は物理的な森として描いている。

    ネット上のレビューを読んでいて、「結婚(マリアージュ)が何なのかわからない」という意見を多く見た。でもこれは文学なので、自由に想像すればいいと思う。たとえば上に書いた推しの壁紙のデスクトップだったら、偶然それを見た同僚に「じつは私も好きなんです。今度一緒にライブ行きませんか?」と誘われたりとか。これはひとつの結婚と言っていいのではないだろうか。

  • 戦争のため疎開させられている少女たち.彼女たちは条件を叶えると自分だけの森を作ることができるという.これは妄想か逃避か超能力的なファンタジーか.そして,男たちによって計画されたトロフィーワイフのような未来への諦めと抵抗.
    また物語が日記との二重構造になっていて,はじめ気付かずに読んでいて混乱させられた.が手法としては面白く,ディストピア的な未来に抗う少女たちの密かな戦いがユニークだ.

  • 描写や世界観はとても好き。違和感や不快感と手を取り合って闘う女の子とそれを見つめ助ける女の人たち。ただ、それを味わって読んでいる間はいいのだけど、何かが足りなく物足りなく感じたのは私が現実が好きだからかもしれない。それから、これからどうするのか、が知りたいのです。

  • 戦争から隔離された学園で寮生活を送る少女たちは「森を作る」遊びに没頭する。
    少女たちのキラキラした生命力と、森が広がっていく様子の描写がとにかく幻想的で美しくてすごかった…
    装丁もすごくいい。

  • 外界の戦争から隔絶され臨時校舎で時を過ごす美しい少女たち
    少女たちの間で流行する「森を作る」遊び

    官能的で幻想的な少女たちの世界
    私たちは蝶のように舞い戦うの

  • ウェデキントの『ミネハハ』のような作品。あるいは『エコール』か。
    森をつくり、ひらかれていく描写に思わず息をのむ。当然だろう。だってそれが少女たちのアイデンティティなのだから。彼女たちが森へと旅立つ瞬間に立ち会えてよかった。
    蝶は森を目指す。2000キロ以上の果てしない旅路へ。

  • 面白いわけじゃないのになんとなく読んでしまい、残る。そう、すごく残るの。センスがいいんだろうなとデビュー作からなんとなく読み続けてる作家さん。
    今回もすごく残る作品だった。余韻も。

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