道化むさぼる揚羽の夢の

著者 :
  • 新潮社
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感想 : 9
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  • Amazon.co.jp ・本 (198ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103541714

作品紹介・あらすじ

罰でないなら、この暮らしは一体何なのか――。各紙誌絶賛、新鋭が放つディストピア小説。広大な地下工場で蛹に拘束され、羽化=自由を夢見る男。異様な労働、模造の蝶、監督官による殴打、地中の街。理不尽な状況から逃れるため、命懸けで道化を演じるが――。不条理な世界で人間に本当に必要なものは何か。そこで人はどう生き延びるのか。注目の新人作家が圧倒的力量で放つ、コロナ禍の現実と響き合う傑作長篇。

感想・レビュー・書評

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  • 「蛹の形の拘束具に閉じ込められ、天野正一は夢を見るばかりと成り果てた」という衝撃的な一文で始まる幻想不条理小説。幻想も不条理も、いつもの金子薫だけれど、今作は今までの作品の中でもいちばん読むのがしんどかった。シンプルに苦痛と暴力に満ちている世界の話だから。

    蛹は比喩ではなくアイアンメイデンめいた拷問器具の一種。閉じ込められた機械工たちはその中で自分の汚物にまみれ、ときおり散布されるスプリンクラーの雨だけをたよりに生き延びる。一定期間この拷問=洗脳に耐えたものだけが蛹から出されて羽化し、蝶のような制服を与えられて、地下の工場で金属の蝶を作る機械工として働かされることになる。

    しかしその仕事中は、監督官たちに理由もなく棒で殴られる恐怖に怯えなければならない。やっと蛹の拷問から解放されても新しい試練が待っている。天野正一は現実逃避から蝶ではなく芋虫を作るようになり、自らも芋虫として退化していくが、監督官はそれを許さず、彼は再び蛹の中に閉じ込められてしまう。

    二度目の蛹の中で、彼はこの拷問と暴力の世界から逃れるために、アルレッキーノという道化の人格を自らの中に生み出す。道化は監督官や機械工たちを笑わせ、呆れさせることで暴力から逃れることに成功、次第に彼を慕い模倣したがる仲間たちが現れ、道化の一座は芝居小屋を造りあげるにいたる。

    成功者となった天野は、ある日突然役人たちに連れられて、別の階層へ。そこは機械工たちが作らされていた人工の蝶や植物で彩られた世界。天野はそこで蝶の分布図を調査する仕事を与えられ、暴力をふるわれることもなく、ようやく平穏な毎日を送れるようになるが、彼の仕事は機械の蝶の生死を判別するという不毛なもの。天野はまたしても疲弊し、再びアルレッキーノと対話を始めるが…。

    なんというか、どこまでいっても地獄。ひとつの地獄をなんとか抜け出しても、また新しい種類の地獄が待っている。ややマシな地獄に行っても、やはりそれはそれで精神的な拷問のような仕事。これが現実の寓意だとしたらなんともやりきれない…。蝶として羽ばたくには死ぬしかないのか。救いがなかった…。

  • 『発狂せずにはいられない』

    古本屋で直感で購入し満足と後悔が同時に
    やってきた本。
    いわゆるディストピア小説というもので、
    あらゆる方向から衝撃というかなんというかの
    連続。

    小説を読むとその中に入り込むような方は
    多くの場合発狂しそう…。(私はそうでした)
    全くもって現実とリンクしないような話だが、
    隙間からなんとなしに入り込んでくる感覚が
    絶妙に気持ち悪い。

  • 今の状況にめちゃくちゃ合っているようで合っていない
    ただの不思議な話って感じで読んじゃったけど、
    この作品に関してはこの読み方でいいんじゃないかと思うことにする
    意味なんて無くていいらしいから

  • 極限状態から解放された時、通常では考えられない物事に喜びを感じ取り憑かれてしまう。

    洗脳は、この様に行われるのだと分かった。

    それにしても蛹の格好をした拘束から解放された時、蝶になる事を夢見るものなのだろうか。


    人は理不尽な暴力すら肯定してしまう程、自分のしている事に意味があって、存在する事が許されなければ生きて行く事が出来ない。

    自分に価値がなければ、他の生命を食らって生きていく事など出来ない。


    姿形を似せても、造り物と生命ある物とは違う。
    無機質だけに囲まれて生きるのは苦痛だ。

    自分の生命に意味を見いだせなくなった主人公は、躍動する生命を感じながら死を迎える事を望んだ。

    自分は全体から見れば無に等しい存在だけど、少しでも世の役に立っていると実感しながら生きて行きたい。

  • ずっと「何だこの世界は」って思いながら読んで、読了後「何だこの世界は」のまま。
    説明での「コロナ禍」だかを見て自分なりに無理矢理具体抽象化してみると、ロックダウンからのyoutuberとかそう言う感じになるんかなぁ…またはマスク生活か。

    最初のディストピア感は面白かったけどどう解釈していいか難しい…

  • うわぁ…なんだ、気持ち悪いな…
    世紀末っていうか…コロナ禍で見た悪夢とはまさに…

  • 『自由のない檻の中で翔び方を忘れた揚羽蝶』

    金属製の蛹から開放されたと思ったら、金属製の蝶を作らされ、意味もなく棒で叩かれる。そんな理不尽で異様な世界を描いた作品。蚕に変えられ工場で働く少女たちを描いたカレン・ラッセル「お国のために糸を繰り」を彷彿させる世界観。

  • タイトルにひかれ借りたが30ページめで挫折した。文章として機知がない淡々とした描写と主人公が理不尽に殴られる場面に納得いかず。

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著者プロフィール

金子 薫(かねこ・かおる)
1990年、神奈川県生まれ。慶應義塾大学文学部仏文学専攻卒業、同大学院文学研究科仏文学専攻修了。2014年『アルタッドに捧ぐ』で第51回文藝賞を受賞しデビュー。2018年、わたくし、つまりnobody賞受賞。同年、『双子は驢馬に跨がって』で第40回野間文芸新人賞受賞。著書に『鳥打ちも夜更けには』がある。

「2019年 『壺中に天あり獣あり』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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