- Amazon.co.jp ・本 (409ページ)
- / ISBN・EAN: 9784103545217
作品紹介・あらすじ
天才の輝きか役者の業か。芸と女にどっぷり生きた七代目團十郎を描く本格時代小説。江戸歌舞妓の若きスター市川團十郎。名だたる役者に認められ、粋な姐さんを妻にして、絶頂きわめたその時に、お上に睨まれ財産没収、江戸追放。あっという間の奈落の底から、見事復活するが、家族の悲劇を招いてしまう……。悪女にはまり欲に負け、泥にまみれた晩年でも、最期まで人々に愛された波瀾万丈の役者人生を描く傑作。
感想・レビュー・書評
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入り方から面白かった!
それは主人公の七代目 市川團十郎(のちの五代目 市川海老蔵、1791-1859)が「雲上口上」と題して、あの世から現代の我々に向かって挨拶を述べるというもの。コメディタッチで些か拍子抜けするが、読了した上で読み直すと万雷の拍手を天上に送りたくなる。それも感涙混じりに。
話自体は、團十郎の一代記を時代小説仕立てにしたってところ。
口上において、歌舞伎に不案内な方は良いと思った場面だけ拍手してくれれば良いと仰っていたが、自分に関してはそうは行かない!観劇の数に反比例して、好きになってからの年数だけはしっかりと食っている。
本書では合間に解説を挟んでくれているが、それ以外で初耳の箇所があれば一時停止しながら調べ読み進めた。
自分が歌舞伎役者に魅せられる理由の一つが、彼らが「夢と現(うつつ)の間に生きている人」であるから。
芝居の中に気の利いたアドリブや現実世界の出来事を巧みに持ち込んで観客を楽しませる。その逆も然り。現実世界に芝居の台詞や動作を持ち込み、結果その場の雰囲気を彩り豊かに"早替わり"させる。これは梨園という異世界の住人にしか成し得ないこと。「やっぱり惚れるわー」とそれを本書でより深く実感した。
それと著しく対極をなすのは、幕臣 鳥居耀蔵の陰にこもった会話だろう。私欲に走るその姿はもはや、現実世界の"実悪"(悪役の中でもとりわけ悪い役)では?とさえ思えてくる。
なかなかお目にかかれない役者の私生活もそう。前述の通り團十郎やライバルの尾上菊五郎ら役者達の言動は、日常生活でも芝居じみている。(会談中見得を切るように右足を一歩踏み出したり笑)
でもその気風の良さが彼らの魅力。
特に芸風が真逆の團十郎と菊五郎が織りなす息ぴったりの(⁉︎)掛け合いは、見応えたっぷり。それが現実世界でも「芝居みたい」と心では思っているのに、本当に芝居を見ている感覚でそれを見守っちゃっている。
「歌舞伎は人々の心を浄化するためにある」
「つまるところ歌舞伎たぁ胸躍る歌と舞で、この世の人々を楽しませ支えていくことだ」
親しい者の逝去に天保の改革の煽りと、後半にかけては辛い出来事が重なる。がしかし…!
自分は今夏どの納涼歌舞伎にもうかがえず、また猛暑で体調を崩してしまっていたが、気風の良い彼らの生き様が爽快感となって体内を駆け抜け、少なくとも鬱屈は吹き飛ばしてくれた。(今も徐々にだが快方に向かっている)
歌舞伎に不案内でも多少楽しめるが、次こそはもっと知識を会得し出直したい。中途半端な理解度で読むなんざ野暮なことは二度としめぇ!詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
すべて、うまく行ったわけではないが思うところに落ちてよかったね、という感想。五代目團十郎は江戸末期の役者だったのね。知識を得られた感じ?風俗を知れた感じ?もう一歩踏み込んだところが欲しかった。野口卓「大名絵師写楽」のような、芸を生み出す時間がぶわっと膨らんでいくような、時間の溜まりがあればもっと面白かったかも。 80
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七代目市川団十郎(後に五代目市川海老蔵)の波乱の生涯を描く、長編小説。歌舞伎18番等荒事を主に、江戸歌舞伎の隆盛を極める。四代目鶴屋南北の忠臣蔵外伝「東海道四谷怪談」制作の裏話、三代目菊五郎との確執や競演、義父・五代目幸四郎、三代目三津五郎、五代目岩井半四郎等先輩達・仲間との交友。長男八代目團十郎、小団次、団蔵等愛弟子や養子に出した五男河原崎長十郎(後に九代目団十郎)との師弟との関係、二人の妻と二人の妾とのこもごのの愛憎物語が語られている。江戸追放後の大坂歌舞伎での活動、二代目歌右衛門との交流等も語る。十三代目襲名時でのタイミングを得た、歌舞伎好きには恰好の読み物。