- Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
- / ISBN・EAN: 9784103553816
作品紹介・あらすじ
私が愛する人は一人だけじゃない──。日本における複数愛の実態を探る。相手の合意を得たうえで、ふたり以上の恋人やパートナーを持つ──そのような関係性をポリアモリーという。不倫や浮気とは何が異なる? 嫉妬の感情は生まれないのか? 子育てはどのように行うのか? 社会のなかで抱える困難とは? 日本に暮らす当事者100人以上に取材・調査してその実態を伝える、国内初の複数愛ルポルタージュ。
感想・レビュー・書評
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図書館の新着本コーナーで見つけて、読まざるを得なかった。ポリアモリーについては興味津々で、知見を広げたいと思っているものの書籍も少なく、実態もよく分かっていなかったので出合えてとても嬉しい。
ポリアモリー(複数愛)に関心のある人たちの交流会「ポリーラウンジ」にて著者がインタビューを行い、当事者のエピソードを交えつつ、世界で議論されてきたさまざまな報告も紹介している。
ポリアモリーという概念はまだ日本ではさほど浸透しておらず、私も漠然としたイメージしか持っていなかったのだけれど、本書を読んで初めて輪郭が摑めたような気がする。
まず大前提として、ポリアモリーは「(合意の上での)特定複数との関係の構築」を指し示しているのであって、決して「不特定多数とのセックスを望んでいる」など性欲や性規範の話に及ぶものではないということ。他者とどのように関わりたいか、一人ひとりの関係性の話なのだ。ポリアモリーという言葉を知ったときと同様、改めてこれがすごく腑に落ちた。
ポリアモリーについて語る文脈では、モノアモリーやノンモノガミー、メタモア、スウィンガー、コンパージョン等々、初めて目にするカタカナ語も多くはじめは戸惑ったけれど、理解を進めるうちに自然と飲み込める。
「そもそも、生物的には一対一が自然、って誰が言い始めたのだろう」
「婚姻制度と性行為が紐づけられていることに、そろそろ限界があると思う」
「閉じられた関係が嫌なだけなんです。理想のイメージに比較的近いのは、ホームズとワトソン、あるいはエスパー魔美と高畑さんのような関係です。二人の間に強い絆はあるが、誰かがやってきてもかまわないし、相手の人間関係を制限しあわない」
「その人ごとの〈好き〉に合わせて、形が変わるだけ」
当事者の声には、大きく頷きたくなるものが多い。
一夫一妻、「結婚」というモノガマスな婚姻制度を疑わない(疑うものだと思ったこともない)人たちにとっては、仰天するような関係性かもしれないけれど、互いが時間とともに変容し続ける人間同士の営みと考えると、私からしてみたらなんら不思議なことはない。
自分に置き換えてみても、結局相手にどう理解してもらうかということが一番難しく、本書でもその葛藤や苦悩は繰り返し綴られていた。でもそれもやっぱり今のパートナーとの"関係性"の話なんだよなぁ。特に既婚者においては、毎年の結婚記念日などに両者で契約内容の見直し・更新をする、というのは妙案だと思うのだけどどうだろうか。
どちらも犠牲を払うことなく、どちらも無理することなく、居心地のよい関係を模索していくために、ともかくまずはポリアモリーという概念がもっと広まって対話が生まれるといいなと思った。
それで社会が抱えるスティグマや、あるいは自身のポリアモラスな傾向に気づく人もきっと多いんじゃないかな。
それでも受け入れられない人はたくさんいるのだろうし、それは当然のこと。まだ自分の意志で人との関係性を選ぶことができない存在である子どもを、どのような環境で育てるかという「ポリファミリー」の在り方については、自分の中でも正直もっともっと理解が必要かもしれない。
ただ、芸能人の不倫バッシングに見られるような反射でぶつけられる過度な拒絶や抵抗感が、少しずつ減っていくことを願いたい。あえて「多様性に満ちた社会」なんて綺麗な言葉は使わないけど、その関係性に赤の他人は関与していないのだから。 -
あの子を好きになったからとはいえ、君が嫌いになったわけじゃない。
あいつを好きになったって、俺のどこが悪かったの。
…みたいな、お決まりのドラマのお決まりのセリフがまるっとごっそり価値観の土地ショベルカーで掘り起こしてくるところあります。リアルです。あってもおかしくないんだよなぁ、ってのが素直な感想。あなたはあなたで特別ですという気持ちに間違いはないと知れる。優しくなれるはず。
べんきょーになりました。 -
オープンリレーションシップをテーマに描いた「私の最高の彼氏とその彼女(ミン・ジヒョン)」の影響もあり、読了。
日本で暮らすポリー当事者のインタビューが沢山あり、その人たちの語りがとても興味深かった。読みながら自らのモノ規範を再自覚させられたし、それは社会規範の影響を強く受けているんだろうなぁとも思った。
(複数愛を描くアニメやドラマ、本に出会った記憶はほとんどなく、「永遠の愛」「運命の相手」を描く単数愛作品が多い気がする。マッチングアプリでも「真剣な出会いを求めています」(=モノアモリー?)という語り口をよく目にするなぁ。) -
用語の理解だけでも価値がある。これだけ用語にバリエーションがあるという事が、様々な関係指向や関係様式を持つ人達の多様性を指し示している。日本に実在する
定量調査のパートが調査定義や母集団がわからず、少なくともこの本の情報だけでは、数値を適切に解釈することができなかったのでもったいない事とより知りたいと思わされた。 -
個性だな。
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個人差がありすぎるんで、謎だらけです
だから興味あるし、悩むのかな… -
ポリアモリー・ノンモノガミーを実践する人の実態を記した一冊。
日本社会において複数愛を実践する人がほとんど不可視化されているという問題意識の中で、多くの当事者にインタビューしてその実相が書かれている。
新たに知ることが多々あり、とても興味深かった。
・モノ規範の中で、当事者が抱える自責やスティグマ、罪悪感について。ポリアモリーであるがゆえの苦しみではなく、ポリアモリーを不可し化し、異端として扱う社会システムゆえの苦しみが多い。
・ポリカップルの離別要因は、複数愛者でも単数愛者でも変わらない性的問題、金銭問題など。しかし破局すると周囲からは「当然」と思われる。
・性的なものとして見る社会と、関係性をめぐる問いとして考える当事者の食い違い
・必ずしも性愛だけを追及するわけではなく、アセクシャルでポリアモラスということがある。
・ポリアモリー傾向があっても実践しているかどうかは人それぞれ。
・「嫉妬を乗り越えたらコンパージョン」というわけではない。これも人それぞれ。
・重婚禁止は何のため?行政がミスしない限り犯せない罪が何のために存在するのか。→一夫一妻制という道義的建前を明確にするための宣言的な意味。
・ポリファミリーの実態。肯定的にとらえる理由がたくさん。情緒的、金銭的豊かさなど。
・ポリアモリーは世界に1000万以上 日本における実態調査はほとんどない。
・ポリガミーは共同体の維持、家父長制的な社会構造において重視され、女性の意思決定は重視されてこなかった。男性が女性を所有し、依存関係の生産。ポリアモリーはそうした文脈とは違う背景から出現してきた。自由と共有を尊重する西海岸文化。フェミニズム。クィアカルチャーなどの歴史からも影響を受けてきた。 -
線形というモダンから、離散的なポストモダンへ、か。
時間軸の多様性へなのかな。物質的にだけは豊かになったということなのだろう。人生の配分というところかね。 -
ポリアモリーに関する実態、概念、課題などが整理された良著。
当事者へのインタビューをベースに、適宜挿入される先行研究(主に海外)の紹介と概念・課題整理、更にはインターネットによる社会調査など、内容は幅広く網羅的。著者の当事者性は強いはずだが、黒子的というか研究者的というか、極めて抑制的な記述に徹しており、それが客観的な説得力を増している。
また登場する当事者を含め、ジェンダー・セクシャリティについて相当深いレベルで考え語られているため、その辺りについても併せて理解を深めることができるし、それが本書の説得力を高める土台にもなっている。
あと他の書評を読んで知ったのだが、ポリアモリーは性的志向かライフスタイルかという議論があるのに対して、本書がそれを"関係志向"としている点は独創的であるらしい。単に既存の先行研究をまとめるに留まらない、先進的な水準にまで議論を進めているようだ。
ポリアモリーという概念について理解すると同時に、既存の恋愛・性愛規範や家族観を批判的に振り返ることのできる、大変学びが深い一冊となっていると感じた。