小説8050

著者 :
  • 新潮社
4.03
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  • Amazon.co.jp ・本 (400ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784103631118

感想・レビュー・書評

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  • ひきこもる中年となった子供を老齢の親が年金などの自分の老後の生活をなげうって面倒を見る、と言う社会的問題を端的に表す8050問題と言う言葉。7040や9060とも言い換えられることがありますが、こちらは内実は「小説8050」ではなく「小説5020」でしたね。

    私の勤務する図書館ではこの問題に関心が高いのか予約がかなり入りましたが男女問わず70代以上の方が90パーセント以上でした。ひきこもりの実態は親子の年齢によっても大きく違うものだと思うので物語として読まれた人はともかく、何らかの突破口や自分事や身近事として手に取られた方はちょっとがっかりされたかもしれないと正直思います。
    私のごく身近にもひきこもりがいますが、本書はどこまでも小説であり問題解決の参考にはほぼならないと私は感じました。

    本書はひきこもり解決の手引き書ではありません。小説としてはとても良い読み応えある良作だと思います。
    裁判のことやいじめに応対する学校の姿勢など良く調べて構成や登場人物のプロフィール、性格などとても良く練り込まれていると感じます。
    作者は最初、このテーマに全く関心が持てずに企画を断られたと言うことですがそれが信じられないほど物語として引き込まれる一作となっていてやはり手練れの作家はすごいなと思わされました。

    ひきこもり当事者である青年の繊細な心の揺れが随所で染み入るように迫ってきてクライマックスの衝撃場面では涙が押さえられませんでした。
    これを読む読者のことを考えて作者は希望を抱けるようなラストにされたのではないでしょうか。
    作者の優しさかな、と思いたくなります。
    ある登場人物が「家族なんてその時の役割を果たしたら、解散したっていいんじゃないの」と言う場面が出てきますが、家族って何なのか、そのあり方はなど、このラストを読み終えたあとに改めて考えさせられます。

  • 1.この本を選んだ理由 
    人気がある作品というだけで選びました。
    8050問題を知りませんでしたが、小学校や中学校の不登校が身近にもあり、不登校問題は難しい問題であるのは認識していました。
     

    2.あらすじ 
    14歳から7年間引きこもりの子どもがいる家族が、あるきっかけを機に子どもと向き合っていく。今まで知らなかった引きこもりの原因が見えてきて、その環境を変えるために、前に進んでいく。


    3.感想
    引きこもりの子どもがいる家庭のお話でした。子どもの同級生にもいて、小学校も中学校も、今では当たり前のようにいるようです。ほんと、どっちが先かわからないけど、両親もうまくいかないケースが多い。ほんと、なんとかならないのかと思ってしまう。

    この作品では、親父が悪いだろっと、思ってしまう。でも、一番悪いのはいじめたやつ。ほんと、いじめはダメだね。


    4.心に残ったこと
    怖しいという表現が多く出てきた。
    恐ろしいではなく、怖しい。

    「恐ろしい」は客観的な表現であり、「怖ろしい」は主観的な表現とのこと。なるほど…


    5.登場人物  

    大澤正樹 歯科医

    大澤翔太 息子 引きこもり
    大澤節子 妻
    大澤由依 長女


    石井友也

    安田春子
    大村百合子

    堀内真司 翔太友達
    野口啓一郎 由依彼氏

    小野奈津子 節子友達

    高井守 弁護士
    槙原祐子 弁護士

    寺本航
    佐藤耀一
    金井利久斗

    益田好之

  • 歯科医院を営む大澤家の長男は中学の頃にいじめに遭い、それから20歳を過ぎる7年間ずっと引きこもりだ。
    このままでは、自分が医院を閉めるまで引きこもりが続いていくのでは…と。

    いじめの原因となった3人を見つけ、裁判をおこすことに決めるという話。

    現実、何十年と引きこもり続けて親が80代で子は50代という家族が不思議でもないくらいに増えてきている。

    そうならない為に…という内容ではあったので幾分か救われた感があった。


  • 8050問題(80歳の年金暮らしに50歳の引きこもりがパラサイトするという社会)を題材に親子の絆を描いた作品。短編小説で引きこもりを扱ったものはいくつか読んだ事あったが、ここまでガッツリ、リアリティある作品は初めてだった。とても読みやすくスラスラ読めるのが特徴で単行本で400ページ弱でしたが、一気読みでした。
    冒頭は社会問題だけに俯瞰的に他人事のように感じていたが、実際にあった元上級官僚が引きこもりの息子を殺害した事件を取り上げたりと、もしかしたら明日は我が身なのではという恐怖感も途中から味わえた。
    トリックや伏線といったテクニックよりも構成、読みやすさを重視しているようで、とても良作だった。

  • 8050問題ではなく、正しくは5020問題だった。それも、中学時代のイジメから不登校になりそのまま22歳まで引きこもりとなった息子が、7年前にイジメた相手に対し父親と訴訟を起こす話。男親と女親の認識の違い、姉の視点、裕福だからこそ出来る裁判、現実はこんなに綺麗じゃないよなと思いながらも、父親が最後まで見放さなかったのは意外だった。イジメの主犯格が胸糞悪かったけど、翔太の弁護士の高井さんが素晴らしい仕事をしてくれた。誰かの心を殺すことも殺人と同じ。

  • テーマは重いものですが、小説としてはとても面白くあっという間に読みました。
    家族が引きこもった時、自分はどういう対応ができるのだろうかと考えさせられました。
    第三者的立場なら、『本人と対話しながら寄り添って…』など言えるけれども…

  • 翔太を信じて一緒に戦った父親、かっこよかった。
    最後の裁判場面で、なかなか表現出来なかった翔太の思いが溢れ、後半は引き込まれるように完読。

  • もっと暗い話と想像していたが、このまま8050になってしまわないように向かい合っていく姿が描かれていたので、いじめがテーマの辛い話ではあったが、前向きな作品で良かった。

  • 学生でも就労者でもない若者が、親の扶養を受けて成人後も一つ屋根の下に暮らす。
    しかし同居する親との意思疎通を拒み、学校や職場という実家以外の人間関係も持たないまま年齢を重ねる。
    閉ざされた人間関係。消耗される時間。
    若者は次第に中高年となり、80代の親の年金をも消費する。
    「引きこもり」から「8050問題」への進展を危惧した親の立場からの1冊。

    「引きこもり」、「引きこもり」のきょうだいが抱える葛藤や苦悩、「引きこもり」の子どもを抱える夫婦のいさかい、進学校でのいじめの隠蔽等々、あとがきで林さんが書かれているように関係者、専門家から十分な聞き取りを行い、参考文献にも目を通して、「リアル」のようなフィクションを作り上げた1冊だと思う。

    だが、印象としてやっぱり林真理子さんは林真理子さんでした…。
    「下流の宴」もそうであったように、家柄、肩書、職業、学校や学校のステータス、女性の若さや美醜等々で状況を説明する筆致、なんだかなあ・・・。

    週刊誌の記事を読んでいるようで、心の奥底には食い込んでいないのだよなあ。
    会話文でぐいぐい読ませようと進み、確かにいわゆる「読みやすい」作品なのでしょうが、期待したものとは異なりました。

    登場人物それぞれの怒りは書き記されているけれど、行き場のない怒りが自責の念となって自分を苦しめたり、それが哀しみや諦念、失望となり苦悩する様も欲しかったところ。

    キャッチーなテーマで多くの人々が手に取っていると想像しますが、エンタメ作品の感。発売2か月ちょっとで買った1冊は5刷め。売れているのねえ。これは編集者のアイデアの勝利ですね。

  • 実際の8050問題と言われるケースではこの小説のようにいかない気がしますが、家族の再生の物語であるとは感じました。それぞれの立場から考えると、家族それぞれの行動が一概に責められないと思います。

    弁護士さんの言動にも、過去に何かあったのでは?だから適切な行動が取れたのでは?と匂わせる雰囲気がありました。たまに見せるイジメ加害者への辛辣なセリフや、息子に対する気遣いまで。

    家族ってなんなのだろう。未だによく理解できない自分がいます。この小説の家族のように、傷つけ合いながらも徐々に本音でぶつかった(特に父親と息子が)方が希望の見える方向に進めるのでしょうか。この場合はうまくいきましたが、そうでない場合もあると思います。

    また、所々に男性の主観で女性を判断する箇所があり、不愉快ではありましたが社会の現状を表していると思います。父親が経営する歯医者に診療に来る患者は大抵が男性で、あまり良くない状態でした。物事を見てみないふりをした為の代償の比喩なのかなと思いました。いったん決断すれば断固としてやり遂げるのはどちらかといえば女性なのかもしれません。母親と娘のように。

    いずれにせよ、家族とはなんなのか。それは自分にとってはなかなか解明できない重い課題であると改めて考えさせられました。

      

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著者プロフィール

1954年山梨県生まれ。日本大学芸術学部を卒業後、コピーライターとして活躍する。1982年、エッセイ集『ルンルンを買っておうちに帰ろう』を刊行し、ベストセラーとなる。86年『最終便に間に合えば』『京都まで』で「直木賞」を受賞。95年『白蓮れんれん』で「柴田錬三郎賞」、98年『みんなの秘密』で「吉川英治文学賞」、13年『アスクレピオスの愛人』で「島清恋愛文学賞」を受賞する。18年『西郷どん!』がNHK大河ドラマ原作となり、同年「紫綬褒章」を受章する。その他著書に、『葡萄が目にしみる』『不機嫌な果実』『美女入門』『下流の宴』『野心のすすめ』『愉楽にて』『小説8050』『李王家の縁談』『奇跡』等がある。

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