みすゞと雅輔

著者 :
  • 新潮社
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感想 : 15
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  • Amazon.co.jp ・本 (400ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784104166022

作品紹介・あらすじ

国民的詩人・金子みすゞはいかに生きたのか。実弟・上山雅輔の目を通して描く、画期的伝記小説! 実の姉と弟でありながら、金子家と上山家で別々に育てられたみすゞと雅輔。互いを深く理解し、芸術を愛する友として過ごした青春時代、そして内に秘めたる恋心。姉はなぜ自ら死を選ぶこととなったのか――。後に脚本家となる雅輔が残した日記を読み解き、大正ロマンと昭和モダンの時代を生きた詩人の光と影に迫る、衝撃のドラマ。

感想・レビュー・書評

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  • 金子みすゞとその弟の話。
    図書館で借りた。
    金子みすゞの優しい詩は好きでしばらくよく読んでいた。
    背景も知りたいと思い読んだが途中で断念。

    詩そのものだけを味わう方がいいのかもしれない。

  • 金子みすゞの自殺については、夫が悪者というのが陸軍悪玉史観のような公式プロットなのだが、そうではない多面的な視点が楽しめる作品。夫や兄嫁のような、芸術の世界に入れない人を傷つけていた一面もあったんでしょうね。そういうのも、芸術家の業なんでしょうか

  • ●本書について
     本書のタイトルは「みすゞと雅輔」であるが、実際の主人公は実弟の上山雅輔(本名正祐)である。
    本書は小説であり、フィクションではあるが、丹念な取材と膨大な資料の読み込みによって構築されたノンフィクション性の高い作品であり、資料の行間から垣間見えるみすゞの人間性をフィクションの力で鮮やかに描き出した傑作であると言える。
     冒頭、「主人公は雅輔である」と述べたが、作者が本作執筆において発掘した最重要の資料というのが2014年に四国で見つけた雅輔の日記及び回想録である。
    雅輔がみすゞと深くかかわり合った大正十年頃から晩年までのこの記録によって、今まで知られなかったみすゞに関する多くの事実が明らかとなった。
     ただ、これらの記録はあくまで雅輔の目線によって綴られたものであり、みすゞへの理解もまた雅輔の主観である。(みすゞ自身の文章というのは元々作品以外にはほとんどなく、本書執筆時点においてもみすゞのものを新たに探り当てることはできなかった様だ。)
     そこで作者は、雅輔の日記を基に周辺の取材を徹底的に行い、事実を積み上げ補完することによって、予断の余地を可能な限り狭め、それでも埋まり切らない隙間から滲み出るみすゞという一人の人間の像を浮き彫りにした。
     物語の主な目線が雅輔のものであり、みすゞという人物についての語り手も主に雅輔であるのは、こういった事情によるものであると思われる。

    ●所感
     大正デモクラシーの表と裏に翻弄されたみすゞ
     大正時代は童話文化の花開いた時代であった。「児童性を尊重した口語脈の芸術的な歌を、民間の詩人の手で作り出そう…(※1)」という鈴木三重吉の呼びかけから、大正七年(1918)の「赤い鳥」が創刊、そして「金の船」「童話」「コドモノクニ」などの児童雑誌が繚乱する。
     本州の西の端の漁村で女学生時代を過ごした本屋の娘、金子みすゞは、まさにこの頃目を輝かせながらこれらの雑誌を読んでいたに違いない。
    やがて成人し、下関の静かな書店で店番をしながら数年の間で百以上の作品を雑誌に応募し続け、五百余の自作集を書き溜めた彼女の情熱は、デモクラシーの影に潜む父権文化に弄ばれる。行動を制限され病に臥し、ついには最後の拠り所であった我が子を奪われる絶望のなか自死に至る。
     みすゞの生涯の流れは従来の見解と変わるところはないが、注目すべきはいわゆる通説として現在流布している「みすゞ聖女伝説」に大きな一石を投じているところだ。
      曰く「みすゞは控えめで世に出る志は持っていなかった」
      曰く「最後に撮った写真は残された娘に自分の姿を残しておくため」
    などの読み手にとっての都合のいい「聖化」を限りなく排除して、実弟雅輔の目線からではあるが、当時のみすゞの心情を赤裸々に語らせている。

    「私だって誰かに認められたかった!努力だってしているたのに!」

    と。

    ●自慰的人生、そして自死遺族としての雅輔の崩壊
     みすゞの生々しさをを表現する土台となっているのは、やはりメインの語り手である上山雅輔の生々しすぎる生き様を記した日記及び回想録のたまものであろう。
    本作での雅輔は基本的に終始身勝手であり、その正義感は独善、そのロマンチシズムは自慰的である。だが、感情に素直で、本質的には善人であることは、各所にちりばめられた日記の本文引用ににおいてもうかがうことができる。彼の身勝手を堂々と非難できる男性は自ら鏡を見たことのない者であろう。
     とはいえ、彼の奔放な生き方は結果的にみすゞを追い込む要因の、少なくとも一部になったことは間違いない。我を張りたい女性と我を張りたい男性が近くにいれば、おのずから女性側のほうが身を引かなければならない状況になるのは、当時の父権文化においては(そしておそらく今も多分に)避けがたい事だったろう。
     そしてそれは、みすゞにも内面化されていたから、彼女は大声を上げることはできず、かといって諦念の中生き続けることもできずに自死を選ばざるを得なかった。
     そして雅輔はみすゞの死後、日記に自分の心情についての記述はほとんどないのだが、明らかに行動に変容が起こる。実家の本屋を継いだものの性的に放蕩となり店の金を使い込み、挙句の果てには店を追い出される羽目になる。その後、劇作家として持ち直し、みすゞに託された遺稿集を世に出そうと多少動いた節はあるものの結局実行には及ばず、晩年、矢崎節夫氏が金子みすゞを再発掘し、それに協力するまでは、実家の仙崎に帰る事もなかったそうだ。作者である松本侑子氏は本作で、「雅輔は『自死遺族』として、一度精神が崩壊した」という解釈でみすゞ死後の雅輔の物語を構成した。完全に首肯するには若干の戸惑いがあるが、あながち間違っていない解釈の様に思われる。

    ●みすゞ再考のきっかけに
     本作は童謡詩人金子みすゞの空白の歴史を大きく埋めた労作であり、また、ファンタジーでない生身の「金子テル」の生き生きとした生き様を想い浮かべさせる良い物語であった。
     金子みすゞは自由の気風の中、才能を開花させ、抑圧の檻の中で死んだ。そして彼女の作品が世に出るまでには死後半世紀近くかかった。雅輔の最晩年の言葉に、

    「今日のみすゞへの一般の評価と、それにつき動かされた私の…(省略)…当時の感触はズレていて、貴重であったろうみすゞ関連の事項が、(注・日記中に)随分無視されているのは、今更取返しのつかない「わが不明」であるが、悔んでも甲斐はない。(※2)」

    とある。雅輔が劇作家として冷静に評価した結果「みすゞの詩は世に出るに能わず」と考えたのか、それとも自死した姉に対する遺族としての心的バイアスがかかったのかは正直わからない。いずれにしても作品集が遺稿としてあったにもかかわらず、半世紀もの間世に出る事が無かったのは事実である。そのことを悔いつつ、この言葉を残した数日後に雅輔は鬼籍に登った。

     現在金子みすゞの作品は広く世に知られ、曲がつけられたり、画家のモチーフになったりもしている。彼女を顕彰する記念館も建てられた。
     だが、みすゞの翅は本当にぱつとひろげられたのだろうか?籠はやぶれたのだろうか?心やさしいみすゞは、小鳥のままで、今でも籠に飼はれて唄つてるのかもしれない。
     だとしたら、もうそろそろ、籠を開け放ってやってもいいのではないか、とも思う。

    癇の強い、粘着質な、嫉妬深いみすゞだって見てみたい。

    ●注
    (※1) 『日本童謡集』p285
    (※2) 『みすゞと雅輔』p359

    ●参考文献
    松本侑子:『みすゞと雅輔』:新潮社:2017
    与田準一編:『日本童謡集』:岩波文庫:1957
    金子みすゞ・矢崎節夫・与田準一:『新装版 金子みすゞ全集』:JULA出版局:1984

  • 効果的な章立てでどんどん読み進めました。
    大正、昭和初期の文学、芸能の大きな流れがわかったのも収穫。みすゞさんの詩をもう少し読んでみようかな…
    それにしても童謡界の憧れの存在だった島田忠夫さんと金子みすゞさんの生涯は中々辛いものがありました。生きづらかったんだろう。
    そしてギリギリまでみすゞさんと雅輔さんの姉弟のコミュニケーションは濃密。

  • 金子みすずとその弟の人生が書かれたもの。金子みすずよりも弟・上山雅輔がメインかな。雅輔の日記を基に書かれたものだから仕方ないか。明治、大正、昭和初期という時代に生きた人間の不自由さがよくわかった。家を継ぐのが当たり前、親が決める結婚。そんな中でなんとか自己実現をしようとするみすずと雅輔。それにしても雅輔は向上心は強いくせに自分に甘い。甘すぎる。

  • 年上の女性と年下の男性の愛と恋を描くのが似合ってるw松本侑子さん、「みすゞと雅輔」、2017.3発行。事実を基にしたフィクションとのこと、ノンフィクションだと思います。林芙美子、佐多稲子、平林たい子らと同世代の童謡詩人、金子みすゞ(金子テル)。金子テルとは実の姉弟でありながら、養子に出され成人するまで知らなかった上山正祐(後に雅輔)。金子みすゞが26歳で自殺するまでの二人の関係、正祐のテルへの思いを軸にストーリーが展開されています。事実なるがゆえでしょうか、じれったい思い、そして雅輔のだらしなさが鼻をつきました。大正から昭和の時代背景はよくわかりました。

  • 金子みすゞさんの生い立ち、亡くなるまで。
    可愛らしい、ほんわかした詩のイメージとはまた違う、現実の女性を感じた。

  • 本来自分で読まねばならない金子みすゞと上山雅輔姉弟の書簡を代わりに読んで聞かせてもらったような気分。金子みすゞは詩人として名を残したひとで当時から認められていたという先入観を持っていたのだけれどそれを壊してもらった。 #抒情詩人留想譚

  • 実弟との”恋愛(純愛)”関係や自死についてなど、金子みすゞの「もやっとした部分」を知りたいと思っていた自分にとっては、面白い評伝(小説)である。
    しかしながら、再度矢崎節夫氏の評伝やその他の研究書などを並べて読む必要もありそう。

    読み終わったら追加レビューするかもです(ぉ

  • 膨大な 上山雅輔の日記を読み解き
    彼女の人となり
    その生き方にせまった書き方に
    ああ みすゞさんは
    立派に生きられたんだな
    と胸が熱くなる 作品でした

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著者プロフィール

島根県出雲市生まれ、筑波大学卒。『巨食症の明けない夜明け』(集英社)ですばる文学賞、評伝小説『恋の蛍 山崎富栄と太宰治』(光文社文庫)で新田次郎文学賞。著作はイタリア、中国、韓国で翻訳出版される。『赤毛のアン』シリーズ(文春文庫)の日本初の全文訳を手がけ、作中の英米詩、シェイクスピア劇、聖書など数百項目を訳註で解説。金子みすゞの弟で脚本家の上山雅輔の日記と回想録を読解して小説『みすゞと雅輔』(新潮文庫)を発表。著書に幕末小説『島燃ゆ 隠岐騒動』(光文社文庫)、『英語で楽しむ赤毛のアン』(ジャパンタイムズ)など。趣味は編み物、洋裁、「すてきにハンドメイド」鑑賞。

「2021年 『金子みすゞ詩集 2022年1月』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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