逍遥の季節

著者 :
  • 新潮社
3.25
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本棚登録 : 30
感想 : 8
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  • Amazon.co.jp ・本 (207ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784104393046

作品紹介・あらすじ

芸に生きているのか、生かされているのか。人並みの幸せに恵まれず、活花と踊りに打ち込むしかなかった紗代乃と藤枝。一人の男を分け合うほど、淋しいわけではなかったが…。技芸に魅せられた女たちを描く傑作短篇集。

感想・レビュー・書評

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  • 今回の作品は江戸で生きる女たちを描く芸道短編集。
    『細小群竹』が特に良かった。
    口減らしのため住込みで髪結いの修行に励む「すず」に、実家の窮乏により、7才の弟が金の無心に訪ねてくる場面から始まる。その実家には、酒浸りの父と努力はしてるが無力の母、弟妹の6人暮らし。そんな両親に苛立ちを覚え不満に思っていたが、父の病に至る経緯を初めて母から聞き事情を飲み込む場面は、読んでて『ほっ・・』とした。今まで非難ばかりしていた「すず」は、夫婦の思いやりや父の強さを理解する。
    そしてラストの早朝の場面。師匠とともに向かう際、震えそうになり頭によぎったことは、今まで心の負担しか感じなかった家族が「心の支え」と感じるところは清々しかった。

    底辺を生きる人々を描き、決してハッピーエンドにはならないが、生きる力を与えてくれる。時代小説は泣かせますね。

  • 父に進められて。
    さらさらと清澄な水のような文章で
    するすると読み進められた。
    江戸時代という感じはあまりしなかったが、
    芸事に生きる女性たちがいきいきと魅力的だった。
    特に「竹夫人」と「細小群竹」がすき。

  • この人の本も作家買い。
    この小説だけがってことではないが、なだらかで静かで落ち着いた良さ

  • 「江戸時代を舞台にした、これは現代小説では」

    それぞれの境遇に思い悩みつつも、三味線、茶の湯、画や髪結、糸染めに活け花と芸事をよすがとして強く生きる女性たちを描く。「竹夫人」「秋野」「三冬三春」「夏草雨」「秋草風」「細小群竹」「逍遥の季節」7編収録。

    思わず耳を澄ませたくなる、静謐で奥行きのある文章だ。中でも舞台として再三描かれる隅田川、いわゆる大川の風情が素晴らしい。例えば夏の昼下がり。

    「乾山の墓参を済まして浅草から小舟で東両国へ渡ると、暑い日で川岸の通りには葦簀張りの出茶屋や風鈴売りが出ている。陽の暑さに耐えかねて昼下がりの往来に人影は少なく、大川の橋も寂しいくらいであった。(「夏草雨」)」

    その夕景ともなれば

    「隅田川の岸辺の酒楼に明かりが灯ると、心なしか晩夏の熱も薄れて、やさしい風が流れる。あたりには数奇屋風の店が並んで、暗くなるほど川べりは華やぐ。(「竹夫人」)」

    ところが、これだけ江戸情緒たっぷりな物語の舞台にあって、そこに描かれる人々にいっこうに江戸という時代性が見えてこない。登場人物の考えること、そこから発せられる言葉がいかにも現代のものなのだ。ここにいる人々が、髷を結い鉄漿を施しているようにはどうにも思えない。

    そのことが最も強く感じられたのは「秋草風」の萌だ。彼女は実直だが旧弊な農家の主婦の暮らしに生きがいを見出せず家族を捨てて、今は糸染めを生業とする独り身である。その萌に馴染みとなった近所に住む細工師・周蔵が求婚する。周蔵もまた結婚に失敗した口。人に求められる嬉しさを感じながらも、仕事を持つ女の結婚というものについて、萌の気持ちは逡巡する。

    「あのねえ、女が好きな仕事をするには犠牲がいるのです、家事や家族や義理や女らしい幸せ、子供の成長を見る愉しみや着飾る贅沢もそう、そこにあなたを加えてうまくゆくはずがありません」

    「だったら、はじめにそう言ってほしかったよ、ここまできて引き返せるわけがない、やってみて駄目なら仕方ないが、何もしないうちから無理だと言われても困る」

    彼女たちの抱える悩みが昔も今も変わらぬ為か、芸事の世界が普遍的だからなのか、あるいは著者の時代を突き抜けた人物描写の成せることなのか。いずれにしても、舞台を江戸に変えた現代小説を読むような不思議な感覚だ。

  • 2009年度  w244的超独断読了本評価

    ナンバーワン無駄遣い「コンチクショー、カネカエセッ!」本

    http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1716119683&owner_id=39743133

  • 何か一つの「芸」に身を捧げた女性たちの、少し哀しくて、けれど凛とした生き方を描いた短編集。

    少し哀しい、って思うのは個人的な感想ですが(;・v・)
    織姫と彦星くらいにしか逢わない男女関係みたいのがけっこうあって、芸の道があるからそれでもいい、って思ってる登場人物が多かったような気がします。
    そこまで自分を捧げられるものがあることは幸せかなと思うのですが、彼女たちの覚悟とか選択に、どこか諦観が滲んでいて。
    ほんとに幸せな決断として一つの道だけを選ぶことってできないのかな、って思っちゃいました。女性に限ったことじゃないと思うけど。

    乙川さんの作品は登場人物たちに清潔感があってどの話も好きです。
    でも次はもちょっと爽やか&幸せな予感で終わるのを読もう(笑)

  • 女の生き方、7編からなる短編

  • 江戸時代、女一人で生きていくのは難しい時代に、自立した女達が男と出会い、今まで歩んできた道を行くか、別の道を行くかの分岐点を描く。誠に楚楚とした、いい女達である。

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著者プロフィール

1953年 東京都生れ。96年「藪燕」でオール讀物新人賞を受賞。97年「霧の橋」で時代小説大賞、2001年「五年の梅」で山本周五郎賞、02年「生きる」で直木三十五賞、04年「武家用心集」で中山義秀文学賞、13年「脊梁山脈」で大佛次郎賞、16年「太陽は気を失う」で芸術選奨文部科学大臣賞、17年「ロゴスの市」で島清恋愛文学賞を受賞。

「2022年 『地先』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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