悪意の手記

著者 :
  • 新潮社
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本棚登録 : 363
感想 : 70
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  • Amazon.co.jp ・本 (170ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784104588039

作品紹介・あらすじ

「なぜ人間は人間を殺すとあんなにも動揺するのか、動揺しない人間と動揺する人間の違いはどこにあるのか、どうして殺人の感触はああもからみつくようにいつまでも残るのか」-死への恐怖、悪意と暴力、殺人の誘惑。ふとした迷いから人を殺した現代の青年の実感を、精緻な文体で伝え、究極のテーマに正面から立ち向かう、新・芥川賞作家の野心作。

感想・レビュー・書評

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  • ただただ、このようなものを書けることに驚きます。

    読んでいるとき、“このまま「私」の悪意に引きずられてしまったら、自分はどうなってしまうだろう”と何回も思ってしまいました。
    ビビりました笑 精神の健康によくないので少しずつ読みました。

  • 平坦な手記がずっと続くので、退屈になりそうだけど最後まですんなり読めてしまった。相変わらず、静かで、陰鬱で、くせになる。この陰鬱さは作者の自己投影だったりするのかな。
    生死の間をさ迷うような重病に侵されながら、すべてを憎み、すべてをどうでもいいと考えることによって死の恐怖を克服しようとした主人公。普通の人ならその感情にどこかで歯止めをかけるんだろうけど、主人公はそのまま成長してしまった。衝動的に親友を殺し、後々も罪の意識に苦しめられることになる。
    祥子の「簡単に死をほのめかすのって、卑怯な人間のすることなんだよ」という言葉と、リツ子の「どこかで、苦しんでいてもいいいから、生きていなさい」という言葉が刺さる。ずっと死を考えていた主人公が、最後に「まだ死ぬわけにはいかない、自分が殺人者であるということを意識し続けながら生きていかねばならない」とちゃんと答えを出しているところに少しだけ救いを感じた。
    被害者側に立って読むと、全く違う感情が出てきそうだけど…。
    最後の3行は何か怖い意味でもあるのかな??と深読みしそうになった。ただ単にそのままの意味なんだろうけど。

  • 善と悪、人を殺した少年の手記。とても暗い話だが、少年の心情が良く理解できて、奥が深いと感じた。さすが芥川賞作家だなぁと所々で思わせる。ただし、少々無理な設定と展開があるのが難点である。

  • まずテーマがあり、それに見合う物語を作ってみた。そんな感じがした。ストーリーというか、ことの顛末はあまり面白くない。無理な設定が多すぎです。この主人公にあってあのような親身になってくれる人と関われるとも思えないし、悪人のふりをしているけれど実はいい人なんです、みたいな設定は反吐が出る。
    でも、でもね。でもとても面白い小説でした。社会に対する虚無や孤絶や疎外感を抱える人にとっては、中村さんの小説は聖書にも等しいのではないかと思うことがあります。この本は確かにまだ序章。あちらこちらに不完全燃焼な印象はありますが、その世界観は僕にとって常に◎です。

  • 難病・自殺・殺人・贖罪〜15歳で難病TTP(紫斑病)に罹患した僕は死の恐怖から世界が壊れてしまえば良いとさえ考えるようになった。悪化して意識を失い,目覚めると難病は克服していたのだが,世界や他人が違うように見える。復学しても違和感は否めず,公園での首吊り自殺を実行しようと出掛けると,そこに親友のKがいて,このまま大人になっていくのはつまらないと云うので,自殺前にKを池に突き落として殺してしまった。首吊りは失敗し,Kの母親だけに疑われながら高校を卒業して,地方の大学に入学した。少年の凶悪犯罪はなぜ多発するかというゼミの議論で武彦と親しくなり,悪事を気にせず実行する武彦に引きずられていく。睡眠薬を呑んでの自殺は,僕を気に掛けてくれている女の子によって救われてしまった。大学を中退し,バイトで入った喫茶店の女主人が,自分の娘を殺した少年が退院してきたら殺してやろうとしている計画に僕は関わり,いざ実行しようとすると,相手の少年は幼い少女に手を出そうとする現場に直面し,女の子を救うことに切り替えてしまうが,少年は別の母親によって刺し殺されてしまう。僕はK殺しの犯人として自首する〜絶望・・・しか見えないのかと思ったら,最後に光明がさすのだねえ。途中までドロドロしていたのが,少しずつ澄んでくるような感じ。ドロドロが長いけど。土の中の子供に先行する作品

  • 絶対人殺してる⁡
    ⁡⁡
    ⁡ってな事で、中村文則の『悪意の手記』⁡
    ⁡⁡
    ⁡もうね、中村さん⁡絶対人殺したとこあると思うんよ。⁡
    ⁡⁡
    ⁡こんな感情、人殺さんと書けんと思うよ。⁡
    ⁡⁡
    ⁡深い、深いよ…⁡
    ⁡⁡
    ⁡実際にわしが殺られたよ
    ⁡⁡
    ⁡2022年49冊目

  • 手記1,2,3で構成される犯罪者の物語。
    手記1で、「死にたい」と言ってるのに人を殺してしまうクズぶりを発揮し、言い訳ばかりしているのに、手記2で、少しまともな人間に出会い、手記3では、急にドラマチックな展開になる。
    今までの作者の小説の中ではかなりエンタメ性が強く、特に手記3は結末にドキドキしながら読んだ。
    祥子の「理由なんてないよ。理由を作ると、必ずそれに反対する言葉が出てくるでしょう?だから理由を作ったら駄目なんだよ」というのがこの小説の本質かな?
    本当に知りたい「なぜ人を殺してはいけないか」や、全ての人生に関する疑問には何も答えない。
    なぜなら理由を作っては駄目だから、なんだろう。

  • 結末は少し残念。 決して異常者の話ではなく誰でも起こり得る物語。+みんな、自分に降りかかった困難から逃れようといろんなことを考えてるはず。自分に嘘をついたり気を紛らわせたりすることはごく自然なこと。 みんなが持ってる内なる世界を小説として言葉として描ける才能はすごい。 只この作家、何を読んでもこんな感じ。嫌いではないが他の本も大体こんな感じ。(でも結構他も読んでるので、やっぱりこういった内容が好きなのかな!)

  • 「生きていて欲しいと思う。あなたが、過去に何をやったのだとしても」「どこかで、苦しんでいてもいいから、生きていなさい。私も、同じように、生きているから」

  • 冒頭の三行で語り手が十五歳のとき、死ぬ可能性が極めて高い病気にかかり、その病気のせいではないが殺人を犯したことがある、とわかる。どうしようもなく暗い雰囲気で始まり、絶望の奥深さに惹かれながら読んだ。
    手記というだけあって物事を順番に思い出すような形式で時間が進んでいく。明るい場面はほぼない。

    --------------------------------------

    目前にある死の重さに耐えられなかった十五歳の少年は死を肯定した。生を否定し、悪意を持って周囲の人間を、そして世界を憎んだ。ある日を境に少年の病状は軽くなり始め、彼は一般生活に戻る。残ったのは死を受け入れたときの悪意と、病気が再発する不安。

    死を肯定した少年は現実の世界に価値を見出せず、自死を目論む途中で友人を池に落として殺してしまう。闘病以降続いていた虚無は彼から消え去り、彼自身生きる意味を失っていく。
    大学進学で仙台に拠点を移した彼は、あいかわらず生きる意味を見つけられないままだった。同じような友人と出会い、適当に悪さをしていくなかで心を許せる女性とも巡り合うが、彼女にも殺人のことは打ち明けられない。

    人を殺した人間は、人を殺そうとしている人間と惹かれ合うのかもしれない。幼い娘をいたずら目的で少年に殺された女と出会い、彼はその少年を殺してやる、と告げる。
    結果として彼ではなく、別の女が復讐のために少年を殺すが、彼のなかでは何かが決定的に変わっていた。警察に出頭後、病気が再発し、死を覚悟したところで手記は終わる。

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    病気でもう助からないから全部どうでもいいや、みんな死ね死ね、と思っていたら病気がよくなってしまい悪意だけが残った男性の話だった。

    「もし明日世界が滅びるなら」という例え話がある。最後に誰に会いたい、最後に何を食べたい。色んな行動がある。
    どうせ明日世界が終わるなら悪い事しまくっちゃうぜ!という人もきっといると思う。それもアリかもしれないけど、もし世界が終わらなかったとき大変なことになるのは間違いない。転校してしまう友人を惜しみ、夏休み前にお別れ会を開いたものの、親の仕事の都合が変わり、夏休み明けにまた教室に友人がいたときのあの感じを何万倍にも濃くしたようなものだろうか。

    死を覚悟したときに自分はどんな態度をとるだろう。かっこつけて聖人ぶるかもしれないし、ヒャッハー!と叫びながら悪事を働く悪人になるかもしれない。
    そういうのってそのときがこないとわからない。できるだけ周りの人に迷惑をかけたくない気持ちはある。

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著者プロフィール

一九七七年愛知県生まれ。福島大学卒。二〇〇二年『銃』で新潮新人賞を受賞しデビュー。〇四年『遮光』で野間文芸新人賞、〇五年『土の中の子供』で芥川賞、一〇年『掏ス摸リ』で大江健三郎賞受賞など。作品は各国で翻訳され、一四年に米文学賞デイビッド・グディス賞を受賞。他の著書に『去年の冬、きみと別れ』『教団X』などがある。

「2022年 『逃亡者』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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