狂うひと ──「死の棘」の妻・島尾ミホ

著者 :
  • 新潮社
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本棚登録 : 538
感想 : 47
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  • Amazon.co.jp ・本 (672ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784104774029

感想・レビュー・書評

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  • 読みにくい本です。

  • 「死の棘」の島尾敏雄の妻であるミホの評伝。あの小説はそのままの事実を書いたものか。それとも脚色されたものか。愛人とは誰か。ミホの狂気は強調されているのか。ありのままか。膨大な手紙、メモ、ノート、日記からミホと敏雄の人生をあぶりだす。

  • 毎日少しずつ読んでやっと読み終わった。死の棘に出てくるミホさんも怖かったが、この評伝を読んでまた少し違う角度からも怖いと思った。夢に出て来そう。ページ数含め、すごい評伝だった。

  • 夫婦の究極の愛を緻密に分析した本
    死の棘の後に読んだ。
    他人の夫婦の心情をよくここまで分析するなと思い、分析される夫婦はよほど他人に影響を与えたのであろう。

  • 『死の棘』の作者島尾敏雄の妻、島尾ミホの評伝である。敏雄とミホの関係についてはよく知られている。終戦間際、水上特攻部隊震洋の隊長として奄美群島に赴任した敏雄が、島の娘ミホと恋に落ち逢瀬を重ねる。敏雄が出撃したあと、ミホはあとを追って自害する気でいた。そして、いざ出撃となったときに終戦を迎えるという話である。そんな激しい恋をした二人であったが、結婚後敏雄の浮気を知ったミホは狂い、敏雄に生涯自分に服従することを誓わせ、敏雄もそれに従ってミホのために書き、ミホのために献身的な生涯をおくる。これだけだと、一つの激しい恋の物語になるが、この裏にはいろんな物語があった。それを一つ一つ解き明かしていったのが梯久美子さんである。梯さんが解き明かしていったのは、一つには晩年のミホに何度かインタビューする機会があったことと、敏雄たちの息子伸三氏から、敏雄やミホの残したおびただしい文書の山を自由に見ることができる許可を与えられたからである(ぼくは実は敏雄自身よりもマカオかなにかの写真集を奥さんと出した伸三氏の方を先に知っていた)。敏雄は浮気がばれてミホの狂気を引き起こすのだが、実はもともと女癖が悪く、敏雄を追いかけ神戸にやってきて、ようやく結婚したときも梅毒にかかっていてそれをミホに移したりしている。その後も、女に対する欲望は持ち続けていたようで、ミホは敏雄の日記で愛人のことを知る以前から、敏雄の女関係では心を痛めていたのである。問題はミホがたまたま敏雄の日記を見たように思われているがそうでないと言う文学仲間もいた。梯さんも、敏雄はわざと日記をミホに見せたのではないかという。なぜか。それはそのことによって引き起こされる事態を敏雄は文学として書きたかったからである。梯さんはその愛人のその後を追い続け、また、敏雄とミホがのちに奄美に帰ったあとのことを書き続ける。敏雄にとって、奄美は戦争末期に特攻隊として赴任した空気をとどめてはいなかった。敏雄にとって奄美時代は一見平和そうで、心の中はミホを義父から奪った罪悪感で苦しんでいたのである。ミホは敏雄が死んだあと、公の場ではいつも喪服を着ていたという。それは、敏雄が死んでからも敏雄は自分のものであるという独占欲のもたらすものであった(おお、怖い)。そして、敏雄の日記を公刊する際も実はミホはそれにかなりの手を加えていた。それはつまり、敏雄は自分にふさわしい夫であったことを証明するためでもあった。二人の物語は、実はドラマチックですでに映画も撮られているが、ぼくはそれより、この二人の間で育った二人の子ども、伸三とマヤのことが気にかかる。父の不倫とそれを連日連夜問い詰める狂った母の家庭で育つと子どもはどうなるのか。それを探ってみたい。

  • こども無視SM夫婦のどこ理想?

  • ずっと前から「死の棘」を読もうと思いつつ未読で、この本が出た時、やはり先に「死の棘」だろうと思い、しばらく読みたい気持ちを抑えていたが、結局先に読んでしまった。「死の棘」のあらすじが巻末についている。「死の棘」は読もうと思いつつ、いつまでも読めないような気がする。

    島尾敏雄とミホさんのことは十分知ったような気になる。もういいかなというほどの力作だった。



  • 87歳で生涯を終えた島尾ミホ。作家島尾俊雄の妻として自分の人生全てを捧げた壮絶な物語。
    分厚さに面食らったが、この夫婦の数奇な運命に引き込まれた。
    あまりに激しく狂気に満ちた夫婦の生活は、子供達には残酷すぎたと思う。
    机の上に開かれた夫の日記。17文字で狂った妻。
    挑発、演技、もう本心はわからないがお互いにDVしあい
    その全てを文字にして残そうとする二人。
    残された日記や膨大な紙類を丁寧に読み解く作業は根気がいっただろう。
    でも、紙に残された文字には書いた人の気持ちやその時の空気もしみこんでいるように思う。

  • 膨大な資料の読み込み、現地での取材量には圧倒される。その影響もあって本を読んでいる最中、実際に加計呂麻にも行ってみた。ミホさんの物語ではあるが、そこにかける梯さんの情熱にかなり打たれるものがった。
    梯さんを主人公としたノンフィクションの物語、というのがあったらまたそれは面白い映画が作れそうだなと勝手に考えながら、まずは「死の棘」「海辺の生と死」を読み返そうと思う。

  • 恥ずかしながら、死の棘を読むのを挫折したのちにこちらを読みました。
    この時代の作家の作品をあまり読んだことがないので、「太宰治って自分のこと書いてるんだな」くらいの知識しかなかったんだけど、こんなに自分の身を削って作品を生み出してる人が他にもいることを知って、まず驚いてしまった。
    あらすじを知ってるだけじゃわからない、そして多分私の読解力で死の棘を読んでもわからない背景が見えてきて、結局はそれ自体も真実かはわからないんだけど…

    今の時代もSNSとかで自己演出するというか「こうみられたい自分」みたいな人に良く見られたい欲求が蔓延してて、劇場型というか。それの究極の世界な感じもしたかな。。。覚悟が違いすぎるけど(^_^;)

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著者プロフィール

ノンフィクション作家。1961(昭和36)年、熊本市生まれ。北海道大学文学部卒業後、編集者を経て文筆業に。2005年のデビュー作『散るぞ悲しき 硫黄島総指揮官・栗林忠道』で大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。同書は米、英、仏、伊など世界8か国で翻訳出版されている。著書に『昭和二十年夏、僕は兵士だった』、『狂うひと 「死の棘」の妻・島尾ミホ』(読売文学賞、芸術選奨文部科学大臣賞、講談社ノンフィクション賞受賞)、『原民喜 死と愛と孤独の肖像』、『この父ありて 娘たちの歳月』などがある。

「2023年 『サガレン 樺太/サハリン 境界を旅する』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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