- Amazon.co.jp ・本 (301ページ)
- / ISBN・EAN: 9784105071110
感想・レビュー・書評
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2019I225 778.21/A
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(01)
映画監督の黒澤明の前期の作品「羅生門」を焦点に,周辺の作品も含め,それらに込められた意味を探っている.
黒澤の兄,須田貞明こと丙午の自殺あるいは心中を鍵として,サイレント映画とその説明者(弁士)の有力な若手実力者としての活躍と墜落を,弟の明がどのように受け止め,語れない何ごとかを映画作品(*02)としてどのように描こうとしたか,その苦肉が綴られている.
作品そのものの解釈のほかに,黒澤明自身による自伝のようなものとして出版されている奇書「蝦蟇の油」や,芥川龍之介,有島武郎らの小説とその文学的意義と映画との関連,ロシア文学とともに日本に導入された思潮,大正期の震災以降におこったプロレタリア美術の運動なども手掛かりとして,黒澤が音と映像に試みていたことの本質に迫る.
ドストエフスキーのポリフォニーともおそらくは連絡があるだろう「羅生門」がとった方法は,それを構成する音と声と白と黒によって,何を現すことができたのだろうか.「幽霊」という言葉も本書では用いられている.東京において大正の震災と昭和の空襲にさらわれてしまった多くのものと,そこに残された廃墟のイメージを象りながら,「羅生門」のあの巫女の奇態と奇蹟にも触れている.
(02)
「姿三四郎」からはじまる黒澤のフィルモグラフィーについて,他の作品についても,ほぼ時系列で紹介と解釈がそれぞれなされており,参考となる.また,日本の社会状況や,文学史,あるいは黒澤作品の評価についても,適切な距離をもって判断と批判が加えられており,好感がもてる.かといって,黒澤映画への愛も感じられ,映画が動かすものやそのエモーションについても本書は考えるきっかけを与えるだろう. -
ヴェネツィアとアカデミー賞を制し、「世界のクロサワ」を決定付けた『羅生門』。大震災、戦災、導き手だった兄の自死など黒澤が目のあたりにした光景と実体験を不朽の映画に昇華させていった苦渋と希望の過程を辿る、世界初の試み。コロンビア大学教授による画期的クロサワ論。
いろいろな解釈ができるのだなと思う。