記憶に残っていること: 新潮クレスト・ブックス短篇小説ベスト・コレクション (Shinchosha CREST BOOKS)
- 新潮社 (2008年8月1日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (254ページ)
- / ISBN・EAN: 9784105900700
作品紹介・あらすじ
新潮クレスト・ブックスでは、1998年の創刊以来、ジュンパ・ラヒリ『停電の夜に』、アリステア・マクラウド『冬の犬』、アリス・マンロー『イラクサ』、イーユン・リー『千年の祈り』など、世界に名だたるベテランから、デビューしたての新人まで、いずれ劣らぬ名手たちの短篇小説集をお届けしてきました。シリーズ創刊10周年を記念して、これまで刊行した短篇集のなかから10篇を厳選。堀江敏幸編の特別のアンソロジーをつくりました。現代最高峰の短編小説を堪能できる、とびきり贅沢な一冊です。
感想・レビュー・書評
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色んな作家の短編集。大切なものは人によって違って大事にする方法も違って、でも失くした時の痛みは誰のものもよく似ているのかもしれない。
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新潮クレストブックスが創刊10周年を記念して刊行した短編集10編。角田光代氏の短評として「読むことの先に、ことごとく未知の体験がある。短篇でしか味わえない広がりと余韻がある」とある。確かにそうなのだが、短編であるがゆえにすべてのストーリーに同じように入り込むことは難しかった。
今回はデイヴィッド・ベズモーズギス「マッサージ療法士ロマン・バーマン」、アリステア・マクラウドの「島」、イーユン・リー「あまりもの」に強烈な印象を受けた。『人権』とは無用の世界。生きていくことって容易じゃないよね。少し前の人たちは、いや今だってこんな風に生きている人たちがいる。角田氏の言葉を借りれば「読み終えてもなお、圧倒されるような光景と、幾多の濃密な生が私の内に残っている。」
一方、アダム・ヘイズリット「献身的な愛」では、安定な暮らしをしている姉弟さえも、危うさを抱えて生きている。編者のあとがきに「人は何かを失わずには何かを得ることはできない」とあるが、読み終えた今、まさしくと感じた。 -
記憶に残されることがある
記憶に残すことで思い出を形作り今を生きる
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“世界最高の短編10作”という触れ込みで<新潮クレスト・ブックス>創刊10周年特別企画としてシリ-ズの全短編120篇から選び出された贅沢な短編集です。政治社会の貧困と疲弊、自然界の脅威が、恋愛・夫婦・家族の問題と絡み合い、日々の生活に悶々として生きる人々の姿が描き出されていきます。 心に深くしみわたり重厚な余韻の残る A.マクラウドの『島』、W.トレヴァ-の『死者とともに』、Y.リ-の『あまりもの』が特に印象的でした。
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寝る前に一日一編ずつ読み、次の日にその物語のことをぼんやり思い出しながら日々を過ごした。しみじみと味わう。71
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アリステア・マクラウドの「島」と、ベルンハルト・シュリンクの「息子」以外の8編を読んだ。ジュンパ・ラヒリの「ピルザダさんが食事に来たころ」(『停電の夜に』より)と、アンソニー・ドーアの「もつれた糸」(『シェル・コレクター』より)は既読のはずなのに全然覚えていないことに衝撃。
『シェル・コレクター』のレビューで引用してるのが(↓)この短編からで、驚く。確かに読んでいる…! 全然覚えていない…!
短く、潔いんだ、文章が。「マリガンの胸で熱く血がたぎる。リールが悲鳴をあげる。魚は跳ねる。」みたいな。 -
堀江さんの編んだアンソロジーというだけでまず読みたくなるよね。
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アダム・ヘイズリット「献身的な愛」
姉と弟。森で首をくくって自殺した母親の死体を見つけてしまった姉は思わず弟の目を覆ってかばおうとする。その咄嗟の行為、その時のふたりのカタチ。それがこの物語の核になっている。
アリステア・マクラウド「島」
孤島に暮らすひとりの女性の生誕から死までを描いた力作。短編なのに非常に重厚。一方終わり方は爽やかでいつまでも心に残る佳作。
ウィリアム・トレヴァー「死者とともに」
ろくでなしの亭主に先立たれた女が通夜の席で慈善団体の職員に今の心情を吐露する。「夫婦であること」についての鋭い考察。
新潮クレストブックスは二冊目。前作の『美しい子ども』ほどではなかったけれども、この三作品は非常に素晴らしかったです。 -
「島」「あまりもの」が特に素晴らしい。
どちらの短編にも、閉鎖された世界の中でのある人物の一生が閉じ込められている。
話さなければ、書かなければ誰も気づかない、凄まじい残酷と希望が混じりあった物語。
特に「島」は、荒海の飛沫の音と匂いが、読んでいる間続いているようだった。
この短編集で改めてジュンパ・ラヒリを読んだが、小説を読む楽しみをまた思い出させてくれた。
珠玉の短篇とは、まさにこのこと。
本の世界にどっぷり浸かった数日を過ごせた。 -
ジュンパ・ラヒリの作品に初めて出会ったのが、この本に収録されている『ピルサダさんが食事に来たころ』。「遠くにいる人を想う」という感情を、はじめて理解する少女の心の動きや過程が細やかに描かれ、何回読んでも感動する。
この小説に出会って以来、ジュンパ・ラヒリの小説をつぎつぎと読み、新作が出るのを心待ちにするようになった。そんな作家が同時代にいることを幸せに思う。