手紙 (Shinchosha CREST BOOKS)

  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (425ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784105900977

作品紹介・あらすじ

ワロージャは戦地へ赴き、恋人のサーシャは故郷に残る。手紙には、別離の悲しみ、初めて結ばれた夏の思い出、子供時代の記憶や家族のことが綴られる。だが、二人はそれぞれ別の時代を生きているのだ。サーシャは現代のモスクワに住み、ワロージャは1900年の中国でロシア兵として義和団事件の鎮圧に参加している。そして彼の戦死の知らせを受け取った後もなお、時代も場所も超えた二人の文通は続く。サーシャは失恋や結婚や流産、母の死など様々な困難を乗り越えて長い人生を歩み、ワロージャは戦場での苛酷な体験や少年の日の思い出やサーシャへの変わらぬ愛を綴る、二人が再び出会う日まで。

感想・レビュー・書評

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  • 「届かないのは、書かれなかった手紙だけだ」
    現代のモスクワと1900年の中国。どれほど時間や空間の隔たりがあっても、書かれた手紙はきっと届くー


    ワロージャは1900年の中国でロシア兵として義和団事件の鎮圧に参加している。無惨な死がある。現実とは思えないような凄惨な状況がある。

    サーシャは、現代のモスクワで、失恋や、結婚、流産、別れ。友人を失ったり、母、そして父の死など、喪失を経験する。平和な世界に生きているはずだが、人生は困難だ。

    あらすじから想像していたより、重い内容だった。なかなか読みとれていない部分があるとおもう。サーシャと父の最後の時間に温もりがあり、それは救いに感じられた。


    訳者あとがきより、
    なぜワロージャは、他のどの戦争でもなく、1900年の中国で義和団事件の鎮圧に参加しているのか、その理由を、作者はこう語る。
    “これは、すべての侵略戦争のシンボルなんだ。世界大戦はもう起こらないだろう。だが、アフガニスタン、イラク、オセチア…そういった、強い国がよってたかって弱い国を潰しにかかるような戦争は、今もなくならない。ロシアもまた、20世紀初頭に義和団事件鎮圧という名目で連合国軍と共に侵略戦争をし、多くの兵を送った。ところが今のロシアの義務教育では、それを教えない。”

  • 翻訳者の奈倉有里さんの著書『夕暮れに夜明けの歌を 文学を探しにロシアに行く』に紹介されていた、シーシキンという作家の作品。難解と言われる作品で有名らしい作家、簡単には納得させてくれない。 ただ、文章自体はそんなに難しくはなく、ワロージャが鎮圧のために従軍された義和団事件は、内容はともかく写真は教科書で見覚えのあるものだったし、読む前に訳者あとがきを読んで、ある程度どんな作品か想定した。決して拒否したくなるような内容ではなかったが、ストーリー展開をどう捉えたら良いのかが、私にとって一番の課題であった。少しでも作者の意図に近づきたくて、先ずは本文より気になった箇所を抜粋してみた。

    「たぶんね、本物になるためには、自分の意識のなかじゃなくて──自分の意識なんていうものは、眠ってしまえば自分が生きているのか死んでいるのかさえもわからなくなるような頼りないものだからね──、だれかほかの人の意識のなかに存在しなくちゃいけないんだ。それも誰でもいいわけじゃなくて、僕の存在を大切に思ってくれている人の意識のなかに。いいかいサーシャ。僕は、君がいるっていうことを知っている。そして君は、僕がいるっていうことを知っている。そのおかげで僕は、こんな酷い、滅茶苦茶な場所にいても、本物でいられるんだ。」p39-40

    「ついに再会を果たしたときに二人は、すれ違っていた頃はまだお互い会う準備が出来ていなかったかということを悟る。それまでは、二人の精神が充分に成長するための困難を、乗り越えていなかったんだということを知ってね。」p115

    「僕らは夢を見ているとき、ものすごく不条理な状況に置かれたとしても、とうの昔に死んだ人たちに会ったとしても驚かない。それと同じで、僕らは以前、まったく別の世界で別の時代に生きていた。そして今ここで目が覚めて、何も不思議に思わずに全てを当然のものとして受け止めて生きている。だから今後も、きっとまた何処か別の場所で目を覚ますだろう」p182

    次に、ほかの読者さんたちはどんな感想を持たれたか知りたくて、いろんな書評やレビューに目を通し、特に印象的で共感できたのが『星座』になぞらえたレビュー。だいぶ自己流の解釈になっていると思うが、私達が今地球上から眺める夜空の星の光は「様々な過去からやってくる」つまり、様々な場所から其々の時間差を経て届いたもの。同様に私達が読んでいるこの作品は、作者が作中に星座の如く異なった時空間のストーリーを散りばめ著したもの。また、同じレビューで「高次の世界」をも言及しておられる。
    もはやこの世のものではないワロージャを、時間や空間を超え、この世に生きるサーシャの意識の中に存在させ、書簡集の形をとって人間の愚かさ(戦争や人間関係の不和等)を浮き彫りにして読者に訴えかけるこの作品は、壮大な宇宙、すなわち「高次の世界」をも感じさせるストーリー(汗)。そういった世界を信じる信じないは個人の自由だし、読んだ読者の数だけ異なった解釈があるのだと思う。

    最後に― 
    ワロージャが書き綴った戦場での手記はあまりに生々しく、身の毛がよだつような場面も多い。2023年10月現在、実際に世界で起こっている侵略や攻撃のため悲惨な戦場で戦う兵士や巻き添えになった住民等、多くの犠牲をはらっているという現実は、今の時代の日本で平穏に暮らせる有り難さを認識させてくれる。おそらく、こんな感想さえ、作者が読者に感じてもらいたかったことの一部だと思いたい。

  • 手元に届いてすぐ、一気に読みました。
    これからも、繰り返し読み返すことになるでしょう。
    大切にします。

  • 戦争の悲惨さが強く伝わってくる。
    読んでいて辛かったが2人の愛が救いだった。

  • この話はどこに向かうのだ?そもそもなんなのだ?と思いながら4分の3を過ぎ、引き込まれだしラストに辿り着いたとき、この話はどこにいったのだ?と思った。
    あとがきの解説で若干理解できたが、もしかしたら自分は紡ぐ必要のないストーリーを無理矢理紡ごうとしていたのかも知れない。とにかく疲れる読書だった。
    なんだなんだとストーリーを欲してしまう自分には、ハイブローな本だった。

  • ■数えきれないくらいの死体がぐちゃぐちゃに切断されて打ち捨てられている。敵兵から逃げ延びたとしても、腐りきった水によって確実に赤痢におかされる。24時間におよぶ灼熱地獄の中、不眠と栄養失調の果てに身体はとっくに死を望んでいる。ワロージャは生きている最後のあかしとして、故郷で待つ愛するひとに手紙を書く。それが彼女のもとに必ず届くものと信じて―――。
    ■不倫のすえ、年上のさえない絵描きと結婚。夫の連れ子は事故死、自分は流産。母も父も相次いでこの世を去る。孤独の果て、空想上の我が子だけを生きがいに、老いたサーシャはかつて愛しあったひとに手紙を書く。それが彼のもとに必ず届くものと信じて―――。
    ■手紙は絶対に届かない。ワロージャのいる地獄そのもののような戦場で文通なんかできるワケがない。ワロージャが生還できる可能性なんてゼロに等しい。ワロージャとサーシャの生きている時代がそもそもどういいわけか違ってきてるし……。
    ■彼らの手紙はお互いのもとには絶対に届かない。だけれども我々読者のところに、それは届いた。だからこそこの本を読んだ者には責任があるのだ、胸いっぱいに受け止めなけらばならないという。彼らが一生懸命に生きて考え詰めたことを。彼らが美しいと思って一瞬心が動かされたことを。彼らが愛するひとに命がけで伝えたかったことを。

  • 最初のページから、その瑞々しさのとりこになった。
    読み始めるとすぐ入り込める。
    早く内容を知りたい、
    けど、読み終えるのが惜しい。
    久しぶりにそんな本に出会えた。
    訳がまたいい。
    とても自然な生き生きした日本語。
    大切に大切に読んでる。

  • 1900年と現代にそれぞれ暮らす恋人同士の書簡という体裁をとる特異な小説。
    男性は兵士として凄惨な戦場を生き、女性は恋人を思いながら独身女性として老いていく。

    「2人が異なる時代を生きていることが明記されている裏表紙がネタばれになっている」というレビューがあちこちに見られるけれど、こうした事態になったいきさつやロジックは最後まで明かされないしそれを探るタイプの小説ではない。
    むしろ予め知らされていなければ違和感を抱えながら読者は時間軸の歪みに確信を持てないままだろう。

    鮮烈な中国本土の戦場の描写と、物質的に満たされ恋人以外の男性と関係を持ちながら休まることのない女性の生きざまとの対比がそれぞれの悲劇を増幅させる。

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著者プロフィール

1961年ロシア生まれ。現代ロシアを代表する作家。おもな著書に、『手紙』『ヴィーナスの毛』『皆を一夜が待っている』『イズマイル陥落』など。ロシア・ブッカー賞、ボリシャーヤ・クニーガ賞など受賞多数。

「2021年 『ヌマヌマ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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