冬 (新潮クレスト・ブックス)

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  • / ISBN・EAN: 9784105901752

作品紹介・あらすじ

不協和音の時代に生まれるメロディを描く、21世紀のクリスマス・キャロル。年末の帰省で母に紹介するはずだった恋人と大喧嘩した男が、代わりに移民の女性を連れてきた。だが、実業家を引退し孤独に暮らすその母は、すっかり塞ぎ込んでいる。そこで息子は、母とは正反対の性格の伯母を呼び寄せた。水と油の人々の化学反応は、クリスマスをどう彩るのか。英のEU離脱が背景の「四季四部作」冬篇。

感想・レビュー・書評

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  • Sora Mizusawa Portfolio
    http://mizusawasora.com/

    アリ・スミス、木原善彦/訳 『冬』 | 新潮社
    https://www.shinchosha.co.jp/book/590175/

  • 現代のクリスマス・キャロル、という紹介文が気になって手に取った。もうすぐクリスマスなので。
    ざっくりあらすじを書くと、主人公のアーサーはクリスマスには恋人のシャーロットと共に母の家で過ごそうと予定していたが、直前にその恋人と大喧嘩をして一緒にクリスマスを過ごせなくなってしまった。
    たまたま出先で出会ったラックスという女性を雇って帰省中恋人(シャーロット)役になってもらうことに。そしていざ母の家に帰ると母親の様子がおかしくて…?というお話。

    幻想的な表現や、あれは一体なんだったんだろう?と最後まで謎の残る部分があったり、何度も過去と現在、語り手の一人称が入れ替わり立ち代わりする形式なので、読んでいる間私はほんとうに今この本を読めているのか?先の展開が読めない…!と戸惑いつつ読んだ。
    しかし分からないなりに引き込まれ、次第に話の中のキーワードがパチパチと繋がってゆき、読み終わった時には不思議な穏やかさが残った。
    言葉の掛け合いが面白かった。
    個人的にはだんだんソフとアイリス(アーサーの母とその姉)老姉妹のやり取りが好きで、他の登場人物にも読んでるうちに愛着が湧いてくる。
    何度も読み返してじっくり味わいたい。
    訳者あとがきによると秋、冬、春、夏の四部作のうちの一作らしい。四部作なので連なってはいるが、それぞれ単体で楽しめるとの訳者お墨付き。
    春、夏はまだ日本語訳が出てないのかな?
    順番は前後するがそのうち秋を読んで、春、夏の日本語訳の出版を楽しみに待つ。

  • 冒頭の『死んだ dead』に繋がる言葉を探す(私にとっては)ばか息子アートと、
    『頭 head』にクリスマスよと話しかける母ソフィア。こんな気が触れたような雰囲気から始まる…
    『秋』よりももっと政治的で時代背景を感じさせるのに、とても面白く読ませる。

    バカ息子アートは素敵な彼女シャーロットにあいそをつかされる。嘘だらけの彼のSNSに我慢ならないのだ。
    しかしクリスマスには母の家へ帰るため、シャーロットの代わりをしてくれる女性を雇う。彼女との出会い、図書館を出たところのバス停で3時間以上も集中して何かを読んでいた。若そうだが かなりの美人。そんなことよりもその集中力がすごい。読んでいたのは…チキンショップのメニューのチラシ!彼女の名はラックス、イギリスに留学したくてやってきた。今は、住むところを探す毎日。彼女がとにかく最高!

    クリスマス、ソフィアの様子がおかしい。(だって、『頭』と過ごしているのだもの)母を介抱し、親戚を呼ぶようアートに指示したのも全てシャーロット役のラックスだ。そして、犬猿の仲である姉、アイリスがやってくる。
    アイリスは活動家だ。若い頃から反社会活動をしていた自由奔放な姉と、真面目な妹シャーロット。
    なぜだかアイリスの周りには人々が自然と集まってくる。息子ですら彼女になついているのが気に入らないのだ。

    でもこの老姉妹がクリスマスを過ぎ、少しずつ心が溶けてゆく瞬間があって…

    いくつかの時代に話が遡ったり、戻ったり、クリスマスの思い出もいくつかあって…

    まるでクリスマス・キャロル。ソフィアはスクルージみたい。。

    ラックスが最高なのは、どうしてクリスマスだけが、地上に平和を全ての人に善意をなの?どうして1年中そうしないの?第一次世界大戦の時にクリスマスの時だけ休戦したって話し馬鹿げてる。ってかっこよく言うの。そしてシェイクスピアの『シンベリン』という話について語るところも最高におもしろ。

    合間に描写される『グリーナムの女たち』について私はまったく無知だったのですが(Google検索しました)アイリスの女性像を思い浮かべる助けになりました。

    そしてそして、ラストの方には若きダニエル老人も、相変わらず素敵な美術品に囲まれて登場!素敵だった。

    例の国民投票、ブレグジットがもちろんベースの時代。世代を超えた女たちの出会いがとっても素敵なおはなしでした。

  • スイスイ読めるし、なぜか情景とか雰囲気が映画を見てるような感じで脳内で再生される

    作品全体に出てくる全ての趣味嗜好が私の感覚と合うんだろうなと思う

  • アリスミス四季四部作、第1作目「秋」でつまづき、相性の良くない作家で終わるところだった。が、本の装丁に惹かれ、「冬」を手に取った。1作目で著者の作風は織り込み済み、EU離脱問題を背景にますます政治的な主張に、戸惑いながらなんとか読み進めると、いつの間にか心地良い物語の世界にとっぷり浸かっている自分に気が付いた。これって、いつか読んだイギリス人作家がクリスマスの情景を描いた感じに似ているなと。ディケンズのクリスマスキャロル?それともクリスティの数あるミステリー作品のクリスマスに絡んだ作品だったろうか?特定することは不可能だけれど、この辺りからこんな風にクリスマスを過ごすのも悪くないなという感覚、物語を傍観者として見届けたいという思いを抱くようになった。どこか尖ったような作品を書く人だと思っていたアリスミス、このようなコジーな世界観をも表現できるのかと、私が彼女の作品に歩み寄れた瞬間であったように思う。
    一方物語は、クリスマスを一緒に過ごす登場人物のうち唯一血のつながっていない移民のラックスを通して、家族の再生とイギリスにおける外国人排斥という現実を見せてくれる。またどこかでラックスに会えたらいいなと感じながら読み終えた。

  • クリスマスに恋人と母を訪ねるはずだったアートは、直前に別れてしまい、バス停でたまたま出会った女性に恋人を演じてもらう。…と書くとスムーズなのだか、小説自体は母親が突然見えるようになった頭だけの何かを眼科医に診てもらう、というシーンから始まる。過去と現在、母親とアート、母親の姉、様々なシーンが交互に出てくる。その上、英語圏では常識的なフレーズやキリスト教的知識などが色々出てくるのでできるちょっと大変。
    読み終わった感じは、ほっとした温かさといったところか。

  • ★★★の評価は、こちらの問題。
    英語が得意ではないので、言葉遊びについていけない。
    シェークスピアや文化にも疎い。
    その当たりを理解していたら、もっと惹かれたのだと思う。
    ディケンズの「クリスマス・キャロル」を下敷きにしたらしい、
    時間が入り組む構成は面白いのだけれど、
    頭は何なんだ?四部作なのに、いきなりこれから読んだからいけないのか?
    と悩んでいたら、あとがきに「頭は?」と訳者も書いておいでだ。
    な~んだw

    英国やヨーロッパの今を垣間見ることのできるという点で貴重。
    そして、まちがいなく、後半に入ると、おもしろくなる。

  • クリスマスに家族が集まる話。

    過去の記憶と今を行ったり来たり。

  • クリスマス、ディケンズのクリスマス・キャロルがモチーフであり、季節は冬。
    仕掛けや企みが多いのでついていくのがやや大変だった。ライトモチーフに注意しながら聞くオペラというか。先に進んでまた前に戻り(少年が地下世界に迷う話?いや性別を曖昧にした子供の話?)行きつ戻りつして読んだ。ラックスが印象的なキャラ。バラを挟んだシンベリンの本のエピソードはなんて美しいのかと思っていたら最後にもまた繰り返される。
    4部作だが秋と冬のつながりはさほど強くなく独立して面白い。しかし翻訳の木原さんが「春を読むまでは季節に伴うムードをテーマにしているとうい感覚」といっているので、次に連作としてのさらなる仕掛けが見えるのかもしれない。

  • 「人間的コミュニケーションの陥穽」。
    時代の激流。神話の信者たち。抵抗の放棄。無関心と無感覚。
    ふと周りをみわたすと、気狂いがたくさんいる。たぶん、わたしもそのひとり。ふだん、月も見上げないような連中が、月蝕のときだけなにかの儀式みたいにスマホを夜空にむけている。でも、半分くらいはすでに俯いて我が先にとだれかに(世界中に!)それを知らせようとしている。だれもその 目 で、月 をみていない。その奥にある恐ろしさも美しさも物語も、なにも。

    正義と狂気のはざまで、ただ、日々を憂う。わたしにはそれしかできない(呪われている!)。慈しみを孕んだ無邪気さにすくわれることも知っているはずなのに、まるで無力だった。大切なひと(あなたやわたし)のまえで。
    「意地悪せずに、優しくしてくれ
    ちゃんと相手をしてくれよ
    だって僕は木でできているわけじゃない
    僕の心も
    気でできているわけじゃないんだから」

    凍えるほど寒い冬のあとには、あたたかい光溢れる春がくる。そんなことしっている。けれどまだいまは受け止めきれない顫えるあのこもわたしをも、そうっとだきしめよう。
    テレビでは今日もぺてんが犬のように吠えている。ワンワン。SNSでは過激な神話が喧しい。チュンチュンチュン。
    "What's to day?" 薔薇の香りのするバラバラな夢をみる。上等。

    「礼には及びません、と母は言う。
    お呼びでない客だけに、と女が言う。
    ハ!と母が言う。」

    「私たちは皆、それぞれ自分のやり方で、それぞれの時期に、自分に穴を開け、掘り崩し、地雷を設置する、とソフィアは考える。」

    「その問いとはつまり。誰の神話を信じるか、ということ。」

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著者プロフィール

1962年スコットランド生まれ。現代英語圏を代表する作家のひとりで短篇の名手としても知られる。『両方になる』でコスタ賞など受賞多数。おもな著書に、『秋』『冬』『夏』『春』の四季四部作など。

「2023年 『五月 その他の短篇』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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