夏 (新潮クレスト・ブックス)

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  • Amazon.co.jp ・本 (400ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784105901813

作品紹介・あらすじ

ブレグジットからパンデミックへ。苦悩深まる世界の新たな希望を描く最終巻。私が自分の人生の主人公だとしても、私たちはこの星で生きる資格がない。感染症の流行が始まった英国で、環境破壊に心を痛める少女が海岸で出会ったのは、母の形見の丸い石を届ける途中の男とその相棒。少女も家族と一緒に彼らの旅に加わり――EU離脱をきっかけに始まった不協和音だらけの交響曲、祈りに満ちた最終楽章。

感想・レビュー・書評

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  • イギリスのEU離脱(ブレグジット)からパンデミックまでを書き継いだアリ・スミスの超大作「四季四部作」、最終巻『夏』の刊行(6月30日)を記念し、四部作を納められる特製BOXをプレゼント|株式会社新潮社のプレスリリース
    https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000607.000047877.html

    アリ・スミス、木原善彦/訳 『夏』 | 新潮社
    https://www.shinchosha.co.jp/book/590181/

  • 10月に『秋』を手にしてから、10ヶ月近くもかけてこの4部作を読んできました。
    おかげで長く一緒にいた登場人物たち、なんと言ってもエリサベスとダニエル、アート、アイリスたちのことは家族のように忘れられないし、彼らのそれぞれのブレグジットの受け取り方のおかげで、英国の正式名称(グレートブリテン及び北アイルランド連合王国)が頭からはなれなくなってしまった。

    『夏』だけは、秋、冬、春を読んできた人だけが味わえる、幸せなこの物語のなんていうか伏線回収とは言いたくなくて、
    それぞれの人物の思いや歴史が繋がって…沁み入るような物語感覚を得られるのです。

    中心になるのは 個性派揃い、グリーンロー家のおはなし。

    サシャとロバートの最高な姉弟。
    文学を愛しているが、娘サシャにとっては俗っぽく見えている元女優の母グレース。

    サシャは地球環境問題活動に傾倒し世界を変えたいと本気で思っている。自動車には乗らない。グレタ・トゥンベリが彼女のヒロイン。

    ロバートは現実主義者。賢すぎて世界をバカにしているところがある。アインシュタインだけを信じている。

    この姉弟のおかげで偶然出会うカップルは、『冬』で別れたかのように思えたアートとシャーロット!

    この5人で老人ダニエルを訪ねて行くことになるのだ。アートの母ソフィアから預かった石を渡すために。

    ダニエルはエリサベスの家にいて…
    この後の物語の進み方が好き。
    ダニエルの消息不明の妹のことも不思議に現される。

    と、どんどんこれまでの物語が繋がっていく。

    子どもたちにとっては俗っぽくめんどうな母グレースも、素敵な過去を思い出すことになる。かならず登場するシェイクスピアや、ディケンズは彼女のターンで回想される。

    そして物語の現在といえば、新型コロナウィルスの初期の頃。アートの叔母、革命家のアイリスは、やっぱり動いてる!けど…

    印象的だったのは サシャが移民施設にいる英雄さんに手紙を書くという彼女のやり方。アマツバメについて延々と書く。そして、ラストではアートとシャーロットのメールでのやりとりに鳩がでてくる。ここもなにか繋がっているのかな。

    賢くかわいいロバートがアインシュタインを引用していたところが素敵なので、最後に置いておきますね。

    _人類は星を眺めることで最高の知的な道具を手に入れた。でもだからといって、僕らがその知識を使って何かをしたとき、星にその責任を負わせることはできない。_

    木原善彦さんのアリ・スミスにどっぷり浸かってきたので、4部作読み終えてようやく岸本佐知子さんの訳したたアリ・スミスにいけます。

  • 四季四部作、めちゃくちゃ面白かった
    アリ・スミスの自然の見方がすごいな
    長い時間と時代を生きてきたダニエルと、彼を中心に目に見えない網のような形で繋がる人間の物語だったな……
    いやそんな形では定義できない……
    もっと壮大な何かだったな…

  • 四季四部作、最後の物語『夏』の登場人物は、元女優のグレース、その長女サシャと長男ロバート。この一家を中心に物語が展開し、途中『秋』で登場したダニエルとその妹について話が及ぶ。ただし、それはそれぞれの物語のピースがぴったりはまってめでたし、というのではない。翻訳者あとがきであるように、「こうして登場人物たちは何も知らず、ただ隠された意図に導かれて出会い、別れていく」のである。私たちも、この世界に何等かの役割を持って生まれ、生かされているのであろうか。

    今回も、作中に実存した興味深い人物発見! ハンナ・アーレント。そして、ロレンツァ・マッツエッティ。恥ずかしながら両者の名前とも馴染みがなかったが、こんな好奇心を刺激してくれるのもアリ・スミスの魅力。

    四季四部作を読み終え振り返ってみると、初めて読む彼女の作品に戸惑いの連発だった。翻訳者木原氏の優れた翻訳はもちろんのこと、随所で示してくださった作品の魅力と読解のヒントを頼りに何とか読み進めることができた。
    物語を通して、作者はイギリスがそして世界が現在進行形で抱えるEU離脱問題をはじめとし、移民問題、SNS、新型ウィルス、ジェンダー、戦争、そして人種差別といった問題を作中に散りばめ「分断」を浮き彫りにし、自分の考えを明確に持ったユニークな人物を登場させ「希望」の光を当てる。そこになんともいえない爽快感を感じた...。というのが一通り読んだ読後感なのだが、もう一度読み直し、作者の意図に少しでも近づきたい。それほどアリ・スミスの作品は、私には難解で、読み応えがあり、でも惹きつけられる魅力があった

  • 夏という季節は生命感の横溢、ポジティブなエネルギーという意味が込められているのは、冬が暗く雨の多いイギリスだからだと思いながら、日本の暴力的でどうしようもない真夏に読み終わった。図書館で借りたので過去作との繋がりを確認できず、後書き頼みだったのでさほど大きな感動が押し寄せなかったのは残念。メンバー勢揃いで大団円!というものではなく、運命の細い糸の先にいる人々はその繋がりを知らないままに生きていく話なので、余計にわかりづらい。それでも、様々なピースを見事に繋ぎ合わせてビックピクチャーを描いたのは見事。サシャと英雄の手紙(アマツバメ)、心が折れるシャーロット、こじらせたロバートの一目惚れなど、印象的なエピソードは、日本の夏が暑すぎたとしてもなお心を暖めてくれる。

  • 『秋』から始まった四部作もとうとう終わり。なぜ秋から始まって夏で終わりなのだろうと思っていたけれど、『夏』を読み終わってとても納得。生命力に溢れ一番の頂点にして、他の四季に比べて一瞬の時である夏。こんなに読んでいて夏を感じるとは思わなくて少し動揺している。
    p9“みんなが言った。で? つまり、で何? つまり肩をすくめるしぐさ、あるいは私にどうしろって? あるいははっきり言ってどうでもいい、あるいは実際、悪くないと思う、別にそれで構わない。”からp12までの流れ、そして「で?」の言葉の強さに動揺していた。終始、動揺していた気がする。
    環境や貧困問題に目をむけ訴えることを選択した姉と、問題行動、皮肉でもって周りに示している弟。そんな二人を中心に『秋』『冬』『春』に登場した人物たちがかかわってくる。EU離脱から流行感染へと流れた世の中で生きている人たちの揺れる気持ちや分からなさが痛いほど伝わってくる。
    『冬』に登場したシャーロット。終盤、シャーロットを中心として書かれた場面がとても好き。なにがどう、とは上手くいえないけれど、部屋に閉じ籠もる気持ちがすごく分かる。自分とダブらせて読んでしまってしんみりしてしまうくらいには。四部作のなかで一番『夏』が好きかもしれない。

  • 「許しは、不可逆的な歴史の流れを逆転させるただ一つの方法だ」
    怒りは、沸騰したお湯のようににえたぎっている。若かりしころの、センチメンタルな情熱を思いだす。それは誇らしくて、そしてちょっぴり恥ずかしい。
    どうしたら、人間を厭にならないでいられる??憎まずにいられる??
    So what!? "2つの幻想" から解放され、わたしはずっと泣いていた。その奇跡に。すべてのめぐり合わせに。知られざる、英雄たちに。
    重みにたえる "Summer" 。わたしはたぶん、期待しているから、絶望する。だからまだ諦めていないんだ。優しさも。愛も。じぶんじしんにも。きっと、世界にも。
    ささやかな笑顔が(たとえ顔の上半分だけだとしても)、それがひかりのように反射してだれかを照らし、それがまただれかをあたためることがあるかもしれない、なんて臆病なわたしは夢をみる。ひそやかに怒り、時々 神話 も信じている、そんなにんげんなのだけれど。あなたたちは、どんなひとで、なにを想っているのだろう。穏やかなきれい事や気狂いに吠える、その奥の、やわらかいところは。?? 幾つ、あなたをもっている。??

    四季四部作。後半は彼女の熱量にすこし疲れてしまったりしたけれど(シャーロットみたいに)、とても心躍る1週間を過ごさせてもらった。1週間ほどとは信じられないくらい。まるで時間が引き伸ばされていたような、それこそ春夏秋冬をめぐっていたくらいの体感時間だった(ほら、時間旅行◎)。さびしい。もう、またみんなに会いたくなってる。


    「最近の私たちは図々しさに慣れすぎたせいで、図々しさそのものにさらに磨きがかかっているみたい」

    「今みんなが身につけている小さな布マスクについて彼女は考える。それはつまらないものだ。ただの落ち葉、風に舞うごみにすぎない。この地球上の嘘つきどもがかぶっている本物の仮面(マスク)にくらべれば。」

    「誰も見ていない。見ていたとしても、どうでもいいと思っている。」

    「だって僕らはみんな今、塀のない刑務所で生きているのだから。」

    「変化はただやってくる、と男は言う。必然性があって変化は起こる。こちらはそれに合わせるしかない。変化の中で生きていくしかない。」

    「私たちにはまったく新しい教育が必要、と姉は言う。過去のことは過去のこと。これから起こるのはそうぞうもできないようなことなんだから。」

    「でもアインシュタインの考え方に従って、あなたと僕と、時間と空間を全部足し算すると。さてどうなるでしょう?~あなたと僕は単なるあなたか僕とか以上のものになる。"僕ら" になるんだ。」

    「邪悪が求めるのはたった一つのこと。自分自身の増殖です。それは自分、自分、自分、繰り返し何度でも自分ばかりを求める。」

    「私は夏まっただ中にいるときでさえ、その本質を手に入れることができない。」

    「私の中の木は決して死なない。たとえ私が灰になり、塵に戻ろうとも。その木は空と。地上の私たちをつなぐ。私の中の木は決して死なない。恋人たちの寝息も。天空の葉と空気が奏でる。内気な音楽とは比べものにならない。」

  • 四季4部作も、ついに完結です。
    この「夏」では、新たな登場人物に加えて、秋・冬・春に登場した人物も顔を出し、それが結びついていきます。
    いろいろな力が、人と人を引き裂き、隔たりを作り、理解し合うことを拒絶する中、それでも希望はある。そう思わせてくれる、爽やかで清々しい思いが心に残る、素晴らしい結末でした。
    そして四季が巡るように、もう一度「秋」からこのシリーズを読み返したいと思いました。(^^)

  • 四部作の他の巻を読まずにいきなり、夏から読みました。covidのことはとりあえず置いといて、思ったことを。記憶について。話のほぼ半分近くが、登場人物達の記憶の回顧。その記憶も現在といい具合に交じったり、忘れたりしている。夏の修道院での美しい1日の記憶も、語り手からは語られるが、登場人物はすっかり忘れている。が何となくの気分で、再訪したりする。然し、何も劇的なことは起こらない。むしろ語り手からは語られないところで人生のターニングポイントが起きてたりする。そんなことで物語が面白くなるのかと言うと、これが味わい深く読める。登場人物が物語を進めるために類型的にならないからか。むしろ詩的な映像が浮かんで、その情景が印象に残る。映画的というより、漫画的な味わい。グラフィックノベルのような。それを活字だけで味わう喜び。

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著者プロフィール

1962年スコットランド生まれ。現代英語圏を代表する作家のひとりで短篇の名手としても知られる。『両方になる』でコスタ賞など受賞多数。おもな著書に、『秋』『冬』『夏』『春』の四季四部作など。

「2023年 『五月 その他の短篇』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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