戦後日本漢字史 (新潮選書)

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  • 新潮社
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感想 : 7
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  • Amazon.co.jp ・本 (270ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784106036682

作品紹介・あらすじ

昭和20年、日本にやってきた占領軍は、何千という文字を使いこなさなければならない漢字を「民主主義」の障害と考え、国語のローマ字表記を提案した。その後、漢字の使用を制限した「当用漢字表」、使用の目安へと転換した「常用漢字表」を経て、29年ぶりに刷新される「改定常用漢字表」まで、「書く」文字から「打つ」文字となった変遷を辿る日本語論。

感想・レビュー・書評

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  • とてもおもしろくて刺激的な本でした。日本の漢字使用の歴史とその中の問題点がよくわかります。そして,パソコン入力が多くなった,今,私たちはどのようにたくさんの漢字とつきあっていくべきなのか,考えさせられました。
    ほとんど漢字を廃止してしまった韓国=朝鮮。日本と違う簡略漢字を多く使っている中国と比べてもおもしろいです。

  • 戦後の漢字について、当用漢字、常用漢字などの、漢字の制限、使用目安への移行、IT機器普及による書く漢字から打つ漢字へ、などの環境の変化について漢字にまつわる話が興味深く面白かった。

  • 帯文:”敗戦後の国語改革は、アメリカの漢字廃止策から始まった。” ”漢字使用の変遷をたどる刺激的日本語論。” ”漢字政策がたどった紆余曲折の道のり”

    目次:はじめに、第1章 終戦と漢字;1-1 国語ローマ字化への模索,…他、第2章 常用漢字表への道のり;2-1 人名用漢字の制定,…他、第3章 「書く」時代から「打つ」時代へ;3-1 機械で書けない文字,…他、第4章 「常用漢字表」の改定;4-1 「己」と「巳」は同じか,…他、あとがき、年表

  • 常用漢字、人名漢字、…、漢字(の表記など)にまつわる戦後の過程を知ることができてよかった。

  • (推薦者コメント)
    2010年、常用漢字表がその制定以来始めて改定された。その際、「鬱」「箋」など、多くの漢字が追加された。そんな常用漢字は、かつては当用漢字として国民に漢字の“制限”をかけていた。戦後から現在に至るまで、GHQなども複雑に絡み合った、漢字使用範囲の制限の歴史を辿る。

  •  みんな普通に漢字仮名交じり文で日本語を書いてるが,実は過去に二度,漢字廃止の危機があったことを御存じだろうか。明治維新期と戦後の一時期である。本書では,このうち戦後に漢字が辿った運命を概観する。
     昨年「新常用漢字」が決められたが,著者の阿辻氏はそれにもかかわった漢字の権威。戦後,漢字は結局廃止こそされなかったが,字体や音訓をいじられ,当用漢字・常用漢字と他の漢字の間で相当な混乱が生じ,それは今も尾を引いている。著者はそれに対する憤りを隠さない。
     漢字は昔から難しいとされ,何千もの漢字を使う日本語は,合理的な思考を阻害し,民主化の妨げになっていると指弾されてきた。戦前からカナ書き論者,ローマ字書き論者がいて,漢字の廃止を訴えていた。それが敗戦によって勢いをつける。占領軍は26のアルファベットで事足りるアメリカ人。何千という漢字を使う日本語なんておかしい!と漢字廃止には当然前向きだった。日本は負けたが,カナ書き論者,ローマ字論者は,まさに鬼の首をとったようだったに違いない。ほら言わんこっちゃない,漢字のせいで敗けたのだ!封権的な漢字を排斥するには,敗戦直後の今が絶好のチャンスである。次の機会は訪れないかもしれない。
     歴史的にも大きな社会的変革期に文字改革が行われた例は多い。1922年共和制に移行したトルコはアラビア文字をローマ字に変えた。ベトナムはフランスの支配下,1919に科挙を廃止し,次第に漢字を捨てていった。これと同様に,戦後,日本語から漢字がなくなっていたとしても不思議ではない。だが,幸いそうはならなかった。なぜか。自分なりにまとめると,文盲率が低かったこと,そして同音異義語が多くて表音式表記では意味が取りにくかったこと。この二点だろうと思う。
     敗戦によって,それまでの人間が総入れ替えされるわけではもちろんないから,それまでの慣行を急にやめることは難しい。特に生活に不可欠な言語については当面それまでのものを使うしかない。日本人の多くが漢字の読み書きがある程度できていたため,急激な文字改革は避けられた。そこで,とりあえず漢字を易しく,数を少なくしましょう,ということで二千ほどの「当用漢字」が決められた。字体も簡略化され,読みのバリエーションも絞られた。新聞もこの規制には大賛成で,社説などで音頭をとって推進した。活字の節約ができるからである。
     学校教育もこの「当用漢字」の範囲内で行われた。字体の簡略化は,文字の起源をたどれなくなるというデメリットをものともせずに行われた。例えば「臭」は鼻を表す「自」と「犬」があわさって「におい」を意味する会意だが,「自」と「大」にされた。一画の節約のために。「突」も本来は「穴」+「犬」だ。穴から犬が突然出る。ちなみに「然」の右上は「犬」のままというダブルスタンダード。他にも,もとは同じ「つくり」を共有していた「独」「触」と「濁」は同系であることが分かりにくくなった。「仏」「払」と「沸」「費」,「伝」「転」と「専」と「団」も然り。
    「当用漢字」にない字については,かな書きすることとされた。それで「はく奪」「軽べつ」などの見苦しい交ぜ書きが生れた。このような不具合は,過渡的なものとされ,重視されなかった。何せ将来的には漢字全廃も視野に入っていたのだ。それよりかなとローマ字のどちらで書くかが問題だ。産業界からも漢字は槍玉に挙げられた。種類の多い漢字はタイプライターに不向きで,合理的な文字でないとされた。これについては技術の進歩で今では何の問題もないが,昔は深刻な欠点とされていた。人を道具に合わすのでなく,道具を人に合わせるのが本当だろう。そんなことも見えなくなっていた。
     とにかく敗戦の衝撃と言うのはものすごかったらしく,志賀直哉は雑誌『改造』で,「日本はフランス語を国語にすべし」と主張するほどだった。意味がよくわからないと思うが,漢字なんかあってややこしくダメダメな日本語をやめて,今後日本人はフランス語で読み書きするのがよいというのだ。志賀直哉といえば文豪である。日本語を操り,芸術作品にすることで飯を食ってきて,それで日本語は絶滅してよし,とするのだから正気の沙汰ではない(しかもそれを日本語で書いてるし)。今も震災で日本ヤバイって感じだが,当時は今から想像できないくらい日本はやばかったのだろう。
     漢字のほか仮名遣いなども含めて,国語の歴史については,高島俊男『漢字と日本人』を読んで以来,一家言あるのだが,このくらいにしよう。阿辻『戦後日本漢字史』は漢字をめぐる戦後の歴史をつかむのにちょうどよい本と思う。オススメ!

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著者プロフィール

京都大学名誉教授、公益財団法人日本漢字能力検定協会漢字文化研究所所長

「2017年 『角川新字源 改訂新版 特装版 』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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