文明が衰亡するとき (新潮選書)

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (301ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784106037092

作品紹介・あらすじ

なぜ文明は衰亡してしまうのか?本書では、巨大なローマ帝国が崩壊する過程や、中世の通商国家ヴェネツィアの興亡を検証。繁栄そのものの中に衰亡の本質はあり、その原因には多くの共通項があることを説く。そして現代、膨張し続ける超大国アメリカにも、すでに衰亡の萌芽が…。人類の栄光と挫折のドラマを描く、必読の文明論。

感想・レビュー・書評

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  • ◯ 運命は変わり易く、また無情である。しかし、だからこそ人間は、いついかなる場合にも最善のことをすべきであるという態度がそこにうかがわれるからである。(91p)

    ◯ 冒険を避け、過去の蓄積によって生活を享受しようという消極的な生活態度は、ヴェネツィア人の貴族の男子で結婚しない人が増えたことに現れていると言えるであろう。(172p)

    ◯ アメリカでおこっている大衆民主主義化=福祉国家化という現象は、政治権力を持つものを制限するというよりは、疲れさせるもののように思われる。(244p)

    ◯ アメリカにしかないアメリカのよさとは、「他国のように"国家"ではない。"国土"でもない。そうではなくて、アメリカは、"信条"なのだという信念」に基づくものであり、それは孤立の上にのみ可能なものだからである。(272p)

    ★ローマ、ヴェネツィア、アメリカの衰亡について考察している。それぞれが大変面白い歴史読み物になっている。ただしそこに共通する法則を見出して教訓にするとか、そういった目的は感じられない。だいたい、ローマやヴェネツィアの長い歴史の総括と、現在進行形のアメリカの話を同列には語れないだろう。

    ★とはいえ、アメリカの章もとても面白い。都市の変遷の話、正しさを信じベトナム戦争に向かい自信を失う話、文化と技術を惜しみなく世界に広め、国際政治に関わっていったが故に優越性を失う話、福祉国家化が政府を疲れさせ国民の不満も解消しないという話、それぞれが面白いが1冊の本に詰め込みすぎの印象だ。この本は論文として読むのではなく、エッセイとして読むのが楽しい。

  • ローマ、ヴェネツィア、1960-70年代のアメリカという時代・地理ともに異なる文明を「衰頽」というテーマで貫いた著作。

    著者の感覚的で断定的な記述が少なくない。それらがしっかりと腹落ちするかは読者の見識に依るところが大きいように思う。
    よく見ると論拠が書かれていることもあるが、そうでない場合には著者の思想や感性を掴む必要がある。
    特にアメリカの部分はついていけなかった印象が強い。

    一方で、ヴェネツィア衰頽の原因に関する洞察は興味深かった。終章にかけての、通商国家の根本的な脆弱性を一般化した説明は非常に含蓄があったように思う。

    そして本書の最たる美点は、歴史研究への向き合い方を示したことである。
    歴史的な法則を追究する目的意識が強すぎると事実を見誤りかねない。しかし、歴史は「運命への感覚」を与えてくれる。そこに歴史研究に現代的関心を持ち込む意義がある。

    好きな著作ではなかったかもしれないが、学びの多い良書だった。

  •  本書は1981年に書かれた本だが、2023年の今読んでも真新しさを感じる古典である。
     大きな版図を誇ったローマ文明、日本に似た海洋通称国家ヴェネツィア、現在文化を代表するアメリカを題材に文明が隆盛する事情、衰亡に至る過程と要因を丁寧に、粘り強く書かれている。
     特にヴェネツィアは日本に環境が似た資源がない貿易立国であることから、その盛衰の過程は興味深く感じた。
     印象残った点として、資源や人口などの確固たる基盤がない国が隆盛するのは、その時々の環境に適応したときであるが、環境は必ず変化する。
     ヴェネツィアの場合は、東方諸国の加工品を西洋諸国に転売(反対に西洋からは原料を仕入れて転売)する図式が崩れたとき(東方からはオスマンの版図拡大への武力対抗を迫られ、西方では希望峰ルートの開拓のため独占的な貿易ルートが崩された)であった。ヴェネツィアも希望峰ルートでの貿易へ参画できれば以後の繁栄も続いた可能性があるが、それまでに確立した国の運営体制を続けたため、海上貿易の競争力を維持できなかった。即ち、長期的展望が見通せない場合は、目先の苦労や落ち込みがあっても、変化が必要であるということ。



  • Amazonで評価が高かったので、読んでみた。
    自分の歴史の知識が浅いため、難しく感じる部分が多かった。
    また、同じようなことを何回も回りくどく言っているように感じた。
    ただ、著者の知識や分析は非常に幅広く、頭が良いのだなぁと思った。
    また、日頃の仕事ではストレスを感じるが、文明や歴史に触れると、自分の悩みがいかに小さいかを感じて、心が軽くなって、救われる。

  • いま、なぜ、衰亡論か
    第1部 巨大帝国ローマの場合
    美徳の喪失
    ギボン→ウェーバー
    共和制の変質
    大衆社会状況の出現
    五賢帝時代の叡智
    エリートの精神
    頽廃
    巨大なものの崩壊
    財政破綻
    増税と不公平税制

    第2部 通商国家ヴェネツィアの栄光と挫折
    小人工島国の興隆
    匠な外交
    秀れた知恵
    社会組織能力
    繁栄を襲った試練
    優位条件の変化

    豊かな社会の内なる変化
    守旧的知性増大
    通商国家の脆弱性
    自由で強い精神の衰弱

    第3部 現代アメリカの苦悩
    戦後アメリカの都市の盛衰
    都市論
    郊外化
    最先進国のアイロニー

    優越の終り
    トランスナショナリズムの自己矛盾
    アメリカニズムからの脱却

    工業文明への信念の動揺
    コカコラニゼーション
    ローマ・クラブの成長の限界
    豊かさへの罪悪感
    請求嬉々と南北問題
    大きな政府と活力の衰頽
    福祉国家の疲れた政府
    企業のやる気の減退
    近代合理主義が生んだ病

    通商国家日本の運命
    ヴェネツィアとオランダの教訓
    明日の世界を生きるために

  • もともと学生時代の25年以上前に読んだ本。いまの日本人への警句ともいえる言葉が多く並んでいる。必読の書だと思います。

  • 教訓、アナロジカルな思考
    「文明が衰亡するとき」を事例に歴史を学ぶ意義を体感できる一冊。

  • ローマ帝国、ヴェネツィア共和国、戦後アメリカの3つの文明の盛衰を眺め、最後に海洋通商国家日本の衰亡について考える。
    変化に適応することに疲れ、進取の気風が失われたときに、日本文明も本当の終りを迎えるのだろう。

  • [評価]
    ★★★★☆ 星4つ

    [感想]
    ローマ帝国、ヴェネツィア、アメリカ合衆国という歴史上に大きな足跡を残している国家を題材に文明の発展と衰退の本質に迫り、原因を読み解いている。
    ローマ帝国は古代地中海に広大な領土を保持し、ヴェネツィアは中世ヨーロッパで海上の極小な領土で通商で強大な影響力を保持した。そしてアメリカ合衆国は現代においても世界中に政治的、経済的にも大きな影響力を行使し続けている。
    これらの全く異なる国家の中に衰退となる共通した原因が見て取れるのは中々に面白かった。また、衰退が急激なものではなく、途中に中興等を挟みながらも徐々に進行していたという事実は少子高齢化が進む日本でも十分に当てはまるケースなのではないかと思えた。
    アメリカ合衆国の冷戦を終わらせるための譲歩が結果的には世界に対する影響力を弱め、冷戦時代と比較し、衰退しているという考えは今までに考えつきもしなかった。

  • 高坂正堯 「 文明が衰亡するとき 」 ローマ、ヴェネツィア、アメリカの衰亡論。歴史の捉え方、成功者の保守性、衰亡の不可避性、衰亡する文明国家の生き方 などを論述。

    良書

    ローマ帝国=巨大帝国、美徳、大衆、増税
    *モンテスキュー 共和制→専制政治=ローマ衰亡の始まり
    *専制政治=皇帝の専制と民衆の愚民化

    セネカ 「生きることは戦うことである」
    権力と富を享受しうるようになったローマで、敢えて そこから逃避せず、その奴隷にならないように 誘惑と戦う

    「税は 一定以上になると、その使われる目的が 良いものであろうと〜反抗を招き、税をのがれるため工夫を生み出そうとする」

    ギボンの歴史観=文明は衰亡を避けられない
    平和は富を生む→富は驕りを生む→驕りは怒りを生み、戦争を生む→戦争は貧困を生む→貧困は謙虚を生み、謙虚さが平和を生む

    衰亡が避けられない文明の生き方
    「だからと言って 投げやりにならず、その都度 目の前の問題に立ち向かうこと」

    ヴェネツィア=最小面積、最少人口の最強通商国家
    *複式簿記=人の行動を協同化する知恵
    *安全保障費と社会保障費の増大→経済活力が減退
    *合理主義→教条主義へ

    アメリカ
    *大衆民衆主義=福祉国家→モノ取り主義→高い税金と政府規制
    *銀行のように行動する会社=投資の利潤(回収) →客観的な分析→現場の経験から得られる洞察力を無視

    「アメリカは 国家でなく、国土でもなく、信条である」

    「文明の便宜を享受しながら、それを非難する偽善者が現れる傾向は 文明の衰退の始まりを示すひとつ」

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著者プロフィール

1934年(昭和9年),京都市に生まれる.京都大学法学部卒業.1960年より2年間ハーバード大学留学.法学博士.京都大学教授.専攻,国際政治学,ヨーロッパ政治史.1996年(平成8年)5月,逝去.『高坂正堯著作集』(全8巻)のほか,著書に『世界地図の中で考える』『政治的思考の復権』『近代文明への反逆』『外交感覚』『現代の国際政治』『平和と危機の構造』『高坂正堯外交評論集』『世界史の中から考える』『現代史の中で考える』などがある.

「2017年 『国際政治 恐怖と希望』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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