資本主義の「終わりの始まり」: ギリシャ、イタリアで起きていること (新潮選書)
- 新潮社 (2012年11月1日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (255ページ)
- / ISBN・EAN: 9784106037191
作品紹介・あらすじ
EU金融危機の本質とは、単なる財政破綻問題ではなく、資本主義そのものが変容する前兆ではないか?我々の意識の底で、成長至上主義が終わろうとしているのではないか?ローマ駐在の新聞記者が、南欧の街頭で市民の話に耳を傾け、歴史や哲学、政治、経済などの碩学の知見も集め、資本主義の「次の形」を探求した刺激的論考。
感想・レビュー・書評
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☆ナイーブな報告。
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[震源地から扉は開くか]世界的に注目を集めた欧州経済危機の発端の地となったギリシャと、それに続くと一部から目されてしまったイタリア。その両地を取材する著者が、危機の影響と今後の社会の行く末を、有識者とのインタビューを通じながら論考した作品です。著者は、毎日新聞の記者を務める藤原章生。
経済危機(そして近接する時期に起きた東日本大震災)からどのような社会的教訓が得られ、どのような未来が描かれるかということを筆者なりの視点でまとめており興味が持てました。資本主義の限界を指摘するその考えに賛同するか否かは別としても、読み手に市場や経済について様々に考える機会を与えてくれる一冊だと思います。
ギリシャやイタリアの(少なくとも一部の)人々が自らの「危機」をどう捉えているかというのが感覚的に伝わってくるのも本書の魅力の1つ。本書を読む限りでは、イタリアとギリシャの間には危機の捉え方についてずいぶんと大きな差異があるなと感じられ、とても意外に思えました。なお、ギリシャの経済情勢を経済的・統計的に分析した本ではないのでその点はご留意を。
〜ここ地中海圏が、扉を最初に押し開こうとするだろう。〜
結構変わった本でした☆5つ -
ルポだったけど、時折りギリシャ人やイタリア人の気質が垣間見えるような瞬間があって、そういうところに魅かれる本。
以下、気になったところをメモ。
・「問題は経済というものさしが、政治も倫理も美学もすべてのことを決めてしまう物語(歴史)の中に私たちが生きているということだ。ここから解放されよう。扉を開こう。それが唯一の解決策だ。今の世代で始め、次の世代へと。 経済取引が第一原則ではなく、人間同士の交わりこそがすべての基本となるような世界を、私たちは想像できるだろうか……」(22p アンゲロプロスの言葉)
・多くの途上国は九〇年代以降、世界銀行やIMFの指導で経済データをそろえ、緩んだ空気は霧のように消えた。そんな中、ギリシャだけは実体は途上国なのに、「西欧」「ユーロ圏」というビニールハウスの中で緩い空気を大事に保ってきた。(46p)
・だが、読者に南アフリカの差別の問題をより深く伝え、それについていつまでも考えさせるのは、明らかにクッツェーの作品の方だった。 前者を政治的、後者を文学的とすれば、文学的な方が一人の人間の意識を変える、つまり啓蒙という点でより効き目があるのだ。(114p)
・アガンベンの言葉を借りれば、資本主義とは永遠の経済成長という非合理な宿命を強迫のように背負わされた宗教だ。ここでいう強迫とは、ばかげたこと、理にかなわないことであっても、ついそうしてしまうこと、そこに囚われ、そこから逃れられない衝動だ。 -
特派員としての経験を活かし、多くの現地取材とインタビューを通して、EUの金融危機の本質を炙り出す。資本主義とは経済に関する主義ではなく、宗教であり、世界のアメリカ化、若者の記憶の劣化を憂う。
成長至上主義の終焉、資本主義の次の扉を論考。 -
毎日新聞記者として2008年~2012年ローマ支局長を担当された著者。現地にいるからこそ補完する、ニュースで見聞きするギリシア、イタリアの金融危機と、そのさなかにある国民たちの温度差を現実味をもって感じさせる一冊。
火炎瓶を投げ、警察が放つ催涙弾にくもの子を散らす暴徒たちが、一線を越えないのは、マンマが大切にした家庭の絆という文化があるからという歴史学者デッラ・ロッジャの主張は意外に感じると同時に、腹に落ちた。
そして福島出身の著者が海外からフクシマを見たとき、歴然と存在し、かつ誇張しない日常が、ニュースとの距離感、温度差の根底にあるという意味で、イタリア、ギリシアと繋がっていくという展開は非常にダイナミックだと感じました。 -
たまたま図書館の新着本で案内がきた本書を予約したのは、タイトルに惹かれたから。危機が続くヨーロッパで何が起きているのか、そんなセミナーには何度か参加していたから。しかし、第一章のページを開いた時、私の予想は裏切られ、突然アンゲロプロスという名前が目に飛び込んできた。私にとってアンゲロプロスという名前は、鎌田實先生がプロデュースし、福島原発事故のあと作られた「ふくしまうたかたり」というCDに収められた加藤登紀子が歌う「スマイル・レボリューション」で「こうのとりたちずさんで」の作者として語られる名前だ。本書も単なる経済学の教科書ではなく、ギリシア、イタリアの歴史、人間性という観点から、欧州危機のなか何が起こっているかが語られる。そして、福島の原発事故についても、その視点を踏まえた上での筆者なりの考えがまとめられている。当初の予想は裏切られたが、なかなか面白く読めた。
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最初はかったるいな、そんなの知ってるよてな感じでしたが、途中からはグイグイ読んでしまった。著書の言う、クッツェー的な書き方の故か。国の在り方、経済成長市場主義、自由、人とのつながりについて考えさせられました。昔読んだ エンデの遺言 だったかな?を思い出しました。
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ギリシャ、イタリアの政治・経済の状況について。関係者へのインタビューの様子を織り交ぜながら、エッセイっぽい感じも。