世界史を変えた新素材 (新潮選書)

著者 :
  • 新潮社
3.88
  • (23)
  • (28)
  • (19)
  • (2)
  • (3)
本棚登録 : 390
感想 : 43
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (232ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784106038334

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  •  読み物として面白かった。

     優れたモノやアイディアを持った人同士が出会うと、お互いにそれをやり取りしたり改良したりして、さらに優れたものに進化させることが起こる。人が一生ひとところに留まっていれば、素晴らしいアイディアもぶつかり合い、磨かれ合うこともない。人が動き回ることは、文明の進展に必須の要素であったはずだ。
     マット・リドレー著『繁栄』には、その実例としてタスマニア島のケースが挙げられている。この島はかつてオーストラリア大陸と地続きであったが、海面の上昇によって1万点ほど前に本土から切り離された。すると、よそで開発された新技術は入ってこず、持っていた技術も継承者がいなくなるたびに消えていく。結局タスマニアからは、ブーメランや骨製の釣り竿、魚とりの罠や衣服を作る技術が、わずか数千年で失われてしまったという。外部との交流を絶たれて自給自足の状態に追い込まれると、進歩が止まるどころか衰退さえ起きてしまうのだ。筋力ではなく頭脳を武器として生きる人類には、過酷な旅のリスクを冒してでも、移動と交流、交易を行うことが決定的に重要なのだ。

     グッドイヤーは、ゴムに酸化マグネシウムや石灰などあらゆる粉末を混ぜ込む実験を重ねたが、溶解を防ぐことはできなかった。出資者が手を引いたために貧困に苦しみ、実験のために健康さえ害しながらも、彼は決して諦めなかった。借金のために何度も投獄され、貧しさのために子供を失いながらも実験を続けたというから、その執着ぶりは異常というほかない。
     グッドイヤーの凄まじい執念に対し、ついに運命の女神は微笑む。実験開始から5年目の1839年、ゴムに硫黄を加えて加熱することで、耐熱性を持たせられることを発見したのだ。グッドイヤーはさっそく特許を取得、1842年にゴム工場を立ち上げた。
     筆者はこの話を読んだ時、なるほどこれが世界屈指のタイヤメーカーであるグッドイヤー社であり、チャールズは長年の労苦が報いられて大金持ちになったのか―と早合点してしまった。だが実のところ彼は、加硫法という画期的な発明は成し遂げたものの、事業家としてはまったく成功できなかった。現在のグッドイヤー社の設立は加硫法の発明から半世紀以上も後の1898年であり、社名はチャールズ・グッドイヤーにちなんで命名されたものの、直接の資本関係などはない。

  • 金、陶磁器、コラーゲン、鉄、セルロース、炭カル、絹、ゴム、磁石、アルミ、プラ、シリコン。物性と化学と歴史で綴る材料文明論。孫引きではなく著者の言葉で描かれているので、知らないことはもちろん知っていることでも違う角度や別の表現になっていて楽しい。

  • 佐藤健太郎『世界史を変えた新素材』(新潮選書)読了。著書の『炭素文明論』に続く科学エッセイ。鉄や紙、プラスチック等の素材ごとに章立てして雑学チックに歴史やその影響を背景知識なくともわかりやすいように語られる。材料屋さんとしてはこういう素材の変遷の話とかは面白いし、いっぱい読まれるといいなと。

  • h10m-図書館2020-12-23 期限1/13 読了1/8 返却1/9

  • 買ってからようやく読了

    好きな著者のひとりで、特に化学について楽しく伝えてくれる。

    今回は炭素文明論から有機・無機関わらず素材全般を取り上げた一冊。

    歴史的な出来事や、現在まで生きる様々な事象を材料と結びつけ、色々な知識を得ることが出来る。

    やや硬い表現も多く、言葉を調べながらとなったが、とても楽しめた。

  • [評価]
    ★★★★☆ 星4つ

    [感想]
    革命的な素材は世界の歴史を変えてきたということがよく分かる内容となっている。各素材がコンパクトにまとまっているので一気に読むことができた。
    紹介されている素材は現代においても一般的なものばかりだが、それらの素材が活用されることで人類の発展に大きく貢献してきたことがよく分かる内容となっている。

  • NDC501.4
    「金、鉄、紙、プラスチック、シリコン……新素材が文明を動かす。「材料科学」の視点から、人類史を描き直すポピュラー・サイエンス。「材料科学」の視点で描く驚異のグローバル・ヒストリー! 金、鉄、紙、絹、陶磁器、コラーゲン、ゴム、プラスチック、アルミニウム、シリコン……「材料科学」の視点から、文明に革新を起こしてきた12の新素材の物語を描く。「鉄器時代」から「メタマテリアル時代」へと進化を遂げた人類を待ち受ける未来とは――ベストセラー『炭素文明論』に続く大興奮のポピュラー・サイエンス。」

    目次
    人類史を駆動した黄金の輝き―金
    一万年を生きた材料―陶磁器
    動物が生み出した最高傑作―コラーゲン
    文明を作った材料の王―鉄
    文化を伝播するメディアの王者―紙(セルロース)
    多彩な顔を持つ千両役者―炭酸カルシウム
    帝国を紡ぎ出した材料―絹(フィブロイン)
    世界を縮めた物質―ゴム(ポリイソプレン)
    イノベーションを加速させる材料―磁石
    「軽い金属」の奇跡―アルミニウム
    変幻自在の万能材料―プラスチック
    無機世界の旗頭―シリコン
    AIが左右する「材料科学」競争のゆくえ

    著者等紹介
    佐藤健太郎[サトウケンタロウ]
    1970年、兵庫県生まれ。東京工業大学大学院理工学研究科修士課程修了。医薬品メーカーの研究職、東京大学大学院理学系研究科広報担当特任助教等を経て、現在はサイエンスライター。2010年、『医薬品クライシス』(新潮新書)で科学ジャーナリスト賞。2011年、化学コミュニケーション賞

  • 人類史を駆動した黄金の輝きー金/一万年を生きた材料ー陶磁器/動物が生み出した最高傑作ーコラーゲン/文明を作った材料の王ー鉄/文化を伝播するメディアの王者ー紙(セルロース)/多彩な顔を持つ千両役者ー炭酸カルシウム/帝国を紡ぎ出した材料ー絹(フィブロイン)/世界を縮めた物質ーゴム(ポリイソプレン)/イノベーションを加速させる材料ー磁石/「軽い金属」の奇跡ーアルミニウム/変幻自在の万能材料ープラスチック/無機世界の旗頭ーシリコン/AIが左右する「材料科学」競争のゆくえ

  • 金、鉄、紙、炭酸カルシウム、ゴム、磁石、アルミニウム、プラスチック、シリコンなど、人類の進化の歴史を変えた素材たちについての読み物。
    それぞれの素材の歴史や人類に与えた影響を難しすぎない範囲とレベルでエピソード紹介してくれるので楽しく読める。
    炭酸カルシウムに一見違和感があったが、セメント・肥料・石灰など幅広い活躍ぶり。ゴムタイヤの商業戦争のトピックがおもしろい。

  • ある新素材を使うことによって世界が変わっていく。
    なかなか面白かった

全43件中 21 - 30件を表示

著者プロフィール

千葉大学大学院社会科学研究院准教授。1976年生まれ。東京大学大学院法学政治学研究科博士課程修了、博士(法学)

〈主要業績〉
『「平等」理念と政治――大正・昭和戦前期の税制改正と地域主義』(吉田書店、2014年)
「大正期の東北振興運動――東北振興会と『東北日本』主幹浅野源吾」(『国家学会雑誌』第118巻第3・4号、2005年)

「2019年 『公正から問う近代日本史』 で使われていた紹介文から引用しています。」

佐藤健太郎の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×