- Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
- / ISBN・EAN: 9784106038556
作品紹介・あらすじ
「生きづらさ」を解きほぐす9つのヒント! 「友達」はいないといけないのか。「家族」はそんなに大事なのか。「夢」をあきらめたら負け組なのか。「話し上手」でないとダメなのか。「仕事」を辞めたら人生終わりなのか。「ひきこもり」を専門とする精神科医と、重度の「うつ」をくぐり抜けた歴史学者が、心が楽になる人間関係とコミュニケーションのあり方を考える。
感想・レビュー・書評
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「テーマは精神疾患だけではなく、現代日本を概観する対談本」
うつを患った過去のある歴史学者と精神科医による、全九回分の対談。
まえがきは與那覇氏、あとがきは斎藤氏が担当。巻末には二氏による各十冊の読書案内が付属し、斎藤氏が「対話を考えるうえで大切に考えている本」、與那覇氏が「うつ病のあとで新しい人生を始めるのに役立った本」をテーマにした選書となっている。
タイトルと、元うつ病の患者と医師の対談という企画だけを見ると、精神疾患に焦点を当てた内容を想像する。しかし実際にはそれだけではなく、現在の日本社会において特徴的な数多くのトピックを俎上にあげて分析する時事的な要素を持ち、広く人文系の話題をも扱う対話となっている。また、平成の三十年を経た現在における共通点と差異についても、たびたび触れられている。
本書が最も強く訴えようとしているのは、「"同意"(調和)ではなく、ただ傍にいる"共感"が重要」=「承認は本来、無条件で与えられるもの」であり、ここに関連して、副題にある処方箋の答えは(会話ではなく)対話であるということが挙げられる。(回答に触れていますが、與那覇氏による前書きの時点で早々に開示されているため、問題ないと判断しています。)そして、単純化することへの危機意識と、条件付きの人間主義への再評価が本書に通底している。
以下は本書で頻出する、または個人的に印象に残った、人物名や話題の羅列。
堀江貴文/安倍政権/ヤンキー/SNS/オンラインサロン/アップル/ジブリアニメ/脳科学/中野信子・黒川伊保子/AI/小保方晴子/東浩紀/浅田彰/人間主義と反人間主義/ハラスメント/ベーシックインカム/新自由主義/東畑開人/中井久夫詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
この本は、脳科学者の茂木健一郎さんの「お勧め本❗」だったので、読んでみました。
この本は、精神科医の斎藤さんと歴史学者の與那覇さんによる1年近くにわたる対話をまとめたものです。
病気の問題だけでなく、社会情勢や価値観など、色々な問題を多面的に、そして深く掘り下げていて、めちゃくちゃ「濃い❕」本でした。
物事の捉え方にとてもエッジが効いており、頭のいい人の話は面白いなーと感心しました。
よりよく生きるためのヒントがたくさん書かれていますので、ぜひぜひ、読んでみてください。 -
「発達障害バブル」の今、この本を読んで、頭の中を整理できてよかったです。他者と違うのは当たり前。違うことを認め合い、共存するために、対話を。同意はできなくても、共感はできる。全ての人が、同じ地平で、同じく尊重される社会になるように、まずは私の心を耕せました。文学の力も信じます。
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◆大切なのは同意なき共感
[評]香山リカ(精神科医) 東京新聞
https://www.tokyo-np.co.jp/article/43334?rct=shohyo
新潮社
https://www.shinchosha.co.jp/book/603855/-
心を病んだらいけないの?―うつ病社会の処方箋―
もとの生活に戻るために|Real Sound|リアルサウンド ブック(2020.06.20)...心を病んだらいけないの?―うつ病社会の処方箋―
もとの生活に戻るために|Real Sound|リアルサウンド ブック(2020.06.20)
https://realsound.jp/book/2020/06/post-570910_3.html2022/03/22
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精神科医・斎藤環 氏と、歴史学者・與那覇潤 氏の対談本。
個人的には間違った本を選んでしまった感が強い一冊。
精神科医と、双極性障害を患ったことのある(元患者)人の対談本ということで、タイトルの「心を病んだらいけないの?」という言葉に引っ張られて選び、そもそも本を選ぶ時点で間違っていたのだなと思います。
この本は精神疾患で苦しんだことのある人と、それを治療したことのある人が対談している内容であって、うつ病の人が生きるための処方箋(アドバイス)ではありません。
社会の方に歪みがあるということを前提として、うつ病「社会」について、各人が思うところをつぎつぎに話していった内容がまとまっている本です。
精神科医としての斎藤さんは素晴らしい方なのかもしれません。その道では有名かもしれません。
けれど、パワハラやセクハラをヨコ軸で裁いてしまったら、派閥から遠い者はどうなるでしょうか。「ジョーカー」(映画)の話から、コミュ障の男性は不利と話していますが、女性にだってコミュ障はいますし、そもそもの男性像、女性像が歪んでいる気がしました。
お二人には、セクハラ対策が「やりすぎて失敗した」と言う前に、関連書籍を熟読していただきたいです。当事者に当たり、人として捉えてみても同じ考えなのだとしたら、「オンナって怖えよな」と居酒屋で愚痴っている有象無象の男性たちと同種と感じました。
この本の内容に関しては、この点が非常に不愉快でしたので、七章以降は読んでいません。
著者二人の関連書籍をある程度読んだうえで、二人が語っている社会についての話が読みたいというならお勧めします。が、うつ病についてはあんまり関係ないので、その辺りを求めておられるのでしたら、違う本を読むことをお勧めします。 -
心の病に関して、社会的な観点から分析。
処方箋的な内容ではないし、自分が苦しんでいるときにはたぶん読めない内容だけど、余裕があるときに読むと、あー、自分が社会に感じていた違和感がこんな感じだったんだ、とか、色々納得できることが多そう。
アドラーはマッチョイズム
スクールカーストの上位は共感能力が低い
等、面白い分析だった。
しかし、偏った考えもあるので、そこも中立的に見れると、一つの考えとして面白いと思う -
うつ病の治療、発達障害、ヤンキー文化、コミュ力第一社会、オンラインサロン、文学教育の意義、AI、多様な人間性、現代社会を生きる上で避けて通れないキーワードを、真っ直ぐ、変な肩入れなく話していく。様々な社会の見方を知ることができた。
"ハーモニーではなくポリフォニーを"というフレーズが印象的であった。多様な考えが共存していい。調和する必要はない。共感を大切にするが、違っていい。生きやすい世の中にしていきたいし、自分で自分を苦しめないように生きていきたい。 -
文系の学問の役割が意味をつけること、ということは多くの本で言われているが、会話式の本書ではとくによくイメージできた。
本や映画の引き合いの出し方はについて、参考になる。
また、学者だと単純ではなくここまで考えるので、生きていくのが大変だと感じた。 -
タイトルにある通り「うつ病患者の処方箋」ではなく「うつ病社会の処方箋」。人間価値を語る上でキーワードは「統合性」と語られる本書と、人間は個々が微妙に異なる出来上がりをしていても所詮部分の集合でしか見られていない上に、ほぼ全ての部分とその統合の仕方も外部的な要因(遺伝・環境・進化心理学)だけで決まっているという残酷な現実があるので、どこの部分分解を理解しているとこの残酷な現実を「ハック」出来るのか考えようという橘玲氏のヒット作シリーズとはかなり対照的な内容に感じた(どちらの思考も必要だとは思う)。書籍全体を通してあまりにも広い範囲に話題が及んでいるので特に興味深かった2点だけを引用。
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"斎藤:発達障害の人は「コミュ力が低い」と言われがちですが、この概念もきちんと考え直すべきだと思います。いま、子どもたちの世界でコミュ力と言うと「空気を読んで、人をいじって、笑いを取れる」ことを意味しています。つまり、お笑い芸人がロールモデルになっている。注意しなくてはいけないのは、コミュ力が高いことは、必ずしも共感力が高いことを意味しないんです。スクールカーストを研究している鈴木翔さん(社会学者)は「カースト上位者は共感力が低い」と論文に書いていますね。
與那覇:本当ですか?米国のスクールカースト映画の最高峰である『ミーン・ガールズ』(二〇〇四年)は、たしかにそういう話でしたが……。
斎藤:質問票からデータを取って解析しているので信頼性は高いと思いますし、私はすんなり腑に落ちました。なぜなら共感力が高い人は弱者にも共感するので、「いじって笑い者にする」ことはできなくなるんです。そういう躊躇がない人が、徹底的に他人をいじり続けて笑いをとり、カースト最上位に君臨するのはわかりやすい。つまり彼らはコミュ力は高いけど、共感力は低い。"
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"與那覇:実はデイケアでSST(模擬形式の社会技能訓練)をやっていたときに、忘れられないエピソードがあるんです。患者さんが「働いているときに苦しかった状況」をロールプレイで再現するのですが、どう考えても「病気」なのは患者を追いつめた人の方でしょ、という話がいっぱい出てくる。パワハラ上司とか、モンスタークレーマーとかですね。彼らに攻撃されてうつになるのは「普通の人」であって、ほんとうに治療が必要なのは相手の側なわけです(苦笑)。これって変じゃないですかと尋ねたところ、臨床心理士の答えが振るっていて、「たしかに上司やクレーマーがクリニックに来たら、病気と診断される可能性が高い。ただ彼らはたまたま、いまのところ地位や立場に守られていて〈本人が困難を感じていない〉から、来院せず、病気だと言われていないだけですよ」と。つまり誰が心の病気と呼ばれるのかは、しばしば当人の気質や症状以上に、社会で置かれている環境で決まるわけですね。" -
ひきこもりからポストモダン、ラカンを語り、現在はオープンダイアログを実践されている斎藤環氏と歴史学者の與那覇潤氏の対談本。與那覇氏は双極性障害で入院し、その体験を書籍にもしている人。何かの雑誌で対談を続けた物を編集したものかと思ったが、いわゆる語りおろしを加筆修正したもの。両者とも指向性が似ているのか、話が尽きない。これまでの両者の指向性が最終章のオープンダイアログの話に集約するが、ここにコミュニズムを絡めて語るところが味噌であった。ポストモダンやラカンなど難解な思想を絡めて語り合うので、ついていくのに骨が折れた。用語の脚注は豊富であるが、おそらく基礎知識がないと、この脚注だけでは不十分だろう。