小布施まちづくりの奇跡 (新潮新書 354)

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  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (223ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784106103544

作品紹介・あらすじ

毎年一二〇万人の観光客が訪れる長野県小布施町。この小さなまちの何に、人々は惹きつけられるのか-。そのヒントは、「修景」というまちづくりの手法にあった。伝統的な町並みに固執しすぎない。とはいえ、まちの歴史をまったく無視した再開発でもない。いまあるもの、そこに暮らす人々の思いを大切にしながら、少しずつ景観を修復して、まちをつくってゆく。奇跡ともいわれる小布施流まちづくりを内側から描き出す。

感想・レビュー・書評

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  • 川向正人『小布施 まちづくりの奇跡』新潮新書 読了。伝統的な街並み保存ではなく、生活者が調和を保たせながら景観を修正していく「修景」によって行われてきたまちづくりを解説する。些細な工夫や地道な努力の積み重ねこそが魅力の形成に不可欠で、一朝一夕の「まちおこし」的手法では到達できない。

  • 小布施を訪れたのは昨年秋。まちづくりの稀有な成功例として取り上げられることが多い小布施町。訪れたときもたくさんの観光客で賑わっていた。

    日本人が共有する原風景を喚起するような要素で構成されたまち。そして、とくに感じたのは、まち全体に調和があること。まちと言っても、実際の町の一部、整備が進んだ区画だけだけれど、そのまち全体がまるで1つの空間であるかのように、建物だけではなくその間の通り(隙間)も含めて、同じ意思が込められ、作り上げられていることが至るところから滲み出てる。それはわざとらしくなく、押し付けがましくもない。まちの居心地の良さが生み出されてる。

    形、形式だけを真似て整備される街並み保存、観光地化を目指したこれまでのまちづくりとは違う意思、方法によって作られたものだからこのまちができた。まちづくりの経緯、取り組み、そして、それを成功に導いた要因。本書ではその中身を詳しく綴っている。

    表面的な形式保存ではなく、住民が歴史文化の豊かさを実感できる日常的な生活環境の整備を目指したこと。まちに誇りをもち、大切にする、そんなまちの存在を目指したことがこの成功の土台にある。

    住民が望む形をコーディネートし、それを作り上げることができる、土地に密着した建築家(宮本忠長)。同じ意思を共有できる建築家を重用し、周りを説得する気概と見識をもっていたリーダー。行政だけに頼るのではなく、自分たちの力でその道を歩き続けている住民。それぞれが目指すまちづくりを議論し、ゴールを共有し、それを作り上げるための方法を考え、それを実行した。

    関わる人間たちの意思、そのバランスが他にない成功へとつながっている。

    小布施の事例は、夢を見させてくれる。将来、そしてその可能性。自分に何が出きるのか、もっともっと考えていきたくなった。


    宮本は、建築設計にたずさわる者にとって「まちづくり」が大きな課題であることを強調したうえで、その「まちづくり」に取り組む心構えを、次のように語っている。「まちづくりには長い時間がかかり、10年、20年ぐらいのスタンスで考えなくてはならないし、建築家側もそれに取り組む姿勢がなければいけません。もう一つは、地域との関係です。(まちづくりは)どこまでが仕事でどこまでが仕事でないか分からない、そういったルールの世界に融け込むわけですから、自覚がないとできません。犠牲になることろはたくさんあるが、一つの使命感をもち、環境デザインとはこういうものだという自覚をもって、取り組まねばなりません。ただ表面的につくり上げて、まちづくりができた、というものではありません。」

  • 流し読み

  • 長野県にある小布施という町。北斎や栗で有名な処らしいが、独自のまちづくりが注目されているそうだ。古き良き町並みを、ただ保存したり修復したりするのではなく、現代の暮らしに同化させていく「修景」というアプローチ。これにより、映画のセットのような「浮いた」風景ではなく、住民の息遣いが感じられる町並みを目指しているという。こうしたまちづくりの発端から積み重ねられ、さらに現在進行している苦労や工夫について、建築家の目線で具体的に記されている。建物や土地をどうするかという、技術的な問題もさることながら、住民自身の意識の大切さというものにも、大きな力点がおかれている。

  • <目次>
    まえがき
    第1章 北斎に愛された小さなまち
     1.ヨーロッパのような印象深い景観
     2.五感で楽しめる凝縮した集落
     3.人口の100倍の観光客が訪れるまち
     4.生きる工夫を求める気候と土壌
     5.いにしえの「古いむら」と江戸初期の「新しいむら」
     6.豪農豪商と江戸・京都ネットワーク
     7.藩が大切に守った栗林
     8.近代化で「ただの田舎」に
     9.建築家はまちの営繕係
     10.「亭主と女房が癒着してどこが悪い」~町長の覚悟
     11.思い出を伝える究極の手法=曳き家
     12.景観を整えて北信濃の原野を彷彿とさせる~北斎館と笹の広場
    第2章 過去を活かし、過去にしばられない暮らしづくりー修景
     1.伝統的町並み保存との根本的な違い
     2.そこに住み、働く人たちが主役
     3.当事者すべての希望をかなえること
     4.歴史を大切に、だが現代生活を犠牲にしない
     5.畔道が、昔からあったような「新しい」路地に~栗の小径
     6.単なる駐車場ではない空間~幟の広場
     7.まちづくりの風をおこした二年以上の忍耐強い議論
     8.国道沿いの歩道空間を整え、まちの顔を仕上げる
     9.良い意味で「常に工事中」
     10.建築と建築、人と人を組みあわせる仕事
     11.協力基準としての景観条例
     12.自信と誇りの「私の庭にようこそ」運動
     13.予期せぬシーンに出あえる迷宮
     14.「間」まで設計された個性豊かなまち
     15.分けないで多様なものが混在するまちづくり
     16.新奇なものへの抵抗と新しい観光
    第3章 世代を超えて、どうつなぐか
     1.信頼関係の成熟が「内」を「外」に変える
     2.世代交代でゆらぐ、まちづくりのイメージ
     3.古い商店街が空洞化するメカニズム
     4.カギを握るのは「中間領域」の設計
     5.七四五本の小道を活かす~里道プロジェクト
     6.自然を回復する公共事業に~緑の駐車場
     7.「らしさ」を調べてデータ化する
     8.土壁~小布施らしさ その一
     9.屋根葺き材~小布施らしさ その二
     10.子供たちに「町遺産」を伝える
     11.伝統の素材と技術を体験して学ぶ~瓦灯づくり
     12.次々に発生する課題を「小布施流」で解いてゆく
     13.「観光地化」と景観は両立できるのか
     14.「まち」と「むら」の原風景を大切にする
    あとがき

    ***

    毎年120万人の観光客が訪れる長野県小布施町。この小さなまちの何に、人々は惹きつけられるのか―。そのヒントは、「修景」というまちづくりの手法にあった。伝統的な街並みに固執しすぎない。とはいえ、まちの歴史をまったく無視した再開発でもない。いまあるもの、そこに暮らす人々の思いを大切にしながら、少しずつ景観を修復して、まちをつくってゆく。奇跡ともいわれる小布施流まちづくりを内側から描き出す。

    (本書 表紙袖より)

    著者は、東京理科大学の教授(理工学部建築学科)で、小布施まちづくり研究所の所長を務めておられる。「歴史学」ではなく、建築学が専門であることを理解したうえで本書を読まないと、時々「???」となることが出てくるかもしれない。個人的には、「景観」という言葉の使い方。「景観を整えて」という言い回しが頻発するのだが、従来「景観」とは整えるものではないと思っている。これは単純に地理学の流れをくむ私の「景観」と、建築学の筆者の「景観」の定義が異なるだけだと思うのだが、この言葉の定義の曖昧さを改めて痛感する1冊でもあった。

    初めてこの本を読んだ際、「修景」は建築学的に「自然態」であっても、歴史学的には日光江戸村と同じような気がしていた。早いもので今から8年ほど前に小布施を訪れたことがあったが、閑散期で全く観光客がいなかったものだから、この本を読むまでそこまで人々が訪れる場所だとは知らなかった。(カブトムシのでっかいオブジェとかがあって、土蔵とかのある町並みにしてはなんだか異様な気はしていたが…)

    しかし、地域の人々が実際にその土地を愛し、観光だけに頼らず、土着の生業をいまだに営みながら、1日また1日と、そこに生きる人々の生活と地域が有機的に結びついて、小布施の景観が進化していっていることは肌で感じた。そう思えば、近代までの小布施の育んできた歴史と、今、日々構築されている小布施は、決して断絶しているものではないし、「修景」は、保存ではなく「創造」と筆者も述べられている通り、数百年後の未来に続く、貴重なまちなのかもしれないと今は感じている。

    ところで、今はどうだが分からないが、当時現地を訪れたときに残念だったのが、風土の説明がどこにもなかったこと。
    小布施の扇状地をつくりあげた松川は、強酸性のため魚も棲めず、水はけのよすぎる酸性土壌は稲作に適していない。これが「小布施栗」を産み出す背景にあった。また、松川の石や砂は、酸化鉄が付着して赤茶色になっている。町の家屋の多くに使われている黄色みがかった独特の色合いを持つ砂壁は、この松川の砂を混ぜたものである。
    説明版はおろか、案内のパンフレットにも載っていなかった。元々観光地化を目指していないのであれば説明版は確かにいらないかもしれないが、それにしても、「体験して歴史を心で感じる世界」と言いつつ、その背景を学べないのはやっぱり寂しい気がする…。上記の知識があるのと無いのとでは大違いだと感じるのは、私が地理学視点で物事を見てしまいがちだから、というわけでは無いと思うのだが…。

    とにもかくにも、この先の小布施が楽しみです。

  • 昨年、小布施若者会議でお世話になった小布施町のまちづくりの歴史を綴った本。あまり予備知識なく訪れてしまったが、泊めていただいた市村良三町長のお宅をはじめ、修景という一大プロジェクトが民間主導で行なわれたことが理解できた。

    修景は建物単位で昔ながらの風情を再現する街並み保存と違い、あくまで現代社会の日常の暮らしを守りつつ全体のバランスを調和させる手法。建物単位ではそれぞれの家主や建築家の意図で、結果的には街並みがバラバラになってしまうところ、家の屋根の向きや角度を統一し、建物の位置関係で塀などを無くして生け垣や樹木による滑らかな境界線を描いている。

    その結果、修景地区と言われる街の中心部には12000人の人口の100倍の観光客が訪れ、また栗の小径やオープンガーデンといった普通の暮らしの風景が観光資源になるなど、住民参加型でまちづくりを進めている全国でも稀有な地域となっている。

    観光需要によって税収が増加して、さらにそれを起業を志す若者たちに再投資することで雇用を創出するといった経済と人材の循環が生まれている。他の地域が真似しようと思っても、小布施町のように合併を拒み自治的に20年もまちづくりを進めてきた地域には決して追いつくことはできないだろう。

    まちづくりとは、もちろん経済と人材を抜きにしては語れない。だがそれらの要件を満たすためには、修景のような目に見える事業も必要なのだ。

  • 川向正人著、「小布施 まちづくりの軌跡」を読む:
    確か、記憶に間違いなければ、司馬遼太郎が、「庭の景観というものは、一代や二代で、出来上がるモノでなくて、何世代にも亘って初めて、完成されるのである。」というような趣旨の発言を、「街道をゆく」シリーズか何かで、読んだことがあるが、景観のみならず、街自体を、「まちづくり」として、変貌させて行くことは、言葉で言う程、実際には、時間も金も掛かり、容易なことではない。今日、駅前のけばけばしい景観や、旧何々銀座と称された駅前商店街通りのシャッター化など、或いは、仏作って、魂入れず式の箱物行政、単なる土建屋向けの膨大な公共投資の問題やら、更には、観光客誘致合戦という経済的な採算名目だけの無駄な予算投入など、「まちつくりの課題」は、そこかしこに、散見されて止まない。むしろ、現状では、ますます、その深刻化が進みつつある。たまたま、信州、小布施による「あおい林檎、プライムリー」の取り組みを知り、その官民挙げてのプロジェクトのまちおこしに、興味を持ったので、この本を読んでみた次第である。湯布院のドイツ型の長期滞在、エコ・リゾートとは、一寸、異なるが、日本のまちつくりや再成長戦略を考えるときには、何か、そこには、役に立つノウハウとヒントがあるような気がしてならない。

    「街並み保存」とは異なる手法である修景の特性を生かして、空間や空間の持つ雰囲気を、自然な状態を可能な限り、残してゆく。そして、そこに住む人々の生活が、現に在り、ひしひしと感じられる、そういった生き生きとした「景観」を、継続的に作り出す。常に、現在進行形、工事中、継続的にブラッシュ・アップし続けること、街全体と個々の建物の空間・雰囲気との調和を重視する。単なる「歴史文化財」として「保存・凍結」するのではなくて、或いは、古美術品を展示する「箱物的な美術館」ではなくて、その時の状況、状況に応じた成長・変化を許容する「まちづくり」になっている。「外」に対して、オープン・ガーデンのような「内」を作ったり、身の回りの全てのものを修景の素材ともしてしまう手法。
    「空間体験」と建物同士の大小の隙間、路地や広場・小径という「外部空間」の重要性、おもちゃ箱をひっくり返したような雑然とした景観ではなくて、「つなぎ」の重要性に着目した設計に着目して、「舗道を歩く」ことによる連続的な空間の体験により、その印象が深まり、リピーターが増えるという手法、等…
    黒川紀章のコンパクト・シティーをベースに、五感で愉しむ触覚的な体験の生活が活き付く街、或いは、曳き家、土壁、瓦、等、観光都市化させるものではなくて、日常生活の中で、「歴史文化」を自然に感じられるような環境を整備し、「道空間」、「道の建築」の考え方に基づき、「外」は皆のもの、「内」は自分たちのものという考え方を払拭し、「生きた街」が、同時に、「生活感」が、実感出来るような設計、町並み保存とは異なる(・・・・)手法、内と外の関係性を補う(・・・・)手法によるまちつくり。住民が歴史文化の豊かさを実感できる日常的な生活環境の整備を目指した街つくり、宮本忠長のデザインは、広場的な「たまりの空間」を設け、路地裏や裏通りの必要性を説き、導線を幾何学的に整えないで、且つ、意識的に避け、職も住も、商も芸術・文化も、人間の多様的な活動が混在する、ゾーニングとは一線を画した、異なる街つくりを目指した。「外と内」との間に固定された境界線はなく、境界は 流動的(・・・・)であり、密接に繋がっている状態、これを「繋げる設計」を採用し、「景観」を「共有財産」と考え、住民総出の外を協力して良くする清掃活動などの地域普請ボランティア活動等を通して、「自発的な内なる自由を有する運動の継続性の必要」をも説いた。空洞化するシャッター通りのメカニズムの解明と、内の問題を、生活環境に整備・回復する修景手法で、解決しつつあるが、同時に、巨大化する観光都市化の波と外からの商業主義的な土産物屋の圧力など、光と陰も、現実には交錯し始めている。
    それにしても、建築家の良きコンセプトの具体的な実施、市村良三町長、市村次夫小布施道社長など、町民を含めた多大な努力、或いは、これまでの豪商に培われてきた高井郡の歴史的、伝統的な良さを何世代も掛けて、持続継続させてきたその粘り強さは、一地方都市のまちつくりのノウハウとして、単に、語られるだけでは、全く、勿体ない話であろう。閉塞した日本の街つくりへのヒントと方向性を、日本人ばかりではなくて、海外から来訪するお客様にも、愉しんで貰えるような街、今後の成長戦略へも繋がって行くようなものにしてゆかなければ、相変わらず、シャッター街や、地方都市の高齢化、過疎地化、不採算ローカル線の廃止に伴う陸の孤島化の問題は、全く解決つかないであろう。子供の頃から、学校などでも、こうしたまちつくりの学習や地域おこしの活動を日常化してゆけば、もっと、違った意味での「持続的・継続的な・多世代に亘った」サポーター組織が出来るのではないかと考えるが、、、、、、。そこには、どうやら、街歩きという「商業観光都市用」の言葉や、キャッチ・フレーズは、もはや、必要がないように思われる。自ずと、又、その魅力に、魅入られるように、回帰し、リピーターになるのであろう。そんな気がする。まだ、原石のまま、磨かれていないそんな信州の小京都は、他にも、たくさんあろうが、、、、、、、、、。気が付いていないのは、そこに住んでいる人々だけだろう。

  • 長野県小布施町がいかに「奇跡」であったかがわかる本。
    小布施に行く前に読むと、気付かなければ通り過ぎてしまうようなことが、
    人々の尽力に依って成立しているかが理解できる。
    そして、小布施に行くと「これで奇跡か」と考えさせられる本。
    1万人の人口に対し、年間100万人の観光客がやってくることは素晴らしい。しかし、中心部の世界に通用するクオリティーと農村部の差は埋めがたい。でも文化だ、それも。埋めなくていいのだ。
    もやもやする中、「オープンガーデン」の取り組みは素敵だ。
    一般家庭のお庭を開放しているこの事業。「30年間でもっともお金がかからず、もっとも成功した事業」とは、確かにその通り。
    日本でこういった許容範囲の広さを見られるとは思わなかった。
    素敵です。

  • 小布施という1ローカル都市がどのように町を作り、維持してきたかの本。
    およそ30年はやっているが、その間方針は一貫しているし、それを支援する建築家がいることが大きい。
    他の地方都市ではきっとここまでできないだろう。

  • 小布施に行ってみたくなる本です。町の名士、政治、経済界がひとつになって、少しずつステップを踏みながら町を整えていく姿に感心しました。

    先日、実際に小布施に行ったところ広くはない町なのですが、コンパクトに見所があって楽しむことができました。オープンガーデン、栗の小径、北斎館等々充実した旅になりました。

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