書きたい人のためのミステリ入門 (新潮新書)

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784106108891

作品紹介・あらすじ

〈謎〉と〈伏線〉、〈論理的解決〉――。書き手目線を知れば、ミステリは飛躍的に面白くなる。長年、新人賞の下読みを担当し、伊坂幸太郎氏、道尾秀介氏、米澤穂信氏らと伴走してきた編集長が、徹底解説。

感想・レビュー・書評

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  • タイトルに「書きたい人のための」とあるから、関係ない、と手にしないのはもったいない。ミステリ全般について、コンパクトにまとめられた見事な入門書である。

    そもそもミステリというのは、妙に約束事が多いジャンルである。フェアかアンフェアか、等という議論が沸き起こるのもこのジャンルならではのもの。ノックスの十戒やヴァン・ダインの二十則なんてものもある。逆に言えば、そのような縛りがあってこそ、ミステリの様式美が完成する。

    おまけにコアなミステリ好きは、トリックの本歌取りに妙に詳しく、「ああ、このトリックは〜の〜みたいだね」なんて話で盛り上がったりする。本格、変格、広義のミステリ、雪山の山荘、クローズド・サークル、日常の謎、物理トリックに叙述トリック…独特の用語も目白押しだ。

    もちろん、別に約束事を知らなくてもミステリは十分楽しめるが、知っておくとより楽しめる。ミステリの約束事は、書き手にも読み手にも、有益な情報なのだ。しかも、それを長年ミステリの新人賞を担当してきたベテラン編集者が教えてくれるのだから、これほどお得な話はない。私は小説畑の担当ではないが、編集者としても興味深く読めた。伏線に関する解説などは、なるほどと何度もうなずいた。
    すべてのミステリファンにオススメの一冊。

  • 京大のミステリ研に所属し、長らく新人賞の下読みをしてきた筆者がミステリの「お約束」をまとめた一冊。たしか、綾辻先生が紹介されていて手に取ったんだったかな。
    タイトルには「書きたい人のための」とありますが、読み専門の私としてもミステリガイドとして楽しむことができました。おかげで付箋がまたいっぱい……。

    本筋とは関係ないかもしれませんが、最も心に残ったのは「食わず嫌いしないで、何でも読む」というアドバイス。
    私にとっての読書は娯楽であり趣味ですから、好きなジャンルの、お気に入りの作家だけ読むというのでも問題はないのでしょう。
    でも、読書に限らずどのジャンルだって、知らないよりは知っている方が楽しめます。また、たとえ読んでつまらないと感じたとしても、その本が「合わなかった」ということは得られるわけです。
    大好きなミステリーというジャンルをもっと楽しむために、興味がないからと手に取らなかった本にも目を向けてみようと思いました。
    また、作者がこれだけ手を尽くして書き上げ出版された作品のですから……読む側としてもっと楽しめるようになりたいなとも感じましたね。

  • 新潮社の編集長として数々のミステリ作家を世に送り出してきた著者が、古今東西のミステリを解説しながらミステリ作家を目指す人たちにアドバイスをおくる。

    私はミステリを書こうと試みたことがなく、もっぱら読み専門である。本書はミステリ作家を目指す人たち向けに書かれたものではあるが、さまざまなミステリとその手法についてネタバレがないよう解説してくれているので、私のような者でも読書案内として十分楽しめる。

    前半は名作ミステリの構成要素についての分析が中心である。大好きなクリスティーの作品もたくさん引用されていて、改めて『ミステリの女王』の手法の多さとパイオニア性に驚く。また、クリスティーと他のミステリ作家の違いについても言及されていて興味深い。
    例えば、クイーンが論理的であると言われるのに対し、クリスティーがあまりそう言われない理由として、「クイーンもクリスティーも、解決の論理性に差はない。クイーンが論理的だと言われる理由は、十の可能性の中から、九つ潰したあとに、真相を示すからだ。他のあらゆる可能性を潰して、唯一の真相に到達したように見えるからだ。」という指摘には、なるほど、と思った。

    後半は、編集長として新人賞に応募されたミステリをたくさん読む立場から、最近の応募者の傾向とよりよい内容にするためのアドバイスが書かれている。
    新人賞のハウツーものには、原稿枚数は上限枚数の九割以上書け、などと書いているため、本来もっとすっきりさせることができるはずの小説が無理やり水増しされていたりするそうだ。もちろん九割以上ないとだめなわけではない。また、タイトルやペンネームが凝り過ぎて読めないし覚えられないものも。
    これほどたくさんのミステリが世にあふれている現代だからこそ、とにかく何でも読むことが大事なのは言うまでもない。先例があるのを知らないで使うと「パクリ」になるか、無知をさらしてしまうことになる。豊富な社会経験も大切だ。そして、はっとさせられたのは、「とにかく最後まで書き切る」ということ。これは、途中であきらめてそのままになっている人が案外多いのではないだろうか。

    「ミステリはすべてのエンターテイメントの基本」と著者は断言する。さまざまな謎やトリックがどんどん使われて新しいネタを生み出すのは至難の業だと思うが、新人作家さんが私のようなミステリ好きをあっと驚かせてくれることを楽しみにしている。

  • ミステリを書きたい/書きたくないに関わらず、ミステリ作品のブックガイドとしてとてもよくまとまっています。
    これからミステリを読んでいきたいという人はもちろん、ミステリを幅広く読んでいきたいという人も新たなミステリジャンルを開拓するきっかけになるかと思いますので、書きたい人のみならず、読みたい人にもオススメできます。

    小説の書き方講座としては、ゴリゴリのハウツー本という訳ではありませんので、ミステリをかなり読み慣れていたり、ある程度書いていたりする人にとってはそれほど目新しいことはないかもしれません。
    ですが、ミステリというジャンルの特有性について書かれていますので、ミステリを書きたいと思ったら、まず一読したほうが良いかもしれません。

  • 小説家や海外のライティングスクールの講師が書いた創作本はいろいろありますが、編集者が書いたミステリ入門&創作本は珍しいかも。
    内容としては創作の話はもちろんなのですが、前半部ではミステリの種類やトリックなど、様々な先行作品の紹介もされていて、ガイドブックとしても面白い一冊でした。

    編集者の書いた創作本ということでいうと、小説のタイトルと作者名に関する話が、この本ならではだと感じました。
    凝りすぎた作者名では検索してもらえないし、タイトルだけで物語の雰囲気やジャンルが分からない作品だと敬遠されてしまう。それが新人作家ならなおさらということで、「タイトルに気を配る」「作者名は複雑にし過ぎない」などといった話は新鮮で、編集者ってこういうところも考えているんだと感じます。

    ミステリを概観してみると、推理小説の時代から、社会派ミステリに潮流が変わり、そこから新本格が勃興し、日常の謎、そしてファンタジー、SF、ホラー要素も取り込んだ昨今はやりの特殊設定ミステリなど、改めてミステリは広がり続けているのだと感じます。

    そうした拡張するミステリの楽しみを、単に「読む」以外の視点から考えられる一冊です。

  • ミステリを書くつもりはないが、「書き手目線を知ればミステリはもっと面白くなる」の謳い文句に、つい購入(笑)。
    「シャープなネタとカタルシスを求めるなら、一気読みできる短編を。骨太なストーリーラインや物語のうねりで謎をゆっくりと楽しむなら長編を」
    書き手に対しての提案を、読み手用に書き換えたが、頷ける言葉か。
    何よりも、古今東西のミステリの名作が多数紹介されており、既読もあれば未読もあり。あれもこれもと読みたくなってしまう。
    本書で紹介された作品が、巻末に出版社名とともに掲載されているのは、これから読もうと思う読者にはとても便利だ。

  • ”書きたい人のため....”だけど、ミステリの読み方がわかる。

  • # 感想
    私は小説を書きません。ただ本は読むので、もっとミステリ小説の意図がわかるようになりたいと思って、本書を読みました。

    本を読み終わった後になんかおもしろかったなとか、なんかおもしろくなかったなとか思うのですが、どういう理由なのかは表現できないと感じていました。この本で少しでも足しになるといいなと思ったのですが、その一つが幻想味と論理性(P.25)かなと感じました。この本を読んで読後の表現力が上がるわけではないかなとは思いますが、一方で考える一つの要素は得られたかなと感じました。

    ここで紹介されていた本を読みながら、この本の説明を活かして感想が書けたらなと思います。

    # 抜粋
    - 「『幻想味』に関しては、ミステリーのセンスから外れない限り、とんでもないものであればあるほどよい。日常的常識のレベルから、理解不能のものであればあるほど望ましい」とあり、解決の「論理性」に関しては、「『論理性』は、徹底した客観性、万人性、日常性のあるものが望ましい。『本格ミステリー』とは、この両者に生じる格差、もしくはそこに現れる『段差の美』に酔うための小説である」とある。(P.25)
    - かまいたちの夜(P.60)
    - タッチの差でも、探偵の解説より先に「そうだったのか!」と気付いたことは、長く印象に残る。わずかな差がだが、「気付き」の快感を侮ってはいけない。
    これをもって、「真相に気付いた」という人もいるだろうが、そんなものは気にする必要がない。むしろ、「だって分かるように書いてるから」と胸を張ればいい。この、「一瞬早く気付かせる」を意図的にやるのがどれだけ大変かは、実際にやってみればすぐに分かるはずだ。(P.101-102)
    - 後輩の編集者が、本のリードやタイトル案に四苦八苦してページをめくっている姿を見ると、「原稿の中に答えはないよ。本屋で棚でも眺めて来れば」と言うことにしているし、自分でもそうしている。(P.167)
    - と同時に、腑に落ちたのだ。世界に入り込んでいればいるほど、ちょっとした綻びから、世界は容易に崩壊するのだ、と。(P.176)
    - 成功する秘訣は、失敗の回数を増やすこと(P.179)
    - そしてもう一つよくされる質問が、「デビューするのために、もっとも大事なことは何ですか」というものだ。
    (中略)
    複数の作家が、同じような質問を受けた場面を目にしたことがあるが、異口同音に答えていたのは、「まず、一つの作品を最後まで書き上げること」だった。(P.185-186)
    - 「読むと書くとは表裏一体」。沢山読み、読みっぱなしにしないで、どうして面白いのか、自分なりに考える習慣を付けることだ。(P.190)

  • ミステリブックガイドとして◎
    編集者ならではの視点がしれてワクワクする。

    美しい謎をはじめに配置すること。
    読者にフェアであること。嘘はつかない。
    古典的な誰が犯人か?からどうやったのか?さらになぜやったのか?が最近の焦点。
    伏線は映像が浮かぶように仕込むこと。

    明記されてないけど、伊坂幸太郎が読者のために長編は分かりやすく短編は複雑にというつもりで書いてるのは衝撃。

  • 書籍を出版する側の人から、ミステリとはどんな構造になっているのかを解析し、ミステリ作家という職業への採用活動をしているような本。
    本書は、ブックガイドとしても活用できる。ミステリにもいろんなジャンルがあり、各ジャンルの解説と、そのジャンルの代表的な作品が紹介されている。ミステリ好きなら、ご存知の作品が多いかもしれないが、私は知らない作品のほうが多かった。
    読みたい本が増えていく。自宅の空間が本で圧迫され、財布の中身が無くなる怪奇現象?が加速しそうでとても怖い。笑

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