ビジネス戦略から読む美術史 (新潮新書)

著者 :
  • 新潮社
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  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784106109126

作品紹介・あらすじ

フェルメールの名画は「パン屋の看板」として描かれた!? 美術の歴史はイノベーションの宝庫だ。名画・名作の背後にある「作為」を読み解け! ビジネス戦略と美術の不即不離な関係に光を当てた「目からウロコ」の考察。

感想・レビュー・書評

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  • ビジネス観点で参考になったのは、画商デュラン=リュエルの章だけですが、美術史のトリビアが豊富でアート好きにはオススメの本です。

    1870年代頃は精密で写実的な絵が主流だった為、絵筆の跡が残るような印象派はガラクタ同然でした。そこで、画商デュラン=リュエルは絵を売る際に「ある工夫」をして、アメリカ人富豪たちとの高額な商談をまとめたそうです。
    プロデュースのやり方によって、商品の売れ行きが決まるのは現代のビジネスにも通じますね。


    以下、メモです。

    ・メディチ家は金融業。
    金融業の人は、教会で葬儀を拒否されたり、死後の墓場も荒らされることもあり、メディチ家の人は怯えていたらしい。

    ・インスタ映えのナポレオン。
    政治手腕の実力はもちろん大事だが、勇ましくカッコよく魅せる演出も大事。畏敬対象として聖人のように描いたり、自然な雰囲気にしたり、目的に合わせて絵の雰囲気を変える。

  • 西洋絵画の裏歴史というべきか、画家や作品ではなく世界史から絵画の道具、さらには政治やビジネス戦略から絵画を見るとこうも切り口が出てくるのか、とワクワクした一冊です。

    元々は宗教画など崇高で神聖なものとされた絵画は、宗教改革や偶像崇拝の禁止の影響で大口取引だった教会や聖職者を失い、あらたな消費者として市民へ間口へ広げていった。一方で富豪のメディチ家は自身のもうけによる罪から逃れるために、芸術への支援を行いそれが現在のアートにもつながった。

    こうした歴史背景から絵画がどのように利用されていったか、続く章で考察されていきます。

    絵を描くためのキャンバスの誕生が芸術に与えた影響。
    ナポレオンの芸術を利用した政治戦略。
    アメリカの台頭と印象派の画家たちの活躍。
    そして芸術家たちのブランド化、メディア戦略と権威化。
    画家や技法の変遷をたどるだけではみえてこない芸術史が見えてくるのです。

    芸術となると画家や作品が前面に押し出されるイメージがあったので、世界史や当時の世相などを交えて芸術史が紐解かれていくのがとても新鮮でした。少しひねくれた視点から西洋美術をみる入り口としてうってつけの一冊だったと思います。

  • 【ビジネス戦略から読む美術史】 西岡 文彦 著

     編集者が付けたタイトルと思いますが、内容からすれば「西洋史における美術」という感じです。

     プロテスタントが偶像崇拝を禁じたことから商業絵画がオランダで開花。当時、「家政は国政の礎」とされて、家政婦の社会的位置づけは高く、フェルメールが「牛乳を注ぐ女(家政婦)」を描いて、パン屋の広告に使われたという話から、ダ・ヴィンチ、ナポレオンなどの史実を踏まえて、19世紀ころまでの西洋史(+米国史)を新書サイズに一気に書き上げた内容になっています。

    読んでいるうちに、「これ、歴史の本じゃないの?」と思うときもままあり、金利の話やそれによるユダヤの位置づけなど、美術とはそれますが、とてもわかりやすく書かれています。

     歴史と絵画との大きな流れをつかむことができて参考になりました。高尚なウンチクを語るにはお薦めの一冊です。

  • 絵なら無数にある中、たった一枚の小さな絵に、食べることも住むことも人の命を直接救うこともできない絵に、数十億円もの値段がつくのはなぜなのか?美術の門外漢には、わかるようでわからない謎である。
    本作はこの問いに直接答えるというものではないが、美術というものがどのようにビジネスとして成立するようになるものなのか、美術の様式やテーマががいかに世の趨勢に影響され政治と結びついてきたものなのか、ということがいくつかのエピソードでわかりやすく解説されている。

    フェルメールの『牛乳を注ぐ女』はパン屋の看板代わりにパン代と引き換えに納品され、それは美術市場が市民のものとなった当時の欧州社会を背景にしているとか、ルネッサンスを支えたメディチ家が美術を庇護したのは家業である闇金の贖罪のためだったとか、今に続く職人に対するアカデミズムの優位の起源とか、興味深い話が続き、説得力もあると思う。

    ただ新書の限界か、体系的な美術史ではなく、「へー」となる雑学が並んでいると言ってしまえばそれはそうで、その割に記述にややしつこいところもあったような。面白かったのだが、文章をよりすっきりさせうえで、全体を貫く論旨があれば、もっと読み応えのある本になったのでは、という気もしてしまった。

  • 美術を商品としてとらえ、その売り方が
    歴史とともに変動する、と教えてくれる本。

    宗教が強ければ、宗教画が
    教会から注文される。
    その場合、教会の権威のプレゼンテーションと
    して、絵画が使われる。

    王宮が強ければ、王宮画が王宮から注文される。
    これも、王族の権威のプレゼンテーションが
    求められる機能。

    教会や王宮に権威がなくなると、市民に売る
    ことになる。
    受注生産ではなく、見込み生産。
    市民が入り込めるように、民衆や、
    風景が描かれる。

    成金がでてくると、客をその気にさせるため
    金縁の額にかざり、客を貴族かのように
    扱い、高値でありものを売る。

    美術をこういう観点で理解するのも、
    面白いな、と思う。

  • 絵画は生活必需品ではないので、画家が生活するには、それを支える経済的な仕組みがあるはず。この視点から、ダビンチやフェルメール、レンブラントや印象派の背後にあるビジネス戦略を解き明かす。
    マルチン、ルターの宗教改革は、偶像崇拝を禁じ、それまで教会が宗教画を発注してた画家たちが食えなくなった。そこで画家たちは、当時、貿易で経済力のあった市民が買うことで、盛り上がっていった。フェルメールは、パン屋の代金代わりで、店に飾るポスター的な絵画だったとか。

  • 2023.02.22 とても興味深く、面白く読ませていただいた。美術品も商品であるわけで、であればその背景には必ずビジネスの側面がある。そこが時代の変化、技術の発展とともにどのように推移したか。とてもよく分かった。興味深い内容であった。

  • ちょっと難しかった。
    「リモートワーク」とか、なんか強引に、
    最近のワードを使ってくるのも、
    なんかな…という感じがした。 
    でも、印象派の話とか、
    知らない事が多くて、勉強になりました。

  • 絵画と歴史や経済の流れで見る、というのはあまり経験がなく、とても面白く読めた。
    ただ文章がややくどいかな…。

  • 前半はそんな目新しい感じはないが、後半ギルドに対応した王立アカデミー、額縁と猫足家具を使った印象派推しのリュエルの戦略、批評のありかたなどは興味深い。

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著者プロフィール

多摩美術大学名誉教授・版画家

1952年生まれ。柳宗悦門下の版画家森義利に入門、徒弟制にて民芸手法の型絵染を修得、現代版画手法としての合羽刷として確立。日本版画協会展、国展で受賞(1977・78)、リュブリアナ国際版画ビエンナーレ五十周年展(2006)に招待出品。作品が雑誌「遊」(工作舎)に起用されたことを機に編集・デザインに活動の幅を拡げ、ジャパネスクというコンセプトを提唱。1992年国連地球サミット関連出版にロバート・ラウシェンバーグらと参画、2005年愛知万博企画委員。著書『絵画の読み方』(JICC)、『二時間のモナ・リザ』(河出書房新社)等で、今日の名画解読型の美術コンテンツの先鞭をつけ、「日曜美術館」等、美術番組の監修を多く手がける。著書多数、全集「名画への旅」、「アート・ジャパネスク」(共に講談社)を企画、共著にシリーズ「公共哲学」(東京大学出版会)がある。

「2024年 『柳宗悦の視線革命』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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