- Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
- / ISBN・EAN: 9784120040108
作品紹介・あらすじ
「情熱の歌人」と呼ばれる与謝野晶子は、短歌だけでなく、詩、社会評論、童話・童謡など、さまざまな分野で多くの仕事を成し遂げた人物である。しかしその活躍が多岐にわたるがゆえに、「君死にたまふことなかれ」や「母性保護論争」など限られた側面しか知られていないのが実情である。本書では、晶子の幅広い業績をたどるとともに、教育や労働について鋭く論評し、多くの子を産み育てた「ワーキングマザー」でもあった、ひとりの等身大の女性像を描きだす。
感想・レビュー・書評
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女性の暮らし・無駄のない人生
昔の女性、母は強し、といっても過言ではない与謝野晶子の生涯。小説家でもあり、評論家でもある晶子は生涯に13人の子(2人は死亡・3人を養女に出す)を産んだ母になり、家庭に、子育てに、教育に、そして仕事に燃えた女性だ。近代社会にも通じた考え方(女性の仕事、教育)や新しいことへの情熱(科学技術)など現代では考えられない力強い、そして逞しい母親像が見える。現代、一人っ子でも大変な時代なのに11人もの子供を養育し、仕事を抱える毎日は気の狂いそうな人生だったに違いないが、その合間に詩集、評論、童話などへ時間を割き活躍した人生に感服する。人は暇な時間があることは逆に真っ当で充実した人生を送っていないことになるのかとさえ思った。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
抜群に面白い。晶子が好きでいくつか評論を読んでいるが,それでも初めて知ることが複数あった。
とくに晶子の論評は「古くさいのでは」という先入観からきちんと読んでいなかったが,松村氏は重要なポイントを手際よく整理して晶子の主張を示してくれる。時代描写も抜かりない。
とくに面白いと感じたのは…
・「彼女たちは恵まれた環境に育ち,多くの女性が思うように学ぶことのできない時代に高い教育を受けていた。それにもかかわらず,時代を切り開く気概も働く女性への理解や共感ももたず贅沢を楽しんでいることに,晶子は失望ともどかしさを・・・」
→まさに!江藤淳の『妻と私』中の「妻」に私が感じた不満はこれであった
・「自分の労働の成果である金銭で一冊の書物や一掛の襟でも買ふことは,男子の金銭を消費して居た時代にくらべて,どんなに気安く且つ愉快であるか知れません」
→まさに!漫画家の西原理恵子が「社長夫人になるより社長になろう。指輪も寿司も自分で買おう。その方がずっと楽しいよ」と言った100年前に晶子が同じことを言っていたとは。その先進性たるや凄まじい
・仕事は喜びの源泉
→まさに!ストレスやオブリゲーションの他に,仕事は喜びも与えてくれる
・夫の鉄幹の歌集は自分のそれより売れなかったが,晶子は売り上げと歌集の価値を一貫して独立とみなし,終生かわらず夫を尊敬した
→そうであったのか!晶子にとって鉄幹はヒモなどではなかったわけだ
丹念に晶子の人物像を立体化するこうした手腕は,人文学の面目躍如と言うべき。良いものを読ませてもらった。 -
与謝野晶子といえば、情熱的な歌を歌う人というイメージしかなかったのですが、それだけでなく計算が得意で数学の才能があったことや、沢山の子を働きながら育てる悩みや、男女平等な世界を目指していたことなど、今まで知らなかった与謝野晶子を知る事の出来る本でした。晶子はとても芯の強い女性だったと思います。興味深く面白かったです。
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与謝野晶子の評伝。といっても、編年的なものではなく、「科学へのまなざし」「里子に出された娘たち」「「母性保護論争」の勝者は誰か」「童話作家として」「聖書への親しみ」という5つのトピックを論じる。
なかでもやはり中核的なのは「「母性保護論争」の勝者は誰か」で、論争を単に「国家対個人」の図式にあてはめずに理解しようとしている点は勉強になった。そして、女性の自立には、女性の労働が欠かせず、しかもしれは単に生活の糧を得るためのものではない。晶子の詩作は、現代における「アンペイドワーク」のようなものであり、それも含めた「労働」の重要性を提起する。
ただ、やはりそれでも最近検討されている与謝野晶子における「国家」の問題(住友陽文とか児島翔とか)がどうなのか、というところは気になった。また、アジア太平洋戦争時における晶子の著作にまったく触れない、というのも評伝としては不十分であるように感じる。顕彰じゃないんだから、せめて冒頭の「晶子の生涯」のところででも触れていればと思うが、そこでも完全に無視。それでいいのか、と感じた。著者は研究者でなく、新聞記者から著述業に転じた人みたいなので、こうなってしまうのかもしれない。むしろ中公の選書レベルでも、与謝野晶子についてちゃんと書く人が実はいない、ということなのかもしれない。 -
#与謝野晶子 #松村由利子 #短歌 子を産んで子を育てる母親の視点確かな由利子と晶子
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平塚らいてう、山川菊栄、山田わからによる母性保護論争。国家による母性保護を主張したらいてうの勝利にも見えるが、女性の自立、仕事と家庭の両立、男女の賃金格差の是正、育児の社会化、家庭教育の責任など幅広い論点で議論され、かみ合わないことも多かった。
らいてうが、女性の妊娠、分娩、育児は、国家の問題であり、不払い労働、経済活動として保護すべきという立場に立ったのに対し、晶子はあくまでも町人として、「国家が個人の延長であって、国家が個人を支配するものでなく、個人と国家が一体のものであるというのは、なんという合理的基礎があるのか」とし、個人を国家に優先させて考える町人、市民の思想が息づいている
時代は、育児を社会的、国家的仕事であり、良妻賢母になることが女性の地位向上の第一歩と考えていた。そのなかで、晶子のルネサンス的個人観は
、時代に逆行していた。