笑うハーレキン

著者 :
  • 中央公論新社
3.42
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本棚登録 : 1142
感想 : 217
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  • Amazon.co.jp ・本 (379ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784120044588

作品紹介・あらすじ

経営していた会社も家族も失い、川辺の空き地に住みついた家具職人・東口。仲間と肩を寄せ合い、日銭を嫁ぐ生活。そこへ飛び込んでくる、謎の女・奈々恵。川底の哀しい人影。そして、奇妙な修理依頼と、迫りくる危険―!たくらみとエールに満ちた、エンターテインメント長篇。

感想・レビュー・書評

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  • ハーレキンって、道化師のことだったんですね!
    そして、ハーレキンの仮面に涙が加えられると、ピエロになる。
    この本のおかげで、初めて知りました。

    無垢な赤ん坊としてこの世に生まれ落ちてから
    歳を重ねるごとに、人はその場その場に応じた振舞いを覚えて、
    いくつもの「自分の仮面」を作りためていくのではないでしょうか。
    実は私も、義父の法事で、あまりの気の利かなさがバレないよう
    「まあまあ頑張る長男の嫁」の仮面をはり付けた週末を過ごしてきたばかりです。

    幼い息子を事故で亡くし、妻にも去られ、築き上げた会社も失った、東口太一。
    家具の修理を細々と請け負いながら、ホームレス仲間と共に
    川辺の廃品置き場で暮らしている。
    でも、彼も仲間も、社会の束縛から逃れて和気藹々と過ごしているようで
    踏み込まれたくない過去には口をつぐみ、
    必死で呑気なホームレスの仮面を被っているだけ。

    ある日突然、弟子として謎の女性、奈々恵が押しかけてきたのをきっかけに
    どう見ても怪しい、作り付けの超高級家具の修理依頼まで舞い込んで
    物語は予想もつかなかった方向へ転がり始めるのですが。。。

    元は新進気鋭の家具職人だった東口が、今は1000円、2000円程度で
    安物の椅子の座面を張り替えたり、古い箪笥の引出しを直したりして
    その日その日を食いつないでいるという設定が、とても良くて。
    そうか! 彼は自分でも意識していないみたいだけど
    ガタついた自分の人生を修理してる真っ最中なんだなぁ、とうれしくなってくるのです。

    ホームレス仲間を使い捨ての道具として利用する、
    冷酷極まりない「その筋」の大親分みたいな人物も現れるのですが
    こだわりの家具の修理のためならお金に糸目はつけないほどなのに
    なんと、その大事な家具で猫が爪を研いでも怒れない、というか
    まず「猫に怒る」という選択肢が頭の中にない!
    彼の猫たちへの大いなる愛情が、東口たちの運命を変えるあたりも
    なんとも心憎い演出で、猫好きさんにはぜひ読んでいただきたいところです。

    「ほんとは悲しいんだけど、頑張って笑ってるんだ!」
    と主張しているかのような、涙つきのピエロの仮面より
    仮面の下で涙を流していようと、潔く笑っているハーレキンの仮面のほうがいい。
    そして、できることなら、生きている限りはじたばたして
    仮面の下にも笑顔がのぞいて、信頼できる人の前でなら
    仮面をうっかり外してしまうような日々を手に入れられたら、もっといい。
    そんなふうに思える一冊です。

    • まろんさん
      nicoさん☆

      歳をとったら、時間はあるけれど身体がもたない。。。おお、なるほど!
      私も娘が自立して教育費がかからなくなり、自由な時間も増...
      nicoさん☆

      歳をとったら、時間はあるけれど身体がもたない。。。おお、なるほど!
      私も娘が自立して教育費がかからなくなり、自由な時間も増えたら
      海外旅行したり、ミュージカルを観におめかしして出かけたり。。。と
      夢のような日々を思い描いていたのですが、身体がどんどん衰えていくなんてことは
      まるっきり失念していました!
      やっぱり今!今、なんですね。

      レビューやコメントでいつもとても思索的なnicoさんですが
      あとで言い訳したり何かのせいにするのが嫌だから、と
      意外に行動派でいらしたとは。素敵です!
      私は仕事場が自宅というのも手伝って、ついつい出不精になってしまうので
      おおいに見習わなくちゃ!と思いました。
      2013/07/13
    • だいさん
      >仮面の下にも笑顔がのぞいて、信頼できる人の前でなら
      仮面をうっかり外してしまうような日々を手に入れられたら、もっといい。

      これ、い...
      >仮面の下にも笑顔がのぞいて、信頼できる人の前でなら
      仮面をうっかり外してしまうような日々を手に入れられたら、もっといい。

      これ、いいね!
      まろんさんのレビューって、まさに仮面(=ペルソナ)ですよね。
      いくつ仮面があるのかと、驚きます。
      2013/07/14
    • まろんさん
      だいさん☆

      夏バテでぐったりしているところに、だいさんに「これ、いいね!」なんて褒めていただけて
      なんだか元気が出てきました!
      いつもあり...
      だいさん☆

      夏バテでぐったりしているところに、だいさんに「これ、いいね!」なんて褒めていただけて
      なんだか元気が出てきました!
      いつもありがとうございます。

      「まあまあ頑張る長男の嫁」の仮面は、貼りつけてるつもりでほどんど剥がれかけてた気もしますが
      滞っていたレビューは、だいさんのおかげで書く気力がわいてきました♪
      2013/07/23
  • ハーレキンとは道化師。道化師に涙を書くとピエロ。
    息子を亡くし妻と離婚し、会社は倒産のホームレス家具職人とホームレス仲間達。突然現れた依頼人の孫だという奈々惠。  
    皆、様々な事情を抱えながらも、付かず離れずの距離感で相手を思っているのが良かった。  

    最後にスカも救い出して欲しかったな。

  • 経営する会社の倒産で、家族とも別れ、ホームレスになった主人公、東口。
    ホームレスの世界でも、つつましいながら、温かな心が通うコミュニティが形成されていた。
    社会の底辺にいながら、いつしか東口の心の拠り所となっていたコミュニティ。
    ただ、東口は家具職人という技術によって、不定期ながら仕事をこなしていた。
    自分は働くことができる、という精一杯の誇りを胸に、ただのホームレスとは違う──。
    そこに突然現われた謎の若い女、奈々恵。
    彼女は、東口の家具職人としての腕を知り、弟子にしてほしいと頼み込む。
    何故に? どうしてホームレスのオレに?
    理解に苦しみながらも、そこから二人の不思議な関係が始まる。
    ある日、降って湧いたようなホームレス仲間の突然の死が訪れる。
    常に東口の前に現われる疫病神とは?
    そこから、物語は佳境に入る。

    摩訶不思議な道尾ワールド全開といったところでしょうか。
    何がどうしたというわけではないのだけれど、先を読ませる筆力がありますな。
    ちなみに「ハーレキン」というのは道化師という意味だそうです。

  • 相変わらずの道尾ワールド。安定してます。
    もとは家具屋『トウロ・ファーニチャー』の代表、腕のいい家具職人。
    会社が倒産し、一人息子を失い、妻が去り、家屋さえも競売により失った男…東口(ヒガシグチ)。
    〝厄病神〟に憑かれ、いいことなしの日々の中にあっても、東口はただ淡々と暮らしていた。
    そんなある日…若い女性が「弟子にしてください。」と押しかける。
    忽然と姿を消す仲間。服毒自殺した仲間。
    平穏な日々が少しずつ変化し始めたとき、道化師が動き出す。


    何もかも失った東口は、たどり着いたスクラップ置き場で、身を寄せ合うようにして暮らすホームレスたちの一員となる。
    スクラップ置き場の持ち主、橋本は彼らの強い味方。
    どんな事情があって、ホームレスとなったのかは分からない。だけど、表面的にはみんなで仲良く、助け合い支えあいながら生きている。
    あれこれと口を出してくる厄病神、押しかけ弟子の奈々恵、ホームレスに親切な橋本、の正体は?
    道化師(ハーレキン)、ピエロ、能楽師、狐の行列、泣いた赤鬼…
    物語をテイストするのは、素顔を隠した彼ら。
    誰もがみんな仮面を隠し持っている。

    ちょっとだけヒューマン、ちょっとだけミステリー、ちょっとだけハードボイルド…。
    最後まで飽きずに読めます。
    2016.05.08
    今年の15冊目

  • どことなく不気味ささえ漂う題名だ。分かり易く読み易い文章で心理描写の上手さや、会話のやりとりも絶妙。どの登場人物も皆すこぶる個性的で、読み進めるうちに愛着が湧いてくる。社会の底辺の人間模様だけにとどまらず、ミステリー要素やスリル満点の演出が素晴らしく、とても面白かった!この物語は、仮面がKeyとなっているように感じる。仮面を被り自分の素顔を隠して生きていくのは、この世に人間として生を受けた者の宿命のようだ。それはきっと、動物と人間を分ける1つの大きな違いとも言えるのではないだろうか。ただ、仮面の下の自分を忘れてはいけない。時には、仮面の下の本当の素顔と向き合う事も必要だと思う。人生において、自分以外に素顔を晒すことのできる人間に出会えたなら、何と幸福なことか。それでも、そんなかけがえのない人に、甘えすぎてはいけない。人生が思うようにいかなくとも、優しさや思いやりの仮面を被ることも忘れてはいけない。そう、東口のような過ちを犯すことのないように…。なにはともあれ、救いのある幕引きに一安心。東口と仲間の明るい未来を切に願う。“どうせ素顔を覆うなら、笑顔で覆ったほうがいい”心に沁みる力強い言葉に感動。初めは不気味さすら覚えた題名も、読了後はまるで仮面をはいだように“希望”を称えたそれに、がらりと印象を変えた。まさに天晴れである! 読みごたえのある、素晴らしい良作でした。

  • ウチは読⚪新聞なので、この小説が連載されてたのは知ってたし、2~3回は読んだこともあったけど…新聞連載小説って、読み続けるの難しいですよね。
    ラスト近くで結構ばたばたっと展開した感じがあるけど、なんとか見逃してもらえて何よりです。人には仮面が必要で、どうせ素顔を覆うなら笑顔で覆ったほうがいい――良い言葉ですね。

  • 今回は3点かなぁと思いつつ、ラスト。やはり読後感が良く、つい4点に。
    ヤクザっぽい老人のあたりは、その存在含めていくらかあやふやだなぁ。でも、みんな心に闇を抱えている。でも、そういう心の奥は覗かせないで現実と向き合って生活している。そういった心情がよく伝わってくる。
    それにしても、みんないい人っぽくなるのは、道尾さんならではかな。こんな感じのものを描かせたら本当に上手い。

    • chie0305さん
      「みをつくし料理帖」は友人に薦められて読んだのですが、面白かったです。主人公がもともと大阪の料理店の奉公人で、私も大阪出身なので凄く応援して...
      「みをつくし料理帖」は友人に薦められて読んだのですが、面白かったです。主人公がもともと大阪の料理店の奉公人で、私も大阪出身なので凄く応援してしまいました。(涙)
      今日から、道尾さんの「ノエル」を読んでみます。まずは好みのストーリーから(笑)
      では!
      2017/08/28
    • chie0305さん
      京都ですか、いい所ですよね~!
      でも、今実家は鹿児島にあります。この夏は友人が遊びに来たり、帰省したりで、今、言葉が滅茶苦茶です(笑)
      ...
      京都ですか、いい所ですよね~!
      でも、今実家は鹿児島にあります。この夏は友人が遊びに来たり、帰省したりで、今、言葉が滅茶苦茶です(笑)
      ひとしさん、同時に数冊読まれてるんですね。私も「ブーリン家の姉妹4」に嫌気がさして「ノエル」に寄り道中…。
      2017/08/28
    • chie0305さん
      えーと…(笑)私が横浜に来てから両親が鹿児島に移りました。鹿児島の家はあんまり馴染みがないですが、老後(!)住みたいくらいいい所ですよ。「か...
      えーと…(笑)私が横浜に来てから両親が鹿児島に移りました。鹿児島の家はあんまり馴染みがないですが、老後(!)住みたいくらいいい所ですよ。「かがみの孤城」は800人待ちなので、のんびり待ってます。では!
      2017/08/28
  • 子供を事故で亡くし、会社は倒産。妻にも出て行かれ、トラックに寝泊りしてホースレスで家具の修理をしている東口。彼は疫病神が自分の側にいるという幻覚を見ている。彼の元に、弟子になりたいと奈々恵が押しかけてくるが、ホームレス仲間達と同様、笑顔の下に本音を押しとどめ暮らしていた。東口に、大きな仕事が入ったとき、彼らの人生が動き出す。
    同じホームレスという状況下にいて生まれる交流や弱き者の絆などの反面、それそれが抱える苦しみや、開き直れない心理などがよく描かれている。差別的なことも少なく、最後は心地よいヒューマンドラマに仕上がっている。

  • ハーレキンとは道化師のこと。顔は笑っていても、心の底は…。ハーレキンのように、素顔の見えない人たちばかりが登場する。

    幼い子供を失い、経営していた会社がつぶれ、妻には去られ、ホームレスとなった家具職人の男が主人公。暗い過去から逃れられず精神的に不安定な状態が続くが、ホームレス仲間と共に仕事をこなすうちに、自分を取り戻していく。

    隠された過去という意味では、『透明カメレオン』と同系列だろう。
    ただ、途中の事件や貧乏神のような幻影など、思わせ振りの割には中途半端でまとまりに欠ける。ストーリー運びや伏線の回収も含め、出来としてはカメレオンのほうがはるかに上だと感じる。
    読む順が出版順とは逆になってしまったけれど、カメレオンを読んだときピエロを思い浮かべた。この作品を昇華させたのが、カメレオンなのかな。

  • 家をもたない家具職人東口。
    彼につきまとう不思議な<疫病神>
    お金も家もないながらも人のいい仲間たちと穏やかに
    暮らしていた彼らに、立て続けに起こり始めた事件。

    終盤の展開はスリリングでどきどきした。
    そして、隠されたいた過去が明らかに、、、
    悲しいけれど、前向きなラストがいい。

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著者プロフィール

1975年生まれ。2004年『背の眼』で「ホラーサスペンス大賞特別賞」を受賞し、作家デビュー。同年刊行の『向日葵の咲かない夏』が100万部超えのベストセラーとなる。07年『シャドウ』で「本格ミステリー大賞」、09年『カラスの親指』で「日本推理作家協会賞」、10年『龍神の雨』で「大藪春彦賞」、同年『光媒の花』で「山本周五郎賞」を受賞する。11年『月と蟹』が、史上初の5連続候補を経ての「直木賞」を受賞した。その他著書に、『鬼の跫音』『球体の蛇』『スタフ』『サーモン・キャッチャー the Novel』『満月の泥枕』『風神の手』『N』『カエルの小指』『いけない』『きこえる』等がある。

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