「サル学」の系譜 - 人とチンパンジーの50年 (中公叢書)

著者 :
  • 中央公論新社
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感想 : 7
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  • Amazon.co.jp ・本 (299ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784120047565

作品紹介・あらすじ

今西錦司によってはじまった日本の霊長類研究=「サル学」。なかでも最も人に近いとされるチンパンジーは多くの研究者たちを魅了してきた。チンパンジーの調査地としてタンザニア・マハレで研究がはじまってから半世紀。長期にわたり研究者を惹きつける魅力とは何か。今西錦司の思想と決意、伊谷純一郎のアフリカ進出、長らく第一人者として活躍した西田利貞など、先人たちの試行錯誤をたどる。並行して五〇年にわたり観察し続けたチンパンジー社会の変化や、彼らと研究者との交流も描く。

感想・レビュー・書評

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  • 「サル学」は面白い。一般向けの「サル学」の本はほとんど読んでるが、この本は50年に渡る多くの研究者のフィールドワークを描いている。かつて読んだサル学の本の著名な学者が大学生や修士時代の風景が出てくるのである。思わず彼らの肩を叩きたくなり嬉しくなった。
    思うに「サル学」にはロマンがある。ヒトは決して特別な存在ではなく、あくまでもどこまでもあるがままの動物の一員であるということは人類の未来はどうあるべきかの認識へと繋がる。
    本書では最新の知見として、チンパンジーの暴力性への懐疑を取り上げている。かつては多くの研究者がチンパンジーの観察記録から人類の戦争と暴力の起源を示唆していたが、心地よい新知見だと思った。本書の読後感は爽やかである。

    2017年2月読了。

  • チンパンジーの研究をしていると、彼らの「獣性」になじめず研究を辞める人がいるという。肉食専門のライオンなどに比べるとチンパンジーが他の生き物を食べる時には非常に残酷な殺し方をしたり、仲間同士の殺し合いも残酷だから。著者は逆にこれは「人間性」に近い特徴とみる。ヒトは時として恐ろしく残酷だから。なるほど。

    "サル学"本には今から20年以上前の立花隆の名著があるが、そこでもサルを研究することは「人間とは何か」に迫るに等しいものがあるとあった。本著もそれに近しい楽しみがあるが、構成や文章があっち飛んでこっち飛んで、著者の書きたいことを書き連ねたようになっていて、第三者に迫る迫力はやや足りないかなと思い評価は「並み」。50年におよぶ雄大な研究の歴史を知るには良書。

  • 請求記号 489.9/N 37

  • タンザニア・マハレでのチンパンジー研究が始まって50年。その歴史を、後半現地に入って調査を続けてきた著者がまとめあげた。今西、伊谷、西田から起こし、最新の情報まで盛り込まれている。そこに住むチンパンジー自体の歴史と、研究者の歴史とが交錯しながら話が進むためか、いやそれ以上にチンパンジーの名前が覚えられないため、ちょっと途中頭の中が混乱してしまった。しかし、現在抱えている問題などがよくわかった。国立公園に指定されることで、もともとその土地に住んでいた原住民のトングウェたちは立ち退かなければならない。その結果、それまでに蓄えてきた植物や動物に対する知識が消え去っていく。トングウェの子どもたちは、チンパンジーやゾウの姿を写真でさえ見たことがないという。そこで、日本人の研究者たちが原住民たちから聞き取って書き残してきアフリカの自然に対する知識を載せた動物図鑑を作っているのだそうだ。便利な世の中に暮らしている我々が言うことではないかもしれないが、便利さと引き換えに無くしていく知恵を、そこに暮らす人々にはぜひ守っていってほしいと思う。ところで、結局、松沢哲郎先生の名前は一度も出て来なかった。グループが違うということだけなのか、河合、杉山、山極、長谷川夫妻と名があがるのに、何かそれ以上のものがあるのか・・・気になる。最後に、西田先生が亡くなられる直前に著者たちに引き継がれている姿、胸にずっしりと重いものが残った。

  • 幸島のニホンザルからアフリカのマハレのチンパンジーへと、
    日本の霊長類学の歩みを記した著書。

    日本の研究の特徴の一つ「個体識別」を当たり前に思ってしまうのは、
    自分が日本人からだろうか。
    個体識別を是としない人たちは、
    宇宙人が地球外から人間を研究した時、
    個性を無視した観察結果を出されても、
    納得するのだろうか。

    「政治をするサル」を読んで以来、
    恐ろしげだったチンパンジーの印象が好転した。
    上昇志向のない脱力系の雄がいるというのも面白い。

    チンパンジーは集団で、他の群れのチンパンジーを本当に殺したのだろうか。
    研究に必要なことの一つは解剖や検視官なのでは、と思わせるところがあった。

  • チンパンジーの調査地として現在のマハレで研究がはじまってから半世紀。長期にわたり研究者をひきつける魅力とは何か。今西錦司の思想と決意、伊谷純一郎のアフリカ進出、長らく第一人者として活躍した西田利貞など、先人たちの試行錯誤をたどり、チンパンジー研究の歴史をつづる。並行して五〇年にわたり観察し続けたチンパンジー社会の変化や、彼らと研究者との交流も描く。

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