デモクラシーの宿命-歴史に何を学ぶのか (単行本)

著者 :
  • 中央公論新社
3.50
  • (0)
  • (2)
  • (2)
  • (0)
  • (0)
本棚登録 : 46
感想 : 3
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (315ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784120052026

作品紹介・あらすじ

今の社会に言論・思想の自由を徹底できる気概はあるか。共存の意志を掲げ続ける精神はあるか。デモクラシーの在り方を問い直す試み。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 読売新聞などに掲載された数々の時評、論考を加筆し、1冊にまとめたという一冊。

    デモクラシーに付きまとうポピュリズムや一国主義、ネオリベ的自己責任論などについて「デモクラシーとは、これまで歴史的に存在したあらゆる政治形態を除けば最悪の政治形態である」というチャーチルの言葉を引き合いに出して、見つめる。

    著者が何よりも強調するのが歴史や古典から学ぶこと。
    読書を食事に喩え、より栄養価が高く美味である古典に触れる重要性を説く。
    その上で福沢諭吉のいう「実学」の精神に触れ、言葉遊びや概念を弄繰り回すのでなく、長期的な展望をもとに理路整然と考察することを説く。

    <blockquote>
    国内の排々な中間的な組織も、参加メンバーが増え発言力が平等に与えられると合意形成が難しくなる。デモクラシーの下では、人は似たような条件で、似たようなことをしている。したがって、自分とさして変わらないように見えるリーダーへの畏敬や恭順の気持ちは一般に薄い。
    「自分と大して違わない人間が、自分に指示することに我慢がならない」と感じる者が増えるのだ。したがって、デモクラシー下の国民は一般に「リードされる」ことは不得手になる。P62</blockquote>

    安倍晋三内閣総理大臣を支持している人々は”自分とさして変わらないように見える”から支持しているように見受けられる。なるほど、畏敬や恭順という感情ではなく共感や親しみという感情なのだろう。「さん」付けという呼称が定着したのもその所為だろうか(何せ反安倍的な言説をしている人も、信泰する人も安倍さんと親し気に呼ぶのだ)。

    <blockquote>
    一人の独裁者が支配するような体制では、人々は彼に完全に服従しているのではなく、服従しているように見せないと危険だから表面上恭順な姿勢を示す。そこにはまだ「面従腹背」があり、人々の考えが完全に画一化されているわけではない。一方、「全体が全体を支配する」専制とは、人々の「行動」だけでなく「考え方」までが画一化されてしまうような社会体制だ。誰もが同じ
    ことを考え、同じように行動する、そうでない人間は排斥されるという状況をさす。p105</blockquote>
    全体が全体を支配するというのは正しく今の世の中を表している。かつては世間と呼ばれていたのかもしれないが、当世は世間とかお天道様といった超越した存在ではなく全体に馴染まないモノを全体が排斥し画一化させる力が強い。



    <blockquote>
    筆者が長い教師生活で接した学部学生は、概して織細で真面目だが、教室でも進んで質間をしようとはしない、控えめな態度の若者たちであった。日本で「学問」と言う場台、「学ぶこと」が重視され、「問うこと」の大切さを意識することはあまりなかったと柳田國男がかって指摘していた。
    知性の成長に重要な「問うこと」を避ける傾向は、近年とみに強まったように感じる。外国の大学で教えた経験と比べても、この点で海外と日本の学生たちとの達いははっきりしている。P286</blockquote>
    問うことを忘れた態度。即ち考えることを辞めてしまう態度が”全体が全体を支配する”空気を醸成したのか、そういう空気があるから問う力が弱まったのか。おそらくそれは控えめな態度・謙虚な姿勢では無くて出る杭になり叩かれていることを恐れているのだと思う。自分が学校に通っていた頃もそうだったし。

    <blockquote>
    デモクラシーは、人々をアトム化し、公共的なものへの関心を弱め、自分と家族という私的世界に引きこもらせる傾向を持つ。その結果、公的な徳が枯れ、「裸の利己主義」が蔓うした社会を生み出す傾向を持つデモクラシーは、それが高い価値として掲げる「自由と平等」とは全く逆の価値、即ち「専制と不平等」を生み出す危険性をはらむ。P300</blockquote>
    ネオリベ的な自己責任観のことを指しているのだろうか。デモクラシーの行き着く先としてポピュリズムがあり、それが「専制と不平等」に向かっていくということを著者は危惧している。

    経済学という「実学」の専門家である著者は「虚学」である人文学こそがその潮流に抗う意義があると説く。

    そして著者はこう結ぶ。
    <blockquote>
    賢者たちが見つめ、静かに語った人間と人間社会の秘密を学び取る姿勢を失った時こそが、真の危機なのである。危機とは危機意識を忘れることから生まれるのではないだろうか。</blockquote>

    それはそうとして、学術書でもないのに文章に色気がなくて読んでいて面白くはない。

  • 東2法経図・6F開架:309.1A/I56d//K

  • 今の社会に言論・思想の自由を徹底できる気概はあるか。共存の意志を掲げ続ける精神はあるか。デモクラシーの在り方を問い直す試み。

全3件中 1 - 3件を表示

著者プロフィール

猪木 武徳(いのき・たけのり):1945年生まれ。経済学者。京都大学経済学部卒業。米国マサチューセッツ工科大学大学院修了。大阪大学経済学部長を経て、2002年より国際日本文化研究センター教授。2008年、同所長。2007年から2008年まで、日本経済学会会長。2012年4月から2016年3月まで青山学院大学特任教授。主な著書に、『経済思想』(岩波書店、サントリー学芸賞・日経・経済図書文化賞)、『自由と秩序』(中公叢書、読売・吉野作造賞)、『文芸にあらわれた日本の近代』(有斐閣、桑原武夫学芸賞)、『戦後世界経済史』(中公新書)などがある。

「2023年 『地霊を訪ねる もうひとつの日本近代史』 で使われていた紹介文から引用しています。」

猪木武徳の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
フィル・ナイト
ジャン・ティロー...
ジャレド・ダイア...
有効な右矢印 無効な右矢印
  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×