身もこがれつつ-小倉山の百人一首 (単行本)

著者 :
  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (429ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784120054471

作品紹介・あらすじ

作家・椹野道流さん、おすすめ

「歌で世を識り、歌で戦い、歌で愛を編む。 雅な男たちの熱き血潮!」


平安時代の最高権力者・藤原道長に連なる藤原北家ながら傍流の御子左家は、歌壇ではそれなりの実力を発揮しているものの、公家の出世レースではパッとしない家柄。当家の次男に生まれた藤原定家は、病由来の難聴を克服し、侍従時代の同僚で親友の藤原家隆らとともに『新古今和歌集』の選者を務めるなど、歌壇でめきめきと頭角を現す。鎌倉幕府に押され気味の朝廷の権威回復を狙う後鳥羽上皇は、そんな定家に、三代将軍・源実朝に京への憧れを植え付けるため「敷島の道(和歌)」を指南せよと命ずる。後鳥羽の野心は肥大し、ついには倒幕の兵を挙げんとするが……。

知らぬ人のいない「小倉百人一首」には、なぜあの100首が選ばれたのか? 同じく藤原定家選の「百人秀歌」より1首少なく3首だけ異なる理由とは?――「承久の乱」前後の史実をきらびやかに描きながら、その謎を解き明かす。


【目次】

一の章 還御の噂

二の章 いとしの友よ

三の章 菊花の王

四の章 はかなき鎌倉将軍

五の章 勅勘と大乱

六の章 嵯峨山荘の障子和歌

附記

感想・レビュー・書評

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  • 雅な百人一首作成の裏側で、こんなにも政治的策略が蠢いていたとは。
    時代は平安末期の、貴族社会から武家社会へと大きく変わる激動の頃。
    平家が滅び源氏が台頭、鎌倉に幕府が置かれ平安京の影も徐々に薄まりつつある。時の権力者が目まぐるしく変わり、政の中心も京から鎌倉へ移ったことで治安も乱れ放題。
    このような国の混乱期に、今昔の歌人のうちから百名の秀歌を選びましょう、なんて呑気なことをやっていたことに驚いた。

    朝廷VS鎌倉幕府(西東の天下分け目の戦いってこの頃からあったのね…)、北条政子・義時姉弟の高圧的な武力行使、からの後鳥羽上皇隠岐への島流し、と歴史的に見ても面白かった。後鳥羽上皇目線で見るとこの姉弟の所業はまさに鬼のようでびっくり。

    藤原定家が何度も唱えていた「古歌に学べ」のように、今までさらっとしか見ていなかった古の歌も意味深く思えて面白い。百人一首を改めて詠みたくなる物語だった。

  • 華流ドラマ中毒からのリハビリ読書第1作。周防さんの書く歴史小説はライトですね。後鳥羽院も家隆も定家も造形が薄っぺらい。でも、BLの三角関係とは面白い。解釈は様々ですが、百人一首の選にはやはり定家の秘めた思いがあるのを感じます。余談ですが、女三の宮が柏木への返歌に込めた思いについては、周防さんの解釈に大きく同意しました。

  • 文歴二年(1235年)藤原定家七十四歳。
    十四年前の承久の乱で北条義時に敗れ、隠岐へ遠流になっていた後鳥羽院が許されて還御されるといううわさを聞く。
    老いた定家の胸に懐かしさと悔恨、さまざまな思いが去来する。

    後鳥羽院と、定家と、藤原家隆の三人はくすしき絆で結ばれていた。
    十四年前のあの時、家を守るため、歌道のために、院と無関係であることを貫いた定家。
    守るべき家も後ろ盾も無いからと、院に寄り添うことを選んだ家隆。
    家隆は夢見る人であり、定家はいくぶん現実的だった。
    後世まで歌道に残した定家の功績を思えば、花より団子を取った・・・と責めることはできまい。
    しかし、鎌倉に頭が上がらず、勅撰集にも厳しい修正が加えられる現実。

    不本意に沈む定家に、宇都宮蓮生から、新築中の山荘の障子を飾る和歌を選んでくれないか、誰にも気兼ねせずお好きなものを、と依頼があった。
    定家は、ならばそこには院の歌も入れよう、そこに還御なった院をお招きして歌の会を催そう。本当の気持ちを示すことができると喜ぶのだったが・・・

    過ぎし日々が追想される。
    院と家隆と定家、恋の三つ巴・・・定家と家隆の切れることのない絆と、院の妨害。
    院と鎌倉と摂関家、権力の三つ巴・・・
    承久の乱へと至る後鳥羽院の絶望感がリアルである。
    かつて白河院は、自分の思い通りにならないものは「賀茂川の水、双六の賽、山法師」と言ったと聞くが、後鳥羽院にとっては、思いどおりにならないことだらけだったのではないだろうか。
    院政の時代の終焉、沈みかけた船からは人が去り、院は孤独に隠岐へと船出する。

    北条の姉弟、政子と義時はつぶさに描かれないことでかえって、顔の見えない魑魅魍魎のような存在感を出している。

    実朝はここでも哀しく、儚い(みんな、実朝大好きだなあ)
    「鎌倉殿と13人」の頃に京で繰り広げられていたのは、花びらと金箔が風に舞っているような、幽玄の世界だったが、それも武者の世に飲み込まれていく。

    百人一首の成立について、その選出の意図は何を意味するのか、ということはこれまでも諸説挙げられてきたけれど、この物語もその答えのひとつだろう。

    『一の章 還御の噂』
    『二の章 いとしの友よ』
    『三の章 菊花の王』
    『四の章 はかなき鎌倉将軍』
    『五の章 勅勘と大乱』
    『六の章 嵯峨山荘の障子和歌』

  • 来ぬ人をまつほの浦の夕凪【ゆふなぎ】に 焼くや藻塩【もしほ】の身もこがれつつ
       藤原定家

     百人一首は謎【なぞ】めいている。けれども、現代の私たちの心をもとらえてやまない。

     成立や選歌の謎については、これまで多くの研究書があり、編者と言われる藤原定家については、村井康彦「藤原定家『明月記』の世界」(岩波新書)に、最新の研究成果が示されている。

     これ以上新しい解釈などは難しいのでは、と思っていたところ、近刊の周防柳の小説「身もこがれつつ」に目を覚まさせられた。意外な角度から、選歌に至る人間ドラマが描かれ、鮮やかな謎解きを堪能できる。

     百人一首は恋の歌が多い。それも伏線となり、「恋歌の名手」と呼ばれた定家に、後鳥羽院が直球で尋ね場面がある。
    「そなたにとって、恋歌の極意【ごくい】はなんぞ」
    「未練でございます」

     未練。終わったはずのものが、そうはならず、いつまでも引きずってしまう心。

     百人一首の最後の4首は、冒頭の定家の歌、そしてこの歌。

    ・風そよぐ楢【なら】の小川の夕暮は 禊【みそぎ】ぞ夏のしるしなりける
          藤原家隆

     その後に、後鳥羽院、順徳院の歌が並ぶ。定家、その親友である家隆、そしてかれらの主君である後鳥羽院が並ぶ理由とは…?

     ネタバレになるので控えるが、現実の恋は苦手な定家が、「未練」を選歌に昇華させていく経緯が琴線に触れる。瞠目する長編。
    (2021年10月10日掲載)

  • 定家の人物造形が独特。冴えない風貌で、スマートな遊びも人付き合いもバツ。理屈っぽくて籠りやすく、でも人並みの出世欲と歌の家を背負っている気負いはあって、保身に駆けずり回る。なのに思いがけないタイミングで、真っ直ぐに気持ちを必死に寄り添わせてくる、ピュアな健気さ。イマドキだと「ギャップ萌え」って言うの?こりゃやられるわ~

    院は院で、20も年上の男達を両方とも従わせたがる傲慢さと、時折チラつく暗い水底で宝剣を守る兄幼帝のイメージに翻弄されるアンバランスが堪らんわ。

    ただ、家隆は内村幹子『海は哀し』よりだいぶ美化されてて、うーん。

    げに恐ろしきは作家の想像力。
    ま、この流れじゃ式子内親王への淡い恋心は放置するしかないわね。

    「あはれ嘆きの煙比べに」は圧巻。
    木っ端な若者に懸想される皇女に我が身をなぞらえ、こともあろうに帝寵を疎ましがるなんて…グッと来ちゃうじゃあないのよ!

    そう、強く想う方が負けってのが、恋愛の鉄則だったっけな。

  •  丸谷才一「後鳥羽院」を読み返したくなる一冊。
     

  •  藤原定家と親友・藤原家隆、後鳥羽上皇、歴史上の人物を主人公にした物語。三人は和歌を通しての繋がりだけでない説明し難い関係。鎌倉幕府と京の都、権勢を得ようとする政治的なやり取りも描きつつ、男三人のままならぬ恋が描かれている。

  • 期待しすぎたのか・・・こちらが百人一首に疎いからか
    藤原定家の小倉百人一首にまつわる物語で、
    斬新な着想に、いにしえの雅な香りが漂ってくるのだけれど、
    肝心の物語が心に響かない。
    文章も美しいのに、残念!

  • これはスゴイ…。

  • 藤原定家はなぜ「百人一首」にあの100首を選んだのか? 「承久の乱」前後の史実をきらびやかに描きながら、その謎を解き明かす。

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著者プロフィール

1964年生まれ。作家。早稲田大学第一文学部卒業。編集者・ライターを経て、『八月の青い蝶』で第26回小説すばる新人賞、第5回広島本大賞を受賞。『身もこがれつつ』で第28回中山義秀文学賞を受賞。日本史を扱った他の小説に『高天原』『蘇我の娘の古事記』『逢坂の六人』『うきよの恋花』などがある。

「2023年 『小説で読みとく古代史』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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