タラント (単行本)

著者 :
  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (443ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784120055010

作品紹介・あらすじ

こんな人生に、使命は宿るのか。片足の祖父、不登校の甥、大切な人を失ったみのり。絶望に慣れた毎日が、一通の手紙から動き出す。慟哭と感動の傑作長篇。

感想・レビュー・書評

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  • タラントとはタレントという意味も持っている聖書の言葉。
    ジャーナリストや写真家、起業家として活躍するする友人たちに対して少しコンプレックスを感じるみのり。みのりの祖父で戦争で片脚を失った清美。みのりと清美の現在と過去を織り交ぜながら話が進む。
    みのりが感じる嫉み(?)や無力感、などが自分に重なる。

  • みのりの考えてること、怖がってるところ、自分ではわかってて知らないふりしてるとこ、、、読みながら自分のことのように思えてきた。

  • 国際NGOプラン・インターナショナルの会報誌に載っていた角田さんのインタビューを読み、気になって手に取った一冊。
    何も知らなければ、何も見なければ、恐れることも自分の無力さも感じることはない。しかし、境遇の違う人の「ふつう」を想像し、共感することが、他者を理解するのに大切なことなのだと考えさせてくれた。やりたいことをはじめるのに遅すぎることはない、と勇気をもらえるようなラストでした。

  • 祖父が手紙の返事を書かなかったのは、あるいは出さなかった理由は何なのだろうな。。


    『文学キョーダイ!』でおすすめされていた一冊。
    面白かった!
    映画化だと削られてしまうし、朝ドラで実在する人物以外を題材にしたものもあるので本作映像化しないだろうか。。
    パラリンピックの歴史も知らなかったので巻末の参考文献が有難い。かつての戦争や、現代の戦争についても。

    『日本のパラリンピックを創った男 中村裕』
    『アナザー1964 パラリンピック序章』
    これは今年中に読みたい。

    核となるのは大学進学で状況した女性とその祖父。
    女性はこれから踏み出すだろうが、祖父の人生は分岐点が悲しい。。40歳で動いていたらどんな人生だっただろうか。けれどそうすると女の子と会わないわけで。。
    最後の独白が嬉しくもあり切なくもあり。


    2020年7月18日から2021年7月23日まで、読売新聞でリアルタイムで読んでいた読者はどんな気持ちだったのだろう。
    これから2020東京オリンピックの物語を読むときのコロナ禍での切なさを後世の人はどう感じるのだろう。
    2021年出場選手の再予選あった種目もあるし。

    かつてやる気と行動に満ち溢れていた女性が現代のように生きるようになった理由を「これか?このことが原因か?」と読み進めていく。
    現代と過去と祖父の独白と、本当に引き込まれる。
    分厚いのに、残りぺージが少なくなるのが惜しくなる。

    3.11もあり、テロもあり、データが揃っているのもあるけれど、現代は事件が多いように感じる。
    本作がもし映像化したとしたら(ボリューム的に難しいかな。。)見終わった後、暫く引きずられそう。
    三部作も良いけれど、映画を一本見終わった後のあの感覚はインプットとしてとても好きな時間。

    『でも、それまでは見えなかったものを見て、それまでは知らなかったことを知って、それまでは考えなかったことを考えて、それまではやろうとしなかったことをやっている、という実感が…世界が開いていく感覚があった。その実感が錯覚かもしれないなどとは、そのときは疑わなかった。…自分にもできることがある、と信じることができた。』
    『何になりたいと言えるのは学校に通っている間だけで、あとはもう、何にならなくても自分に出来ることをするしかない。…そんなのことを十四歳…に言うつもりはない。』
    『人は、善意にはぜったいに善意を返すものだと、意識する事もないくらい強く信じていたのだ。それが世界共通のルールだと信じていた。…寄付や支援物資を沢山持って…いけば、とうぜん、笑顔とお礼が返ってくるはずであり…ツアーでまわる場所にお金を要求する人がいてはいけないのだった。笑顔と感謝があふれていなければならないのだった。…そう信じていたから…あんなにも動揺したのだと…気づく。恥ずかしかったのは、お金を要求されたことではなくて、のんきに勝手なルールを信じていたことだ。』

    『ものすごいパワーであたらしい境地を切り開いていく人って、どうやってそうなるのかなって、…もともと自部にそういう力があってそれを二百パーセント発揮させたのか、それとも、何かから選ばれて、…意思をはべつに特殊な使命を帯びてるんじゃないかって…
    本当は静かに平凡に生きたいのに、何かこう、やらないきゃなんないみたいなことになって…』
    『(選ばれし何者かと、そうでない大勢ともちろん後者がいい)子どもの時は違ったけど。じつはとてつもない才能があって …空想したりしてたけど。』
    『でも本当の意味で世界を変えていくのは、選ばれし人じゃなく、その他大勢だよな。ひとりが使命をまっとうしても、大勢が何も変わらなかったら変わらないままだから。』

    『心配よりも恐怖が勝り、今まで感じたことのないその恐怖は、いつのまにか…の内で怒りと区別がつかなくなっていた。』
    『やりたいことがたくさんあって、そのたくさんをこの先やれたはずの人間が、なぜいなくならねばならないのか…神様はなぜわざわざそんな有望な人間を選ぶのか』
    『私達とは違う世界の、弱ってる人は、弱々しくいてほしいって…違う遠い世界の人のはずだって思い込み』
    『この子たちは困難な立場にいるというだけで、私と隔たった異世界にいるのではない。
    かっこもつけたいし、写真にはきれいに映りたい。学校に行きたいのは勉強したいからではなくてサッカーがしたいからだし、…起きるのもいやんなるよ、という男の子の言葉に「わかるよ」と応えそうになった』
    『そうやってつらさ比べをしていたら、この子たちの困難は他人事になり、この子の暮らす世界は異世界になる。…朝起きるのがいやになる、という小さな絶望が、わかるか、わからないか、だいじなのはそこだ。あるいは想像できるか、できないか。比べたらだめだ…大小を比べた途端に、わたしたちは想像を放棄する、そして断絶してしまう。…彼ら彼女たちのつらさは特殊ではない、』

  • どっちがよりつらいか、ではなく、そのつらさがわかるか、わからないか。
    誰もがなんということもない義務感に突き動かされ、それに従っていて、それがつまり使命であり才能。
    443ページの大作。正直、半分まではダラダラとした感じがして読了できる気がしなかったが、後半の怒涛のスパートと伏線回収がすごい。当たり前だけど、さすが作家、タラントだ。

  • 周りと比べて自信をなくしていくみのりと自分が重なった。才能や使命がなくても、やりたいと思ったことを軽い気持ちで始めればいいんだと少し勇気をもらった気がする。誰のためでもない自分のために、とべ、とべ、たかく、たかく。

  • 半分過ぎたくらいからどんどん引き込まれていった。
    ずーっと前に行ってしまった友人達が眩しいような妬ましいような。
    自分の善意からの行動が裏目に出て、情けなくなって無気力になったり。
    何か新しいことをして失敗するよりも、現状にしがみついていたい気持ちもよくわかる。

    でもいろんな出来事や家族や友人達との関わりから、自分がやってみようと思えることが見えてくる。
    何も華々しく注目を浴びるようなコトじゃなくてもいいんだ。

  • 久しぶりの角田さん。やっと読み終わった、長かったという印象。
    各章は戦中戦後の祖父の話しと主人公の学生時代からの話しと現在の話しの3つの時代が交錯する複雑な形態。それと主人公のみのりの性格が、読んでいて自分に合わない。目的を持っていそうで持っていない。友人達に常に僻んだり反発したり、落ち込んでは連絡を絶ったり。仕事も責任を持たないように社員を目指さなかったり。祖父も足を失い、人生を達観したのか、働きもせずに日を暮す。周囲がそれを受け入れている。
    タラントというタイトルも使命や才能、聖書の賜物でもあるようだが、この本のどこに結びついているか悩んでしまう。
    ボランティアへの葛藤、偽善感、非難中傷が一気に押し寄せて来る。最後の方のパラリンピックや義足提供のボランティアへのチャレンジが結論だったのだろうか?

  • 同じ時の中で私たちは
    全く別世界を生きてる


    私は春コートと木漏日
    に包まれて、

    静かな林道のベンチに
    腰かけ、

    足もとで落葉が春風に
    カサコソ捲られてく中
    これを書いてます。

    こうしてる今も戦火で
    少年兵が手足を失い、

    僅かな生活費のために
    少女が児童婚させられ、

    もっと身近なとこでも
    今まさに現在進行形で
    不幸が在るのでしょう。

    ボーーーっと生きてる
    私でもこういう作品を
    読むと、

    だれかの役にたちたい
    とか、

    何か意義のあることを
    したいと浮足立つけど、

    まずは私自身の暮らし
    をしっかり送るのだと
    自分に言い聞かせます。

    ちゃんと生きてる人に
    その機会が巡ってくる
    と思うのです。

    けっしてファンタジー
    ではなく、

    この本のじいちゃんの
    ような人たちを見てて
    そう思うのです。

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著者プロフィール

1967年神奈川県生まれ。早稲田大学第一文学部文芸科卒業。90年『幸福な遊戯』で「海燕新人文学賞」を受賞し、デビュー。96年『まどろむ夜のUFO』で、「野間文芸新人賞」、2003年『空中庭園』で「婦人公論文芸賞」、05年『対岸の彼女』で「直木賞」、07年『八日目の蝉』で「中央公論文芸賞」、11年『ツリーハウス』で「伊藤整文学賞」、12年『かなたの子』で「泉鏡花文学賞」、『紙の月』で「柴田錬三郎賞」、14年『私のなかの彼女』で「河合隼雄物語賞」、21年『源氏物語』の完全新訳で「読売文学賞」を受賞する。他の著書に、『月と雷』『坂の途中の家』『銀の夜』『タラント』、エッセイ集『世界は終わりそうにない』『月夜の散歩』等がある。

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