ぼくらは、まだ少し期待している (単行本)

著者 :
  • 中央公論新社
3.38
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本棚登録 : 304
感想 : 39
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  • Amazon.co.jp ・本 (352ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784120055768

作品紹介・あらすじ

町田そのこ氏、おすすめ!
「自分を誰かに明け渡さない。それが、誰かを救うことにもなるのだ」

札幌の進学校に通う土橋輝明は、数学と生物が得意な高校3年生。同学年の特進クラス国立文系で第一志望は北大文学部という秦野あさひとは、「優等生」同士ということで、学校行事にペアで駆り出されることも少なくない「腐れ縁」だ。ある日、あさひに相談を持ち掛けられた輝明は、予想外の内容に驚き、思わず席を立ってしまう。翌日、彼女が失踪したことを知った輝明は、片親の違う弟で「料理研究部」では彼女の後輩でもある吉川航とともに、その行方を追い始める。彼女はどこへ消えたのか? 輝明は東京へ、そして沖縄へ向かう。徐々にあさひの過酷な生い立ちを知るにつれ、輝明は……。
親に期待できなくても、人生を諦めなくていい――名作『氷の海のガレオン』『悦楽の園』の著者、10年ぶりの新作長篇。

【目次】
前口上
起 二○一三年七月中旬、北海道札幌市
承 二〇一三年七月下旬、埼玉県所沢市
転 二○一三年七月下旬~八月上旬、沖縄県那覇市~慶良間諸島
結 二○一三年十二月下旬、北海道札幌市
納め口上

感想・レビュー・書評

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  • 頭脳明晰な高校生の土橋輝明が、異母兄弟の吉川航と共に、失踪した同級生の秦野あさひの行方を追う物語。

    高校生が主人公なので、割と今時のポップな文体で物語が進行していく。しかし話の内容としては複雑な家庭環境で育った登場人物達ということもあり、児童虐待など重いテーマを含んでいる。本来頼るべき大人に頼れなくて、ままならない現実と戦っている姿が印象的。

    舞台は北海道→埼玉→沖縄→北海道と移り、ややロードノベル的な要素もあったりする。輝明は旅を通じ、色んな世界を知り、自分にとってあさひの存在がどういうものだったかに思い至る。終盤、輝明があさひからの電話で思いを伝えるシーンは本当に熱い。普段斜に構えることの多い人物だけに本音のメッセージが聞けてグッとくる。

    この本は娘が読んで面白かった、と紹介を受けて手に取ってみたが、大人こそ読むべき本かもしれない。若者達が少しでも未来に期待を持てるように。

    作中で登場した『アルジャーノンに花束を』を読んでみたくなり、早速本棚に登録したけど、読みたい本が加速度的に増えて追いつかない!一日が24時間じゃ全然足りないと思う。

  • 「ぼくらは、まだ少し期待している」書評 親に傷つけられても生きていく|好書好日(2022.10.29)
    https://book.asahi.com/article/14754537

    ぼくらは、まだ少し期待している -木地雅映子 著|単行本|中央公論新社
    https://www.chuko.co.jp/tanko/2022/10/005576.html

  •  先日、『ねこの小児科医、ローベルト』という絵本を読んで、その作者の木地雅映子さんを調べていたら、町田そのこさんがお薦めしている著作があるということで読んでみました。

     それぞれの理由で、親に傷つけられ、もう期待をしていない高校生が、自分の力でもがき、抗い、成長していくお話。暗さも内包されていますが、暗さよりも若者の、工夫して生き抜く等身大の力から感じるエネルギーに満たされていて、楽しく読めました。

     読み始めは、いわゆる現代の子が使う独特な言葉や、オタク言葉だらけの会話にもやもやとし、ついていけないかもと構えましたが、そのうち、その言葉遣いも、彼らの個性の愛らしさを増すものと感じられるようになりました。

     児童自立支援ホーム、東日本大震災の話も絡んできます。虐待を受けた人、PTSDに悩む人が実際にどんな事に苦しみを感じているのか、作品自体はフィクションですが、その部分はルポのように、生の声を聞いているようでした。

    ○主人公輝明の母の言葉
    「どんな時でもテルの決断を尊重する。ただ、苦しくなったときに「大丈夫だから、気にしなくていいから」って、あさひちゃんを蚊帳の外に置くことだけは、絶対にやっちゃだめ。それは相手を心配させまいと思いやっているつもりで、実際は自分のプライドしか守ってないの。話し合いなさい。二人で、どんなときも、どんなことでも。それだけ約束してくれたら私の子育ては完全に終了するから。」

    ○前の世代よりも今の世代が、今の世代よりも次の世代が、ほんの少しでも良くなっているのなら、それ以外の事は、割と何でも良い。あの人は自分(の人生)よりも、自分の娘の人生を豊かにすることに成功した。そうやって俺の手に届けてくれたんだから、安全圏から感謝するくらいのことはしてもいいのかもしれない。

     読み応えがありましたが、家出をしたあさひが東京でどんな日々を送っていたのか、もう少し知りたかったです。

     今までに感じたことのない独特な読後感で、戸惑いもありましたが、読んで良かったと確かに思える一冊でした。

  • 自分はまだ第三者かもしれない。

    前半は2人の会話のリズムに違和感があって、正直あまり楽しく読み進められなかった。
    でもいつの間にか気にならなくなって、最後はその会話がすごく愛しく思えた。

    分かってしまった事は、自分は今だに大切な人に対して第三者なんだろうと。感情を素直に出せなくて自分の感情を嘘っぽく思う所があって、寄り添っている振りをしてるだけなんだなと。分かってしまって切なくて寂しい気分になった。主人公みたいにしたいと思った事を出来るようになりたいな、心から。

    虐待の話は別の本でも、何回聞いても、辛くなる。実際に受けていた側よりも、兄弟が酷い扱いを受けているのを見ていた側の方が回復が遅いと言うのは、衝撃を受けた。やっぱり人には優しさがあってそれを出せなくて、攻め続けてるけどそれも出せなくて。まっとうな感情を抑えつけられると壊れてしまうんだろうなと思った。想像するだけで息が苦しくなる。

    人の嫌な部分が見えて辛くもなったけど、次の世代が良くなるように生きた人に会えて、それが世間一般からしたら足りなくても、それってすごい事だと思った。何だか自分の言葉が足りなさ過ぎて、うまく伝えられなくて悔しい。

    それから、久しぶりに紙の本を読んで、やっぱり良いなーと思った。読んで良かった。

  • “だけどとにかく今は、この世界に、実在するきみに会いたい。目で見て、声を聞いて、手で触れて。記憶の中にしか存在しないような状況から脱したい。もう、自分の頭の中を探し回るような旅は、二度とごめんだ”

    ヤングアダルト小説、といえば木地雅映子さん

    いつの時代も、ティーンは迷うし悩むし恥ずかしい。恥ずかしいの方向がわからなくなるほど恥ずかしい。自意識が過剰なんだ。

    未成年とは、まだ成人にあらず。保護責任者の庇護のもと、社会に参加し始める。

    他者と自分の違い。あれ、この考え方は私と違う。私が、間違ってるの??って、足元がしょっちゅう揺らぐ。

    幼児期に愛された記憶が無く、虐待を受けた子供の脳には萎縮している部分が真っ黒に映るという。そのまま愛される実感もなく、求められるままに要求を受け入れ、母になり、愛を与えられない。それは、必ずしも起こる事ではないが、30%ぐらいは同じことが起こるという。

    それでも、ぼくらは、まだ少し期待してしまうんだ。親からの愛情に疑問がある場合、他のもので埋めたりできる、こともある。どんな環境で、どんな人に会えるか、会おうとできるか。自分次第なのかもしれない。

    木地雅映子さんらしい、ボーイミーツガールでもあるこの物語。子供が知っておいて損はない、お金の話もちりばめられてる。私も勉強になったよ。ヤングアダルト世代に是非読んでもらいたい、辛いばかりじゃない、この世の中との向き合い方のヒントがある、物語。

  • 新感覚な読み心地だった。
    町田そのこの帯に惹かれて初めて読んだ作家さん。
    冒頭の前口上の小気味よい文章でグッと掴まれたと思ったら、随所に散りばめられている現実的な事象や問題。それによって単純な読む楽しさだけではなくて、ドキュメントを読んでいるようなリアルさを感じさせて遠い世界の出来事ではないように感じさせてくる。
    「家族再統合」というような知らなかった知識、家族神話のようなものからの脱却と、だけれでも捨てきれない親への期待とそれを経た上での良い意味での諦めと断絶、冷静な主人公が巡り巡って辿り着いたシンプルな愛情、そして予期していなかった人物との邂逅で生み出される濃密な時間。本当にたくさんの要素が詰め込まれていて、安易にジャンル分けできない何層にもなった面白さにのめり込んだ。
    読み終わった後にはタイトルがグッと印象深いものになっていた。

  • 北海道の進学校の3年生、輝明。同じ高校のもう一人の秀才ひかりとは、学校の行事などで何かにつけて引っ張り出される。そんなひかりから相談を受け、その内容にたじろぐ。そして、翌日ひかりは姿を消す。輝明の異母弟の航とともに、夏休みを使ってひかりを探し始める。
    登場するほとんどが何らかの問題を抱えている。育児放棄・ネグレクト・家庭内暴力などなど。とんでもなく暗くなりそうな内容を支えるのは、輝明の知性と航の明るさだ。そして、しょうもない親がいる一方で、無償で手を差し伸べてくれる明るい大人たちもいる。ぜんたいとしては、かなり特殊な環境下の高校生たちなのだが、ある意味平凡ともいえる輝明たちの未来に「少し期待」できた。

  • とんでもなく寡作だが、書き上げる1作1作がとんでもなく読み応えある、木地雅映子。本作も期待を裏切らない傑作。

    育てるべき親たちにひどい目にあわされた子供たちの物語。
    主人公もその弟も、ヒロインもヒロインの弟も、それぞれがツラい育てられ方をして年齢にそぐわない辛い生き方をしてきている。

    人の親として、育児放棄や虐待のシーン、駄目クソ親描写、子供の耐え忍ぶ姿を読むのは辛いが、親や読者の想いをこえて子供たちは必死にたくましく、時にはしたたかに生き抜いていく。そこには子供たちを見守り力となり少しでもマシな生活の場を与えようとする大人の姿もあり、それが少し救いになる。

    後半、斜に構えた醒めた態度で生きる(ざるを得ない)主人公が、心に秘めた思いをドバっと吐き出すシーンがあるんだが、そのシーンが、もうね凄い涙滂沱で、とにかく応援したくなる。

    子供を産むしても育てるにしても、環境がドンドン悪化する現状。少子化になって当然だろと諦念を込めて思うのだが、その少なく生まれた子供たちに少しでも希望ある未来を生きてもらうために、俺たちは何をすべきか、じっくり考えてみたいと思わされた傑作。

    「孫の顔がみたい」がジジイのたわごとどころではなく、子供へのハラスメントになっているような現実社会、なんとかならないもんか。ほんまに

  • 町田そのこ、につられて読んだ。
    出だしはよかったけど後半の内容のシュールさと文章の軽さに気持ちがついて行かず、流し読み…
    結末も悪くはなかっただけに残念。
    虐待の連鎖とか家庭の複雑さとかに加えて株やら投資やらで無駄にお金のある主人公が高校生で、佑荘の人たちや沖縄編あたりで挫折した。
    よかったキャラはお母さんの夕子さんくらいかも。

  • 意外や経済のこともわかるラブストーリー。北海道〜東京〜沖縄と舞台が変わり、かつ登場人物も多く複雑だが個性が粒立っており混乱はしない。
    精神疾患の描写がライトで物足りなさを感じなくもない。

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著者プロフィール

1971年石川県生まれ。作家。
日本大学芸術学部演劇学科卒業。1993年「氷の海のガレオン」(群像新人文学賞優秀作)でデビュー。作品に『ねこの小児科医ローベルト』『悦楽の園』「マイナークラブハウス」シリーズ、『あたたかい水の出るところ』『夢界拾遺物語』『ぼくらは、まだ少し期待している』などがある。

「2023年 『ステイホーム』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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