猛き朝日 (単行本)

著者 :
  • 中央公論新社
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感想 : 18
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  • Amazon.co.jp ・本 (528ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784120056291

作品紹介・あらすじ

「彼の一生は失敗の一生也。彼の歴史は蹉跌の歴史也。彼の一代は薄幸の一代也。然れども彼の生涯は男らしき生涯也。」――芥川龍之介

平安末期。十二歳の少年・駒王丸は、信濃国木曽の武士・中原兼遠の養子として、自然の中でのびのびと育つ。兼遠の息子たちとも実の兄弟のように仲良く過ごすが、彼は父と母の名も自分が何者なのかも、いまだ知らずにいた。
ある日、駒王丸はささいなきっかけから、同じく信濃の武士の子・根井六郎と喧嘩になる。だが、同等の家格であるにもかかわらず、六郎と根井家当主が後日謝罪に訪れる。二人は畏れ多そうに深々と頭を下げて言う。
「駒王丸殿はいずれ、信濃を束ねる御大将となられる御方。我ら信濃武士は、ゆくゆくは駒王丸殿の旗の下に集わねばならぬ」
初めて知る実父の存在、自らの壮絶な生い立ち。駒王丸、のちの木曽義仲の波乱の生涯が始まろうとしていた。
類い希なる戦の腕で平家を追い落とし、男女貴賤分け隔てない登用で、頼朝・義経より早く時代を切り拓いた武士。
彼が幕府を開いていれば、殺戮の歴史はなかったかもしれない。
日本史上最も熱き敗者、「朝日将軍」木曽義仲の鮮烈なる三十一年。

感想・レビュー・書評

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  • 大河ドラマ『鎌倉殿の13人』にて強烈な印象を残した源義仲の太く短い生涯。

    どうしても大河ドラマと比べてしまうのだが、この作品がドラマと違う一番の点は女軍師がいたこと。
    村山義直の娘・葵は書物好きで、歴史書で培った知識で数に劣る義仲軍を勝利に導いていく。
    だが彼女は『今の今まで、自分の頭の中だけで戦をしていた』ことを般若野の戦いで知る。

    もう一人、義仲といえば忘れてはいけないのが巴。イメージ通り強いこと強いこと。
    義仲との関係は、ドラマのようなプラトニックどころか恋愛関係はない。そもそも巴には生き別れた夫がいて、その夫が何と敵方にいるという設定になっている。そのことが義仲の最期のシーンにも絡んでいるというのは興味深い。

    そしてもう一人の女性、山吹。義仲の正妻で、悲劇の少年・義高の母だ。山吹についてはドラマでもそうだが描かれているのを初めて読んだので新鮮だった。そして彼女は愛息・義高を取り戻すために戦に同行する執念の女性でもある。

    この三人以外にも敵方にも女性ながら参戦する女性もいて、本当なのかどうかは分からないが女性がこれほど出てくる戦記というのも珍しい気がする。

    義仲の勢いが良かったのは僅か4年弱。
    彼には平家を倒すとか、権力を手にするとかそういうことはどうでも良かった。
    ただ懸命に頑張っている人たちが穏やかに幸せに暮らせる世界を創りたかっただけだった。
    だがそんな世界はどこにもなかった。
    法皇や公家は自分の地位や権力や財政を守ることしか考えていなかったし、頼朝は武家の頂点に立つことしか考えていない。叔父の行家はドラマ同様、小者なのに自分を大きく見せ人を振り回し、逃げ足だけは早い。

    どこでどう間違えたのかと言えば、『魔都』・京に入ったことだろうか。葵の最期の言葉がこんな結末に繋がるとは。
    京は彼が育った木曽とは全く違う秩序、価値観、考え方の土地だった。
    だが木曽地盤に領地を広げていたとしても、それはそれでいつか頼朝や法皇とぶつかっていたような気がする。
    もっと平和な時代であれば、木曽のよき領主として生きられたかも知れない。

    義仲の勢いが良い時はすり寄り、勢いが失われたと思いきやさっさと離れていく人々と違い、共に育った義仲四天王や巴らとの絆の強さが光った。
    また義仲の真っ直ぐな気性を作った養父・中原兼遠も素敵な人だった。

    最後はドラマでの巴のその後を見た感じでホッとした。

    • 土瓶さん
      歴史ものはあまり得意ではないんですが、fukuさんのこのレビューを読んでいると惹かれますね。
      読みたい!
      が、うちの方の図書館にない><...
      歴史ものはあまり得意ではないんですが、fukuさんのこのレビューを読んでいると惹かれますね。
      読みたい!
      が、うちの方の図書館にない><
      早く入れてくれないかな~。
      2023/03/12
    • fuku ※たまにレビューします さん
      土瓶さん
      コメントありがとうございます。
      大河ドラマとはまた少し違う義仲の物語を楽しむことが出来ました。
      これもまた読書の楽しみの一つ...
      土瓶さん
      コメントありがとうございます。
      大河ドラマとはまた少し違う義仲の物語を楽しむことが出来ました。
      これもまた読書の楽しみの一つですね。
      少し分厚いですが、テンポよく読むことがありました。
      図書館に入ると良いですね(^_^)
      2023/03/12
  • 「俺は、源氏の世など望んではいない。源氏も平氏も、百姓も貴族も無い。すべての者が、人として等しく生きられる。そんな世を、俺は望んでおります」

    木曾義仲(源義仲)。私欲や野心もなく、常に"正しい"漢。
    人としてはいいのだけれど、天下を取るような武将としてはだめなのだろう。天下人は毒を持ち周囲を欺く位聡い漢でないと。
    もう少し要領良く立ち回ることができたなら…けれどこの要領の悪さが義仲の人としての良さなのだろう。だから配下の者たちにこんなにも愛されていたのだろう。

    大河ドラマ『鎌倉殿の13人』で巴御前のことが気になっていたので、巴御前がたくさん出てきてとても嬉しかった。特に『鎌倉殿』以前のことが知りたかったので、今作で巴御前の生い立ちや人となりも分かって良かった。思った通りかなり波乱万丈な生涯。
    葵御前の存在にも驚いた。しかも実在の人物だったなんて。この時代に複数の女性を戦に登用する義仲の手腕にはとても驚いた。
    適材適所に配下の者たちを配置する。それぞれの性格を見抜き、得意分野等をよく理解しているから出来ること。義仲の組織のリーダーとしての素質は申し分ない。

    まさに理想的なトップ。
    それなのに、一体どこで間違えてしまったのか。
    平家や源頼朝、朝廷の間でもっと巧く駆け引きできていれば。けれどこの真っ直ぐさがあったからこそ、最期までよき仲間に愛されたのもまた事実。
    あれから何百年経とうと、人の心を今尚揺さぶる漢。戦の上では敗者であったけれど、歴史上の漢としては勝者であったと思う。

    かなりの頁数だったけれど、読みやすくて夢中になった。他の作品もまた読んでみたい。

  • 朝日将軍こと木曾義仲の生涯を描く。

    武士のことだけ、自分の仲間のことだけではなく、誰もが幸せに暮らせる国にしたい。
    義仲の人柄が魅力的だからこそ、家臣以外も味方になっていく。

    幼い駒王丸のころからの絆、彼を慕う仲間たちが支えあう木曾軍のあたたかさが、いい。

    身内同士で争いあう源氏。
    味方である坂東武者たちもつぶしてしまう、頼朝。
    何事も支配下におきたいがために、持ち上げたり貶めたりする、法王。

    彼らの愚かしさがあるからこそ、木曾軍のさわやかさが光る。

  • 惚れた、痺れた一冊。

    木曾義仲。
    また一人、猛き武将に惚れた。 
    彼の生きざま、矜持に痺れた。
    そしてラストは涙しかなかった。

    一人の武将にスポットをあてたことで今まで見ていた景色が一変、熱を帯びた全く別の景色を見せられることほど感動はない。

    世の全ての人が人として等しく生きられる世を目指した、ただそれだけなのになぜにこうも理不尽な矢が降るのか…。
    巴御前との出会いから、共に道標のような絆はもちろん、悔しくとも美しさを感じるラストに涙が止まらない。

    たらればが拭えないけれど、ここまで輝きを放った木曾義仲にはラブしかない。

  • 木曽義仲を描いた歴史小説

    前半、信州の豊かな自然の中でおおらかに育つ義仲と中原兄弟との絆が印象的

    決起してからは、歴史にifはなく、散りゆく哀しい結末
    エピローグに救われます

  • 類い希なる軍略で平家を破り、男女貴賤隔てない登用で頼朝や義経より早く時代を切り拓いた武士。「朝日将軍」木曽義仲の鮮烈な生涯。

  • 最初の方は色々描写が丁寧だったのだけど、義仲が戦に出始めてから各派閥ごとの動きが複雑になるのもあって、
    戦の臨場感や各々の気持ちの描写が軽く触れる程度になってしまってあまり感情移入が出来なかった。
    読んでいてきっとここは凄く泣ける場面や胸を打たれる場面なのだろうと言う所もいまいち盛り上がりにかけてしまってちょっと置いてけぼり感があった。
    帯に【この男日本一の敗者】と言う煽り文句があったけど正直読んだだけではそこまでその事を実感出来なかった。
    もっと歴史に詳しければ面白かったのかもしれない。

  • 「面白そう?」と入手し、少しの間置いて在って、紐解き始めた。「面白そう?」ではない!「面白い!」と思った。
    所謂「源平合戦」の時代を背景とした物語だ。少し夢中になって読み進め、読了後に深い余韻に浸ってしまうような感だ。
    本作は、章毎、または章の中での部分毎に適宜視点人物が切り替わる体裁で綴られているが、最も主要な視点人物は「木曾義仲」である。木曾義仲は、「源平合戦」の時代の武将である。信濃国から身を興し、平家との抗争に身を投じた木曾義仲は北陸方面で平家の大軍を打ち破り、都に入り「朝日将軍」を号するようになるが、やがて源頼朝麾下の軍勢との戦いに敗れて討死している。この木曾義仲を巡る挿話を参考に、作者の想像の翼が大いに羽ばたいて、活劇と関係した人達のドラマが大胆に展開している。
    冒頭、視力を喪っている年老いた僧が、弟子の補助も受けながら山間の草庵に在る人物を訪ねようとしているような場面が描かれる。所謂“琵琶法師”であることが示唆されている。演奏と共に語るべき物語の取材をしようとしている訳である。
    そういう場面から、木曾義仲を巡る物語に踏み込んで行くのである。
    本篇は木曾義仲が「駒王丸」と呼ばれていた少年時代から起こる。直接に血が繋がる肉親の縁が薄い駒王丸は、信濃の豪族の家で「義父上」(ちちうえ)の庇護の下、義父の息子達と実の兄弟同然に育っている。或る時、「信濃の旗頭」にもなるべき人物ということが示唆され、駒王丸はその出自の秘密を知ることになる。
    そして長じて、色々な人達との出逢いを重ね、信濃にも影響が出始めた源平の争いという中で、仲間達や兵達と共に起ち上がり、戦いの渦中に身を投じて行く。
    巨大な平家の軍勢に立ち向かう他方、源頼朝陣営との抗争のような状況も生じ、息子の義高を“婿”として実質的な「人質」に出すようなことにもなった。やがて都に進撃するが、平家が西へ去って混乱する最中で法皇や公家等との争いも生じる。
    そういうような感じなのだが、「驕る平家」によって虐げられる人々を救わなければならない、誰でも各々に幸せになれるように統治しなければならないとの一念で、その人柄を慕って近くに在る仲間達との闘いを進める木曾義仲の様子は痛快である。そして最期を迎えるような辺りは目頭が熱くなる。
    更に本作では、巴御前のような周辺の人達の各々のドラマも実に興味深い。本作では、木曾義仲と出逢い、共に闘い、そして別れる迄が描かれるのだが、物語のキーパーソンであり、「もう1人の主人公」という感でもある。彼女も「驕る平家」によって虐げられる人々の一人だった。
    そして本作の終盤の方に在る、木曾義仲の息子である義高の挿話も、何か心揺さぶられるものが在った。
    単純に愉しく読む時代モノということで一向に構わないのだが、何か「示唆的」と感じずには居られなかった物語だ。如何いう訳か定まったという、支配側の仕組を押し通そうとするばかりで、支配側の一族の中での争いに血道を上げるようなことまでもしてしまっていて、「多くの人々」は如何なるのか?そういうことを「何とかしたい」とする勇者が、木曾義仲であり、残念ながら彼は敗れてしまう。
    何か夢中になることが出来る熱い作品だ!御薦め!!

  • 読み終えて呆然としている。ものすごくよかった。木曽義仲と、それから同時代に生きた人々が、それぞれの生を生き、それぞれの戦いを戦い、それぞれの死を死んでいく。読みながらメモをとった登場人物が全部で百四名。それぞれが血肉を持った人物として眼前に浮かぶ。あの日本史の教科書では「以仁王の令旨」との文字でしかなかった王までもが(場面に登場しないものの)人間としての匂いを持っている。義仲と今井四郎兼平の最期はもう、涙無くして読めなかった。そして義高あわれ。いや、いい歴史小説だ。

  • よかった。結末を知っている後半がつらいけれど、仲間の結束が揺らがないところが、また泣ける。子どものくだりは大河ドラマと重ねて...ついでに行家も大河と重ねてしまった

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著者プロフィール

天野純希
1979年生まれ、愛知県名古屋市出身。愛知大学文学部史学科卒業後、2007年に「桃山ビート・トライブ」で第20回小説すばる新人賞を受賞しデビュー。2013年『破天の剣』で第19回中山義秀文学賞を受賞。近著に『雑賀のいくさ姫』『有楽斎の戦』『信長嫌い』『燕雀の夢』など。

「2023年 『猛き朝日』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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