人間関係: 理解と誤解 (中公新書 106)

著者 :
  • 中央公論新社
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感想 : 9
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  • Amazon.co.jp ・本 (183ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121001061

作品紹介・あらすじ

参考文献: 182-183p

感想・レビュー・書評

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  • 2019年10月読了。
    初版が1966年なので情報通信技術の進歩だとか「日本人」の定義付け等、出版当時から大きく状況が変わったことで認識もまた改める必要があることを差し引いても「名著」だと思う(人間の関係とは何かを考える上で)。

    Twitterか何かの記事を読んでいて紹介があったのでAmazonのマーケットプレイスで購入。こういう本が絶版になっていることを考えると、ますますの自分でアンテナを張って本を「取りに行く」必要があると感じる。

  • 加藤秀俊さんの「人間関係ー理解と誤解」(1966.6)、仕事をしてたとき、参考にさせていただきました。私は、昭和から平成、人間関係が希薄になりつつある中、その動きに背を向けて濃い目の関係を意識してきましたがw、仕事を辞めて地域社会に溶け込めば、そこには新しいステージが待っていました。希薄でもない、濃いめでもない、いわば大人の人間としての関係でしょうか。一喜一憂することもなく(憂うる関係に敢えて触れる必要はなく)今のところ、自然なやりとりを楽しむことができています。

  • 2016.12.17
    Ⅰ、問題としての人間関係
    人間関係は紀元前までのその形を認めることができる。我々は様々な科学技術を発明し、まさに問題をよりよく解決することで成長発展してきたが、こと人間関係においては特に発展していない。現代社会は血縁地縁から社縁へ、ゲマインシャフトからゲゼルシャフトへと移行し、人と人の繋がりは必然ではなく偶然である。それは関係に対する自由を意味するが、同時に関係に対する孤独をも意味する。

    Ⅱ人間関係の形成
    我々は他人を恐れる。よくわからないからである。他者への恐怖から関係は始まる。そこから互いの素性を確認する。確認できたら、とりあえず警戒を解く。そこから様々な話に発展し、互いの頭の中の共通項を探る。こうして信頼を形成していく。
    つまり、1、他者への恐怖と警戒→2、他者の確認(基本的な属性や意図)→3、他者の信頼(共通項の発見)という過程が、見知らぬ他人から知り合いになるまでのプロセスである。
    共通項をより多く持つことができる人は話題が豊かである。しかし互いの引き出しを共有し合う(おつきあい)だけではなく、互いが互いの引き出しを創造しあう(付き合い)関係もまたある。あなたの考えが私に変化をもたらす、逆も然り。このような、お互いがお互いを変えていく、変わっていく関係、創造的人間関係こそ、良い関係ではないか。

    →人間関係プロセスをまとめると、恐怖の他者、他者の確認、他者の信頼、そして創造的関係、ということになる。「関係」において何をゴールとして持ってくるべきだろうか。関係における問題は、後述するが様々であり、私はその内でも倫理の対立を考えたいのであった。創造的人間関係は互いの違いに対し非常に肯定的である。しかし違いが対立も生むこともある。その違いに肯定的になれるのは、なぜか。一つのゴールではあるだろう。

    Ⅲことばと人間関係
    私には二種類いる、「こちら側の私」と「向こう側の私」である。向こう側は、他者を取り入れることでできた、一般化された他者としての私である。このような自我の形成に関わるのは言葉である。あなたの「こちら側」が、言葉によって、エンコードされ、私に届き、私によってデコードされ、私の「向こう側」になる。この時、私に取り入れられた「向こう側」に、私の「こちら側」が反応する。この反応により、取り入れる前のそれと取り入れられた後のそれには違いが出る、これは誤解の原因の一つである。私とあなたの関係は「対人コミュニケーション」だが、同時に私は、こちらと向こうという「個体内コミュニケーション」も行なっている。p.85にここあたりの事情が書いてある。
    相手の言葉を取り入れても理解し得ないパターンとして、1、こっちの私がクローズになっている、つまり頑固、2、エンコードの問題、つまり表現力不足、3、逆にこっちの私がオープンすぎて、相手に染まってしまう。これらを避け、それぞれが相互刺激的なコミュニケーションを行うには、互いを自由に開放し、そして均等に対話することである。どちらかが喋りすぎてもいけない。硬くてもいけない。

    →ここにも、より良い関係のための知恵が詰まっている。「私とは」に対する答えとして「こちら」と「向こう」というのはよく聞くし、やはり他者とわかり合うということについてもこのような自我論がまず前提にあるように思う。ここはより深めたい。この二者の関係、すなわち個体内コミュニケーションも興味深かった。頑固にならない、均等な対話は理想ではある、ではなぜそれができないのか。それは、心理的なものに原因を持っていっていいことだろうか。稚拙な自己啓発になりはしないか。結果としてそれを可能にするような、つまり結果として、互いに頑固にならず、均等に対話しあうことが良いと了解できるような、そんな理論を考えたい。そう考えると、人間開発的関係が何が良いのか、人間存在のもっとも根本的良さとは何か、ということになる。関係のゴールはどこだろうか。この本では相互成長の良さを前提にしている、しかし果たしてそうか。我々はなぜ、繋がりを求め、孤独を嫌うのか、分かり合えなさを憎むのか。

    Ⅳ組織と人間
    組織とは、「ある目的のために秩序化された関係の束の構造」である。対個人だけでなく、我々は複数の他者と関わり、それはすなわち複数の「向こう側の私」を持つことを意味する。より良い組織の条件は、1、フィードバック装置が組み込まれていること、2、その装置が有効に機能していること、3、組織の士気が高いことである。

    Ⅴうそとまこと
    「理解」を阻む前提としての「誤解」の構造がある。一つは印象であり、我々は意味以前に相手の印象を好き嫌いで決めてしまい、そのフィルターから相手の言動を価値づけしてしまう。次に偏見が挙げられる。これは相手の属性から、属性=こういう人という判断を導いてしまうことである。そしてもう一つは、意味の違いである。一つの記号に対して意味づけするのは「こちら側の私」であり、「こちら側の私」とは様々な経験や人間関係によって形成されたもので、決して同じ「私」はあり得ない。この「私」の違いが、同一の記号に対する意味解釈のズレを確実に生む。さらにもう一つ、それは言葉と本心のズレである。もしも相手が本心を語っているなら、それを理解することが問題になるが、そうでない場合もある。本心をあえて語ってない場合もだし、そもそも自分の「本心」を知らない場合もある。すると我々は相手の「言葉」だけではわからない相手の「意図」をくみ取らなければならない。以上まとめると、印象(好き嫌い)、偏見、意味のズレ、言葉と本心のズレが、関係における誤解の原因として考えられる。

    →こう考えると「理解」というのがますますわからなくなる。理解とは何の一致を意味するのだろうか。それは相手の言わんとしていることを私も思うことである、相手の内面の状態と私の内面の状態の一致である。印象や偏見は私のフィルターとしてそのような理解を阻む。意味のズレや本心とのズレは、内面をそのまま記号が表すことができないことを意味する。ここに相互理解の限界がある。

    Ⅵ人間関係と人間開発
    我々は他者を完全にはわからないし、完全にわかってもらうこともできない、むしろ自分で自分を完全に理解することも不可能である。それでも関係を結ぶことで、他者を自らに取り込み、「向こう側」と「こちら側」が相互作用を起こすことで、新たな「私」が生まれる。二者択一で考えるのではなく、このような弁証法的関係が成り立ってこそ、人間関係ではないか。

    →まず、対人コミュだけでなく、むしろ個体内コミュが問題である。我々は理解の過程として、恐怖の他者から、確認、信頼を経て、創造的関係に至ることもできる。またこの過程に潜む誤解の過程としては、印象、偏見、意味のズレ、本心と言葉のズレもある。私の中の「こちら」と「向こう」のバランスが、より良い対人関係の前提にある、すなわち「こちら」が強すぎては頑固になり、「向こう」が強すぎては根生いのおいそれものである。自我のバランスの問題、言語と意味の問題、言語以前の認知の問題がある。「関係」を考える私にとっては、これはどこまで突き詰めていけばいい問題だろうか。
    自我の問題は、これから取り組もうと思っているところであり、これが人間が関係を希求する前提にあるからである。分析哲学や、また現象学にも良い知見がありそうである。そしてこれはそのまま、言語以前の認知の問題へと関わっていく。間身体性のようなコミュニケーションもまた、我々には存在している。ポンティ、鷲田さんとかがここだろうか。そして言語の問題はソシュールとかになるのだろうか。経験の違いが、記号に対する意味の違いを、そして意味に対する価値の違いを、そして価値に対する優先の程度の違いを生む。
    私は関係の問題を、対個人で考えていた。そしてその個人は友達、つまりすでに信頼している他者に限定して考えていた。知らない人から知り合いへ、とかは考えていなかった。ここはどうしようか。我々の関係に対する姿勢は、その関係の距離に相対的である。
    関係の距離との相対性についてだが、距離が遠いほど寛容になり、近いほど不寛容になる、とは言えないだろうか。これはおそらく、遠いほど「向こう側」で関わり、近いほど「こちら側」で関わるという、自我内のバランスの違いと捉えることができないだろうか。親密になる程気を使わなくなるとかもまさにこういうことである。
    我々は関係を欲している。その起源にあるのは「私」という存在で、「私」は言語によって生まれている。よってまずはここを明らかにすることが大前提だろう。そして我々は言語によって関係を構築する以上、言語による不可能性も出てくる。これは関係構築への批判、すなわちどこまでが可能でどこまでが不可能かという問題である。そして不可能性として現れた一致不能な範囲、「違い」の範囲が見えてきたところから、その「違い」に対する態度が決定してくる。つまり、「自我」から始まり、「関係の限界」へと至り、そこから「違いへの超克」が見えてくる、と言ったところか。
    私とあなたがわかりあえないのは、認識のずれ、価値基準のズレ、そもそもの自我の問題、などがあるわけで。しかしこれは、わかり合う=一致を全体にしている。関係のゴールはどこだろうか。いやそれをこそ、見出していくのではないか、違いの受容という形に置いて。しかし認め合うことの意味とは。それは無視と何が違うのか。私の問いは、関係の目的から見た問題の解決法、ではなく、いかなる関係が良い関係だと言えるのかという、人間関係における倫理である、と言えるか。
    本著は人間関係を大きくまとめてくれた点で参考になった。これを見取り図に、より深めていきたい。「関係」も「倫理」も、全てを捉えることはできない。どの視点から切り取るかということも、問題になるだろう。

  • 広く人間関係にまつわる問題について、エッセイ形式で考察している本です。著者は、人間関係は人類が始まって以来変わることなく重要な問題であり続けたとしながらも、現代社会に特有の人間関係にまつわる問題が存在していると言い、とくに個人と個人の間のコミュニケーションや、個人と組織との関係などについて、詳しく論じています。

    人間関係は一面ではわずらわしく、さまざまな問題が出来することがありますが、他方では新しい可能性を開く触媒となることもあります。本書はそのような人間関係の両面性を踏まえながら、人間関係をポジティヴなものにしていくための方法について考察しています。

  • この本はおもしろかった。最近自分が関心を抱いているところをズバリついてきた。

    秀逸だと感じたのは最終章。「理解と誤解」、この副題の意味がここであきらかになる。

    人間関係に悩むひと、関心があるひと。「正しさ」と「間違い」の間で苦しむひと。「自分」がわからないひと。「学習」に関心があるひと。おすすめです。

  • 共通の話題を「探す」だけでなく「つくる」こともできる
    共通の経験をすればいい。

  • 初版1966年とかなり古いが、人間関係を考えるときに必要な基本的なことがらが書いてある良書である。最初に人間関係が人間にとって「問題」でありつづけることを指摘し、とくに都市と農村の人間関係のちがい、都市の人間関係は農村よりも相対的に偶然性が高いことをあげている。つぎに人間関係の形成、警戒・確認・信頼・共通項の発見・共通項の創出ということが整理され、ミードのコミュニケーション論を下敷きに言葉によるコミュニケーションに考察をすすめている。簡単にいえば、人間は記号のやりとりによって自己を変革していくことが説かれている。そして、話は組織論へいき、人身操縦術を越えた、人間開発としての人間関係、そのなかで人間が成長していく基盤としての人間関係のやくわりを指摘している。「つきあい」は相互を解放し高めあっていく関係であるが、「おつきあい」はちがうなどと身近な言葉で思考を展開していて面白い。

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著者プロフィール

加藤秀俊(かとう・ひでとし) 1930年東京生まれ。社会学博士。一橋大学(旧制)卒業。京都大学人文科学研究所助手、同教育学部助教授、学習院大学教授、放送大学教授、国立メディア開発センター所長、日本育英会会長などを歴任。現在、中部大学学術顧問、世界科学芸術アカデミー会員。 著書に、『加藤秀俊著作集』全12巻、『メディアの発生』『メディアの展開』(中央公論新社)など多数。

「2016年 『加藤秀俊社会学選集 下巻』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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