考えることの科学: 推論の認知心理学への招待 (中公新書 1345)
- 中央公論新社 (1997年2月1日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (186ページ)
- / ISBN・EAN: 9784121013453
作品紹介・あらすじ
日常生活での思考は推論の連続といえる。その多くは論理形式に従うより、文脈情報に応じた知識を使ったり、心の中のモデルを操作してなされる。現実世界はまた、不確定要素に満ちているので、可能性の高さを直観的に判断して行動を決めている。推論はさらに、その人の信念や感情、他者にも影響される。推論の認知心理学は、これら人間の知的能力の長所と短所とをみつめ直すことによって、それを改善するためのヒントを与えてくれる。
感想・レビュー・書評
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人間の推論について、心理学の立場から眺める書。推論に関しては、論理学、確率論、推測統計学という規範的な科学と呼ばれる領域からの見方と、心理学は、実際に人間がどのように推論しているかについての知見や理論を提供することから記述的な科学ということになっている。
本書は、人間は論理的に推論するのか、確率的な世界に対する推論、推論を方向付ける知識、感情、他者といった、それぞれ論理、確立、日常推論とある程度独立した角度からの”人の推論”に対する考察がなされている。
全般的に、それぞれの推論、思考過程に対する実例に基づいて記されており非常にわかりやすい。人の思考過程について探索するには、領域を広くカバーしているようでもあり、良書であると感じた。また、本書を読むことにより、人間の思考は種々の状況、知識に左右され、それを模倣することの難しさを改めて実感した。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
頭の中での推論がどんな風に行われているか、ということを、各種事例をもとに、くだいて解説しています。どんなところで推論にバイアスがかかるのか(人間がいかに適当か)、ということも興味深いものです。そして、そういう研究を通じて人間がより合理性を獲得できるように、という心理学者からの答弁に拍手。
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認知心理学関連本3冊目。「心と脳」「問題解決の心理学」とつながるところが多く、私たち人間が、如何に確率・統計的な世界を生きているか、「問題解決」と意識しなくとも、瞬間瞬間推論しているかを改めて学んだ。学術用語もふんだんに使われて、夜読むとうつらうつらしそうにもなるが、読んでいてしっくりきた。
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人間の考える能力がいかに合理的で素晴らしく、いかに曖昧でいい加減なのか、がよく分かる。ちょっと難しいところもあるけど、最後までかなり楽しく読めた。紹介されていた本も読みたい。
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われわれのおこなっている推論にかんする認知的なエラーやバイアスについて、さまざまな実験などの事例を引きながら解説している本です。
ベイズの定理にかんする認知的な錯誤を解消するために、ルーレットで表わされる同型図式を用いて説明する箇所は非常にわかりやすいと感じました。ほかにも、認知や行動を改善するための具体的な方法について多少語られてはいますが、基本的にはサブタイトルの「推論の認知心理学への招待」ということばが示しているように、この学問分野のおもしろさを一般の読書人に向けて紹介しており、興味を引く話題が多くとりあげられています。 -
日々おこなう思考は「推論」の連続である。
推論に関して、3部構成で説明しています。
まず、第1部は「人間は論理的に推論するか」
人がおこなう論理的思考は、よほど訓練されていない限り論理式を操作するような思考はおよそできず、視覚的なイメージを操作しながら吟味していくやり方をとる。
つまり、イメージ的に考える図式表現を使うと、私たちの思考は随分改善される可能性があるということです。
小さい頃から言われていますね。図を書いて考えろと。
第2部「確率的な世界の推論」
第2部はこの本の一番おもしろいところです。事前確率を無視する傾向はなるほどと思いつつ、でも事前確率を無視しないようにするには、どれほどの注意力と訓練がいるんだとうかと思います。
では事前確率を無視する傾向の例題を一つ
感染者問題:
ある国では、男性1000人に1人の割合で、ある病気に感染しているという。検査薬によって、感染していれば、0.98の確率で陽性反応が出る。ただし、感染していない場合にも、0.01の確率で陽性反応が出るという。さて、今1人の男性に陽性反応が出たとして、この男性が感染者である確率はどれだけか。
答えは、0.98(98%)ではありません。なんと、0.089(8.9%)です。 本当?って感じですが、何故と思う方は是非一読ください。ベイズの定理を使って計算してください。
第3部「推論を方向づける知識、感情、他者」
この中の一節の紹介ですが、問題解決をどれくらいの知識量に頼るのか?
できる限り知識量は少なく、応用できる範囲は広いことが望まれますが、実際、物理学の問題をスラスラと解く研究者などの解決過程を見ると、実に多くの問題スキーマや解法の手続きをもっていることが分かる。
単なる知識をマル暗記するだけではだめで、問題を解くためのスキーマ(解法パターン)やヒューリスティックス(常に正解に至るわけではないが、多くの場合、楽に早く正解を見つけられるうまいやり方)が必要である。
問題を解いた経験が他の問題の解決を促進することは、心理学で「転移」と言われます。学習でこの転移を期待しますが、転移がうまく起こることは稀だそうです。
筆者が実際に、小中高を対象とした学習相談を実施しています。一日に何時間勉強したか、どれだけ問題を解いたかだけに注目するのではなく、「なぜはじめはうまく解けなかったのかを考えて、一般的な教訓として引き出す」ことを強調している。こうすることで、次の機会の転移を促す重要な要因になるとしている。
学習アドバイスにするときに参考になることばかりでした。
ただ、これを理解しても、事前確率の考慮など実践できるのか。。。。という印象ももちました。 -
市川先生の本・論文には色々とお世話になりました。
この本は、ほんとに初心者にも分かり易くて、しかも面白かったです。つい、読んだことを誰かに言いたくなったり、実験してみたくなったりしました。
人間の「思考」が科学で紐解けるようになる日はまだまだ先のことになりそうです。 -
本書のメインテーマは、人間の推論について心理学的な立場から眺めてみることです。認知心理学や社会心理学の推論研究に基づいているので、確率論や統計学が苦手でも理解できるでしょう。読み返す度に違った気づきを与えてくれるでしょう。折々、再読したい一冊です。