バルチック艦隊―日本海海戦までの航跡 (中公新書)

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著者 : 大江志乃夫
  • 中央公論新社 (1999年5月1日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121014740

バルチック艦隊―日本海海戦までの航跡 (中公新書)の感想・レビュー・書評

  • 1999年刊。著者は茨城大学名誉教授。

     日露戦争の掉尾を飾る日本海海戦。この戦いに関し、小説等では劣位・無能の敵役に甘んじるのはロシア・バルチック艦隊である。
     尤も、地球一周と同値の長躯遠征の最終幕の露艦隊に、練度も性能面でも優勢だった日本艦隊の勝利は確実で、当該戦局の戦術レベル面で、どこまで完勝し切れるかだけが問題だったとの評も多い。
     これ自体は正当な評価だろうが、本書は、このバルチック艦隊のみならず、ロシア海軍の創設の前史から紐解き、海軍というプリズムを通して、ロシアが近代国家として成立していく過程とその紆余曲折とを備に見ていこうと試みるものである。そして、海軍が活躍する場面、すなわち、ロシア外交や戦史と絡めつつ、論じられていく。

     正直、日本海海戦の経緯は個人的には今更の感もあり、ここだけの内容ならば、類書も多い中、本書をさして特筆すべきではないのかもしれない。
     が、本書は、ピョートル大帝に端を発するロシア近代史の過程を、各皇帝・女帝毎、政策内容に踏み込んで検討していく。これは個人的には新奇な題材であるし、ロシアで何故革命が起きたかという観点でみれば、その前提条件を読み解くこともできるだろう。

     もちろん、ロシアの近代国家としての成立過程には、ロシアのシベリア進出が含まれる。当然、ロシア・シベリア進出に伴い、江戸末期日本との間で行われた、交易・通交交渉も本書の射程に含まれることになる。
     すなわち、「バルチック艦隊」というタイトル以上の内容を本書は包含することになるのだ。

     ここで描かれるは、後発国ロシアの近代化進展の限界と苦闘である。
     確かに、対ナポレオン戦争の勝利者・皇帝専制政治の体現・ギリシャ正教の正当後継者という自意識等からは、ロシアに大国意識が生まれたと見て良いのだろう。
     しかしながら、その意識が身の丈を越えた過大評価であるならば、様々な無理が生まれるのは必然である。
     これが、結果として、ロシアの脱皮・近代化進展を大きく阻害していた実態だ。
     本書はその過程の実をつぶさに解読し、ロシアの無理が行き着いた先として、日本海海戦における「バルチック艦隊」の大敗を象徴的に描述するのである。

  • 内陸の帝国ロシアは、北極海のムルマンスク以外軍港に恵まれなかった。しかも極北の不凍港へは長い鉄道が必要だった。帝国はバルチック艦隊創設とともにシベリア政略を推進、極東への展開を目論むが新興海軍国日本との争いとなる。日露戦争である。要衝旅順を確保すべくバルチック艦隊は長い遠征の末、待ち構えていた日本海軍と衝突し壊滅する。だがこの日本海海戦は、その後の日本海軍に虚構に満ちた海戦伝説を生むことになる。(1999年刊)
    ・序章 世界最北の不凍港
    ・Ⅰ章 北のヴェネチアに君臨したツァーリ
    ・Ⅱ章 ロシア海軍戦略とシベリア政略
    ・Ⅲ章 日露戦争と日本海海戦
    ・終章 相手の敗因から学ばなかった日本海軍
    ・あとがき
    ・参考文献

    副題は、日本海海戦までの航跡。本書では、バルチック艦隊の感情以前の歴史から、日本海海戦により艦隊が壊滅するまでを解説している。不凍港を求めるロシアが,宮廷政治の末、海軍根拠地として、ムルマンスクではなく、リバウを選択したことにより、極東の太平洋を目指すこととなったという見方は興味深いp95。
    通説では、不凍港を確保するため、極東に進出したとされ、ロシアは旅順を確保することとなるが、マハンが、戦略的にまったく不要の軍港であったとしているのみ面白いp142。
    また、日露戦争は、ロシアの極東統監が対日外交権を掌握していたことによる弊害により、双方の疑心暗鬼を増幅させたことにより、開戦に立ち至ったという見方も興味深いp180。

  • 日露戦争を軸に、これに至るまでのロシアの海軍力及び不凍軍港の成り立ちが詳細にかたられておりかなり興味深い。
    しかし、いかんせん海軍力の話に関してはかなり専門的で、単語の羅列になっている個所も多く、ついてゆき難い。数字の大きさがどの程度のものなのか実感を持って受け入れにくく、ロシア海軍と日本海軍の力の差もいまひとつパッと理解できなかった。
    また、肝心の日露戦争時に採られた作戦についても文章だけでの理解はなかなか難しく、図などを用いてほしかったところ。全体としては面白い題材だっただけに少し残念。

  • バルチック艦隊とは、日露戦争(1904-1905)における日本海海戦で日本海軍(司令官:東郷平八郎)に敗れたロシアの艦隊のことをさします。
    ロシアは、気候が寒く港が凍ってしまうが故に「不凍港」を求めて南下政策を展開していきます。(結果は他の列強諸国の干渉により失敗)
    そんな中、バルチック艦隊は日露戦争時にバルト海沿岸のリバウからアフリカ喜望峰を通って、(1902年の日英同盟によりイギリス管轄のスエズ運河が使えない)半年かけて日本海にやってくるも日本海海戦で壊滅してしまいます。
    この本は、ロシアのバルチック艦隊の登場の過程などロシアを中心に書かれていて、日本に関してはあまり書かれていません。後者を期待するならオススメはしませんが、ロシアの国際情勢とバルチック艦隊の登場を合わせて読むには良い本と思います。
    ちなみに、この本での最大の収穫はムルマンスク(バレンツ海沿岸)は世界最北端も不凍港だったのを知ったことです。

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バルチック艦隊―日本海海戦までの航跡 (中公新書)の作品紹介

内陸の帝国ロシアはバルト海のムルマンスク以外軍港に恵まれなかった。しかも極北の不凍港へは長い鉄道が必要だった。帝国はバルチック艦隊創設とともにシベリア政略を推進、極東への展開を目論むが新興海軍国日本との争いとなる。日露戦争である。要衝旅順を確保すべくバルチック艦隊は長い遠征の末、待ち構えていた日本海軍と衝突し潰滅する。だがこの日本海海戦は、その後の日本海軍に虚構に満ちた海戦伝説を生むことになる。

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