古地図からみた古代日本: 土地制度と景観 (中公新書 1490)

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  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (230ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121014900

作品紹介・あらすじ

古地図は過去の世界への扉である。日本では、世界にほとんど例のない古代の大縮尺の荘園図が現在まで伝わっている。そこに描かれた事象や記入事項を検討することは、開拓や農業経営、荘園管理の在り方を探ることであり、土地制度や村落の景観もがそこからみえてくる。また古代の日本では、荘園図のほかに多くの地図を国家が作製し、使用していた。当時の行政・経済システムと古地図とを照らし合わせ、古代社会の在り方を考える。

感想・レビュー・書評

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  •  日本の荘園図の検討から、当時の社会の実像をとき、さらに中国やローマの古代地図との比較によって各地域の古代社会の構造の違いを明示する。

     現代の衛星すら使用した精確な地図にみなれた現在の人間には、東西を問わず古代の地図はとてもいびつなものにみえる。しかし、金田氏によれば現存する荘園図をそこに描かれた実地でひもときながめると、正確無比な現代の地図よりも感覚的にはしっくりくることすらあるという。
     これは古地図が、その作製の際、あくまで人間生身の感覚が付されているからであろう。

     もちろん、やはり古地図には歪な点が多々あるのだが、しかし、それはその地図が表現しようとする内容が現代の精緻な地図とは異なっているからであるという。
     それは、ちょうど子供に描かせた地図や、チラシに描かれる店舗案内のための略図のほうが詳細きわまりない地図よりも却ってみやすいことと同じであるのだろう。

     つまり、荘園図ならば、徴税のための土地管理の道具であり、当時の土地管理方法にしたがって描いた結果が、現代からみると歪にみえるだけなのであるとしれる。

    --
     上記のような荘園図の検討も大変興味深い本書であるが、地図というものについてもいままで気づかなかった点がいろいろと学ぶことができる。
     たとえば、絵図は、絵画的な要素が強いものだとおもわれていることが多いとおもわれるが、古地図における地図と絵図は明確に異なるという。
     律令制度下において土地管理のために国家によって作成されたのが地図・図あるいは証図であり、絵図とは官製地図の写しや私的に作成されたものであったという。さらに、絵図という語自体が地図よりも新しいもので、初出は10世紀だという。

     また、日本の荘園図のような大縮尺の地図は古代ローマにもみることができるそうだが、驚くことに日本が地図を全国的な地図作製をすることになった要因である律令制の大元である同時期の中国においては、ほとんどみることができず、地図といえばせいぜい現代でいう県別レベルのものしかないという。
     教科書的な日本史では隋唐の律令に倣って古代日本は国制を整えたことになっていたはずだが、同時期の地図を比較するとき、そもそも国家経営の基層のひとつである土地管理方法自体が異なっていた可能性がみえてくる点が、とても興味深いだろう。

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著者プロフィール

金田章裕:砺波市立砺波散村地域研究所長、京都大学名誉教授。1946年生まれ。京都大学教授、人間文化研究機構長などを経て、2018年より現職。専門は人文地理学。オーストラリア地域研究や日本古代の地理学研究に従事し、多数の著書を刊行(参考文献参照)。近著に、古文書や絵図、地形などから古代の壮大な土地計画の実態を探究した『古代国家の土地計画:条里プランを読み解く』(吉川弘文館、2017年)がある。

「2019年 『BIOCITY ビオシティ 80号 日本の美しいむら再発見! 水系散居村の歴史と景観』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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