子どもはことばをからだで覚える: メロディから意味の世界へ (中公新書 1583)

著者 :
  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (189ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121015839

作品紹介・あらすじ

人は幼い子どもを育てるとき、うたを口ずさんであやしたり、大げさな赤ちゃん言葉で話しかけたりする。その無意識の行動こそ、実は子どもがことばを覚えるおおきな助けとなっているのだ。赤ちゃんはなぜモーツァルトが好きか?手足をばたつかせることと喋れるようになることの関係は?「行く」と「来る」の使い分けはどうやって身につく?など身近な話から、子どもが何を手がかりにことばを身につけるかを解き明かす。

感想・レビュー・書評

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  • 前著『0歳児がことばを獲得するとき』(中公新書)と同じく、動物行動学の観点から、子どもの言語習得の実態に迫る試みです。

    乳児のリズムに対する選好や、発話にともなう身体の動きに注目することで、言語を習得する前の子どもがどのようにして、彼らに話しかける大人とのコミュニケーションをおこない、言語を習得していくのかを明らかにしています。

    また、子どもに生得的にそなわっている指差しの行動が、周囲の大人たちに指示行為として受け取られることで、指示という社会的行動が習得されていくという説が提出されており、たいへん興味深く読みました。著者はここで、「指さしを社会的にあえて誤解することで、行動の文化的借用が起こったのではないだろうか」と述べており、また「ありあわせの形式」の機能を転化する「やっつけ仕事」とも言われています。ここには文化的・社会的な行為と行動学的な自然的基礎との関係について、多くのことを考えさせる内容が含まれているように思います。

    もう一つ興味深いのは、日本語の「行く」と「来る」という言葉の使い分けを学習する過程の研究を通じて、「心の理論」の習得と身体の動きとの間に密接な関係があることを明らかにしている箇所です。このことも、身体を動かすことによる視点の移動と、他者の視点の取得との関係について、多くのことを示唆しているような気がします。

    著者の一般向けに書かれた本には、疑似科学と批判されるものもありますが、少なくとも本書に関しては、動物行動学から人間の文化的・社会的な振舞いへの不用意な侵犯は見られず、それどころか自然的な制約と文化的・社会的な制度との関係について考えさせる実験結果が多く示されており、有益な本ではないかと思います。

  • 幼児期に人間はいったいどのようなプロセスで言語を習得していくのか知りたくて積読してみました。内容はズバリ僕が知りたかったことについて書かれていることがわかりました。とても参考になることが書かれているようなので、通しで読んでみることにしました。

  • 学生時代

  • 修論の引用文献?参考文献に入れときましたよ!


    注釈)平成30年12月11日産経新聞掲載です

     新試験の国語問題で出されたそうです。
    よくあることですが、筆者の正高氏は読んで回答に達し
    なかったそうです。一箇所だけ切り取るとおかしな解釈が
    まかり通るんでしょうね。怖いものです。

  • 2001年刊行。子供の言語習得と身体行動との関連性や身体行動の重要性、言語習得過程における記憶(特に短期記憶やワーキングメモリー)の意義、言語習得過程にまつわる背景情報との切り分けの重要性、言語の習得、さらには「心の理論」の習得過程における身体行動の意義等、言葉を獲得するのが極めて微妙なバランスの上に成立していることを丁寧に叙述。健常児のみならず、音声言語習得に困難を来たしている発達障害児等においても、有益な視座が得られ、障害特性の理解の助けになると思われる。もっと早い時期に読んでおくべきであった。

  • 我が家の3歳児。次から次からいろんな言葉を覚える。どんどん文章で話すのがうまくなる。小泉さんも田中真紀子さん(タナマキコサンと言うが)も名前と顔が一致する。似顔絵で少々ゆがんだ顔でも分かってしまう。何をもってそう認識するのだろう。広告を見て、字が読めるわけでもないのに、ただの箱をティッシュペーパーと言う。家にあるものと形が違っても、コップはコップと分かる。リンゴとナシは皮をむいてしまうと区別がつかない。畑にできているなすびやトマトと、食卓にあるなすび、トマトが同じということは分かっているようす。テーブルに出てくるお椀に入った液体はすべてみそ汁と言ってしまう。明日とあさってと金曜日はなぜか知っている。でも日時の感覚はまだない。昨日のこともずっと前のことも同じような話し方をする。近所の女の子はみんなお姉ちゃんになってしまう。年下であろうとも。(そう言えば、名前を知らない年下の子を呼ぶ呼び名が見あたらない。)1字の言葉には苦戦している。「日があたって暑いね」→「ヒガがあたると暑いね」。「血が流れてる」→「チガが流れてる」。「毛がついてるよ」→「ケガがついてるよ」。なかなか着替えようとしない子どもに、しかり調子で「早く着替えなさい。お父さんは気が短いんだからね!」「お父さん、毛が短いの?」これにはまいった。しかる気が失せた。分かってて、はぐらかすために言ったのなら天才だけど。子どもたちはどうやって言葉を身につけていくんだろう。だらだら流れる文章の中からどうやって1つ1つの単語を認識するのか。特に日本語には助詞や助動詞があって難しいのだろう。「毛が」を「ケガ」と間違えるように。「~してあげる」「~してくれる」の区別は難しいようだ。「行く」と「来る」なども。もっともこのあたりは小学校に入ってからもあやしい子どもはいるようだ。相手の立場に立って考えないといけない言葉の習得には時間がかかるそうだ。本書では、数多くの実験例を題材に、子どもたちがいかに言葉を身につけていくかが語られている。何しろ調べられていないことがまだまだあって、これからのさらなる研究が期待される。同じ著者の本はこれで5冊目だけど、いつものことながら実験内容が難しい。でも、テーマは本当に興味深い。やっと歩き始めた我が家の1歳児はこれから言葉を覚えていく。まだ、バーとかブーとか言うだけ。でも、ケケケと笑うようにはなった。本書の内容を参考にしながら、どんなふうに成長していくかを見つめていきたい。

  • 『0歳児がことばを獲得するとき』は読んでいて、その続編のような書。

    ことばが、ことばのみで発達するのではなく、からだのありようとともに変化している様子が様々な研究の紹介とともに説明されている。また、他の動物との比較による探求も面白かった。

    ややわかりにくい箇所もあったけども、やはり「ことば」や「発達」って神秘に満ちている。

    身体性とことばのリンク
    そして
    生得的なものと、生後の他者との関わりで獲得するもの
    子供が世界をどう認識するのか?

    様々なことを学べた。
    また『0歳児がことばを獲得するとき』と通しで読み直してみたい。

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    【内容(「BOOK」データベースより)
    人は幼い子どもを育てるとき、うたを口ずさんであやしたり、大げさな赤ちゃん言葉で話しかけたりする。その無意識の行動こそ、実は子どもがことばを覚えるおおきな助けとなっているのだ。赤ちゃんはなぜモーツァルトが好きか?手足をばたつかせることと喋れるようになることの関係は?「行く」と「来る」の使い分けはどうやって身につく?など身近な話から、子どもが何を手がかりにことばを身につけるかを解き明かす。
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    【著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)】
    正高/信男
    1954年(昭和29年)、大阪に生まれる。1978年、大阪大学人間科学部卒業。83年、同大学院人間科学研究科博士課程修了、学術博士。アメリカ国立衛生研究所(NIH)客員研究員、ドイツ・マックスプランク精神医学研究所研究員、京都大学霊長類研究所助手、東京大学理学部人類学教室助手を経て、現在、京都大学霊長類研究所助教授。専攻、比較行動学。著書『ことばの誕生―行動学からみた言語起源論』(紀伊国屋書店、1991年)。『ニホンザルの心を探る』(朝日選書、1992年)。『0歳児がことばを獲得するとき』(中公新書、1993年)。『なぜ、人間は蛇が嫌いか』(光文社、1994年)。『ヒトはなぜ子育てに悩むのか』(講談社現代新書、1995年)。『赤ちゃん誕生の科学』(PHP新書、1997年)。『いじめを許す心理』(岩波書店、1998年)。『育児と日本人』(岩波書店、1999年)。『老いはこうしてつくられる』(中公新書、2000年)ほか
    ———————
    【目次】
    第1章 赤ちゃんはなぜ歌が好きか
    第2章 記憶することのはじまり
    第3章 発声はリズムにのって
    第4章 「指さし」ができるようになる理由
    第5章 ことばの意味はどのように把握されるのか
    第6章 子どもはことばをからだで覚える
    ———————

  • (2013.11.15読了)(2004.11.23購入)
    テーマは興味深いのですが、文字で読んで理解するのはしんどい。きっと実験で使用した歌を聞いたり、実験風景を撮影したものを見せてもらいながら説明を聞くならかなりわかりやすいものになるように思います。
    自分の子どもたちが生まれ育ったのが、30年ぐらい前で、その子どもたちが現在育児中です。孫たちをそばで観察する機会はなかなかないのですが、本を読みながら時々聞こえてくる成長状態を本と比較してみたいと思います。
    自分の子どもたちが言葉をしゃべり始める前段階では、言葉の抑揚をまねたような音を発していた記憶があります。この本でも同様の指摘があるように思います。
    また、言葉を発したときは、よく呼ばれた自分の名前の頭の部分に使われていた音だった気がします。

    【目次】
    はじめに
    第一章 赤ちゃんはなぜ歌が好きか
    第二章 記憶することのはじまり
    第三章 発声はリズムにのって
    第四章 「指さし」ができるようになる理由
    第五章 ことばの意味はどのように把握されるのか
    第六章 子どもはことばをからだで覚える
    少し長いあとがき
    参考文献

    ●胎児の聴力(2頁)
    受精後四カ月を過ぎると、母体のなかの胎児に聴力が発達することが、今日では明らかとなっている。超音波診断装置で彼らの心臓の動きをモニターしつつ、一定以上の強さの音を聞かせてみる。すると、心拍が一時的に増加することがわかる。
    ●語彙を切り出す(34頁)
    欧米の言語のように、ひとつひとつ語を分けて書く習慣を持たない分、日本語のほうが語彙を切り出すむずかしさ(中略)。日本へ来た留学生は、このような困難に直面することとなる。
    ●メロディー(57頁)
    赤ちゃんはまず最初に、言葉を一種の音楽として知覚する(中略)。発話のメロディー的側面に注目し、その特徴を手がかりに記憶し、ついで音素の組み合わせとしての語彙の記憶へと移行していくらしいのだ。
    ●分節化(60頁)
    子どもは言語を覚えるためには、耳にした情報をみずからの力で分節化しなくてはならない。
    ●クーイング(64頁)
    生後六週間から八週間たって、泣き声以外の音声を発しはじめるようになる。おっぱいもたっぷりもらった、おむつもぬれていない、非常に気分のくつろいだときに、「アー」とか「クー」とか響く、リラックスした声が出はじめる。
    このクーイングが、赤ちゃんの出すもっとも最初の前言語的音声なのだ
    ●声をたてて笑う(70頁)
    声をたてて笑うという行動が出現するには、およそ四カ月の間待つ必要がある

    ☆関連図書(既読)
    「子育て 小児科医の助言」山内逸郎著、岩波新書、1989.03.20
    「0歳児がことばを獲得するとき」正高信男著、中公新書、1993.06.25
    「ベビーサイン」リンダ・アクレドロ・スーザン・グッドウィン著・たきざわあき編訳、径書房、2001.03.03
    (2013年11月21日・記)
    (「BOOK」データベースより)amazon
    人は幼い子どもを育てるとき、うたを口ずさんであやしたり、大げさな赤ちゃん言葉で話しかけたりする。その無意識の行動こそ、実は子どもがことばを覚えるおおきな助けとなっているのだ。赤ちゃんはなぜモーツァルトが好きか?手足をばたつかせることと喋れるようになることの関係は?「行く」と「来る」の使い分けはどうやって身につく?など身近な話から、子どもが何を手がかりにことばを身につけるかを解き明かす。

  • 生後4ヶ月の子に○○△や○○○△の繰り返すリズムで話しかけると、よく笑うようになってくれた。

  • 外国語を習得するとき、テキストを見ているだけでは、決して話せるようにならない理由がわかる本。英語のリスニングが身につかない人は、読んでみるといい。

    音の協和音・不協和音の認識など、感覚をフルに使ってことばを習得していく仕組みを、人は遺伝的に備えている。完全な人工知能の実現という視点に立つと、人間の感覚器官をも模倣しなければ、人間の思考と同じような仕組みを持つ思考には至らないと思った。

    どちらかと言うと、むしろ人間の思考を目指す必要はなく、コンピュータサイエンスは、コンピュータオリジナルの思考様式をプログラムしていけばいいのではないかと思った。

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著者プロフィール

1954年大阪生まれ。専門は、ヒトを含めた霊長類のコミュニケーションの研究。
1983年 大阪大学大学院人間科学研究科博士課程修了
現 在 京都大学霊長類研究所教授

[主著]
ケータイを持ったサル 中央公論新社 2003年
音楽を愛でるサル 中央公論新社 2014年
自閉症の世界(共訳) 講談社 2017年

「2019年 『ニューロダイバーシティと発達障害』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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