日本人の生命観―神、恋、倫理 (中公新書 1979)

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  • Amazon.co.jp ・本 (252ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121019790

作品紹介・あらすじ

「神からの授かりもの」「輪廻転生」「物質の集まり」-生命の見方は多様だ。日本人は生命をどのように捉えてきたのか。本書は、宗教、哲学、文学、自然科学と多彩な分野からこの疑問にアプローチする。神々が身近だった記紀万葉の昔から、生命科学が著しい発展を遂げた現代まで、生命観の形成と変遷をそれぞれの時代相とともに描きだす。日本に脈々と流れる「生命本位の思想」の可能性と危険性も浮かび上がってくる。

感想・レビュー・書評

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  • 民族の遠い記憶-風土記、記紀、万葉
    1神々の血統
    神話について
    天つ神の話
    先住民のコトムケ
    処女神の懐胎
    渡来神と神々の血統
    血統を編む
    2「 生」と「命」
    神話を編む思想
    「生」という漢字
    死体化生神話
    いのちの訓述
    天つ神の死と現人神
    「命」という漢字
    殉死の禁と霊のこと
    仏教の浸透
    常世のこと
    3恋は命がけ
    万葉の「命」
    恋をいのちと
    和歌の「命」
    空蟬のこと
    人麿の「神ながら」
    憶良の養生思想
    旅人と家持の無常観

    浄土と恋と土地-中古から中世へ
    1土と恋と土地
    往生の思想
    成仏の思想
    即身成仏
    『日本霊異記』の「命」
    地獄の思想
    いのちへの執着
    地獄と成仏の芸能
    『方丈記』
    他力本願
    見性
    草木悉皆成仏
    2恋と罪—王朝文芸の世界
    ものみな歌をうたう
    色好み
    死後に残る妄執 
    異土への転生身にしむさびしさ
    3一所懸命
    武士の生き方
    死ぬことと見つけたり
    武士道と士道キリシタンの教え

    いのちの自由と平等-近世の多様な生命観
    1儒学のさまざま
    さまざまな神・儒・仏の競合
    宋学と朱子学
    陽明学と陽明学左派など
    朱子学と陽明学の併存
    点の「気」を断つ
    2町人の自由・平等
    自由闊達と「もののあはれ」
    はかなさと滑稽さ
    生活本位
    気の拡散
    元気という語
    庚申待ち
    商人には商人の道
    3国学の展開と蒜末の思想
    「和」の独自性
    物の哀れを知る説
    怪異譚の衷側
    幽冥界への関心
    進化論需要へ
    朱子学、陽明学の復興

    天賦人権論と進化論受容-生命観の近代化
    1天賦人権論
    生命観の近代化
    「生命」の繁殖力
    天は人の上に…
    徴兵令
    2進化論受容
    進化論の季節
    擬人法について
    日本における特徴
    国家生命体論
    家族国家論
    民族の生命
    血統国家論
    自然の飛躍
    3修養の季節
    霊か肉か
    宵年の煩悶
    修養ブーム
    武士道
    則天去私
    安心立命
    養生思想の近代版
    エコロジー
    自然志向
    衛生思想と日本論の転換

    宇宙大生命-大正生命主義とその展開
    1生命力の解放
    エネルギー還元主義
    20世紀の生命主義
    自然の生命から宇宙の生命へ
    生命主義の美学
    生命へ行く道
    自然主渡から象徴主義へ
    刹那の燃焼
    女性解放の思想
    相互扶助の思想
    自由恋愛の思想
    2宇宙大生命
    『善の研究』
    『ニィチェ研究』
    日本文化論へ
    3生命の表現
    エロスの叛乱
    いのちの歌人
    生命の表現
    生命主義の社会的背景
    生命主義という呼び名
    生の息吹の終焉
    4民族の生命
    都市大衆文化の閉幕
    エロ・グロとナンセンス
    マルクス主義の台頭
    生命観の万華鏡
    永遠の生命
    歴史の転換点
    神ながらの道
    『大義』
    散華の思想
    国民優生法
    歴史的生命
    近代の超克
    滅私奉公

    いのちの尊厳とは?-戦後の生命観
    1死の季節をくぐりぬけて
    ゼロからの出発
    マイナスからの出発
    戦時下の裏返し
    生命への畏敬
    さまざまな旅立ち
    戦後の大正
    生命主義
    2生命主義、ふたたび
    高度経済成長
    伝統は創造される
    真の民族の伝統
    大正生命主義―復活と反省
    被爆日記
    汚染の海
    近代の総体を擊つ
    宇宙の生命樹
    分子生物学からの提起に対して
    大きな生命の物語
    過労死
    癒し
    3問われる生命観
    生命倫理
    遺伝子説
    多様性
    サイバネテイツクス
    サイバーバンク
    生命感の希溥さ
    人間が生きる自由

  • 副題の「神、恋、倫理」の変遷を、膨大な参考資料から解説しています。参考資料の紹介がメインなのではないかと思うくらい、思想家や資料が登場します。大まかでいいので日本史と高校倫理を知っていることが前提な内容です。
    あとがきで著者自身が「参考文献が膨大にすぎる」と言っているくらいなので、日本人の宗教観、文学史、生命観を追いかけたい人によっては便利な参照文献検索本になるのではないでしょうか。

    以下、自分なりの要約。
    第一章
    日本神話は土地と大陸の信仰の融合だ。朝廷は権威を記すため神話を更に編集した。西洋の神は不死だが、日本の神は時の流れを嘆き、死ぬこともできる。“いのち“を意味する文字は複数あるが、天の定めを指す“命“が天皇の言葉や寿命を指すようになり、やがて多義的な“命“と感情を含む生命観が生まれた。
    第二章
    優秀な僧らは、中国の思想から草木も生をもち成仏できるとした。神の信仰へ仏の功徳を広めたため、ときに矛盾する教えもみれる。浄土思想により、命への執着心や成仏できずに地獄へいく思想が広がる。成仏の方法は様々だった。やがて生命の平等観や死後の魂を想い、世の無常や命の儚さが歌われた。戦国時代では死ぬ覚悟こそ武士道だったが、江戸時代に平和が訪れると文と武の分離が進み戦国の武士道は廃れた。またキリスト教も広がったが、世界の外にいる創造神や死後「永遠の生命の流れ」に帰すという教えは、神仏も輪廻転生もこの世にあるという観念に完全にとって変わることはできなかった。
    第三章
    江戸時代では西洋と東洋の文化学問が共存し、情欲や色恋の物語である浄瑠璃や命の儚さと滑稽さを詠んだ俳句が親しまれる。儒学が発展すると、「和」の論理(男女の性愛)は日本の独自性とされ、よく心を動かす「もののあはれ」の思想や、仏教と儒学から独立し「伝統」観念を創出した神道となる。
    第四章
    明治では「生命」が頻繁に使われ、歴史的解釈なしに西洋思想が広がる。ダーウィン進化論は社会論的に流布され、国家生命体論や「血統」民族思想を生む。哲学的自殺が社会現象となり、修練として再び武士道が参照されたが、その核心は神道と忠君愛国である。文豪達は天命を受けた個人の自律も主張した。
    第五章
    いかに生きるかという問いに対して、生命を宇宙の原理とする思想が生まれる。生命現象は科学により説明が求められ、芸術文学にも刹那的に燃焼する生命観が起こる。日本人に関して、永遠の今を求め、一切の観念や概念に囚われない生命観や、激情と淡白のあきらめが混じり合っている精神構造が説かれる。
    象徴的で永遠性をもつ生命観の芸術文学がある一方、無常と退屈感からエログロも流行する。経済政治の混乱は軍の政治介入を招く。神道は軍国主義に染まった天皇崇拝の思想に転じ、自己犠牲を賛同する意味で、仏教の「大乗」や「散華」が語られる。種の普遍性が国家に用いられ、滅私奉公の精神を生む。‬
    第六章
    ‪敗戦直後、戦前の主体性は全否定される。しかし再び複合文化が見出され、過労死や公害汚染から「大きな生命」観が問われる。自然科学尊重癖は、「多様性」を生物と文化に同義で使い、脳の仕組みをコンピューターのように語る。歴史から生命本位の考え方を鍛え、ゲノム~宇宙レベルに分けて考えよ。‬

  • 社会

  • 古代から現代に至るまでの日本思想史のなかから、日本人の生命観にまつわる事例を数多く紹介している本です。

    古代から近世までを扱った章では、あまり立ち入った考察は展開されておらず、いくつかの事例を通して、日本人の生命観の諸相を概観する内容になっています。著者の専門である近代以降は、さすがに議論が濃密で読みごたえがあります。

  • 第1週 1/11(水)~1/18(火)
    テーマ「日本・日本人・日本語」

    ↓貸出状況確認はこちら↓
    https://opac2.lib.nara-wu.ac.jp/webopac/BB00171823

  • 日本人の「いのち」をめぐる見方、生命観史を、新書にしては多くの資料に当たってまとめたもの。

    前近代については言語学的なアプローチや宗教史観という趣で、生命観の歴史をなぞるという意味では統一感が少々あやふやで追いにくい。
    しかし、書の中盤から始まる明治維新以降の近代日本の生命観史については、文学作品などから大量の文献を引いてきて、工業化を通して、また戦前戦後を通して、日本において「いのち」がどのように考えられ、価値付けられ、扱われてきたか、独自の鋭い考察が繰り広げられる。これは非常に面白いし、今日の生命観がどのよう文脈で形作られ、われわれが無意識のうちにそれをどう捉えているか、社会の価値観としてはどう扱われているか、これを概観することができる。

    これを読んで、われわれのいのちの価値、その意義、ありかたというものをもう一度問い直そう。そこに問題があるのか。あるとしたら何が問題なのか。明日も生きるであろうわれわれが、その明日をよりよく生きるために、われわれを保証するいのちにどのように向き合うべきか。それが問われている。

  • 『日本人の生命観―神、恋、倫理』(鈴木貞美、2008年、中公新書)

    本書は、『古事記』『日本書紀』の時代から現代まで、それぞれの時代区分の作家や文学から、「日本人の生命観」がどのようにつくられていったのかを解説しようとしています。

    ただ、それぞれの時代の背景や歴史的出来事、それらが反映された文学を詳細に追っている点は非常に勉強になるのですが、「それが現代にどのようにつながっているのか、現代の日本人の生命観にどのような影響を与えたのか」という点が終始ふれられていないのが残念でした。

    (2010年2月12日)

  • 「命」や「生」について、古事記や平安時代の読み物、はては現代の文学と全歴史からその生命観を考察しています。
    後半、テーマが「命」というよりかは「生き方」についての記述が目立ったため、少し生命観という命題にずれ、ないしはブレを感じました。
    しかし、これまで文学史としてしか聞くことのなかった作品から日本人的生命観を見ることができましたのでこれはこれで面白いかと思いました。

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著者プロフィール

1947年生まれ。人間文化研究機構/国際日本文化研究センター名誉教授。総合研究大学院大学文化科学研究科名誉教授。

「2015年 『宮沢賢治 氾濫する生命』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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