原爆と検閲 (中公新書 2060)

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  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (216ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121020604

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  • 日本の降伏から1ヶ月後。連合軍側の報道関係者が広島と長崎に入った。
    オーストラリア国籍のイギリス紙の記者以外は、アメリカ陸軍航空軍が
    募ったプレスツアーだ。

    イギリス紙の記者も、アメリカ人記者も、目にした光景は同じだった。
    原爆に何もかも破壊され、吹き飛ばされた風景と、収容された病院で
    効果のない手当てを受けながら死に向かう人々。

    しかし、被爆地の現状を記者の見たままに掲載したのはイギリス紙だけ
    だった。アメリカ人記者も手当てに当たる日本人医師に取材し、残留
    放射能による人体への影響を記事にしている。だが、本国での掲載時に
    その内容は大幅に削除され、修正が加えられた。

    現実をありのままに伝えれば、アメリカ国内の世論は原爆の使用を
    非人道的として軍に対し非難の声が上がるだろう。軍としては一番
    回避したいことだ。だから、検閲を行い、国内メディアに報道規制の
    協力を求める。それが、記者たちのなかにあった愛国心と結び付き、
    自主的に記事の内容を抑制する効果を上げる。

    「それは広島と長崎を見たジャーナリストたちについても言えた。
    彼らのほとんどは特派員である前にアメリカ人だった。もっとも強力な
    検閲官は、彼らや本国の編集者一人ひとりの心のなかに存在していた。
    それは、だれの心のなかにも潜んでいるものなのだ。」

    この文章を読んでいて、ふと、クロンカイトがベトナム戦争時に語った
    愛国心についての言葉を思い出した。

    膨大な資料と、各メディアのデータベースに丹念な取材がなされている
    良書である。

  • なぜ米国内で原爆投下が正しい判断だったと思うひとが半数以上いるのか、という疑問がきっかけでした。そしてその疑問は解けました。

著者プロフィール

2022年11月現在
神戸市外国語大学外国語学部英米学科准教授

「2022年 『原爆の世界史』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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