ルポ生活保護: 貧困をなくす新たな取り組み (中公新書 2070)

著者 :
  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (244ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121020703

作品紹介・あらすじ

現在、生活保護受給者は全国平均で八〇人に一人。雇用、教育、年金制度など社会のさまざまな矛盾が貧困の連鎖を生み、厳しさを増す地方財政がその困難な生活に拍車をかける。しかし今、生活保護こそを貧困から抜け出すステップにしようとの動きが生まれている。自立プログラムの「先進地」釧路など数多くの例を引きながら、経済偏重に陥らない、本来の自立とは何かを問い、貧困をなくすために何が必要かを探る。

感想・レビュー・書評

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  •  『北海道新聞』記者が、生活保護の現実を丹念な取材で描き出した一冊。

     タイトルには「ルポ」とあるが、実際には、ルポ部分とそれを補完する論考/データ部分がほぼ半々の割合になっている。
     釧路市(著者は道新の釧路支社勤務)の受給者や元受給者、行政側などに取材したルポの部分が虫瞰となり、公的扶助の歴史や生活保護の現状などを文献やデータ、識者の談話からたどった部分が鳥瞰となって、ミクロとマクロの両面から“日本の貧困のいま”が浮き彫りにされる。

     釧路が主舞台として選ばれたのは、著者の地元であるというだけの理由ではない。
     釧路市には、地域経済の衰退のため市民20人に1人が生活保護を受給しているという、全国的に見ても厳しい現状がある。また、釧路市は生活保護の「先進地」でもある。受給者に対する独自の自立支援プログラムに取り組んでおり、そのことで全国的に注目を浴びているのだ。

     本書でもくり返し言及されているが、生保をめぐる社会問題といえば、北九州市で相次いで起きた孤独死事件が記憶に新しい。行政側がいわゆる「水際作戦」で保護申請を受け付けなかった結果、保護を受給してしかるべき人が3年連続で孤独死を遂げたのである。とくに、生保を打ち切られたあと、日記に「おにぎり食べたーい」などと窮状を書き遺して2007年に孤独死した男性のケースは、世に衝撃を与えた。

     生保受給を厳しく制限する「北九州方式」(受給者を市全体で年間何人減らす、という数値目標が設定されていたという)が「北風方式」だとすれば、受給者の自立を支援して生保から抜ける人を増やそうとする釧路市のやり方は「太陽方式」といえよう。どちらがより人間的であるかは、いうまでもない。

     “生活保護の歴史・現状・展望の概説書”としても読める本書だが、いちばん感動的なのは、釧路市の受給者支援プログラムが具体的に紹介された第6章だ。そこに紹介されたさまざまな自立支援のうち、私が胸打たれたのは、生保受給家庭の子どもたちに対する進学支援。

     受給家庭には、子どもを塾に行かせる余裕など当然ない。また、受給者自身が中卒など低学歴であることも多く、自分では子どもに勉強を教えられない。しかし、受給家庭の子どもが低学歴になったら、貧困の連鎖を断ち切ることはできない。そこで、NPO法人が無料の進学勉強会を始めたのだ。
     ボランティアでチューター(ここでは「教える側」の意)となるのは、学生、市役所のケースワーカー、社会人ら。自らも生保受給者である男性2人も、チューターとなっているという。

     生保受給者となったことで人としての誇りを失いかけていた男性は、勉強会でチューターとなることで社会とのつながり、生きる喜びを取り戻していく。そのさまが感動的だ。

  • 3.62/225
    内容(「BOOK」データベースより)
    『現在、生活保護受給者は全国平均で八〇人に一人。雇用、教育、年金制度など社会のさまざまな矛盾が貧困の連鎖を生み、厳しさを増す地方財政がその困難な生活に拍車をかける。しかし今、生活保護こそを貧困から抜け出すステップにしようとの動きが生まれている。自立プログラムの「先進地」釧路など数多くの例を引きながら、経済偏重に陥らない、本来の自立とは何かを問い、貧困をなくすために何が必要かを探る。』

    目次
    第1章 生活保護とは何か
    第2章 母子家庭と貧困の連鎖
    第3章 こぼれ落ちる人々
    第4章 格差と貧困
    第5章 負担ではなく投資
    第6章 自立支援プログラム
    第7章 どう改革するか


    『ルポ 生活保護―貧困をなくす新たな取り組み』
    著者:本田 良一(ほんだ りょういち)
    出版社 ‏: ‎中央公論新社
    新書 ‏: ‎244ページ

  • 生活保護の機能についての冷静なルポ

  • 2010年刊行。著者は北海道新聞釧路支社報道部編集委員。良質な実例紹介のように思える。生活保護は自立支援と関わりを持つものではあるが、それだけではない。年金制度の取りこぼし(高齢者福祉)、母子(むしろ単親)家庭での格差固定と親子間連鎖(就業支援、保育・教育施設の不備)、失業者の復職支援(特に雇用保険の隘路)、年金や保険の負担による貧困率の拡大(逆差別の亢進)、教育費用負担(公教育のレベル低下)など、広範なテーマとの連関・整合的制度構築が求められる。本書は、その広範な問題に一定の目配せが効いている。

  • 新聞記者である著者が、生活保護とは何かというところから、格さと貧困の実態、生活保護の意義、自立支援の先進地「釧路」の取組、そして今後生活保護をどう改革するかというところまで、生活保護について総合的に論じている。「ルポ」というだけあって、実例に即したバランスのとれた論が展開されている。生活保護について考えるうえで非常に有益な本だと思う。「貧困の連鎖」を絶つ取組の重要性を感じた。

  • 生活保護制度がわかりやすかった。現在の現状など。

  • 生活保護=生活弱者の存在は、経済的・社会的要因にも関わらず、行政のさじ加減で決まっている状態

    貧困があってはならない理由(pp.127)
    ①人道的な意味で貧困の状態である人を放置すことはできない
    ②社会が貧困者と非貧困者での分断を発生させ社会不安を招く恐れがある

    日本:所得再配分政策後にジニ係数が悪化=政策によってさらに貧困の度合いが高まっている→政策的なもの

    生活保護概念の見直し=自立概念の見直し/利用しやすくする制度→中間就労を支援する。
    ・ケアマネジャーを忠中心、ないし学習支援を提供。
    ・年金制度との不均衡の問題:老人の貧困問題

  • 水際作戦、硫黄島作戦
    生活保護法の「補足性の原理」
    OECD日本経済白書2007の統計結果
    詳しくは折り目参照

  • 9784121020703 244p 2010・8・25 

  • 一般向け概説書としてはまとまっているが、いま噴出してる問題まで斬り込んでいるかといえばもう少しかも。たとえば貧困ビジネスなどの問題も全く触れていない。

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著者プロフィール

 所  属―北海道新聞社編集局報道センター編集委員

「2014年 『領土という病』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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