- Amazon.co.jp ・本 (211ページ)
- / ISBN・EAN: 9784121023773
作品紹介・あらすじ
格差の拡大が国際的な話題になって久しい。トマ・ピケティなどが指摘するように、格差は親の世代から子の世代へと受け継がれるようになっている。本書は、日本における世襲と格差の関係を分析し、そのメカニズムを明らかにする。世襲される職業とされない職業の違い、同族企業の位置づけ、世襲の功罪など多様なテーマに挑む。そして、世代交代が進む社会で、職業を継ぐことの意味や機会の平等とは何かを問い直す。
感想・レビュー・書評
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図書館で借りた。世襲を調べる2冊目。
この本は中公新書らしく、政治批判ジャーナリズムではない。世襲の歴史から、医者はもちろん士農工商、世襲のメリット・デメリット等々、様々な統計から論じられている。「政治家の世襲」については、最後の最後で数ページ語られている程度。(とは言えそれでも、政治家の世襲の比率の高さは異常だし、相続無税なのは課題だと思うが)
世襲率が「親がその職業である中で、子が同じ職業である確率」と「その職業に就いている者のうち、親もその職業である確率」どちらで取るかで全く違うというのは、確かに!と感じた。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
■一橋大学所在情報(HERMES-catalogへのリンク)
【書籍】
https://opac.lib.hit-u.ac.jp/opac/opac_link/bibid/1001085986
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何のことはなくて「継げば得だから継ぐ」ということが経済学的に証明されていただけだった。
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第1章 二極化する世襲
第2章 世襲の歴史的背景
第3章 継がれなくなりつつある仕事
第4章 親から子どもに継がせようとする仕事
第5章 継ぐか、継がないかを分かつもの
第6章 世襲の功罪
終章 機会の平等を考える
著者:橘木俊詔(1943-、兵庫県、経済学)、参鍋篤司(1977-、大阪府、経済学) -
経済格差の専門家による世襲格差に関する本。世襲になることの多い医師や政治家、農家、古典芸能従事者など、世襲の実態と経済的に有利なのかを分析している。世襲が有利な医師や政治家などの職業と世襲が必ずしも経済的に恵まれない農家や古典芸能従事者の2つに分かれることを指摘している。また、子供に跡を継がせようとしても試験の難しい法曹界や企業にとって必ずしも有利とはいえない大企業経営者などにも触れている。参考になった。
「(グレートギャッビーカーブ(前世代の格差と次世代への格差の伝わりやすさを示すカーブ))このカーブが雄弁に語るのは、富裕層と貧困層の格差の大きい国ほど、金持ちの子供は金持ちに、貧しい子供は貧しくなりやすい」p6
「今まで日本では、大卒者と高卒者の賃金格差は、非常に小さなものであった」p9
「近年の有力な研究では、特に就学前児童への教育が、将来の所得稼得の能力へ強い影響を及ぼすことがわかっている」p10
「資本主義社会においては、政府が何らかの対策をとらない限り、結果から生まれた格差が世代間で受け継がれてしまい、機会の不平等に結局はつながってしまう」p12
「(娘婿による継承)大阪の船場の繊維問屋では、商店主に娘が生まれたら、赤飯を炊いて祝ったという。また、娘婿に家業を継がせることは京都の和菓子屋でもよくあったとされている」p52
「貧困から脱却したいと熱望した国民の高い勤労意欲、外国で起きた新しい技術を日本に導入したこと、1ドル360円という円安、国民の高い貯蓄率によって生じた豊富な資金を産業の分野にうまく融資できた金融制度の存在、企業における効率の高い生産・販売組織、政府による民間経済への後押し政策など、多くの要因が重なって日本経済は高度成長を実現させたのである」p69
「自営業者は不安との闘い、サラリーマンは不満との闘い」p79
「医学部に在籍する学生に注目した場合、国立、私立を問わずに医学部の入学水準が高い大学に学ぶ学生ほど、親が医師である比率が低くなることがわかっている。そして国立、私立を総合すると、医学生の中で医師の師弟が学ぶ比率は優に50%を超えている」p98
「医師の仕事は人の生命を助けたり病気を治す仕事なので、使命感の強い人が就くことがふさわしい。ところが、高い所得を得ることだけに魅力を感じて、医務の業務に励まない医師が増えては問題だ」p106
「(一族による会社経営)一族が自己の利益にのみこだわることがあって、外部株主や社員の主張を無視して独善的な経営をすることがあるし、逆に一族による経営は必然的にリスク回避的となることがあり、一定の成長後は停滞を招きもする」p113
「公的組織は、その組織としての目的が利益の最大化ではなく、採用担当者の責任が問われないことも多いので、能力を度外視した採用が行われるリスクもある」p166
「(政治家)学歴、職業、所属政党から、表が示しているとおり、一つの典型的な世襲議員のキャリアのパターンが示される。すなわち、慶応義塾大学を卒業したのち、民間企業・マスコミに就職をし、主に父親の秘書を経験し、父親などの地盤を受け継ぎ、自民党から出馬する、というパターンである」p173
「(ピケティへの反論)自由主義と資本主義の世界であるなら、経済的自由は保証されるべきとするリバタニズム(自由至上主義)」p188
「機会の平等の前提は、公平な参入機会と非差別の原則である」p191
「アトキンソンも指摘するように、日本の伝統的な産業は、それが途切れることなく続いてきたことで価値あるものであるし、一度失われると修復が難しい、まさに宝である」p196
「少子高齢化時代を迎えた日本では、高齢者世代の医療費などの社会福祉負担を現役世代が負担していかねばならないが、明らかにこうした負担は過重である。高齢者世代に掛かる負担は、その世代からの税収入によりできるだけファイナンスすることが求められるという前提に立てば、贈与税・相続税による税増収はより強化されるべきだろう」p198 -
日本における世襲格差の状況がよくわかる。一方で機会平等と効率性はトレードオフというのは納得。
人の所得レベルは運と努力に大別され、基本的に運によるものに課税すべき、すなわち人が残した額ではなく、受け取った額に対して課税するという議論は一考に値するかな。 -
昨今の社会的風潮においては「世襲」に否定的な論調が多いが、本書は実に冷静に「功罪」を分析している。さすが社会学の権威である。
現在の日本では、政治家にしろ芸能人にしろ世襲が跋扈しているが、クローズアップされる都度に批判的に取り上げるのではなく、本書のような社会学としてきちんと考察することもまた必要であるとの感想を抱いた。興味深い本である。
2018年1月読了。 -
本の内容について、特筆すべきものは三点。
職業の世襲要因のひとつとして挙げられていた「職業威信」という要因(p.146)に興味が湧いた。職業威信とは、一般的に人々が考える、ここの職業の社会的地位の高さをいう。
東京(大都市圏)に人々が集中するのは、この要因が重要なのでは。
江戸時代ごろ、いわゆる士農工商の確立から職業の世襲が進む。その中では、娘婿に世襲させることが多くあった。実子に才覚が無かったときのリスクを考えてのことという(p.51-52)。
意外な感じがした。
「グレート・ギャツビー・カーブ」。これは、「富裕層と貧困層の格差が大きい国ほど、金持ちの子は金持ちに、貧しい人の子供は貧しくなりやすい」現実を示す図で、換言すると、結果の不平等が、機会の不平等につながりやすいことを示している(p.5-6)。 -
こう言う『そりゃそうだよね』という結論しか導かない研究は学問的に何の意義があるのだろう。本書を通読しても新たな知の発見とか獲得に伴う知的興奮は全く得られない。これは問題設定が適切でないからだと思われる。世襲の本質的な問題は同じ職業を継ぐ事自体ではなく、有形無形を含めた親世代の資産の相続である。終章のテーマについての続編を期待したい。
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世襲格差は今気になるキーワードの一つ。
内容はまあ想像した通り。
特別な驚きや発見はなかった。