戦後民主主義-現代日本を創った思想と文化 (中公新書 2627)

著者 :
  • 中央公論新社
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  • Amazon.co.jp ・本 (316ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784121026279

作品紹介・あらすじ

アジア・太平洋戦争の悲惨な体験から、多くの支持を得た戦後民主主義。日本国憲法に基づく民主主義・平和主義の徹底を求める思想である。だが冷戦下、戦争放棄の主張は理想主義と、経済大国化後は「一国平和主義」と批判され、近年は改憲論の前に守勢にある。本書は戦後民主主義を巡る人々の営為を描く。制度改革、社会運動から政治家、知識人、映画などに着目し、日本社会にいかなる影響を残したのかその軌跡を追う。

感想・レビュー・書評

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  • よく調べられている。
    戦後民主主義というと、一番に大江健三郎の名が浮かぶが、彼ら知識人の戦後民主主義の内容を吟味したり、市民運動の詳細を知りたかったが、戦後民主主義というより、平和主義、憲法改正への抵抗、護憲を軸に戦後左翼史の趣きである。

    日本左翼による戦後民主主義とその批判である保守論壇、憲法改正の動きを丁寧に見ていく。

    国政だけでなく、映画、文化にも目配りする。

    84年生まれの著者が、膨大な資料を読み込み、よく調べ上げた労作である。

  • 戦後民主主義をキーワードにする戦後史入門書.

    著者のいう戦後民主主義は平和主義,直接民主主義,平等主義の側面を持ち,それらを素朴なヒューマニズムが支えているというもの.

    著者は戦後民主主義が完全に過去の遺物となったとは考えておらず,磨き直すべき価値があるのではといいます.本書は戦後民主主義から何を継承すべきなのか,継承すべきではないのかを考えるための準備作業といえます.

    登場人物は多く,学者から文化における言論の人たち(著者曰く論壇誌,文学,映画,アニメ)まで取り上げられています.また,小熊英二ら先行研究との差別化も図られており,入門書として有用.勉強になりました.

  • 網羅的に、戦後の民主主義をめぐる思想だったり、議論の移り変わりを追いかけている。カタイ本なのにかなり面白く読めた。
    戦後すぐの頃、憲法がアメリカに押し付けられたものかいなかやそもそもいつから戦後なのか、昭和20年のあの日なのか、占領が明けた日なのか、それとも中国ソ連と講和できていないからまだ戦争は続いているのか…。この議論から始まり、安保に突入。そしてモーレツの時代へ。だんだんと社会党が地盤沈下していく中で、田中角栄が良くも悪くも利権政治にしてしまったのだなー。そんなところを再確認。
    ここからは何となく記憶にあって。村山富市さんが自衛隊を合憲にして、小泉さんが集団的自衛権の検討始めて、ガイドライン法などを作って。戦後レジームとはすなわち戦後民主主義のことだったか。
    トランプさんもそうだけど、簡単に答えを出せるって怖いこと。大して検討もせずに決められるって、失敗を前提にしなきゃなのにそれも許されないという、ホントに怖い社会。
    実は官僚が決めていると言う民主主義への絶望もよくわかるけどね。久米宏さんが、みんなが思い思いに生きることが反戦に繋がると主張していたところにも通じるのだけど、政治や憲法や平和のことを意識しなくてもいい世の中が、ホントに平和な世界なのだと思う。そここそを官僚は目指すべきであり、統治論とは気づかれたらおしまいなのだと思う。

    民主主義については、チャーチルの「最も悪いものだ。ただし今までで一番マシ」という言葉が全てをあらわしているのだと思う。

  • 憲法の価値に加え(一国)平和主義と直接民主主義と平等主義を重んじた戦後の思想の総称。厭戦気分から生じた「公」への不信感が「私」の盲目的尊重に繋がったという印象を受けた。戦後世代が主流の今、厭戦という動機が消えてただの個人主義に収束したとみると、戦後民主主義の変質が理解できるような気もした。なので著者の言う戦後民主主義の衰退には賛同できない。昨今ジェンダー系の運動が盛んなことを踏まえれば、個人の主体性を尊重しようというリベラル側の勢いは未だに衰えているわけではなく、対象が非武装中立などの国策の話題から個人の権利を求める個人主義的運動の話題に変化したと見るのが自然だと思う。平和主義は厭戦の動機を離れて日本人の意識に深く刻み込まれた観念だと思うので、新たに根本的な変革が起こらない限り意識は変わっていかないだろうというのが僕の見立てだ。本書は占領軍による戦後民主主義の成立(憲法制定)から保守・新左翼による批判、それに対する革新知識人の反論を総集的にまとめているので一つ一つの議論が簡素だが、その分俯瞰して見ることができるので全体像は見やすくなる。2021/5/19

  • かなりの力作、労作で驚きました。これを1984年生まれの方がよく書いたな…と。いや、当時を身をもって体験していないからこそ、個人的な思い入れを排して客観的に書けたのだとも言えそうですが。いずれにしても戦後政治と民主主義にまつわる思想論壇史であり、それとともにその当時の社会文化史。いや、ほんとよく書いていただきました。

  • へえ、そうだったのか、ずいぶん印象が違うな、とか思ったら1984年生まれの人だった。なるほど。

  • 日本国憲法に基づく民主主義・平和主義の徹底を求めた戦後民主主義は日本社会にいかなる影響を残したか。傷だらけの理想の軌跡を描く

  • ちょうどこの瞬間、バイデン大統領と菅首相と日米首脳会談が行われています。なぜアメリカ新大統領の最初の会談相手が日本なのか?それは中国の専制政治に対する民主主義の国家の連携強化というアメリカの戦略により実現したとの解説を聞きました。今や世界の中で民主主義が根付いている国の代表として日本が選ばれている、ということでしょう。その我が国の民主主義が1945年の敗戦以降に「戦後民主主義」としてどのように育まれどのように論ぜられどのように疎まれていったかを一望する意欲的な新書です。なにしろ最終章のひとつ手前の章が「限界から忘却へ 一九九二〜二〇二◯」と来て最後が「戦後民主主義は潰えたか」ですから。ではアメリカに民主国家として選ばれている日本の民主主義は「戦後民主主義」でなければ、どんな民主主義なんだろうと考え込んでしまいました。著者は一般的な民主主義の議論はさておき「戦後民主主義」の特徴として3点挙げています。第一に、戦争体験と結びついた平和主義。第二に、直接民主主義への志向性。第三に平等主義、です。そして著者は「戦後民主主義という言葉が論壇やジャーナリズムで積極的に使われたのは、一九五〇年代半ばから二〇〇〇年代初頭までの約五〇年間に過ぎない。」とも言っています。社会に戦争体験が残存する時代の民主主義、ということなのでしょうか?太平洋戦争を実体験として持つ世代の退場が日本の在り方を大きく変えると常々思っていたので、もう始まっているポスト「戦後民主主義」時代の民主主義についてのもっと深い考察がなされなくちゃならないと改めて思いました。加えて本書が意欲的なのは論壇のみならず文学、マンガ、映画、アニメという広い裾野に目が行き届いていることです。まさに自分が吸って来た時代の空気が蘇り、自分がなぜ、今のような考え方をするのか、も、ちょっとわかったような気がします。そして、このCOVID19時代、民主主義自体が激しく揺れています。日本に外から民主主義を持ち込んだアメリカが民主主義の代表国として日本をフューチャーする事自体に民主主義脆弱時代を感じます。香港、台湾、タイ、ミャンマーの問題だけではなく日本の民主主義を参考するための踏み台としてこの新書は貴重だと思いました。

  • 非常に興味深く読んだ。そのなかで、さまざまな個人、団体が取り上げられるなかで、日本共産党がまったく触れられていないのは、なぜか。そのことが疑問に残る。

  • 東2法経図・6F開架:B1/5/2627/K

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著者プロフィール

山本 昭宏(やまもと・あきひろ) 1984年、奈良県生れ。京都大学大学院文学研究科博士後期課程修了。現在、神戸市外国語大学総合文化コース准教授。著書に『核エネルギー言説の戦後史1945~1960 「被爆の記憶」と「原子力の夢」』(人文書院、2012年)、『核と日本人 ヒロシマ・ゴジラ・フクシマ』(中公新書、2015年)、『教養としての戦後〈平和論〉』(イースト・プレス、2016年)、共編著に『希望の歴史学 藤間生大著作論集』(ぺりかん社、2018年)、訳書にスペンサー・R・ワート『核の恐怖全史』(人文書院、2017年)がある。

「2019年 『大江健三郎とその時代』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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